最高位魔法を使えない俺はハチになるエキストラユニークスキルで生き抜く 作:チャンドラ=グプタ
次の試験会場である保健室に入ると、俺達は五列に別れて並ばされた。
複数の試験監督が前から順番に入学希望者を凝視し、用紙に何かを記入していった。
それが終わると次々に控え室に案内された。
俺も試験監督に凝視された後、控え室への移動を向かうよう告げられる。
控え室には試験を終えた入学希望者達がソワソワした様子で待っていた。
「ムゲン殿! お疲れであった!」
「おお、お疲れ様……」
猛烈な勢いでヤヨイが駆け寄ってきた。テンマの後を追うようにシャーリアがゆっくりと近づいてくる。
「ムゲンくん、お疲れ様。なんかあっという間に終わったね。最後の試験、あれは何だったのかしら?」
「多分、魔力量を調べていたんだろ」
「魔力量……であるか?」
「この学校は魔法に適正の無いものは容赦無く落とされるからな。魔力量が低い場合は不合格の対象になってしまうと思う」
「そうか。では先ほど合格と言われた小生も決して楽観視できないという状況ということか」
「いやぁ……」
俺は「大丈夫じゃないか?」と言おうと思ったが止めた。絶対に大丈夫なんてことはない。
「それよりムゲン殿。一つ聞きたいことが」
「何だ?」
「貴殿、ジャポニに行ったことはあるのか?」
「いや、ないが……」
この世界に来てからはオアバ山とバキアの中心街以外に行ったことがない。
「そうであったか。失礼した。ムゲン殿からジャポニ人のような雰囲気を感じてな」
それは多分、俺が日本から転生したからであろう。
「ジャポニかぁ。私も一度行ってみたいな」
「ジャポニはとても良いところであるぞ。小生も目的を果たしたらジャポニに戻る予定である」
「目的? 何だそれは」
「悪いがそれは言えぬ」
「そ、そうか……」
「目的かぁ……私も早くS級冒険者になりないな」
「S級冒険者……ってことは王国軍に入りたいのか?」
冒険者が王国軍に加入するにはS級と呼ばれるランクまで達する必要がある。
S級冒険者になるには実績は積み上げていく必要があるが、手っ取り早くS級冒険者になる方法はS級モンスターという危険なモンスターを討伐することだと言われている。
しかし、S級モンスターは最高位魔法を使える冒険者ではないと討伐するのが難しいと言われている。
「まぁ……そんな感じ……かな?」
「失礼するぞ」
実技試験の時の試験監督が入ってきた。試験監督は俺達のことを一瞥した。
「試験終わったばかりで悪いがこれから合格者を発表する」
もう合格者の発表か。試験終了後はすぐに発表されるとは聞いていたがここまで早いとは思っていなかった。
「ちなみに今回の合格者は三名だ」
さ、三名だと……各試験に十名前後の合格者が出ると祖父から聞いていた。他の入学希望者もざわめき出した。
「それじゃ、早速発表するぞ。合格者はシャーリア=アルフレッド、ヤヨイ=テンマ。そして、ムゲン=アベイル。以上だ」
合格者三名と聞いて何となく察しが付いていたが予想が的中した。
「一つ補足しておくといつもの試験であれば合格に達している者もいた。だが、今回合格した三人がずば抜けて魔法に対する適性が高い。今回の合格者を指導するのは私だ。この三人に付いてけるものはいまい。悪いが次の入学試験で頑張ってくれ」
不合格を告げられた者達が肩を落としながら控え室から出ていく。気のせいか、何名かの不合格達は俺達を睨んでいるように感じた。
「三人とも付いてこい。早速、オリエンテーションだ」
俺達三人が連れてこられたのは筆記試験で使った講義室であった。
椅子に腰を掛け、教卓に立つ先生と向かい合う。
「では、改めて三人とも合格おめでとう。これから半年間、君達の担任を務めるオリモカ=シエンナだ。まずはこれを受け取ってくれ」
オリモカ先生は三枚の用紙を浮遊させ、それぞれ俺達の机の上に置いた。
表題には合格証明書と記載があり、内容を確認すると、学校でのルールがびっしりと書かれていた。
さらに一番下にはこう記載されている。
――ムゲン=アベイル入学時の体内所有アギ 二千八百八十
「細かい校則とかは後で読んでくれ。まずは基本的なルールを説明する。入学者は全員寮に住むこと。知っているとは思うがな」
寮に入ることは入学を希望する者からしたら周知のルールである。
「ほう……そうであったか。知らなかった」
ヤヨイの呟きを聞いたオリモカ先生は目を丸くした。
「まさか知らないものがいたとはな……まぁ、いい。最低限必要なものは寮の中に備わっているから何も準備しなくても生活できるだろう。とにかく、入学する以上は寮に入るのは必須だ。分かったな?」
「御意」
「授業は八時から十六時まで。基本的には授業は私が教えることになるが、一部の授業は違う先生が担当することになる。後、お前達三人以外にもう一人生徒がいる。前の卒業試験で不合格になった生徒だ」
