パソコンのある日常-Daily lives of there's a personal computer-   作:海色 桜斗

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皆さん、お待たせ致しました。今回から遂に夏休み編に突入でございます。
しかし、今回は今までの作風とは何やら様子が違うようです。さて、急遽の変更とも言えるこの仕様を前に、この作品はどのような展開を迎えていくのでしょうか。
本日の舞台はこの世界で大人気のVRMMORPGゲーム《スカイクラッド・オンライン》。初期構想を忘れ、今になって思い出したこの設定を使う挑戦が、果たしてこの1話で綺麗に納められるでしょうか。

それでは、VRMMOファイト、レディ・ゴー!!



Shift10「夏休み-休息編-」

「こうやって朝からログインするのは久しぶりだな・・・・・・」

 

時刻は午前8:30。何故、俺がこの時間帯にゲーム内に潜っていられるのか。その答えは、ずばり夏休みだからである。昨日に漸く、長かった1学期が終業式という名の集会を以って終わり、今日から楽しい夏休み。きっと世間では友達と何処かへ遊びに行ったり、大勢でわいわい燥ぐ様な毎日を送っている学生がほとんどだろう。

 

だが、俺は違う。何故なら、この後に控えている大事な目的の為に予算を確保しておく必要があり、外出しての散財を防がねばならないのだ。だからこそのVRMMORPG、なればこその《スカイクラッド・オンライン》なのである。

 

「誰でもいいからログインしてないかな」

 

俺はメニュー画面を開き、フレンドリストを表示した。因みに、このゲームでは誰かログインしているのであれば、此処に表記される名前の横に旗が立つシステムになってる。

 

「鳴島と修二と尚紀はログインしてるみたいだな。流石は廃人勢だ、面構えが違う」

 

まぁ、レベル帯で言えば、そんな奴らに付き合えてる時点で俺も紛れもなく廃人仕様なんですけどね。プレイヤーネームはFire、レベルは90、クラスはEXジョブの《二刀流》。装備も中々いいものが揃ってるんだけど、解説すると長くなるので止めておこう。

 

「さて、鳴島達でも呼ぼうかな」

 

そう思って、対象の3名にチャットで呼び出しを掛けようとした時、フレンド欄の一番最後の行に表記されている名前の横に旗が立ち、そのお方からフレンドコールを受けた。フレンドコール、というのは相互フレンド間で認可されている相手を呼び出す機能の事。機能的には、俺が先程打とうとしたチャットよりも格段に効率がいい(※なお、この先から既出ネームはカタカナ表記とする)。

 

「プレイヤーネームHibiki、って事は慧巳さんか」

 

そして、意外にも慧巳さんが近くにいることが分かり、俺はその場所まで移動することにした。

 

「――あっ、ファイア君、おはよう」

 

「おはようさん、この時間帯からアクセスしてるのは珍しいですね」

 

タウンショップがずらりと並ぶ中央広場のところに、彼女はいた。近くに彼女とパーティを組んでるプレイヤーがいるけど誰だ?まぁ、今のところは触れないでおこう。

 

「あはは、実はこの子に呼び出されちゃって」

 

「フフフ、ゲーム内では初めてだね、青年よ」

 

「は、はぁ・・・・・・初めまして」

 

如何やら、慧巳さんは現在一緒にパーティを組んでいるプレイヤーに呼び出されたようだ。にしてもこのプレイヤー、大分胡散臭い喋り方をする。ロールでもしてるのか?

 

「普段から顔合わせてるはずだから、ファイア君だったら分かるはずだよ」

 

「いや、全然分からん」

 

「ゲーム内でのリアルネーム発言は厳禁だからね。口調で察しておくれよ、青年」

 

と、言われましても。俺が現実であったことがある人で、普段からこういう口調で話す人と言えば・・・・・・あぁ、そうだ。一人だけ凄い心当たりがあった。慧巳さんと一緒ってところがネックだな。

 

「あー、大体理解しました。Kotoriさん」

 

「理解が早くて助かるよ、青年」

 

「せめてプレイヤーネームで呼んで下さいな」

 

「うんにゃ、私的にはこの呼び方が気に入ったんだぁよ♪」

 

流石は優海さん、ネトゲ世界でも自由な人だ。しかし、この二人、どちらも魔法系だな。パーティ組むんならあと一人くらい前衛が欲しい所だ、またはタンク役。

 

