最高位魔法を使えない俺はハチになるエキストラユニークスキルで生き抜く 作:チャンドラ=グプタ
「その名前で呼ばないでくれ。今の俺は『アルフレッド』だ」
祖父と会話している人物は自分のことをアルフレッドと名乗った。アルフレッドと名乗る人物はどことなくシャーリアと面影がある。
今、この人物が誰なのか分かった。
「……なぁ、シャーリア」
「ん? 何かしら」
「シャーリアの母さんのファミリーネームは……何て言うんだ?」
「アルフレッドよ」
「なるほどな……」
記憶の中で出てきた人物――あれはシャーリアの父親なのだろう。
「な、何? 一体、どうしたの?」
俺は今見た記憶のことをシャーリアに伝えた。
「父さんがムゲン君のおじい様と……」
「記憶の中で、シャーリアの父さんは兄の暴走を止めると言っていた」
「そうなんだ。何かを企んでいたのかもしれないわね」
「何かって?」
「それは分からないけど……」
シャーリアの父さんが言う暴走とは一体何を指しているのか、今の時点ではよく分からない。
「そうか。だが、確かに祖父を殺したのは今の王の可能性が高いな」
「そうね。少しは信用してもらえたかしら」
「一つ、勘違いしているぞ」
「え?」
俺は何を隠していようが別に構わないと思っていた。シャーリアがどんな立場にいようが仲間である。
「俺は元からシャーリアとヤヨイを信頼している。誰だって話したくないことくらい、あるだろう」
「あ、ありがとう……」
「礼には及ばない。それよりもシャーリア。ヤヨイの目的について、何か知らないか?」
ヤヨイもまたシャーリアと同様、自分の目的を明かそうとしなかった。シャーリアになら、もしかしたら打ち明けているのではないかと思ったのだが。
「ええ、聞いてないわよ。私も何度か聞いてみたけど、教えてくれなかったわ」
「そうか」
「随分とあの子のこと気にしているのね」
「別にそういうわけじゃ……」
「あの子、もしかしたらムゲン君に心を開くかもしれないわね」
「なんだ、心を開くって?」
「あの子……多分、私に対して心の底から信頼してないと思うのよね」
「そうなのか?」
俺には全く分からなかった。いや、思い出すと確かにヤヨイは俺達とはどこか遠い場所にいる。
気のせいかそんな気はしていた。
「うん。それとヤヨイね。冒険者になってから、ムゲン君に冒険者になって欲しかったってボヤいていたのよ。ムゲン君が私達のギルドに加入することになった時、すごく喜んでいたわ」
ヤヨイが……ヤヨイはとても強い少女である。俺よりも、シャーリアよりも。
こんな自分でも必要としているのだろうか。
「けど、俺にもまだあいつは自分の目的を話さないと思う」
「そうかもしれないわね」
その後、俺達は商店街で買い物をした。買い物が終わると、シャーリアと別れ、寝泊まりしている宿屋へと戻った。
シャーリアと買い物をしてから三日後が経過した。身支度を整え、ギルドハウスへと向かう。
今日はレッドフレイムドラゴンの討伐へと向かう。ギルドハウスには既にヤヨイとシャーリアがいた。
「おはよう、二人とも」
「おはよう。それじゃ、みんな揃ったことだし行きましょうか」
シルヴァ山の麓までは馬車を使って移動する。街を離れ、田園地帯に差し掛かった。
「のどかな場所であるな。ジャポニのことを思い出す」
ヤヨイは懐かしそうに延々と続く田園風景を見つめていた。
「なぁ、ヤヨイ。ヤヨイはいつかジャポニに帰るつもりなのか?」
「うむ。いつの日か戻るつもりであるぞ」
「それは……目的を達成したらか?」
「うむ、そうであるな」
あっさりと認めた。この際、ヤヨイの目的について詳しく訊いてみたいと思った。
「なぁ、ヤヨイの目的ってなんだ?」
「前にも言ったが、まだ言えぬ」
やはり、ヤヨイは話すつもりはないようであった。
「ヤヨイ、シャーリアが王族ってことは知っているのか?」
