最高位魔法を使えない俺はハチになるエキストラユニークスキルで生き抜く   作:チャンドラ=グプタ

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協力依頼

「王国軍に加入するアイン=ダハ。これからバキアの為に忠誠を尽くすように」

 

 現在、バキア城の広大な王室にて、俺は加入式に参加していた。金色に輝く王冠を被り、端正な顔立ちをした見た目二十歳くらいの男が黙々と演説している。

 この男こそ、現在のバキアの王、『ヴァラスハッド=バキア』である。

 王のアギの量を見極めようとしていた俺であったが、無意味であった。

 俺はどんな強いモンスターや冒険者であっても、ある程度アギの量は推定することができる。

 だが、王の場合は全くわからない。

 

「では、これから王国軍の証である腕章を授ける。アイン=ダハよ。前に来るように」

「はい」

 

 王に呼ばれた俺は腕章を受け取りにゆっくりと奴との距離を縮めていく。前にも言ったが、俺は名前を変えている。

 現在、この王室には複数人の護衛がいる。俺よりも遥かに実力が高いと推定される。

 王の暗殺を企てていた時から、護衛との戦闘は極力避けたいと考えていた。

 その為の布石は既に打ってある。

 

 

 

 遡ること約半年前。レッドフレイムドラゴンを倒した次の日、俺はバキア魔法学校へと足を運んだ。

 オリモカ先生のところに報告に行くついでに聞いておきたいことがあった。

 

「失礼します」

 職員室の中を見渡したが、オリモカ先生の姿が見当たらなかった。

「おお、ムゲン=アベイルではないか?」

 俺に気づいたガルド先生が話しかけてきた。ガルド先生は訝しんだ様子で俺のことをまじまじと見つめてきた。

「ふむ……そんなに経ってないのに随分と腕を上げたようだな。今ならワシとも互角に戦えるかもしれんな。どうだ、ちょっと戦ってくか?」

「遠慮しておきます。オリモカ先生はどこにいますか?」

「オリモカ先生なら今授業中だ。今期の教え子はお前らと違って骨の奴がいなくてワシも退屈しとったとこだ。どうだ? ただ待っているのも暇だろう。ワシとやっていかないか?」

 ガルド先生はとても戦いたそうである。これは断っても無駄だろうな。

「分かりました。どこでやりますか?」

「では、道場でやるとするか」

 

 道場に向かい、中に足を踏み入れると久々で懐かしい気持ちになった。ここで何度も何度もガルド先生に投げ飛ばされたものである。

 だが今ならガルド先生にも勝てるかもしれない。

 

「言い忘れていたが勝負は魔法なしの純粋な格闘戦。どちらかが気絶するか、参ったと言うまで勝負は継続する。準備は良いか? ムゲン=アベイルよ」

「はい」

「よし、ではどこからでも掛かってくるがいい」

 側から見ると隙がない。その為、自らの手で隙を作りに行く。

 一歩でガルド先生の懐に入り、右のスネに蹴りを入れる。

「ッツ!」

 効いている。反撃する暇を与えない為、腹部に鉄拳を入れた。

「この!」

 ガルド先生が攻撃してくるのを予測し、大きく飛び上がり背後に回り込み、回し蹴りをした。『ボギッ』という鈍い音がし、左腕をへし折ることに成功するのを確信する。

「ガルド先生。降参する気になりましたか?」

 ガルド先生は折れた左腕を摩っていた。骨折程度の負傷であれば、治癒魔法で治すことができる。

「恐れ入ったぞムゲン=アベイルよ。まさかこの短期間でここまで腕を上げているとは思わなかった。お前に一体何があったんだ?」

「何もありませんよ。ただ……成し遂げたい目標が出来たんです」

「そうか。では、ここからは全力を出すがよいな?」

「お願いします」

 場の空気が豹変した。これまで受けた授業でも感じたことのない圧力をひしひしと肌で感じる。

 だが、王と戦うのならこれしきで臆してはならない。

「消えた?」

 思わずそう錯覚してしまう程の凄まじい移動速度。危険を察知した俺は反射的に後ろに飛んだ。

「ぐ……!」

 腹部に近距離で石を投げつけられたかのような痛みを感じた。まともに攻撃を受けていたら間違いなく内臓は損傷していたことだろう。

「ちっ……避けられたか」

 

 ガルド先生は右腕で殴りかかってきた。なんとか避けると、『メキッ』という音が聞こえた。

 俺の背後は壁であり、大きな穴が空いていた。

 