『如何やら、俺の力が必要のようだな』

 

そんな事を思っていたら、チャット欄に一通のチャットが入る。名前はKaruma。成程、龍か。

 

「なぁ、二人共。これからカルマが来るみたいなんだが、合流しないか」

 

「カルマって・・・・・・あっ、うん、いいよ」

 

「アバターの姿見たらきっと一発で分かる奴だね、これは」

 

女性陣二人も当然の如く、心当たりがあったようだ。そりゃあそうだ、知り合いの中でこの名前を使うのはもう龍の奴しかいないからなぁ。

 

その場で待つこと数分後、黒のテンガロンハットとコートを装備したプレイヤーが現れた。カルマだ。

 

「ファイアにヒビキ、そしてコトリか。成程、初見の彼女に関しては大体察したぞ」

「流石はカルマさん、超速理解助かるよぉ」

 

「おはよう、カルマ君」

 

よもやこのゲーム内にパソコン部員全員が集結することになろうとは。やはり、皆例の予定に合わせてあまり出費しないようにしているんだな。女性陣は違うと思うけど。

 

「それで、今日集まった理由は何なのだ?」

 

「ふっふっふ、実はヒビちゃんが前々からなりたかったEXジョブ《巫女》の習得クエストを是非手伝ってもらいたいと思ってねぇ」

 

「成程、ついにその境地に挑むか。その先は地獄だぞ」

 

「それは分かってるけど、でも、どうしても習得したいの。お願い!」

 

EXジョブ《巫女》。今年に入ってから実装された新しい特殊上級クラスで、そのクエストの難度も相まって中々取得しようと目指す人は少ない。しかし、そんな野郎共のみでは考えなかった未踏のクエストに挑めるのは正直ワクワクする。カルマも顔をニヤリとさせていた。

 

「ファイアも異議がないようだな。では、本日のパソコン部の活動内容はヒビキ嬢のEXジョブ取得任務とする・・・・・・だらだらプレイしているパソコン部員諸君、全員集合!」

 

声高らかに、龍が自身が創設したギルド《ディスティニーブレイカーズ》のメニュー欄から、ギルドメンバーコールをタップする。あ、因みにさっきのフレンドコールのギルドメンバー全員に届く版ね。

 

『おぉ、何か珍しくカルマ氏からお誘いが来たお。何かあったん?』

 

『態々ギルメン全員に呼び出しとか、余程面白いクエストなんだろうな?』

 

『今日の俺は紳士的だ・・・・・・すぐに行くぜぇ』

 

コールを発した後、すぐにログイン済みだった例の3名から次々とチャットが跳んできて、そのままこの場に続々と転移してきた。

 

「カルマ氏の何やら楽しそうな雰囲気につられて、ってそこにいるのはヒビキ氏ですな」

 

灰色のフード付きマントのフードを、頭からすっぽりと被った不気味な出で立ちのプレイヤーが口を開く。プレイヤーネームCoffin。大体察せたと思うが、奴は鳴島が使うプレイヤーキャラだ。

 

「ったく・・・・・・既に周回済みのクエだったら承知しねぇぞ」

 

そんな悪態をつきながら現れた、先々月辺りにコラボしていた『ブレイズブルー』のラグナ装備一式で身を固めたプレイヤーが後に続く。プレイヤーネームRaguna。コイツは修二のキャラだ。

 

「クエストを制す者は英雄を制す・・・・・・俺、参上!」

 

全身青タイツに大斧を担いだ灰色い長髪の、容姿とキャラが全然かみ合っていないプレイヤーが最期に姿を現す。プレイヤーネームBarbatos。言わずもがな、尚紀のキャラだ。

 

「それで、ヒビキ氏と既にパーティ組んでるコトリ氏ってのは、誰ぞ?」

 

「敢えて言おうか、パソ部の高級サーバーマッスーン」

 

「おk、把握した。じゃあ、次に要件を伺うお」

 

コフィンがカルマに要件を聞き始めると、他二名も続いて近くで聞き耳を立てる。ま、恐らく全員が異議なしとは思うが。だってコイツ等廃人だもの。

 

「ふむ、そういう事なら即答おkですお。情報屋としてもいい加減情報掴みたかったしな」

 

「へぇ、未踏のクエと聞いたらやりたくなってきたな。いっちょ、やってやろうぜ!」

 

「へへっ、血が滾るぜぇ・・・・・・!」

 

