パソコンのある日常-Daily lives of there's a personal computer- 作:海色 桜斗
いよぅ、妄想してるかい?お楽しみは後に取って置こうよ。
今回はお待ちかね、コミケとお風呂のお話だぃ。お母さんには内緒だよぉ~?
んじゃ、お先にひとっぷろ頂くぜぃ!!
――む、来たようだな。相変わらず熱心で此方も助かっている。
さて、今回はオタクの祭典と呼ばれる「コミケ」、通称「コミックマーケット」が舞台の話だ。
今ではニュースにも取り上げられる程、常識と化したこのイベントの起源は、遡る事1939年。アメリカのニューヨークで行われたワールドコンという行事がそれに当たる。最も、今のような漫画やSFを題材とした同人誌なるものが売り出されたのは1960年代になってからだったが。
そして、我が国である日本で初めて開催されたのが、1975年12月21日。
成程、初回からもう既に50年経っていることになるわけか。そう考えると中々感慨深いものがあるな。
今でこそ当たり前となっているものも、こうして歴史を振り返ってみると興味深いものが多数ある。諸君も同じく同胞で興味を持ったというならいろいろと調べてみるのも面白いだろう。
本日の講座はここまでだ。我がパソコン部は絶賛部員募集中だ、次回も来てくれると助かる。
では、本編を楽しんでくれ。・・・・・・何、作者は行ったことがあるのか、だと?
フ・・・・・・残念ながら、作者はまだ一回も行けたことがないそうだ。田舎の民の、辛い現実だな。
「はふぅ・・・・・・ねみぃ」
時刻は現在午前4時半。集合場所である秋田駅に予定時間より30分前についた俺はベンチに座りながら欠伸をしていた。一応、昨日は早めに寝たがそれでも時刻が時刻だ。眠いのは当たり前である。辺りに霧が立ち込める無人の空間。WAO、何てファンタジック・・・・・・馬鹿野郎。
「オタクの朝は早い、キリッ!」
「早朝から元気だな、鳴島よ」
「モーニングコーヒーの力は偉大だお。おまいも飲んで来ればいいんじゃね?」
「おー、そうさせてもらうわ~」
こんな早朝から颯爽と登場した鳴島の言う事に従い、近くのコンビニでコーヒーを買い求めに行く俺。しかし、俺がそこで手に取ったのはコーヒーではなくエナジードリンクだった。会計を素早く済ませ、再び元の待機場所に戻ると蓋を開け、口の中に思い切り流し込んだ。
「だっはー、うめぇ!」
「エナジー中毒者、乙」
途端に口の中に広がる爽快感で、先程までの睡魔が木っ端微塵に吹き飛んだ!その様子を見て鳴島はそんな悪態をつきながら、呆れた表情で俺を見ていた。
「るせー、お前だって徹夜でオンラインやりこんでる時に飲んでるだろうが」
「確かにそうだが、おまいほど常連じゃねーし」
「じゃあ、来るときに何のコーヒー飲んだんだよ?」
「んー、ドクトルペッパー」
「エナジーじゃねぇか!」
エナジーのお陰で通常テンションに戻った俺の、強烈な突込みが無人の秋田駅周辺に木霊する。モーニングコーヒーとは何だったのか。
「朝から元気ね、アンタ達・・・・・・」
「おー、これは川知氏。おっはー」
「おっはー、智佳」
「随分古い挨拶使うわね・・・・・・」
と、そこに智佳がちょっと眠そうにしつつも、いつものきりっとした顔つきで現れる。若干引いてるっぽいけど、知ってる時点でお前も同類だぞ。
「川知氏もモーニングコーヒー一杯やってきたらどう?」
「そうね、そうさせてもらうわ・・・・・・はふぅ」
「パーリー、ミーキー!」
「何よ、それ」
俺のボケを冷静に処理して、近くのコンビニへ向かっていく智佳。うーん、何となくこの後の展開読めたけどまさかな。だってあの智佳だぜ、趣味範囲外でそこまでノリ良くねぇもの。絶対ないね。
「因みに、やると思う、川知氏?」
「やらないに100円」
「じゃあ、漏れはやるに200円」
「強気だな、後悔しても知らんぞ」
「フ、奇跡の逆転劇を見せてやるぜ」
そんな下らない賭けをして鳴島と二人で智佳が戻ってくるのを待っていると、一台の送迎用バスが俺達の目の前で止まった。はい、何ですと?
