最高位魔法を使えない俺はハチになるエキストラユニークスキルで生き抜く 作:チャンドラ=グプタ
「愚か者め! これで終わりだ!」
奴は巨大な炎を放つ。シャーリアの上位魔法よりも遥かに凄まじい炎である。
「それはどうかな!」
俺も奴の同程度の威力の炎を放った。早速、奴の能力を早速使わせてもらうことにした。
炎と炎がぶつかり合い、周囲の温度が急上昇していく。
「シャーリア殿! ムゲン殿のサポートを頼む!」
シャーリアはレッドフレイムドラゴンの頭上に炎を下ろした。
不意を突かれたことで、奴は口を閉じてしまい、俺が放った炎に身を包み込む。
「あ、熱い!」
「おっと、天下のレッドフレイムドラゴン様が俺の炎なんかで熱がるのか?」
炎が沈下するのを確認すると、奴の頭上に移動し、無属性の魔法を使用するべく、体内のアギを調整する。
「エイフォブルグラビティ!」
「な、何だ? 急に身体が重く……」
エイフォブルグラビティは相手に重力を掛ける魔法であり、上位魔法の一種である。
在学中は上位魔法を身につけることができない俺であったが、一人で活動していた時に習得した。
重力を掛けられたことにより、奴はどんどん地面に近づいていった。
「ムゲン殿……協力感謝致すぞ!」
ヤヨイは高らかにジャンプし、空中でバク転を行う。ムラマサに纏う水流はヤヨイが宙で回る度、勢いが増していく。
「水転斬!」
ヤヨイはレッドフレイムドラゴンの片翼を斬り落とした。
「ぐわぁ! わ、私の翼が……もう許さんぞ、貴様ら!」
奴は闇雲に炎を吐き出した。接近するのが難しそうだ。俺は二人とコミュニケーションを取るため、人間の姿へと戻った。
「ヤヨイ、さっきの技。もう一回できるか?」
「うむ。しかし、少々時間が欲しい。アギを使いすぎた」
ヤヨイにアギを回復してもらうための時間が必要か。俺一人で時間稼ぎをするのは少々厳しいな。
「シャーリアは?」
「私は平気。さっきポーションを飲んでおいたから!」
「よし! 俺が奴の気を引きつける。シャーリアは奴の首を狙ってくれ」
「分かったわ!」
作戦の最終段階。それは奴の急所を狙うことである。ヤヨイでも一撃でレッドフレイムドラゴンの首を斬り落とすのは厳しいだろう。
俺とシャーリアである程度、奴の首にダメージを蓄積させておく必要がある。
ハチになり、レッドフレイムドラゴンの動向を探る。奴は相当頭に血が上っている。少し引っ掛けてやれば、あっさりと食いつくであろう。能力で自分の分身を一体、作り出した。
俺の分身をレッドフレイムドラゴンに接近させた。以前、俺が一人で活動していた頃、攻撃する度、分身を行うモンスターがいた。
その時は結局倒した方が分からず、能力をコピーして逃亡した。
「また貴様か……いい加減、死ぬがよい!」
分身は炎を浴び、消滅した。次々と分身を作り出していく。分身一体一体の強さはどれもオリジナルである俺と同じ強さであるが強力な能力故、寿命を大きく消費する。
俺の分身達は一斉にレッドフレイムドラゴンに向かっていった。
「な、何だこれは……」
迫り来る分身に奴は困惑しているようであった。分身に気を取られている隙にオリジナルの俺は背後から接近した。
「何匹来ようと全て焼き払ってくれるわ!」
その言葉通り、奴は強烈な炎で次々と分身を焼き払っていった。本体である俺は奴の頭の後ろにしがみ付き、呪文を唱える。
「エイフォブルグラビティ」
魔法を発動させると、奴は頭を自分に伏せた。これで少しはシャーリアも攻撃しやすくなるだろう。
「き、貴様……いつのまに!」
「どうだ? 自由に頭を動かせないだろう」
エイフォブルグラビティは重力を掛ける範囲を絞ることでより強い重力を掛けることができる。