と、言うわけで3人がやる気になったのを確認して、全員とパーティを組んでからクエストに挑むのであった。

 

 

「ほうほう、やはり巫女と言うだけあって、フィールドは神社な訳ですな」

 

「では、戦闘時の配置は前衛職の俺とファイア、ラグナとバルバトスに分かれて、それぞれ前・後方に。コフィンはその間で中距離から敵の廃掃を。ヒビキとコトリは中央部で術行使して援護してくれ」

 

「「「「「「了解!!」」」」」」

 

一応、レベル帯が高い俺達は、少しばかり低いレベル帯の術師の二人のレベル上げも兼ねて、周辺の雑魚敵を一掃しながら、クエストを進めていくことにした。

 

「接敵した、作戦通りに行くぜ!」

 

「喰らいやがれッ、紅蓮崩牙!!」

 

「爆ぜよ豪炎、全てを飲み込み灰塵と化せ。エクスプロート!」

 

エンカウントした雑魚敵を相手に、修二が後方から迫る敵を範囲技で薙ぎ払う。その奥にいた術を使うエネミー群も、優海さんの放った火属性の上級魔法で一気に消し飛んだ。

 

「援護します、エンハンス・シフタ!」

 

「ぶっ飛べ、双翼・華月!!」

 

「その身に刻め、烈風次元斬!」

 

慧巳さんの援護で俺と龍のステータスにバフが盛られ、より強烈な一撃となった技が炸裂する。俺の双剣が華麗な一閃を描き、続いて龍の刀が周囲に複数の弧を描く。

 

「フ、久しぶりの大人数での戦闘は心が躍るのだぜ」

 

「あぁ、精々楽しめよコフィン。今日は間違いなく、攻略し甲斐がありそうだからよっ!」

 

目の前の敵を薙ぎ倒しながら、背中合わせで戦う俺と鳴島。今流行りの異世界転生とかではないけれど、仮想現実の中でしか体験できないこの感覚は、何年やっても飽きることはない。現役中二病なら猶更だ。

 

「増援も来たみたい・・・・・・お願い、ファイア君!」

 

「任せとけ、ヒビキさんとコトリさんは、引き続きサポート頼んだ!」

 

「此方も任されたのだよ、ファイア君」

 

二人のいる中央付近に湧いて出た敵の存在を確認すると、俺は鳴島と前衛中衛を交代し、すぐに援護へ向かう。合流した二人の手厚いサポートを受け、周囲の敵を葬っていく。

 

「あんまり無茶はすんなよ、俺が半分貰い受けるぜ!」

 

「助かった、バルバトス。お前も頑丈さを過信してやられるんじゃねぇぞ!」

 

更に敵の反応が増えた時、尚紀が自身にヘイトを集めて、俺に狙いをつけていた敵の半数を自身のいる後衛エリアへと誘いこむ。流石はネトゲ廃人級の強さを持つだけある、斯く言う俺も大して変わりないわけだけどな。

 

 

フロア毎にいるエネミーを拾いこぼすことなく殲滅しながら、階層を進んでいく俺達。そのまま、それと無く踏破していく事、小一時間程。エリアも漸く終盤に差し掛かったようで、エネミーの強さも一際強くなってきた。

 

「ファイア君達のお陰で私達も大分強くなってきたみたい、ありがとう」

 

「フ、礼を言うにはまだ早いぜ、ヒビキ氏。その言葉はボス撃破後に取って置くんだぜ」

 

「いよっ、流石はコフィン君、ゲーマーの鏡だねぇ」

 

「真の廃ゲーマーの素質は、常に楽しむことを忘れない心にこそ宿るのだぜ?」

 

美少女二人に囲まれて、若干テンションが上がっている鳴島。現実世界でこの二人に囲まれても何も思わないのだろうが、ゲーム内であれば話は別だ。彼女たちが作り上げた、最高に可愛いエディットキャラのデザインをガン見し、思い切り堪能している。

 

「へっ、久々にログインしたから実力が落ちたんじゃねぇか、カルマ」

 

「何、元々お前のようなネトゲ廃人には敵わん事に変わりなかったよ、ラグナ」

 

その後方では、龍と修二が互いを煽りあって何やらバチバチとしていた。うーん、此れはいつも通りの展開。この後、修二だけがヒートアップして、冷静さを保った龍に悉く躱されるのだろう。哀れな。

 