「こりゃ、マジだな……」

 俺はレッドフレイムドラゴンの戦闘時のヤヨイの動きを思い浮かべた。

 ガルド先生が放つ蹴りをジャンプで躱し、空中で何度もバク転を行う。

 ガルド先生の脳天目掛けて回転蹴りをした。しかし、ガルド先生はそれを右腕で防ぐ。

「中々良い蹴りじゃないか」

 左腕を折った時よりも強く蹴ったはずだが、右腕を骨折するまでには至らなかった。

「だが甘いな。左腕が使えたら終わっていたぞ」

 確かに、左腕を骨折させていなかったら間違いなくカウンターを喰らっていたことだろう。

「成し遂げたい目標があるのだろう? もっと殺す気で来るがよい」

 そうだ思い出せ。祖父が殺されていた時の様子を。王が憎くて憎くて仕方がない。

「そうだ……その目だ」

 それから三十分近く戦闘を続けた。お互い全力を出して戦った為、道場がボロボロになった。

「うああああああ!」

 ガルド先生を組み倒すことに成功し、関節技を掛けた。ガルド先生の右腕から『ボギッ』という音がなる。

「ぐっ……」

 よし、これで両腕を使えなくした。さらにガルド先生の両足の骨を蹴りで砕き、歩けないようにした。

「こ、こうさ……」

 

 最後に胸にもう一発ぶちこんでしまいにするか。

 

「そこまでだ」

 突然、現れたオリモカ先生に呼び止められた。

「お、おお……オリモカ先生。助かった」

「全く二人とも暴れまくって……それとムゲン。私が止めてなかったらどうするつもりだったんだ?」

 確かに俺はガルド先生のことを本気で殺すつもりでいた。自分の行動を思い返すと、動悸が高まった。

「お、俺は……」

「オリモカ先生。勝負を申し込んだのはワシの方です。どうか余り責めないで上げてください」

 ガルド先生は起き上がると俺の肩にそっと手を乗せてきた。

「ムゲンよ。さっきの気持ちを忘れずにな」

 ガルド先生は道場を後にした。オリモカ先生は困ったように緑色の髪を掻き分けた。

「全くあの人は……それでムゲン。私に訊きたいことがあったんだろう」

「はい、その……」

「あー、まぁ待て。ここじゃなんだし場所を変えよう。応接室に来てくれるか?」

「分かりました」

 

 応接室は職員室に向かい側にあると記憶しているが、俺もほとんど入ったことがなかった。

 応接室の中には机を挟んで大きなソファーが二つ置いてあった。俺のその内の一つに座り、オリモカ先生が来るのを待つことにした。

 

「待たせて悪かったな」

 オリモカ先生が部屋に入ってきた。ティーカップが二つ宙に浮いている。

「粗茶だが良かったら飲んでくれ」

 魔法を使ってティーカップをテーブルの上に置く。

「ありがとうございます」

 粗茶という割には随分と香りが良いと思った。一口飲んでみたが普通に美味しい。

 オリモカ先生は俺と向かい合わせになるように座ると、じっと俺のことを覗き込んできた。

「な、何ですか?」

「随分とアギの量が増えたみたいだな」

 オリモカ先生の言う通り、数々のモンスターの肉を喰らってきた影響で俺のアギの量は卒業した時よりも倍近く増えていた。

「まぁ、そうですね」

「今、どれくらいある?」

「前に測ってもらった時は一万アギ近くありました」

 

 この世界には測定士と呼ばれるアギの量を数値化する職業がある。レッドフレイムドラゴンをの討伐前に測ってもらっていた。

 その時の俺のアギの量は一万八十二であった。

 ちなみにシャーリアは八千八百七十。ヤヨイは九千十二であった。。

 

「中々のアギの量だな」

 あまり驚いた様子を見せないあたり、まだオリモカ先生の量より少ないのだろう。俺も具体的な数値までは分からないが他人のおおよそのアギの量を推測することができる。多分、俺の倍以上はあるだろう。

 おそらくは二〜三万アギってところか。

「おっと、脱線してしまったな。それで訊きたいことっていうのは?」

「一時的に魔法を使えなくする……そんな方法ってありますか?」

 王族魔法のことを知ってからずっと王を倒す方法を模索していた。

 攻略の鍵となるのはやはり王族魔法をいかにして封じ込めるかどうかに掛かっていると思っていた。

「それを知ってどうするつもりだ?」

「勿論、使うんですよ」

「ナハラさんを殺した相手にか?」

 

 きっと俺が、いや俺達がしようとすることにオリモカ先生は反対するだろう。だが、それでも成し遂げなければならない。

 

