最高位魔法を使えない俺はハチになるエキストラユニークスキルで生き抜く 作:チャンドラ
「ウィンドカッター」
オリモカ先生が放つ風の刃が王の首を斬り裂いた。しかし、すぐに首は体にくっつく。
「いい魔法だな」
「そいつぁどーも」
「今度はこちらからいこうか。ブラストファイア」
「ウィンドバリア」
オリモカ先生は王の攻撃を風の障壁で防いだ。さらに、オリモカ先生は宙に浮かび、災害級の風の魔法を次々と放っていった。
俺はオリモカ先生から離れることにした。下手すれば巻き込まれてしまう。
「バラバラにしてやるよ王様。エクストリームハリケーン」
「ボルケーノプロミネンス」
天変地異のような暴風と灼熱がぶつかり合い、大地が大きく揺れ動く。
さすがの王も必死にオリモカ先生の魔法に抵抗していた。
――今の内に王の首を斬り落とせ。
オリモカ先生がテレパシーを使って、脳内に話しかけてきた。
「ヤヨイ、王の首を取れ!」
「任せれた!」
ヤヨイがすぐさま王の首を斬りに向かう。
「無駄だ!」
王の前に赤い魔法陣が発生し、そこから巨大なサラマンダーが現れた。
サラマンダーの身体全身は赤く、所々発火していた。奴は炎を吹き出し、ヤヨイの行く手を阻んだ。
「おのれ、これでは近づけぬ」
「ヤヨイ、ムラマサをこっちに寄越せ!」
ヤヨイが俺にムラマサを投げ渡してきた。ハチに変身し、ムラマサの柄を口で掴む。
そのまま、王の首を斬るべく飛行した。
何を思ったか、王は放っていた炎の最高位魔法を止め、オリモカ先生の魔法を生身で受けた。
王の身体はグチャグチャに切り裂かれ、無残な肉の塊と化した。
しかし、その肉の塊は意思を持っているかのように動き出し、その場から立ち去ろうとする。
野郎……逃げる気か。
――オリモカ先生、何とか王の動きを止めてください!
テレパシーを使って、ハチの姿のままオリモカ先生に話しかける。
「分かった! ウィンドリストレント」
風の束縛が肉の塊と化した王の動きを止める。俺は人間の姿に戻り、肉の塊を斬ってみたが、全くもって手応えはなかった。
「ダメだ……やはり、首を斬らなければ」
しかし、そこで‘ある作戦を思いついた。シャーリアに視線を送る。
「シャーリア、王族魔法で王を人型に戻せ!」
「分かったわ!」
シャーリアが肉の塊に手を近づける。王の時が巻き戻り、人の姿へと強制的に戻る。
「お、おのれ……スピリードエクスプロ」
「遅い」
俺はハチに変身し、奴の首に噛り付いた。最高位魔法は呪文を唱えなければ発動することができない。王は必死に炎の中位魔法を使って、俺のことを退けようとした。
一瞬でも力を緩めれば、不死の力によって喉を回復してしまうことだろう。
このまま、トドメを刺さす必要がある。テレパシーを使って、ヤヨイの脳内に語りかけた。
――ヤヨイ、俺ごと斬れ。
「む、ムゲン殿……しかし……」
――頼む。やってくれ。俺からの最後の願いだ。王を倒してくれ。
ヤヨイはムラマサを強く握りしめた。どうやら、覚悟は決まったようだ。
「ムゲン殿……小生はお主のこと、絶対に忘れないであるぞ!」
――俺もだヤヨイ。さぁ、思いっきりやれ!
次の瞬間、喉が焼けるような痛みを感じた。
「水転斬!」
王の首が吹っ飛ぶ光景が見えた。そして、視界はどんどんボヤけていく。
やった、やったんだ……俺は願いを叶えることができた。ありがとう最高の友よ。
「な、なんだここは……」
辺り一面に色とりどりの綺麗な花が咲き誇っており、少し先には透き通るような川が流れている。
なぜかは分からないが、川を渡らなければならない気がした。
そして、一度渡れば戻ってこれない、そんな気がした。
「渡るか……」
足を水につけようとした、その時であった。
「ムゲン」
亡くなったはずの祖父の声が聞こえてような気がした。ふと前を向くと、本当に祖父がいた。
「じいさん! 俺、やったよ。今、そっちに行くから……」
俺は再び足を水につけようとした。
「こっちには来るな!」
祖父が叫んだ。祖父ななぜか悲しそうな表情をしている。
「じいさん……どうして泣いているんだ?」
「すまなかったな。お前の行く末を最後まで見てやれなくて……」
「じいさん、俺……」
「ムゲン、お前は……ワシの自慢の孫だ。これからは自分の為に生きろ」
「ムゲン殿!」
「ヤヨイ……」
ヤヨイの顔が視界に映る。みんなが心配そうに俺のことを取り囲んでいた。
「よかった、ムゲン君……死んじゃったかと思ったよ」
「生きていて本当に良かったぞ、ムゲン」
オリモカ先生が優しく頭を撫でてきた。みんなに心配を掛けてしまったようだ。
「目を覚ましたばかりでこんなことを言うのも何だが、ムゲン。お前は早くこの街から出て行った方がいい。直にお前には王を拉致した犯人として指名手配されるだろう」
元よりそのくらいの覚悟は最初からしていた。復讐が終わったら、この街を離れるつもりであった。
「分かりました。どうか、お元気で。ヤヨイとシャーリアも……達者でな」
「待って、ムゲン君」
シャーリアは俺の肩に手を置くと、王族魔法で体力とアギを回復させてくれた。
「一緒に戦ってくれて、本当にありがとう!」
シャーリアは憑き物が落ちたかのように明るく振舞った。
彼女はとても強い女の子だ。心配することは何もないか。
「シャーリア! こちらこそ一緒に戦ってくれたこと、心から感謝する。いい王様になれよ」
「わ、私が王様に?」
「うん。シャーリアならやれるさ。この国を任せたぞ」
シャーリアならきっとこの国を良い方法へと導いてくれると信じている。一緒に戦ったからこそ分かる。
シャーリアはとても強く、優しい人間だ。立派な王様になるだろう。
「私……やってみる!」
シャーリアと握手を交わし、続けてオリモカ先生、最後にヤヨイと握手をした。
「それじゃ、またどこかで!」
軽く手を振り、三人とお別れした。しばらくの間、あてもなく雑木林を彷徨っていた。
「さてと……これからどうするかな」
復讐も終え、特にやることも無くなった。これからは自分の生きる目的を探したい。
「待たれよ」
誰かに呼び止められた。聞き覚えのある声。まさか……
「や、ヤヨイ……どうしてここに?」
なんと、声の主はヤヨイであった。
「ムゲン殿のことを追ってここまで来たのだ。これから一体どこに行くつもりであるか?」
「さぁ、別に決めてないよ」
「そうか。では、一緒にジャポニに向かわぬか?」
「……いいな、それ」
ヤヨイの提案に乗ることにした。一度、ジャポニには行ってみたいと思っていた。
「では、向かうとしよう。後、ムゲン殿……」
俺が「なんだ?」と聞く前にヤヨイが俺の頬に口付けしてきた。
「小生、ムゲン殿のことが好きである」
「奇遇だな、俺もだよ」
読者の皆さん、最後までお付き合いいただきありがとうございました。
次回作もご拝読いただければ幸いです。