最高位魔法を使えない俺はハチになるエキストラユニークスキルで生き抜く 作:チャンドラ=グプタ
シルヴァ山の麓に到着すると、馬車から降り、徒歩で山頂に向かう。
レッドフレイムドラゴン以外にもシルヴァ山には強いモンスターがたくさん生息している。
極力、戦闘を避けて登って行ったが、やはり戦わなければいけない場面に何度か遭遇した。
「フレイムバースト!」
俺達はホーンホースという大きなツノを持った馬のようなモンスターと戦っていた。シャーリアが魔法をぶつけるも倒れない。
「随分としぶといモンスターであるな!」
ホーンホースのツノをヤヨイがムラマサで受け止めた。戦闘を避けるため、一度は逃亡したものの、しつこく追いかけてきたため渋々戦闘を行うことにした。
しかし、奴は想像以上にタフなモンスターであり、かれこれ十分以上戦闘を行なっている。
「仕方ない……使うか!」
エキストラユニークスキルを発動する。ハチになり、ヤヨイと力比べをしているホーンホースの脇腹に針を打ち込む。痺れ作用のある毒を打ち込まれた奴の動きは鈍くなった。
「隙あり!」
ヤヨイがホーンホースの首を斬り落とした。頭部を失った首から血が吹き出し、奴の身体は倒れる。
「ムゲン殿。助太刀感謝致す」
俺は人間の姿へと戻った。気を抜いたら一気に疲労感が襲ってきた。シャーリアとヤヨイもかなり疲れていることだろう。
「今日はこの辺でテントを張って泊まることにしよう」
「そうね。今日はもう疲れたわ」
少し歩いた先にある川の近くでテントを張ることにした。勿論、シャーリアとヤヨイとは別のテントで泊まる予定である。
テントの組み立てが終わると、中に入り身体を横にした。
今日はひたすら山を登り続けたため、かなり脚がパンパンであった。
「失礼するわ」
シャーリアが中に入ってきた。手には大きなタオルを持っている。
「おお、シャーリアか。どうした?」
「私、水浴びに行ってくるわね」
「お、おぉ。そうか……」
「覗かないでよ?」
「の、覗かねーよ! それより、ヤヨイにはやっぱり断られたのか?」
「なーに? ヤヨイがいたら覗きに行くつもりだったの?」
「ちげーよ!」
シャーリアは以前、ヤヨイが一緒にお風呂に行ってくれないことを嘆いていた。だから、聞いてみたのだが、確かにまるでヤヨイが一緒なら覗きに行くみたいな聞き方であった。
「いつも通り、断られたわね」
「そうか。俺はもう寝るから安心して水浴びしてくれ」
「そう、分かったわ」
目を閉じ、眠ろうとしたが咳が出た。手を口に被せ、何度か咳をする。掌を見ると血が付着している。
俺は後、何回変身できるだろうか。エキストラユニークスキル『ハチ』は普通の魔法とは違い、体内のアギではなく、寿命を使って変身しなくてはならない。
一人で活動していた頃、何度もエキストラユニークスキルを使用していた為、もう俺の寿命は長くはないと薄々感じていた。
「復讐を終えるのが先か、寿命が尽きるのが先か……」
いずれにせよ、モタモタしている時間はない。明日で必ずレッドフレイムドラゴンを仕留める。
「ムゲン殿、中に入ってよろしいか?」
テントの外からヤヨイの声が聞こえてきた。「いいぞ」と返事をすると、ヤヨイはテントの中に入ってきた。
ヤヨイは立ったまま、じっと俺のことを見つめてくる。
「座ったらどうだ?」
「うむ。では失礼する」
ヤヨイは正座した。俺もヤヨイに釣られるようにヤヨイと向かう会うように正座した。
「……」「……」
重々しい空気が流れる。何だこれはお見合いか。
「ムゲン殿、隠していることがあるであろう?」
「何のことだ?」
「気づいておらぬとでも思っていたか? ムゲン殿の寿命、そう長くはないであろう?」
ヤヨイの表情は明らかに確信している。これ以上、誤魔化しても無駄か。
「気づいていたのか」
気づいている素ぶりは全くみられなかった。しかし、どうして分かったのだろうか。
「うむ。小生、昔から分かるのだ。人の寿命というものが」
ヤヨイにそんな能力があるとは驚きである。しかし、ヤヨイが俺の寿命を把握しているとしたら確認しておきたいことがあった。
