最高位魔法を使えない俺はハチになるエキストラユニークスキルで生き抜く 作:チャンドラ=グプタ
卒業試験当日。俺はコウロク山の麓にいた。目的は勿論、シャープスネイルベアーの討伐である。
本来、D級モンスターを討伐すれば合格となるこの卒業試験だが、俺はあえて到底敵うはずのないA級モンスターを狙う。
ヤヨイとシャーリアには欲しい魔道具の材料があるという名目でコウロク山に向かうと伝えておいた。
二人は一緒についていくと言い出すのではないかとヒヤヒヤしていたが、意外にもあっさりと一人でコウロク山に行くことを認めてくれた。
ウィル達三人はオアバ山で卒業試験を受けているはずだ。
「さてと、行くか……」
色々とやらなきゃいけない準備もあった。モタモタしていると、日が暮れてしまう恐れがある。
「待たれよ。一体、どこに向かうつもりぞ」
「どこって……そりゃ、あいつを討伐しに……って、えぇ!?」
なんと、いつの間にか俺の後ろにヤヨイ、シャーリア、ウィルの三人が立っていた。
「ごめん、ムゲン君。二人に話したんだ。君の両親のことを」
ウィルは申し訳なさそうに深く頭を下げた。俺の両親の話を聞いて、わざわざ一緒に付いていこうと思ったという訳か。俺は咄嗟に三人に「帰れ」と言おうとした。
「水臭いぞムゲン殿。何も一人で極悪モンスターを倒しに行くことはないではないか。小生も助太刀いたす。皆で協力して倒そうぞ」
「ムゲン君、ひどいよ。私達……仲間じゃない! みんなで一緒に卒業しましょう!」
二人の言葉を聞いて何も言えなくなった。仲間か……そんな風に言われこと、元の世界で一度もなかったかもしれない。
正直、とても嬉しかった。
「みんな……本当にバカだな」
「なんとでも言うが良い。それじゃムゲン殿。早速、作戦会議といこうぞ!」
「……だな」
俺は頷き、シャープスネイルベアーの討伐に向けて、作戦会議を開始した。まずは全員の持ち物を確認した。
俺達は一人づつグレートポーションを十本づづ持ってきている。アギをいかに極限まで温存できるかが討伐の鍵となる。
「それじゃ、早速登ろうか。弱いモンスターとの戦闘は極力避けていこう」
山を登る前にD級モンスターが嫌がるスプレーを身体に掛けておいた。これであまりモンスターと遭遇することはないはずだ。
山の高度が上がるにつれ、息が苦しくなっていき、さらに緑が深くなり足場がドンドンと悪くなってきた。重たい足を必死に動かし、雑草を掻き分けながら歩いて行くと、やがて開けた場所に出た。
目の前には大きな泉があり、泉の水はかなり透き通っていた。
「おお、すごく綺麗な水だな」
「そうであるな。この水、飲めそうであるぞ」
ヤヨイは手で水を掬い、それを顔に当てた。すると、「ちびた!」と呟き、ブルっと身体を震わせた。
なんだか猫みたいである。後ろにいるシャーリアとウィルの方を振り向くと、ウィルは何やら深刻そうな表情で泉を見つめている。
「ここでシャープスネイルベアーと出会ったんだよね」
「そうか。ここで……できれば会った時の詳しい状況を聞かせてくれないか?」
「うん、分かった」
ウィルの話によると、ここで休憩をしていた際にシャープスネイルベアーが現れたとのことだった。
「もしかしたら、この近くに奴の巣があるのかもしれないな。ここで罠を仕掛けよう」
罠を仕掛けるよう提案し、四人で協力して作業を行う。罠を仕掛ける途中でシャープスネイルベアーや他のモンスターが現れないか注意しておく必要があるため、交代交代で見張りを行うことにした。
「やっと終わったな……」
二時間ほどで罠の仕掛け終えることができた。奴がこの罠にうまくハマってくれる保証は勿論ないが、これがあるかないかで勝率は格段に変わってくると俺は踏んでいた。
「それじゃどこかで身を隠そうか」
ウィルが身を隠すのに丁度良い木を見つけ、その背後に隠れた。
「パーセプション」
モンスターを感知するための魔法の呪文を唱えた。この魔法は、自分の半径二十メートル前後のモンスターの接近に気付くことができる。
この魔法は中位魔法に位置するが、上位クラスの冒険者が使用すれば、半径百メートル程までモンスターを感知することができる。
ちなみに俺の場合はこの魔王を一分間使用するごとに三百アギ程消費することになる。
「ムゲン殿、なんであるかその魔法は?」
「感知用の魔法だよ。半径二十メートルぐらいまでモンスターの接近に気付くことができるんだ」
「左様か。ちなみにその魔法、アギを消費するのではないか?」
「そりゃあ、魔法だからな」
「では、小生が変わろう」
ヤヨイが俺の代わりに感知魔法を使うと申し出た。その心意気はありがたいが、上位魔法を使えるヤヨイには極力アギを温存しておいて欲しいと思った。
「ヤヨイも感知魔法使えたのか? けど、ヤヨイには戦闘までアギを温存しておいて欲しいんだ」
「いや、使えぬ。ただ、小生は魔法を使わなくてもモンスターを感知することができる」
ヤヨイがさらりととんでもない事を言ってのけた。ウィルは絶句し、シャーリアは「う、嘘でしょ……」と呟いた。
「ヤヨイ、それ本当なのか?」
「うむ。五十メートルくらいまでならいけるぞ。ほら、あの泉の奥の方にゴブリンがいるであろう?」
確かにヤヨイが指差している方に何か棍棒のような物を持った全身緑色のモンスターがいるのが見えた。
少し遠くてはっきりとは見えないが、外見的特徴から見て、ゴブリンで間違いないだろう。
「す、すごいな……」
「小生が感知するからムゲン殿はアギを温存しておくが良いぞ」
「お、おぉ……」
感知をヤヨイに任せるとした。俺は鞄から魔弾銃を取り出す。この程度の魔道具、奴に通用するとは思っていないが、念のため用意だけはしておこう。
「ふむ……来たか。この強いアギ。恐らくは……」
ゾクリと全身から鳥肌が立ち上がる。寒気がするような凄まじいアギ。ゴブリンと思われるモンスターが茶色い剛毛を生やしたモンスターに丸呑みにされるのが見えた。
俺は離れた先にいるそのモンスター、シャープスネイルベアーを見つめた。