「そう言えば、ファイヤさんや。ログインする前にちーちゃんの事、誘わなかったのかい?」

 

「いや、それが、コミケ後のプールで着る水着を選びに行くみたいでさ」

 

「ほほぅ、確かにそれは大事だねぇ。一緒に行かなかったのかい?」

 

「行く気はなかったんスけど、昨日の夜に本人から来るな、とお達しがあったもので猶更」

 

優海さんが口にした「ちーちゃん」とは、俺の幼馴染みの川知智佳の事である。アイツは今頃、鈴と美月先輩の軽音楽部メンバーで集まって新しい水着を買いに行く為、待ち合わせ場所に向かっている所だろう・・・・・・別に、一緒に行きたかったわけではない。

 

 

一方、現実世界では――

 

「へっ、くしゅん・・・・・・!」

 

「おぉ~、どうした、ちー」

 

「・・・・・・ん、分かんないけど、誰かが私の噂してるのかも」

 

「成程、それはもしかしなくても向坂だね、きっと」

 

ちょうど電車に乗り合わせた智佳と鈴が、仮想現実で噂されていることに感づいていた。因みに、今は美月の住んでいる場所の最寄り駅に向かっている所である。

 

「ちょっと、何でそこで祐都が出てくるのよ」

 

「いや、だって、ちーが連絡したことで今日の私たちの予定知ってるの、私たち以外で向坂だけじゃんか。まぁ、余計かどうかは置いておくとして、ね」

 

「明日ゲームやろう、って昨日メールで誘われてたんだから、しょうがないじゃない」

 

「へぇ、それってもしかして《スカイクラッド・オンライン》の事かな。あちゃー、そっちに行けばよかったかぁ~」

 

祐都が今話題のVRMMOをプレイしている事を聞いて、大袈裟にショックを受けたリアクションを取る鈴。同じ電車に乗っている数名が、何事か、と鈴の方を向いて気にする素振りを見せる。しかし、智佳にとっては、長年一緒にいるこの友人のオーバーリアクションは見慣れたものであった為、特に動じることはなかった。

 

「まぁ、いっか。今日はちーと向坂が仲直りしてからずっとご無沙汰だった、久しぶりの女子会みたいなもんだしね。同性同士、仲良くしようぜぇ~、ちー」

 

「ちょっと、止めてよ。気持ち悪いわね」

 

「冷たいこと言うなよー、親友だろ~?」

 

そして、いつもの如く鈴にウザ絡みされる智佳。極めて冷静に毒を吐きつつ、智佳も久々ともいえる女性同士の語らいの場を心の底から楽しんでいたのだった。

 

 

――そして、場所は戻り、仮想現実内にて。

 

「コトリさんはもう買ったんですか、新しい奴?」

 

「フフ、気になるかね、青年」

 

「そりゃあ、まぁ。気にならないかと言えば、嘘になりますね」

 

「ん、君のそういう素直なところは嫌いじゃないなぁ。特別に教えて進ぜよう」

 

失礼かな、と思いつつも優海さんにその話を振ると、彼女は割とノリノリで教えてくれた。如何やら水着の方は、既に昨日の時点で慧巳さんと共に選んできたらしい。流石はリア充サイド、行動力の化身だ。

 

「ところでそう言う君は、買ってあるのかね?」

 

「俺は、去年買った奴でいいかなと思って今年は買ってないっスね」

 

「ふむふむ。しかし、それで良いのかな、青年よ」

 

優海さんが何か言いたげな表情で此方を見ているが、俺にはその意味がよく分からなかった。一方、話を振られた男子達は一様に口を揃えてこう言った。

 

「「「「買ってない(ぜ) (お) (な)」」」」

 

「・・・・・・君等、本当に今を生きる男子諸君かね?」

 

予想通り、漏れなく男子全員が滅法疎かったようだ。まぁ、今でこそ女子部員兼リア充サイドのお二人が加入したとはいえ、非リア充共の塊が集まる巣窟みたいなところだったからね、パソコン部は。

 

「別に、気を抜かなければそんなに体系変化することもないしな」

 

「引き籠りだからと言って部屋の中で何もしていない訳ではないのだぜ」

 

「俺様は特に気にする必要はないぜぇ、何たってパーフェクトボディだからな!」

 

「お前はもう少し痩せておけ、その内相手にされなくなるかも知れんぞ?」

 