「シャーリアには俺の寿命のこと、話してないよな?」
「うむ。しかし……」
「今はまだ伏せておいてくれ。頼む」
ヤヨイに深々と頭を下げた。別にシャーリアを悲しませたくないとかそういう理由ではない。
変に動揺を与えれば、明日の討伐に影響が出ると思った。
「……承知した」
「ありがとう。ヤヨイ、俺の方からも聞いておきたいことがあったんだ」
「何であるか?」
ヤヨイは水色の髪をかき上げた。やはりこうして見ると、普通の可愛らしい少女にしか見えない。
「ヤヨイ、お前って……モンスターなのか?」
「……」
ヤヨイはしばらくの間、沈黙した。この反応はやはり……
「どうしてそう思うのであるか?」
「ハチに変身すると人の言葉が分からなくなる代わりにモンスターの言葉が分かるようになるんだ」
シャープスネイルベアーの戦闘から違和感を感じていた。
ハチになった時、シャーリアとウィルの言葉は分からなかったのに、ヤヨイの言葉は理解することができた。
ギルドを結成してからもハチに変身すると、シャーリアの言葉が分からなくなるのに、ヤヨイの言葉は分かった。
「けど、なぜかハチになってもヤヨイの言葉は分かるんだ」
つまりヤヨイはモンスター又はそれに準ずるものではないかと推測される。
「ムゲン殿。モンスターと会話が分かるということであるが、一体どんな風に分かるのであるか?」
「何て言うか、その……テレパシーみたいな感じでモンスターの言葉が伝わってくるんだ」
俺の説明をヤヨイは「ふむ、ふむ」と興味深そうに頷きながら聞いていた。
「なるほど……小生はモンスターの感情までしか読み取ることが出来ぬのだが、ムゲン殿はすごいな。小生の言葉もテレパシーのように伝わってくるのであるか?」
「いや、ヤヨイの場合は耳に普通に言葉として届く。けど、ヤヨイ以外の人の言葉はノイズでも聞くみたいに全然理解できない音になるんだ」
「作用か。ムゲン殿の察するとおり、小生は普通の人間ではない」
「そ、それじゃ……」
「ムゲン殿!」
質問を続けようとするのをヤヨイが遮った。
「な、何だ?」
「申し訳ないが、今から二時間後に外で待ち合わせしても良いか? その時に全てを話す」
「全てっていうのは?」
「小生の正体……そして、目的についても明かそう」
なんと、あれ程までには話そうとはしなかった目的について、話すつもりのようである。
「…………いいんだな?」
「うむ」
もう覚悟はできているようだ。ヤヨイがテントから出た後、しばらくするとシャーリアが水浴びを終えたことを伝えてきた。
タオルと着替えを持って川へと向かった。ふと何気無く空を見上げると、たくさんの星々が宝石のように光り輝いているのが目に映った。
「人は死んだらお星様になるか……」
祖父がよく言っていた。両親が亡くなった時、お星様になって俺を見守ってくれると言って慰めてくれた。
勿論、信じているわけじゃないが、星を見ると両親、そして祖父のことを思い出してしまう。
川で水浴びをした後、服を着てテントへと戻ろうとした。
「ムゲン殿」
「ヤヨイ……」
ヤヨイがタオルとムラマサを持って、立っていた。強く吹き込む風がヤヨイの水色の髪をなびかせている。
「ムゲン殿。もう、水浴びを終えたであるか?」
「まぁな。今からテントに戻るつもりだ」
「そうか。予定より早いが、良かったら今話をしてもよいだろうか?」
「構わないが」
承諾すると、ヤヨイが川淵に近づいた。そして、何を思ったが、着物を脱ぎ出した。
「ちょ……ヤヨイ! 何してるんだ?」
ヤヨイから視線を逸らそうとした。
「ムゲン殿。小生の背中を見て欲しい」
俺はゆっくりとヤヨイの背中に視線を移す。
「こ、これは……!」
無駄肉が一つも付いていない美しいヤヨイの背中。しかし、驚くべきところはそこではない。
彼女の背中には青白い鱗がいくつもあった。
「驚いたか? これが小生の正体である」
ヤヨイは着物を着て、俺に近づいてきた。
「ヤヨイ、お前は一体……」
「小生は…………人間と人魚のハーフである」
「人間と人形のハーフ?」
「うむ。小生の生い立ちから話そう」