最高位魔法を使えない俺はハチになるエキストラユニークスキルで生き抜く 作:チャンドラ=グプタ
小生はジャポニにある小さな村で生まれた。小生の父上殿は侍として国の為に働いていた。
母上殿は純粋な人魚であり、地上に遊びに来ていた時、父上殿と出会った。
父上殿に一目惚れしたらしく、足を生やす薬を飲み、代償として自分の声を犠牲にし、人間として父上殿と共に生きていくことを決めたようである。
小生は両親と幸せな日々を送っていた。しかし、そんな毎日は突然、終わりを迎える。
「邪魔するぞ」
夜遅くに赤髪の男が家に上がり込んできた。
「何者だ。お前は」
父上殿は愛刀『ムラマサ』を男に向ける。
「知る必要はない。お前らはここで死ぬのだから」
「二人とも逃げなさい。ここは俺が何とかする」
母上殿と小生はその場から逃げ出した。しかし、赤髪の男はすぐに小生達に追いついてきた。
「貴様……まさか父上殿を!」
「ああ、殺した。中々手強い相手だった。さぁ、大人しく……」
小生が赤髪の男に飛びかかろうとすると、母上殿は小生の襟首を掴み、赤髪の男とは反対側の方へと投げ飛ばした。
「母上殿!」
――逃げなさい!
母上殿は声を出せない。だが、そう言っているような気がした。
情けないが、小生は母上殿の言う通り、逃げることにした。
赤髪の男は小生を追ってはこなかった。家に戻ると、腹部に血を流し、ひどく衰えていた父上殿の死体が転がっていた。
「父上殿……」
小生はムラの人達にこの出来事を伝えた。すると、かつてバキアの城で働いていたことのある者が教えてくれたのである。
かつて王族に赤い髪の者がいたこと。その男は人魚について調べていたこと。
人魚の肉を喰らった者は不老不死の身が宿ると言われている。
おそらく赤髪の男の目的は母上殿であったのだろう。
それと、父の持つムラマサ。その刀は不老不死である人魚も殺すことができる。
あのムラマサは父上殿が摶ったものである。父上殿は侍として働く傍ら、刀職人としても名を馳せていた。
母上殿は結婚する時、父上殿に死ぬ時は一緒がいいと要望したそうである。母上殿の要望を叶えるために作られたのがあのムラマサであった。
だからこそ、モリア殿のお店でムラマサを見た時は本当に驚いた。
両親が殺されてからは知り合いの家で暮らすことになった。そこでの生活はそれなりに充実したものであったが、復讐心が消えことはなかった。
独学で魔法剣術を学び、魔法学校へと入学し、こうしてムゲン殿達と出会ったのである。
「これが今まで小生が隠していた真実である」
明かされる数々の衝撃的な事実に頭が追いついてきそうにない。
まずは一つ一つ整理しておきたいと思った。
「まず、ヤヨイの母さんは人魚……なんだな」
「うむ。そうである。小生と同じく背中に鱗がある」
「正直、鱗だけじゃまだ信じられないな。他に特徴とかないのか?」
「では、今から証拠をお見せする」
ヤヨイは懐から短刀を取り出す。そして、その短刀で自身の腕を深く斬りつけた。腕から多量の血が流れ出る。
「お、おい。何してるんだ!」
しかし、腕の傷は塞がり、瞬く間に治っていった。思い返せばヤヨイが授業やクエストで傷らしい傷を負ったのを見たことがない気がする。
ヤヨイの実力が高いからだと勝手に思い込んでいたが、おそらく不死の力が作用していたからであろう。
「驚いたか? ムゲン殿」
「かなりな」
「隠していてすまなかった。小生には人魚の血が流れている。これがどういう意味か分かるか?」
「ヤヨイにも不死の力が宿っているんだな?」
ヤヨイが頷いた。そして、この事実を明かした意味を俺は理解する。
「小生の肉を喰らうといい。ムゲン殿が持つエキストラユニークスキルはモンスターの能力をコピーするのであろう?」