「うっ・・・・・・そ、そうかな。よぉし、じゃあ頑張ってみるぜぇ!」

 

そして、男性陣が一斉に買ってない理由を求められてもいないのに話し出す。意外にも運動部経験者が多いこの部の男性陣は、陰ながらの努力を怠っていないようだ。尚紀以外は。

 

「そっかぁ。いいねぇ、男子諸君は。女の子は少しでも気を抜くとすぐ変わっちゃうから。こことか」

 

そう言って、優海さんが自キャラの胸元を指さすと、その場の男性陣全員の注目がそこの一箇所に集まる。うーん、やっぱり、性には抗えないよ、仕方ないね。

 

「おっと、君等には刺激が強すぎたかな?」

 

「へっ、残念だが、御姉様と比べたら大した事な・・・・・・」

 

「尚紀、それ以上はいけない」

 

優実さんの煽り文句に反論する形で尚紀が発言しようとした言葉を、俺は慌てて遮った。テメェ、幾ら美月先輩に心酔してるからって、言い方ってもう少し考えられんのか、大馬鹿野郎め。

 

「成程、成程。確かにその通りだぁね、君の考えが良く分かったよ」

 

あ、駄目だ、遅かった。優海さんにはその発言が最後まで聞き取れずとも、何を言おうとしたかは察せたらしく、尚紀ににっこりと笑みを向ける。勿論、その目は決して笑っていない。

 

「あ、あれ?俺様、何か悪い事しました?」

 

肝心の当人は、そんな異世界転生系に登場する、典型的な主人公のような台詞を宣っていた。

 

「おいおいおい。アイツ、死んだわwww」

 

「ふむ、スマホ太郎ですか・・・・・・死んだわ、アイツwww」

 

「まるで将棋だな」

 

俺と鳴島と修二はそれを見て、適当な話を交わして、最初から奴とは他人だったが如く明後日の方向を向いて知らないふりをする。だが、次の瞬間、奴は何を思ったか盛大に開き直った。

 

「フ、だが、どうするよ、コトリィ!俺様はレベル90の戦士で、お前はレベル70の魔法少女!PVPを仕掛けたとしても圧倒的に俺様が有利なんだぜ!?」

 

因みに、PVPとはプレイヤー間で行われる対戦バトルの事を指す。いや、待て、尚紀よ。問題はそこじゃない。

 

「甘いね、青年よ。PVP以外で君を屠る方法もあるのだよ、ポチッとな」

 

そう発言した優海さんが手元に表示して押したのは、通報ボタンであった。この機能はゲーム内での犯罪行為や各種ハラスメントに引っかかる行為・言動をした悪質なユーザーを強制ログアウト・垢BANさせることのできる機能だ。公式が情報を掴んだ場合に限り、その場で強制ログアウトの刑に処され、後に過去の行いや発言を調査されて、最悪アカウント凍結・停止に追い込まれたりする。

 

「は?ちょ、待っ――」

 

反論しようとした尚紀であったが、その抵抗空しく、捜査の手が早いと定評のある公式から一時的な強制ログアウトの刑を喰らい、その姿が一瞬で掻き消えた。今頃、ベッドの上で咽び泣いている事だろう。とは言え、今回ばかりは本人に悪気はなかったはずなので後で慰めに行ってやるとするか。

 

「ささ、先に進もうか、皆の衆」

 

「あ、あはは・・・・・・じゃあ、この後もよろしくね、皆」

 

「そうだな。後衛兼ヘイト役がいなくなってしまったが、まぁ、何とかなるだろう」

 

「フフ、バルバトスが死んだか。しかし、奴は我等廃人四天王の中で最弱・・・・・・!」

 

「廃人四天王って誰の事だよ、誰の」

 

怒れる優海さんを筆頭に、俺達は最終フロアを目指した。触らぬ神に祟りなし、くわばらくわばら。

 

 

そして、遂にクエストの目的地である最終フロアへと到達。奥にはフロアボスらしき巨大な影が俺達プレイヤーを待ち受けていた。すると、鳴島はそのボスの姿を見るなり、叫ぶ。

 

「おおおおっ、アイツは!」

 

「何だ、コフィン。見たことあるのか?」

 

「え、おまい覚えてねーのかよ。アイツだぜ、βテスト時の50層の階層ボスで、本仕様で別のボスモンスターになってたからリストラされたって一時期話題になってた奴だお」

 

「話題って・・・・・・あぁ、アイツか、思い出した!」

 

最初はピンと来なかったが、鳴島の説明を聞いて、俺の脳内に電流が走る。そうだ、アイツは!