俺達以外の生徒か……一体、どんな人物なのだろうか。
「それと卒業までの大まかな流れだが、座学と実技の授業を行い、約半年後には卒業試験を行う。ここまでで何か質問はあるか?」
「あの……先生、学校外での外出は許可されているのでしょうか?」
シャーリアは軽く手を挙げ、先生に質問する。
「ああ。外出は許可されている。だが、門限は二十二時までだ。それを破るとペナルティが課せられるから気をつけるようにな」
「分かりました」
ずっと学校に籠もりきりというわけではないようだ。少し安心した。
「オリモカ殿。小生も質問よろしいだろうか」
「先生と呼べ。何だ?」
「卒業試験は一体何をやるのであろうか?」
「モンスター討伐だ。毎年恒例となっている」
バキアの生徒が卒業試験にモンスター討伐を行うのは冒険者の間でも知られている。
祖父が言うには冒険者達は決して生徒達に手を貸さずに見守るようギルドハウスの責任者から強く言われるらしい。
「なるほど。では、オリモカ先生。先生と剣を交えることはできるのだろうか?」
ある意味、宣戦布告とも取れる言葉をさらりと言ってのけるヤヨイ。
しかし、オリモカ先生は一切表情を崩すことはない。
「ああ。模擬戦くらいならできるが」
「左様か。是非ともお願いしたい」
「あー、分かった分かった。次の機会にな。他に質問は?」
俺も含め、他に質問しようとする者はいなかった。
「よし、それじゃこれから部屋の鍵と館内図を渡すから各自荷物を持って自分の部屋に向かうように。寮はこの学校の外にある鼠色の建物だ。後、授業は明日から始まるから八時前には席に着くようにな」
オリモカ先生から鍵を受け取り、部屋に向かう。寮は学校から百メートルほど離れたところにあり、元の世界で見かけるアパートのような長方形の質素な建物であり、材質は煉瓦のようである。
部屋の中は八畳ほどの広さで、台所、トイレ、風呂といった生活に必要なものはきちんと備わっている。
鞄から荷物を取り出し、洗剤や服などを所定の場所に置いた。簡単に荷造りを終えた後、少し寮内を探索しようと思い、部屋から出た。
部屋から五十メートルほど歩いた先に食堂を見かけた。先ほど渡された用紙には朝、昼、夜と特定の時間帯に食堂を利用できると書かれていた。
「やぁ、もしかして新入生?」
ふと背後から話しかけられた。振り返ると、俺よりやや背が高く、金髪の青年が微笑を浮かべている。とても爽やかな好青年といった印象を受けた。
「は、はい……」
「そうか。僕はウィル=モニーク。半年前に君と同じく、この魔法学校に入学したんだけど、留年しちゃってね」
この人がオリモカ先生の言っていたもう一人の生徒か。卒業試験は不合格になったらしいが、中々の魔力を秘めているのが分かる。
「俺はムゲン=アベイルと言います。オアバ山に住んでいました」
たじろぎながらもウィルに挨拶する。
「アベイル……もしかして、あのナハラ=アベイルのご家族?」
どうやらウィルは祖父のことを知っているようだ。
「そうです。ナハラ=アベイルは俺の祖父です」
「そうなんだ! まさかあのナハラ=アベイルのお孫さんだったなんて感激だよ!」
「感激しているところ悪いですが……俺自身は大したことないですよ」
「またまたご謙遜を。ムゲン君は冒険者になるんでしょ?」
またそれか……俺は冒険者にはなりたくないんだ。
「いや、俺は……」
「ムゲン殿!」
ヤヨイの声が鼓膜に響く。シャーリアと共に食堂に入ってくるのが確認できた。
「そこのお方は?」
「さっき知り合ったんだ。ウィルさんって人で俺達と一緒に授業を受けることになるらしい」
「どうもウィル=モニークです。歳は十七。卒業試験に落ちてしまって明日からみんなと授業を受けることになるけどよろしくね」
ウィルが二人に挨拶した。というか、十七歳だったのか。もっと年上だと思っていた。俺と一つしか変わらない。
「そうか。小生の名はヤヨイ=テンマ。東の国ジャポニから参った。歳は十五であるぞ。よろしく頼む」
「シャーリア=アルフレッドです。生まれも育ちもこの街で、歳は十六歳です。よろしくお願いします」
二人もウィルに対して自己紹介をした。そして、ここで二人の年齢が判明した。
「ヤヨイさん、シャーリアさん。これからよろしく頼むね」
「うむ。して、ムゲン殿。貴殿の歳はいくつであろうか?」
「俺は十六歳だ」
「ふむ、そうであったか。ということは小生が最年少ということか」
さすがは東の国からやってきただけあって上下関係を気にするようだ。
「まぁ、年齢なんて気にしなくてもいいじゃない!」
「そうだね。これから一緒に学ぶ同級生になるんだしもっとラフな感じで接してくれて構わないから」
「ふむ、そうであるか。ムゲン殿はどう思われる?」
「俺も気楽に接して良いと思うぞ。同期なんだしな」
「そうか。では、同じ立場ということで接しさせていただくとするか」
四人集まった俺たちは食堂で食事を楽しむことにした。