「俺に不死になれってことか……」
「不服であるか? 不死になることが」
「いや、確かに不死になれば寿命で死ぬことはない。けど……」
「やはり、不死になるのは気が進まぬか……」
俺は死ぬこと自体、それほど恐れてはいない。
元の世界で死を経験しているからだろうか。だが、死ねないというのはある意味で死ぬよりも遥かに怖い。
「そんなことは……って言っても、信じてくれないよな」
「確かに寿命で死ぬことはできなくなる。だが、死ぬことは可能である」
ヤヨイがムラマサを抜いた。ムラマサで軽く腕を傷づける。先ほどとは違って、傷が治ることはなかった。
「死にたくなったらこのムラマサで自害できる。それでは不服か?」
このまま突き進むか、不死の力を手にするかしばらくの間考えたが、俺は後者を選ぶことにした。
「いいだろう。ヤヨイ、お前の力貰うぞ!」
ハチに変身する。そして、ヤヨイの背中に思いっきり齧り付いた。
「ぐ……!」
ヤヨイが痛そうな声を出す。ヤヨイの背中は少し苦くも甘い、薬のような不思議な味がした。
ヤヨイに伝える気はないが、今まで食べたどのモンスターの肉よりも美味しかった。
俺によって、かじり取られた背中の部分は不死の力によって、すぐさま再生した。
俺は人間の姿へと戻った。
「どうであるか? ムゲン殿」
「何も変わった感じはしないが……」
モンスターから力を得る時、力が湧き上がるような感覚が起こるのだが、今回はそれがなかった。
「ちょっと、短刀を貸してくれるか?」
「うむ」
ヤヨイから短刀を借り、試しに腕を傷つけた。しかし、腕の傷は治らない。
「どうして不死にならぬのだろうか?」
ヤヨイが腑に落ちないといった表情で血が流れている俺の腕を見つめた。
「ヤヨイがハーフだからかもしれないな。純粋な人魚じゃなければ意味がないのかもしれん」
「そ、そんな……このままではムゲン殿は」
「その前に決着をつけるさ」
ヤヨイは着物を着ると、ゆっくりと俺に近づき、俺の手を掴んできた。
「ムゲン殿」
「な、なんだ……?」
「小生は……ムゲン殿に生きて欲しいと思っている」
「それは嬉しいが……」
「母上殿が言っていた。人魚は母上殿以外にも存在し、地上で暮らしているものもいると。小生達の戦いが終わったら人魚を探しに行こうぞ」
「そりゃありがたい話だが、探す当てはあるのか?」
「赤髪の男は何らかの方法で人魚である母上殿を見つけたのである。だから、奴から人魚を見つける方法を聞き出そうぞ」
「確かにそいつなら人魚の場所を知っているのかもしれないな」
「それと教えて欲しい。ムゲン殿の寿命は後、どれくらいであるか?」
「長くて半年くらい……下手すれば三ヶ月も持たないかもしれない」
残りの寿命を教えると、ヤヨイの瞳から涙が流れ始めた。
「お、おい……何泣いてるんだ?」
「いや……ムゲン殿は死ぬのが怖くないのか?」
元の世界で死んだ時のことを思い浮かべた。あの時の俺は死ぬことに対して、どう思っていたのだろうか。
多分、『この辛い世界からおさらばできる』と思っていたのだろう。
「怖くないと言えば嘘になるな。だが、それなりの覚悟はできているつもりだ」
「本気のようであるな。その上で伝えておく。レッドフレイムドラゴンとの戦いの時は、小生の不死の力を利用した作戦を立てて欲しい」
「いいのかそれ……つまり、その」
「シャーリア殿には明日、全てを話す」
「分かった。ヤヨイがそのつもりならそれでいい」
「うむ。では、ムゲン殿は明日に備えてゆっくり休むがいい。小生は水浴びをする」
「あ、あぁ……」
すっかり忘れていたが、ヤヨイは水浴びに来たんだったな。
「ムゲン殿。良かったら一緒に浴びるであるか?」
「…………遠慮しとく」