 

ブレイドサーベル・ナイト。《スカイクラッド・オンライン》のβテスト時に第50層の階層ボスとして実装されていた巨大な騎士型モンスター。特徴的な深紅の鎧を纏ったその姿に、胸を打たれたプレイヤーが少なからずいた。同時に、奴の繰り出す容赦のない攻撃に戦慄したプレイヤーも少なくない。必殺技は、手に持つ漆黒の魔剣から放たれる、ブラッディ・エンハンスだ!

 

「今の俺達にも打ってつけの相手、という事か。《ディスティニーブレイカーズ》、行くぞ!」

 

「「「応よっ!」」」

 

「「どんどん援護するよ!」」

 

本階層から追放され、フロアボスとなり果てた奴と遂に決戦の時を迎えた。あの時のボコボコにしてくれた礼、今たっぷりと返してやるぜ!!

 

『■■■■■■■■■■ーッ!』

 

「うぉぉぉぉぉぉぉぉっ、ディバイド・パリング!」

 

最初に、修二が奴の正面まで突っ走り、振り下ろした漆黒の魔剣の一撃を受け流し、弾き飛ばす。敵はその勢いに押されて一瞬、足元がふらつく。今だ!

 

「皆、気を付けてね。デバンド・ウォール!」

 

「あの時の俺等と一緒だと思うなよ?クロス・エスパーダ!」

 

慧巳さんの援護でメンバー全員の防御力にバフが乗り、コフィンの目にも止まらぬ斬撃で敵のHPがガリガリと順調に削られていく。

 

『■■■■■■■■■■■■■■ァァァ!!』

 

突如、奴の咆哮が響き渡り、超近接距離で粘って攻撃を続けていた鳴島が吹き飛ばされる。あの距離だと流石に《暗殺者》のジョブの防御力だと耐えきれない。どうする?

 

「俺は生憎βテスターではなかったものでな、お前とは初めてやり合うことになるか。此処でお前の強さを噂通りか確かめてみるのも一興だな。覚悟しろ、シグマ・エリュシオン!」

 

「聖槍よ、全てを穿ち、地を這う愚者に救いの裁きを・・・・・・セイクリッドランス!」

 

鳴島を守るように奴の前に立ち塞がった龍が刻印刀を振るい、その後ろから詠唱を完了した優海さんによって、槍の形をした八つの光が、奴の身体を深く貫いた。

 

『■■■■■■■■■■ォォォ・・・・・・!!』

 

「ぐっ、しまった・・・・・・!」

 

しかし、すぐに反撃に出た奴の攻撃で龍がスタンしてしまう。それを隙と見た奴は行動できないのをいい事に、標的を龍に絞り、斬撃を繰り出す。

 

「させるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」

 

何発か攻撃を直に喰らった龍のHPバーが赤く染まり、奴が止めの一撃とばかりに剣を振り下ろす。しかし、その攻撃は敏捷を最大強化した俺の乱入により失敗に終わる。

 

「すまない、助かった・・・・・・!」

 

「いいって事よ。コフィン、今すぐポーションでカルマの回復を頼む。ヒビキさんは俺にバフを全開で盛ってくれ、コトリさんは引き続き上級魔法連打!ラグナ、もう一回パリング頼む、アレを使う!」

 

「「「「了解!!」」」」

 

やはり、あの時と同じで一筋縄ではいかない相手ってわけか。なら、あの時は居なかった援護要員のバフ全部乗せで俺の《双剣》スキルで最大級の威力の技を叩き込むしかない。

 

「行くよ、ファイア君!シフデバライド、アドミスト・フォール、バイタル・ネウスト!」

 

「よし、こっちの準備は終わったな。頼むぜ、皆」

 

「さぁ、とっておきの披露、行ってみようか。最大展開、フローレス・エンハーレ!!」

 

慧巳さんの援護魔法の上乗せでステータスが一時的に限界値まで強化され、優海さんの放った無数の光の刃が雨霰の様に奴に向かって飛んでいく。

 

『■■■■■■■■■■■■■■■■■ッッッ!!』

 

「来たぞ、奴のスキルのブラッディ・エンハンスだ!」

 

「待ってたぜ、この瞬間をよォ・・・・・・!喰らいやがれ、ディバイドエンド・パリング!」

 

『■■■■■■■■■■ッ!?』

 

奴の漆黒の魔剣が赤く光り輝き、必殺の一撃を放とうとする。俺の合図を受けた修二は、その一撃を受け止め、見事、弾き飛ばすことに成功する。奴の身体がその衝撃で思い切り吹き飛ぶ。今だ!

