最高位魔法を使えない俺はハチになるエキストラユニークスキルで生き抜く 作:チャンドラ=グプタ
俺はテントに戻り、深い眠りについた。次の日、外で二人と合流した。
「おはよう二人とも」
「おはようムゲン君」
ヤヨイの方に視線を向けると、彼女は石の上に座っており、無表情でムラマサを握りしめていた。
小さな声でヤヨイに話しかける。
「ヤヨイ。シャーリアにはもう話したのか?」
ヤヨイは首を横に振った。ヤヨイは「これから話す」と返事をすると、石の上から勢いよく立ち上がった。
「シャーリア殿。聞いて欲しいことがある。実は……」
「人間と人魚のハーフなんでしょ。ヤヨイ」
「シャーリア……昨日、もしかして聞いていたのか?」
「まぁね」
「ま、全く気がつかなかった。小生に気配を掴ませぬとは、すごいなシャーリア殿」
「私だって成長しているのよ。それと、ムゲン君のことも聞いたわ。寿命が近づいてきてるんですって?」
寿命のこともバッチリ聞かれてしまっていた。シャーリアには教えない方がいいと思っていたが、もう誤魔化しようがない。
「すまない。隠していて」
「うん、二人ともちょっと来てくれる?」
シャーリアが微笑みながら手招きしてきた。目が全く笑っておらず、とても怖い。
俺達はゆっくりとシャーリアに近づいた。
「えい!」
「いた!」「あた!」
シャーリアが俺とヤヨイにデコピンをしてきた。結構痛い。
「私に隠れて二人だけひどいよ! けど、私も王族ってことを隠していたからこれでチャラね。それとヤヨイ!」
「な、何であるか?」
「レッドフレイムドラゴンの討伐が終わったら、一緒にお風呂に入るわよ! いいわね!」
「う、うむ!」
シャーリア……一昨日、ヤヨイが一緒にお風呂に入ってくれないことを嘆いていたがそんなに一緒に入りたかったのか。
「ムゲン殿も一緒にどうであるか?」
「入らねぇよ!」
ヤヨイは何で俺を誘ってくるんだ。冗談なのか本気なのかよく分からない。
「え……二人とも、もうそこまでいっちゃったの?」
シャーリアがドン引きしていた。ヤヨイの言葉を信じてしまっているようである。
「違う! 断じて違うからな!」
シャーリアに俺の身の潔白を信じてもらうのに五分ほど時間が掛かった。
「それじゃ、二人とも改めて作戦会議をするぞ。前の立てた作戦のことは覚えているな?」
「うむ。まずは翼を狙うであったな」
レッドフレイムドラゴンが逃亡できないようにする。これが必須条件である。そのため、一番に狙うのは首や頭でもなく、翼である。
「そうだ。前にも説明したが、ドラゴンは翼とアギの二つを使って飛行する。どちらか一方を崩せれば遠くまで逃げることはできない」
ドラゴンの体は他のモンスターと比較しても大きい。翼だけでは十分な飛行をすることができないと言われている。翼と全身のアギをコントロールすることで飛行が可能となる。
「承知した。小生が必ずドラゴンの翼を切り裂いてみせる」
「私も全力でサポートするから任せておいて!」
シャーリアの役割は遠距離からレッドフレイムドラゴンを攻撃することである。
レッドフレイムドラゴン相手にシャーリアの魔法がどれ程効くか分からないが、少しでも奴の体力を消費させることができれば戦況はかなり有利になる。
「ヤヨイ、聞いておきたいことがある」
「何であるか?」
昨日、ヤヨイが人魚だとしってから、一つの疑問が生じていた。
「ヤヨイ、お前は無限に魔法を使えるんじゃないのか?」
寿命はアギに変換することで、魔法を使うことができる。不死の特性を持つヤヨイなら魔法を上限なく使えるのでないかと考えていた。
「残念であるがそれは無理である。小生もかつてムゲン殿と同じことを考え、試してみた。しかし、体内のアギが無くなると全く魔法が使えなかった」
俺の推測は外れてしまった。だとすれば、ヤヨイの母を喰らった王もアギの上限が存在するかもしれない。
「そうか、分かった」
「すまぬな。期待に添えず」
「いや、気にしないでくれ。ヤヨイが不死であるだけで、戦闘がかなり有利になる。それより、二人とも。レッドフレイムドラゴンの気配は感じているか?」
「うむ。どうやらこの近くにいるな」
「す、すごいアギね……ちょっと怖いかも」
シャーリアの気持ちも理解できる。シャープスネイルベアーと遭遇した時以上の恐怖心を感じる。
「恐れることは何もない。三人なら必ず倒すことができる」
「そうね! 必ず全員生きて戻りましょう!」
勾配の強い坂を登っていくと、広く地面が平らな場所へと辿り着いた。
「ここ、山頂かしら?」
「そのようだな。あれがレッドフレイムドラゴンだろう」
俺はスフィンクスのように座っているレッドフレイムドラゴンを指差した、
