最高位魔法を使えない俺はハチになるエキストラユニークスキルで生き抜く 作:チャンドラ=グプタ
どうして俺はハチになったのだろうか……いや、それよりも今は奴を倒さねば。
シャープスネイルベアーは爪を立て、俺に腕を振り下ろしてきた。しかし、何故か奴の動きがスローに見えた。
爪を避け、奴の首に齧り付く。ムラマサですら刃が通らない奴の首に俺の牙が強く突き刺さる。
「ギャアアアアァァ!」
奴が痛そうに吠える。とても耳障りな鳴き声だ。奴の肉を食べたせいなのか、なんだか不思議な感覚に陥った。驚くべきことに前足二本から奴に似た鋭い爪が生えてきた。
「なるほどな。相手の能力をコピーすることができるのか」
とても便利な能力だな。まるで某ピンク色の悪魔のような能力だ。元の世界でよくプレイしたものだ。
「みんな下がっていてくれ。ここは俺一人でやる」
三人にそう伝えるもシャーリアとウィルは呆然とした様子で俺を見つめている。
どうやらハチになったせいか、意思疎通が取れなくなってしまったようである。
「シャーリア殿、ウィル殿。ここはムゲン殿に任せようぞ。ムゲン殿、ご武運を」
しかし、理由は不明だがヤヨイの言葉は理解することができた。三人に背中を向け、シャープスネイルベアーにゆっくりと近づいていく。
「お、お前……一体何なんだ?」
ハチになった影響でモンスターであるシャープスネイルベアーと意思疎通が取れるようになったようだ。奴の首筋からポタポタと血が流れ出ていた。
「さぁな。俺にも良く分からん」
奴から手に入れた鋭い爪で目を切りつける。目はまるで豆腐のように柔らかく、深くまで切ることができた。
「痛い! も、もう許してくれ!」
奴がこの場から逃げ出そうとした。俺の追いかけ、背中に毒針を打ち込んだ。
奴の動きが鈍くなったが、それでも必死になって逃げ出そうとしていた。
しかし、その先は……
「おい、そこ落とし穴だぞ」
伝える前に奴が穴に落ちた。これはもう終わったな。俺はハチの姿から人間の姿へと戻る。
「ムゲン君。なんだったんだい? さっきの姿は」
「俺にもよく分からない。それより奴はもう虫の息だ。ウィル、止めを刺すといい」
穴の中にいる奴は身体をピクピクと痙攣させている。放っておいても直に死ぬことだろう。
「いいのかい?」
「ああ。俺の気はもう晴れた」
ハチになり、俺の両親を奪った奴に十分な苦しみを与えることができた。これで少しは殺された人達も浮かばれるだろうか。
「分かった」
ウィルは落とし穴に手を向け、目を閉じる。おそらく殺された仲間達のことを思い出しているのだろう。
「サンダーフォース!」
雷の矢が奴の首を貫く。奴の首と身体が別れた。断絶魔を上げることすら無く、奴は絶命した。
「終わったな……」
奴の死体を見つめ、呟く。とても強いモンスターだった。きっと、俺だけだったら為す術もなく殺されていただろう。
「ムゲン殿! すごかったであるぞ。さっきのは一体、何であるか?」
多分、祖父が入学する前、ローブと共に俺に預けてくれたものだろう。たしか、祖父は魔法を授けてやったと言っていた。名付けるとしたら――
「エキストラユニークスキル『ハチ』だ」
シャープスネイルベアーの討伐を終えた俺達は山を下り、学校へと戻った。
「みんな、試験ご苦労だったな。早速、冒険者カードを見せてくれ」
俺達はオリモカ先生に冒険者カードを渡した。この冒険者カードは魔道具の一種で、討伐したモンスターの情報が記載される。本来、正式な冒険者に渡されるものだが、卒業試験の為に学校から配布されたものだ。
「しゃ、シャープスネイルベアー……!」
討伐情報を確認したオリモカ先生の冒険者カードを持つ手が震えている。まだ冒険者ににすらなっていない俺達がA級モンスターを倒すだなんて、到底信じられないのだろう。
「お、お前たち……本当にシャープスネイルベアーを倒したのか?」
「はい。本当は俺一人で倒しに行く予定でした。ですが……みんな一緒についてきてくれたんです。自分一人だけだったら多分、俺はこの場にいなかったでしょう」
オリモカ先生が俺の頬を叩いた。かなり怒っているのが伝わってくる。散々忠告してくれたから当然か。
「馬鹿野郎! だが……無事で本当に良かった」
オリモカ先生が抱きしめてきた。柔らかく、暖かな温もりが伝わってくる。驚いた俺はどんなリアクションを取るべきか分からなくなった。
俺から離れたオリモカ先生は優しげに微笑む。
「よくあいつを倒せたもんだな」
「みんなのおかげです」
「いや、ムゲン殿は本当に凄かったであるぞ! ハチに変身した時は小生、とても驚いた」
「ハチに? 変わった魔法だな。まさか、エキストラユニークスキルか?」
「はい。おそらくは」
祖父が与えてくれたこの力。きっともう使うことはないだろう。
それに、モンスターを狩るのは今日で最後だ。復讐劇を終えた俺は予定通り、魔道具開発者を目指す。
「そうか……みんな、シャープスネイルベアーを倒してくれたこと、本当に感謝する。あいつは私にとっても因縁の深いモンスターだったんだ」
オリモカ先生は深々と頭を下げる。しかし、感謝すべきは俺達の方である。なぜならば――
「頭を上げてくださいよ先生。先生がいなかったら仲間の仇を討つことはできませんでしたよ」
ウィルの言う通り、オリモカ先生やガルド先生がいなかったら、ここまで強くなることはできなかっただろう。
過酷な授業であったが、今は先生に教わって心の底から良かったと思っている。
「私は特に何もしていない。強くなったのはお前達の努力の賜物だ。卒業してもお前達ならまだまだ強くなれるだろう。頑張れよ」
「はい! 私は必ずS級冒険者になります!」
「僕は立派な魔法警察になります!」
「小生は凄腕の冒険者に……そして、目的を達成するであるぞ」
みんな目標に向けて、モチベーションが高まっている。あまりに若々してくて思わず目をつむりそうだ。
「俺は魔道具開発者の道を目指します!」
次の日、卒業式があり、それが終わると四人で打ち上げを行った。みんなで学校での思い出を語りながら、未来に向けての話をする。とても楽しい時間であった。
しかし、シャーリアはS級冒険者になった後、どうしたいのかやはり教えてくれなかった。
ヤヨイも入学前から掲げているとある目的について、明かそうとはしなかった。
だが、別に構わない。他人に話したくないことなんて誰だってあるだろう。
打ち上げ終了後、一度祖父の家に戻る為、荷造りを行なった。
「この部屋ともおさらばか……」
何だか名残惜しい気持ちになる。祖父の家でしばらくゆっくりと過ごしたら、モリアさんのお店で働こうと考えていた。もしかしたら、冒険者になるシャーリアやヤヨイと会うこともあるかもしれないな。
しかし、俺は結局モリアさんのところで働くことはなかった。
卒業後、俺が就いた仕事は冒険者である。
その理由は――祖父を殺した犯人を突き止めるためである。