シャーリアが炎の矢を奴の首筋に飛ばす。しかし、皮膚が少し焦げただけであまり効いていないいないようであった。
レッドフレイムドラゴンは俺が掛けている重力を押しのけ、頭を上げようとしてきた。
「ヤヨイ! シャーリアに伝えてくれ! もっと攻撃しろって」
必死に訴えかけたが果たしてヤヨイに伝わるだろうか。
「ムゲン殿……うむ! シャーリア殿、もっと激しい攻撃を行うのだ!」
シャーリアの言葉は分からないが俺が巻き添えを食らうのを心配しているようであった。
だが、そんなことで攻撃を躊躇されても困る。
「俺のことなら気にするな!」
「シャーリア殿。ムゲン殿なら心配ない」
シャーリアは覚悟を決めたのか、連続で凄まじい炎の魔法をレッドフレイムドラゴンにぶつける。俺にも襲いかかるが必死で耐えた。
「お、おのれ! この私が人間ごときに負けてたまるか!」
レッドフレイムドラゴンは大きく顔を振り回す。俺は必死に六本足を使って奴の頭にしがみ付く。
「離れろ、この愚かな人間め!」
「断る! ヤヨイ、まだか?」
「すまぬ。随分と待たせてしまった」
ヤヨイは疾走すると、大きく飛び上がった。翼を斬った時よりも高く飛び、水流を纏わせたムラマサを首に振り落とそうと狙いを定める。
俺はヤヨイが降りてくるのを見計らい、奴の頭から離れることにした。
「これで終わりだ! 水転斬!」
『ガギィン』という、金属と金属がぶつかり合うような音が鼓膜に鳴り響く。
ムラマサは奴の首筋の半分程まで通っていたが、首を斬り落とそうまでには至らない。
「おのれ……なんという硬い首であるか。これでは斬り落とせぬ」
珍しくヤヨイが弱音を吐いた。なんとかしないと……
「いい加減にしろよ、人間ども!」
レッドフレイムドラゴンが炎を吐き出しながらブンブン首を振り回す。
ヤヨイは遠心力で吹っ飛ばされそうなったが、ムラマサを必死に握りしめて耐えていた。
「しつこいドラゴンだな、オイ!」
最初に刺した目とは逆の目に針を刺す。最初に刺した時よりも更に強力な痺れ作用のある毒。弱ってきている今なら効くかもしれない。
「な、なんだ……急に身体が」
案の定、奴は動きを鈍らせた。よし、あともう一息だ。
「ムゲン殿! 小生ごと重力を掛けるのだ」
「だ、だが……」
「心配はいらぬ。小生は不死である。思いっきりやるがよい!」
レッドフレイムドラゴンの首の上に乗り、変身を解除した。ヤヨイの背中にそっと手を置く。
「いくぞ、ヤヨイ」
「うむ」
「エイフォブルグラビティ!」
ありったけの重力をヤヨイに掛ける。ムラマサの刃は徐々に奴の首に沈んでいく。
「うわああああ! やめろ!」
変身を解除した為、奴の言葉が分からなくなったはずだが、そう訴えているように感じた。
「断る。いけ、ヤヨイ!」
「うむ。水転斬!」
ヤヨイは最後の力を振り絞ってムラマサを振り切ろうとした。
「「「落ちろーーーーー!」」」
三人同時に叫んだ。ついに奴の首が地面に落ち、フラフラと歩いた数歩歩いた後、バタンと倒れ込んだ。
「や、やったわ! すごいわ、二人とも!」
シャーリアが興奮した様子で駆け寄ってきた。俺はレッドフレイムドラゴンから降り、地面に仰向けなって倒れ込んでいるヤヨイの様子を確認することにした。
「大丈夫か? ヤヨイ」
「平気である。しかし、さすがに無茶をしすぎたようである。肩を貸して欲しい」
「分かった」
ヤヨイに肩を貸そうとした時、自分の身体の異変に気がついた。
「あれ?」
大量に吐血し、視界がぐにゃぐにゃと歪んだ。足元がふらつき、自分の意思とは違う方向に向かっていく。
「ちょっとムゲン君!?」
「ムゲン殿!」
ヤヨイが立ち上がり、俺に手を差し向けた。
「や、ヤヨイ……」
ヤヨイの手を掴もうとするも、その前に意識が遠のいていった。