「二人とも、ゆっくりと近づいこうぞ。下手に刺激してはならぬ」
足音を立てないように注意しながらレッドフレイムドラゴンに近づいた。奴は目を閉じており、『グオー』と大きないびきをかいて眠っている。
「寝ているようね。これってラッキーなのかしら?」
確かにチャンスと言ってもいいだろう。今のうちに俺はレッドフレイムドラゴンを観察することにした。
全身は硬そうな皮膚で覆われており、手足に生えている鋭い爪は鋼鉄をも容易く斬り裂きそうである。
首は太長く、生半可な攻撃では通用しそうもない。
ハチになって奴の肉を喰らいたいが、果たしてこんな硬そうな皮膚、齧りとることができるだろうか。最も柔らかそうな部位である目も今は閉じている。
「ムゲン殿、どこから攻撃するであるか? 翼かそれとも首か?」
多分、俺達が全力で攻撃を叩き込んでもレッドフレイムドラゴンを倒しきることができないだろう。そう考えると、やはり翼か……いや。
「ヤヨイ。尻尾を狙ってくれ。全力で頼む。出来れば一撃で切り落として欲しい」
「尻尾か。承知した」
「ちょっと、ムゲン君! 大丈夫なの?」
シャーリアは俺の指示に不安を抱いているようだ。だが俺は尻尾を狙うのが最善な策であると確信している。
「問題ない。シャーリアは俺達から離れた場所に移動してくれ」
「わ、分かったわ! 信じるわよ」
シャーリアは俺達から離れていった。ヤヨイがムラマサを抜き、集中力を高める。
「水流斬!」
ヤヨイは見事にレッドフレイムドラゴンの尻尾を斬り落とすのに成功した。それと同時に奴が目を覚ます。
すかさずハチに変身した俺は奴の目に針を打ち込んだ。
「グワオオオオオ!」
激しい咆哮と共に奴が勢いよく翼を羽ばたかせる。凄まじい風が俺たちを襲った。痺れ作用のある毒を打ち込んだのだが、あまり効いていないようだ。
「シャーリア! 魔法を打ち込んでくれ!」
「分かったわ! フレイムバースト! エクスプロード! フレイムバースト!」
シャーリアが連続で上位魔法を繰り出す。奴はたちまち爆炎に飲み込まれた。
「や、やったかしら?」
上位魔法を数発当てただけで倒せるほど、レッドフレイムドラゴンは弱くない。案の定、奴は翼を羽ばたかせ、宙に舞っていった。
「ねぇ、逃げ切る気じゃない?」
「違う、これは……」
奴は腕を売り上げ、鋭い爪で俺とヤヨイを引っ掻こうとした。
「避けろ!」
アクセルを使って、奴の攻撃を避けた。奴が引っ掻いた地面は深く抉れていた。
「こんなの喰らったらお陀仏だな……」
「ムゲン殿。ここは小生に任せてくれ。作戦通り奴の翼を斬り落とすこととしよう」
「ヤヨイ! あいつ、かなり興奮してるけど危険じゃない?」
シャーリアが心配そうにヤヨイに呼び掛けた。確かに今、奴に近づくのは無謀と言えるかもしれない。
「心配無用である。小生は不死であるぞ」
「それはそうだけど……」
「では、行ってくる!」
ヤヨイは勢いよくレッドフレイムドラゴンに飛びかかる。
魔法剣術を使って翼を斬ろうとするも、奴は宙を舞っている為、刀が届かない。
「おのれ、ハイドロウェーブ!」
ヤヨイが魔法で津波を発生させたが、レッドフレイムドラゴンの口から放たれる炎によって、蒸発してしまった。
「あいつ、相変わらず闇雲に飛び掛かるな」
いつもそうだった。ヤヨイは自分より強い相手でも果敢に挑む。そんなに打ちのめされても決して諦めようとはしなかった。
「ヤヨイのこと、コントロールするのがムゲン君の役目でしょ?」
「……だな」
俺はハチに変身した。レッドフレイムゴラゴンの意識がヤヨイに向いているため、接近することができた。
俺は奴の尻尾の断面に齧りつく。これでレッドフレイムゴラゴンの能力をコピーすることに成功した。
モンスターの肉は生きている状態で捕食しなければ能力をコピーすることができない。
さっきヤヨイが斬った尻尾の肉や死んだ状態の肉を食べても意味がないのである。
「き、貴様……何だその姿は?」
レッドフレイムドラゴンはハチになった俺の姿を見て、ひどく動揺していた。
「見ての通りハチだよ」
奴が吐き出した炎をギリギリのところで避けていき、首筋に針を打ち込むが、皮膚が硬く、深くまで突き刺さらない。
「ええい、鬱陶しい!」
レッドフレイムドラゴンは首を大きく振った。
「うわ!」
弾き飛ばされ、危うく地面に身体を打ち付けそうになった。
「ムゲン殿。大丈夫であるか?」
「へ、平気だ……」
「言葉は分からぬが、大丈夫そうであるな。ムゲン殿、奴を地面に引きずり下ろして欲しい。頼めるか?」
「任せておけ!」
俺はレッドフレイムドラゴンに向かって、一直線に突き進んだ。