「ちょ、ちょっと! ムゲン君!」
シャーリアが取り乱した。しかし、これからS級モンスターと戦うのである。この際、ハッキリさせておいた方が二人のコンディション的に良いと判断した。
「そうであるのか? シャーリア殿」
「ええ、そうよ」
「王族であるシャーリア殿がどうして魔法学校に入学していたのであるか?」
「それはね……」
シャーリアは俺にしたのと同じ説明を行なった。
「そうであったか。バキアの王がシャーリアの父上殿を……」
「ヤヨイ。シャーリアは自分が王族であることを俺達に話してくれたんだ。ヤヨイも目的を教えてくれないか?」
「すまぬな二人とも。やはり小生は……」
ヤヨイの意思は想像以上に硬い。これ以上、追求しても無意味だろう。
「そうか」
「本当に申し訳ない二人とも。だが、これだけは伝えておきたいと思う。小生の目的も二人と同じ『復讐』であることを」
ヤヨイも復讐を企てている? だとすれば、一体誰を狙っているのだろうか。
「ヤヨイも家族を殺されたのか?」
「うむ」
意外であった。まさか、ヤヨイの目的が復讐であるとは。モンスターと戦う時、ヤヨイはいつも純粋に戦闘を楽しんでいるように見えた。
ヤヨイに憎悪という感情があるとは露にも思わなかった。
「ねぇ、私達っておかしいのかしら?」
「おかしい? 一体何がだ?」
「復讐に囚われていること。たまにね、本当は純粋に楽しんで生きた方がいいんじゃないかって」
シャーリアの言うことも一理ある。よく復讐は何も生み出さないと言われるが、多分それは正しいのだろう。
だが、そんな簡単に割り切れるほど、人間はいや俺は単純なものではない。
「シャーリア殿の復讐に懸ける思いはそんなものであるのか?」
ヤヨイの声がいつもより低く聞こえた。どことなく迫力を感じる。
「や、ヤヨイ……」
シャーリアもまたいつもと違うヤヨイの迫力に圧倒されていた。
「小生には……どうしても許せぬものがいる。其奴を殺すまでは、絶対に死ねぬのだ!」
「おい、ヤヨイ。ちょっと落ち着け」
俺が呼び掛けると、ヤヨイは睨みつけるように俺のことを見上げる。
「小生の復讐への思いは誰よりも強い。ムゲン殿だって祖父を殺したものが憎いであろう?」
祖父が殺された時の様子を思い浮かべた。
ひどく衰えた状態で亡くなっている祖父の姿。祖父は幼くして両親を亡くした俺にとっても唯一の家族であった。
魔法を教えてくれ、真っ当に働いたら恩返しをしたいと考えていた。しかし、祖父を殺した犯人のせいでそれは叶わぬ願いとなった。
「…………そうだな」
「すごいなムゲン殿」
「何がだ?」
「ムゲン殿から伝わる殺気……シャープスネイルベアーと対峙した時以上のものを感じる」
「ヤヨイ、俺もお前と同じだ。今は目的を話さなくても構わない。一緒にレッドフレイムドラゴンを倒してくれ」
俺は二人とギルドを組むまで一人でモンスターと戦い続けた。色んなモンスターの肉も喰らい、その都度新しい能力を獲得した。
それでも、一人ではレッドフレイムドラゴンには勝てないだろう。
「御意。元からそのつもりであるぞ」
「シャーリアはどうする?」
「えぇっと、その……ど、どうしたらいいんだろう?」
「それは自分で決めるんだ。復讐のことを忘れて楽しく生きるか、それとも仇を討つのか。だが、どちらを選んでも俺はシャーリアを責めたりしない」
「ヤヨイはどうなのかしら?」
「小生も……シャーリア殿が考えた結果なら認めるつもりであるぞ」
「ありがとう二人とも。私もやっぱり二人についていくわ! 父さんを殺した王が憎いのもあるけど、まだ二人と一緒に冒険したいの」
「シャーリア殿、一緒に付いてきてくれること、誠に感謝致す」
「やめてよもう……ムゲン君もいい?」
「勿論だ」
当初の想定とは違ったが、これで二人とも吹っ切れたであろう。