……数日後。
風見市に戻った杏子の前に、それは現れた。
「……ウコー、キョウコー!」
見回せば前回と同じように、雲の合間からおっさんが顔を出していた。
「ほとけっ!……さまっ」
杏子なりにあの後、いろいろ考えた。
これっぽっちの神々しさもない鬱陶しいおっさんではあったが、結果的には大いに助けられた。
今度会うときには、それ相応の敬意を払わねばなるまい。それが筋ってもんだ。
「あれれー?」
そんな杏子の殊勝な素振りを、仏は顎に人差し指を当て、小首傾げて観察する。
「ちょっと見ない間に、すっかりいい子ちゃん?感心、かんしーん!」
下卑た高笑いとともに指を指されるとかもう、杏子のイライラ急上昇。
「あのね、今日はお願いがあるっていうかー、貸しを返してもらうっていうかさぁ」
仏は体をくねくねしだし、舌っ足らずな口調で話し出す。媚びた視線も含め、可愛いと思っているらしい。
「いやさ、私は全然悪くないのよ?ヨシヒコが勝手にドジふんでさ。でも、このままじゃあ世界大ピンチ!まいるよねーまったく!でもさー私が直接なんとかするとかは、ダメなわけ!仏的にさ!そこで、キミの出番なのよ!ちゃちゃっとヨシヒコ助けてやってくんない?ね、ね?ちょっとだけ!もう先っちょだけだから!プリーズ!」
合わせた手を擦りながら、懸命にまくし立てる仏を見て、杏子はため息一つ。
「いいよ。このまえの借りがあるからね」
「そんなこといわないでさー仏、一生のおねがい!……ん?ひとゴネもなしに快諾?まじまじ?うっわ!マジ感謝!ホトケ、カンゲキ!」
「そのきたないウインクをすぐやめろ」
しきりとウインクする仏に、杏子は顔をしかめる。
「あのね?年頃の女の子にそういうこといわれるとね、おじさん的にきっついんよ?やめたげて!きーっ!」
「いいから話をすすめろよ……」
取り出したハンカチを噛んでいた仏に、杏子の呆れた言葉が投げかけられた。
「ん?ああ、そう?そうね。じゃあ気を取り直してっと」
すかさず仏はノリを変える。
「じゃあとっととコッチに送っちゃうから、チャッチャとやっちゃって?チャッチャとさ。とう!」
仏が大きく手を振ると、杏子は閃光に目がくらみ一瞬の浮遊感を感じた……。
「お、おい。なんだここは……」
恐る恐る目を開けてみればそこは草原の真ん中で、見知った人物が並んでいた。
「はぇ?」
びっくりまなこをパチクリしているまどか。
「…………」
周囲を警戒している臨戦態勢のほむら。
「恭介ぇー……ぇ?」
おかしなポーズで固まっているさやか。
「全員集合!おー!」
仏の素っ頓狂な雄たけびが、風の音だけが聞こえる固まった空気をぶち壊し、さらにトドメと激しく拍手!
「えーっと。このさきにあるー洞窟みたいなところに……ヨシヒコが捕まっているーようだ……。ヨシヒコを助けたら任務達成!元の世界に戻してあげるからネー!ぐっどらっきゅ!む!カミマミタ!グッドラック!」
キメ顔でサムズアップした仏が薄くなって消えていった。
「えーっと、今の声が私を助けてくれたっていうホトケ様?」
さやかがつぶやいたのは、仏が消えてしばらくの後だった。
「う、うん……」
まどかが小さく頷く。
「そっか、そっか。よくわかんないけど、受けた恩はかえさなきゃね。よーし、がんばるぞ!」
さやかは、ぞいっと胸元でこぶしを握りしめる。
「うんうん!わたしも頑張っちゃうよ!」
そんなさやかに、まどかは笑いながら抱き着いた。
「おまえら、前向きだなぁ。……まぁ、借りは返さなきゃ気持ち悪いもんな」
やれやれと、杏子は頭の後ろを掻きつつ応じる。
「じゃあ、ちゃっちゃといくか」
「おー!」
さやかとまどか、二人がこぶしを上げて笑いながら元気な声を上げた!
もうすぐワルプルギスの夜がくるっていうのに、はやく帰らなくちゃ……。
そんな三人を見つつ、ほむらは内心の焦燥を抑えていたのだった。
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「えーっと、ここは……。私、どうして……?」
一面、ざわわと風に揺れる背の高い草原。その真ん中で巴マミは目を覚ました。
身を起こし、こめかみに手を添えつつ懸命に思い出そうとするが、答えはでてこなかった……。