「洞窟って、どこだよ……」
山道を歩いてずいぶん経った。傾きゆく日を感じると、今晩はどう過ごそうなどという不安もわいてくる。
野宿にゃあ馴れてるけれど、山の中は初めてだ。私はともかく、こいつら平気かな……。
チラリと観察しつつ、杏子は考える。さやかとほむらは魔法少女だ。体力的には問題ないだろう。だが……。
「まどか、大丈夫?休憩しよっか?」
「ううん、へいき……だよっ!先にすすも?」
さやかの問いかけに強がりを言っているが、肩で息をしてよろけているまどかは限界が近そうだ。無理もない。元から運動は得意なほうではないだろうし、魔法少女でもないのだ。
「ありがとう、さやかちゃん!さっき休憩したばかりだし、私は大丈夫だから!」
限界が近いくせに自分よりも相手に配慮し、無理をする。
まどかという少女の、美徳を過ぎた欠点だ。
「……鹿目まどか。わかっているでしょう?あなたの歩調に合わせていたら、日が暮れてしまうのよ」
「あ、うん……」
「ちょっと!まどかだって懸命に……」
ほむらはさやかの抗議を無視してまどかの前に立ち、くるりと後ろを向きしゃがむ。
「わたしが背負うから、大人しくのりなさい。いいわね?」
「うん……。ありがとう。ほむらちゃん」
おずおずと、まどかはほむらの背におぶわれた。
「ま、ふつうにいってもきかないタイプだしな。あれが正解じゃん?」
不服そうな顔のさやかに、杏子が肩をすくめた。
「さ、急ぎましょ」
まどかを背負ったほむらを先頭に、移動を開始するのだった。
*****
「とーうちゃくっと!」
さやかが一番乗りにはしゃぐ。
日が暮れるれるぎりぎりのところ。偶然みつけた細い山道を辿って、小さな村に着くことができたのだった。
「しっかし、ずいぶんチンケな村だな」
「ないよりましよ。今晩の宿を探しましょ。洞窟の情報も得られればいいのだけれど」
杏子とほむらも、ゆっくりと村に歩をすすめる。
「こんにちは!すみませーん!」
早速見かけた村人に、さやかは声を掛けた。
「ここはクゾンサの村だ。どうしたんだい?お嬢ちゃんたち」
一行に気付いた村人は、うさん臭いものを見る表情で答える。
「ここらへんにヨシヒコって人が捕まってる洞窟があるらしいんだけど、知りませんか?」
「……さて、わからないな」
粗末な着物を着た人相の悪い男は、無精ひげのあるあごを数回撫でまわした後、そう答えた。
「すみません。宿屋はどこですか?」
男の答えを聞いた途端、さやかは眉を寄せて黙り込む。ほむらは、そんなさやかに首を傾げつつ男に問いかけた。
「ここは街道から離れた山間の小さな村だ。宿屋なんてないな」
「そうですか……」
「旅人かい?泊まる場所がないんじゃ難儀だろう。空き家をつかうといい」
乏しい表情ながら困り顔のほむらに対し、男はボロ屋を指さすのだった。
******
「ぶえー」
さやかとまどかは、だらりと疲れを癒していた。空き家というだけあってかなり埃っぽく、野宿とどちらがマシかといった具合ではあったが、移動続きの彼女らにとって、一休みできる場所はなによりのものだった。
「それに食べ物もわけてくれるなんて親切なひとでよかったね!」
一休みして元気を取り戻したまどかが「うぇひひっ」と笑う。
「……そうね」
そんなまどかを眩しそうに見つめつつ、ほむらが頷いた。
「お前ら、その食べ物に手を出すんじゃないよ?」
「ええっ!」
突然信じられないことをいう杏子に、まどかは驚愕の視線をむける。
「佐倉杏子。あなた、独り占めにでもしたいの?」
「違うって!どう見たってなんか盛ってるにきまってるだろ?」
ほむらからの厳しい視線をうけてか、杏子は慌てて答えた。
「えっ!」
杏子の答えに、まどかは目を見開く。
「あの人相だよ?山賊そのまんまじゃないか」
「ひ、ひとを外見で判断するのは、よくないんじゃないかって……」
「わたしも杏子に賛成ー」
まどかの決死の反論を、さやかがのんびりさえぎる。
「あのひと、私達に嘘ついてた。なんとなくわかっちゃうんだよねー」
「さやかちゃんまで、そんなっ……!」
さやかはまどかの幼馴染。まどかは昔から、さやかの嘘に対するするどい勘を度々見せつけられていた。
さやかがそういうのならば、そうなのかもしれない……。
そうだったの?てっきりいいひとなのかと……!
衝撃を受けているまどかの横で、ループによる経験則以外には弱いほむらも、ひそかに動揺していた……。
ヨシヒコ要素……ゼロッ!
ラートム!