「その通りです」

「なら、教えるわけにはいかないな。前にも言った通り、復讐なんかに囚われるな」

「嫌です」

「何?」

 祖父は元の世界で苦しい思いをしていたことなど、忘れさせるくらいに優しく接してくれた。

 両親を亡くした時だって、俺のことを愛情を持って育ててくれた。復讐に囚われるなという方が無理である。

「俺はじいさんの仇を……どうしても討ちたいんです!」

 机を強く叩き、立ち上がった。

「気持ちは分かるが、本当に一人でできると思っているのか?」

「一人じゃありませんよ。シャーリアとヤヨイがいます」

「あいつらもか……お前の復讐の為にあいつらを危険に晒すことになるんだぞ。分かっているのか?」

「はい。ですが、二人も俺と同じです。王に復讐する理由があります」

 『王』という単語を耳にすると、眉を顰めた。祖父を殺した犯人が王であることをまだオリモカ先生には伝えていない。

「詳しく話を聞かせてもらおうじゃないか」

 

 オリモカ先生に状況を説明した。シャーリアが元王族であること。ヤヨイが人魚と人間のハーフであること。

 レッドフレイムドラゴンを討伐し、王国軍に加入できるようになったこと。

 衝撃的な事実を告げているにも関わらず、オリモカ先生は俺の話を平然とした様子で訊いていた。

 

「驚くことが多すぎて言葉もでねぇな……」

「そうなんですか? 全然そんな風に見えませんけど」

「表情に出してないだけだ。シャーリアが王族でヤヨイが人魚のハーフだぁ? 頭がこんがらがってくるよ……それで、一時的に魔法を使えなくする方法だがな、限定的にだが一応ある」

「ほ、本当ですか?」

「ああ。授業でも説明したが、魔法には呪文名がある。巨大な魔法を発動するさせるには膨大なアギと呪文を唱える必要がある。ベテランクラスになると中位魔法くらいなら呪文無しでも発動すできるんだがな。単純に呪文さえ唱えさせなければ、少なくとも最高位魔法は使えないはずだ」

 最高位魔法か……確かにそれも警戒すべきところだがやはり王族魔法の方が恐ろしい。それに、シャーリアは特に呪文を唱えていた様子もなかった。

「先生。昨日、シャーリアに王族魔法を使ってもらったんですけど、呪文を唱えていませんでした。それにアギも消費した感じは無いそうです」

 何らかの方法で王が呪文を唱えるのを封じても、王族魔法は使えるのでは無いかと思った。

「王族魔法については私も知らないことが多い。だが、王族しか使えない以上、血が関係しているんだろう」

「血ですか?」

「そうだ。生き物の血にはアギが含まれている。王族の血が作用して王族魔法が使えるのかもしれん」

「なるほど……あの先生、俺が一番警戒しているのは王族魔法なんです。なんとか使えなくする方法は無いでしょうか?」

「シャーリアの血を分析すれば王族魔法を封じる薬がつくれるかもしれん。だが、仮に薬を作ったとして、王と戦えるような状況を作れるのか? 王の周りには常に護衛が付いているんだぞ」

「そ、それは……」

 

 そこまでは考えていなかった。王と護衛を引き離し、戦いに持ち込む。

 その状況を生み出すのは確かに難しい。それに向こうが逃げ出すケースも想定しなければならない。

 

「どうやらそこまでは考えていないようだな。しょうがない。私も協力しよう」

「いや、そんな……悪いですよ」

 幾ら何でも無関係の人間を巻き込む気になれなかった。

「馬鹿野郎。元教え子が危ない目に合いそうなのを黙って見過ごせるか」

「それはとてもありがたいですが……」

 確かにオリモカ先生が協力してくれるなら心強い。一気に成功確率は上がったと考えてもいいだろう。

 だが、それと同時にオリモカ先生を危険に晒すことになる。

「お前が心配することじゃない。明日、ヤヨイとシャーリアを呼んできてくれるか?」

「分かりました。それと、薬を作れる人物ってどんな人なんですか?」

「モリア=チノハっていう今は商店街の店で働いている人物だ」

「モリアさん? モリアさんが薬を作れるんですか?」

「なんだお前、あいつを知っているのか?」

 本来であれば俺は卒業後にモリアさんのお店で働くつもりであった。祖父が殺された為、断らせてもらうことにしたが。

「はい。前に店で会ったことがあるんです。ムラマサもモリアさんから貰いました」

「あいつがムラマサをな……なら、話は早いな。王を倒すにはもっと協力者が必要だ。ガルド先生にも協力してもらえるよう声を掛けてみる。ムゲン、他にも協力できそうな人はいるか?」

「そうですね……ウィルは立場上、直接的に協力するのは難しいと思いますが、力を貸してくれると思います」

 ウィルとは最近、会ってはいないが王国について調べているはずだ。何か有力な情報を掴んだだろうか。

「ウィルか……あいつが協力してくれればかなり心強いな。ウィルの方はお前に任せていいか?」

「分かりました。必ず王を仕留めてみせます」

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