 

「喰らえ、紅の三十二連撃・・・・・・スカーレットバースト・イクリプス!!

 

刹那、奴の身体に俺が振るう二振りの剣から織りなされる、怒涛の三十二連撃が、赤い剣閃を描きながら一撃、更に一撃と叩き込まれていく。

 

『■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ォォッ!?』

 

当然、奴も棒立ちのままでなく此方に反撃の刃を何発か繰り出してくる。徐々にHPが削られていくが問題ない。この技を発動出来てればこっちのもの、後は粘り勝つだけだ!!

 

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」

 

「二十九、三十、三十一・・・・・・これで、止めだぁぁぁぁぁッ!!」

 

『■■■■■■■■■■■■■■ァァァ・・・・・・!』

 

最後の一撃が奴の胴体に叩き込まれた瞬間、奴のHPが0になり、断末魔を上げて砕け散る。そして、空中にQuest Clear!!の文字が浮かび上がり、その場にいた全員が勝利に打ち震えた。

 

「「いよっしゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」」

 

「やった、やったよ、ヒビキちゃん!これで念願の《巫女》クラスにジョブチェンジ出来るね!」

 

「う、うん!本当に、本当に良かった・・・・・・!」

 

「フフフ、まさかこのクエストのフロアボスがβテストの時に一番人気があったモンスターだったとは。コイツは帰って攻略サイトにまとめれば、閲覧数更に増加間違いなし・・・・・・これで勝つる!」

 

「これで我がギルド《ディスティニーブレイカーズ》の活動も忙しくなる、か。受けて立とう」

 

こうして、一同は見事、EXクラス《巫女》の習得クエストを制覇したのであった。しかし、彼らは気付かなかった。そんな勝利に沸き立つ自分達を、陰から見守る一人のPCの存在がいる事を。

 

「ふふふ、やっぱり楽しそうだな。あのギルドは」

 

「私も、今のギルド抜けて、あそこに入っちゃおうかな」

 

華麗にたなびく栗色の髪、紺色のセーラー服に身を包み、腰には一本の刀がぶら下がっている。()()()()()()気の向くままに生きる彼女は、ふと、そんな事を呟いた。

 

「ん・・・・・・?」

 

「おい、どうした、ファイア。帰投するぞ」

 

「あぁ、悪い。何か、あそこの陰に誰かいた気がしてさ」

 

タウンに帰投する前に、俺は奥の柱に気配を感じて視線を向ける。しかし、そこには誰も居なかった。俺の気のせいかな・・・・・・。

 

「えぇ、何それ怖い。まさか、心霊スポットにもなるん、このマップ?」

 

「んな訳ねーだろ、アニメじゃあるまいし。とっとと行くぞー」

 

鳴島が適当に話を茶化して乗ってきたが、そんなわけないかと思って、俺はその場から視線を外す。結局、先程感じた視線というか気配みたいなものの正体を掴むことが出来ず、俺達はそのままタウンへ引き返したのだった。

 

 

「いやぁ、終わった、終わった・・・・・・あれ、この話、続くの!?」

 

 

                                                                   Shift10 To be continued... 

 

 

Next Shift...

 

遂に夏も本気を出してきて、待ちに待ったコミケの時間だ!襲来するオタクの波、噂通りの超満員の人口密度、そして色々楽しませるのが上手いスタッフの方々。会場全体の雰囲気が景観と比べて物々しく感じないのもここに理由があった訳か、納得だね。お楽しみのプールの前の前哨戦、無事乗り越えてやろうじゃないの。次回、パソコンのある日常第11話「コミケ夏の陣、そしてミーミルの泉へ-戦場の絆編-」。次回は満を持して、あの人の登場だ。楽しみにしててくれよな!




予定より少し遅れました、すみません。

そして、今度は前書きを謎の人物に奪われてしまったようです。



突然ですが、本日の19:00頃、異世界オルガ系で新しい作品上げたいと思います。


鉄血のオルフェンズ5周年に合わせて企画した特別作品、ご期待ください。
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