「おーい、君達。集合時間よりちょっと早いけど、お待たせ」
「ま、取り敢えず乗っとけよ。因みにこれ、俺の兄貴が手配した奴だからな」
と、一番前の席の窓を開けて身を乗り出してきたのは、美月先輩と尚紀だった。確かに車体にでっかくNISIJOU EXPRESSの文字が刻まれている。大丈夫なの、これ。ていうか、尚紀、美月先輩の隣に座って彼氏面すんな、腹立つ。
「すげぇ、本格的すぎだろ、常考」
「お世話になりまーす・・・・・・」
俺と鳴島が恐る恐るバスの中に乗り込むと、急に聞き覚えのある声で車内アナウンスが流れ始めた。
『驚いたか?お前たちの東京での初ミッション、作戦名は、コミケ・バスターズだ』
「恭介さん!?」
「何やってんだよ、(前)部長氏~」
俺と鳴島が驚きの声を上げるとカーテンでシャットアウトされた運転席からパソコン部の前部長、篠崎恭介さんが現れた。かつてのパソコン部の黄金時代を作り上げた人物で龍の兄にあたる人物。卒業後は大手焼き肉チェーン店「新緑の園」で働きながら、休日になれば何処かにふらっと出かけて色々な伝説を作りに行く、天才で変人な方だ。
「俺の弟から話は聞いた。だからこそ、俺がこの旅でお前らの送迎担当となる事で、戦地へと赴くお前たちのサポートが出来ると思い、立候補したまでだ」
そう言って、腕組みしながら、片方の手の親指をぐっと立て流れるようにサムズアップを決める恭介さん。流石、恭介さん。やることが違げぇや、そこに痺れる憧れるゥ~!
「何か、私の知らない間に豪華な感じになってるじゃない」
「おおぅ、川知氏。丁度いいタイミングですお、そして川知氏は何をッ!?」
コンビニから戻ってきて智佳がバスに乗り込んできたと共に俺と鳴島は智佳が今口にしている飲料の正体を確かめる為、そのパッケージを確認する。それは――
『MON☆STAR ウルトラカリブ』
「「エナジーじゃねぇか!!」」
俺と鳴島の盛大な突込みが、バス内部に響き渡る。そして、俺は100円を失った。
それから10分後、参加者全員が集まり、割と早い段階で俺達を乗せたバスが秋田駅を出発する。総勢12名+送迎員1名の計13名で出かけるちょっとした団体旅行となっていた。
「まさかバスが来るなんて思わなかったよ」
「おや、何かこの座席だけマッサージ機能が付いてるよ?」
「いやー、バスなら販売分の特典積むスペースに困らないね。最高ー♪」
「どんだけ持ってきたのよ、特典・・・・・・」
「普通バスの中には付いてねーだろ三銃士を搭載してきたぜ」
「「普通バスの中には付いてねーだろ三銃士!?」」
「大勢で集まって何かするというのはやっぱり楽しいものだなぁ」
「何か、修学旅行みたいでワクワクするね」
「あっ、私もそう思いました!楽しみですね、先輩!」
「ううっ・・・・・・バスの中でゲームしてたら酔ってきた、クソがぁ・・・・・・!」
「それは自業自得過ぎだろ、常考。ワロリンヌ」
流石に総勢12名ともあって、バスの中の会話も色々交じり合って色々カオスに。全員が全員、和気あいあいとしていると、突然バスの中に盛大な音楽が響き渡り、恭介さんの声がアナウンスで響く。
『お楽しみトークもいいが、このバスには色々機能が備わっている。試しに車内カラオケで盛り上がってみようか!』
「「「「「「「「「「「「いぇーーーーい!!」」」」」」」」」」」」
こうして、恭介さんの粋な計らいによって突如開催された車内カラオケ大会は、バスがコミケ会場の東京ビックサイトに着くまで大いに盛り上りを見せた。尚、その時の俺達の様子はというと――
「よし、スキマスイッチのゴールデンタイムラバー流すぞ。智佳、デュエットしようぜ」
「望むところよ、やってやろうじゃない!」
「AAAのClimax Jump歌うぜ!!」
「その曲なら私も知ってるぞ、一緒に歌おうじゃないか尚紀君」
「は、はい、御姉様ぁぁぁ!」
「フ、では一興で白金ディスコを歌わせてもらおう」
「いいぞー!吉幾三版の合いの手入れていいかー?」
「・・・・・・それは、難易度が高くないか?」
「じゃ、じゃあ、NIRGILISのsakura歌うね」
「エウレカか、悪くないな」
「それじゃあ、あたしゃMrs. GREEN APPLEのインフェルノ歌おうかね。参加する人~」
「「「「「はーーい!」」」」」
こんな感じで終始アニソン多めの素晴らしい時間を過ごしていたのだった。コミケ参加前の前夜祭(?)みたいな雰囲気、悪くないね。
『――本日は西条エクスプレス線をご利用いただき誠にありがとうございます。間もなく、東京ビックサイト~、東京ビックサイト前で御座います。お忘れ物のないよう、ご注意ください』
カラオケ大会終了から暫らくして。バス内の殆どの人間が眠りにつく中、そんな恭介氏の本職の人になり切った感じのアナウンスが響き渡り、全員が段々と目を覚まし、荷物を確認し始める。まぁ、貸し切りだから忘れても次の乗るのが違うバスって事はないけど、一応ね。
『【速報】田舎民の俺氏、魔都・東京に降り立つ』
「こんなとこでも@ちゃんねるでどうでもいいスレ更新かよ、逞しいな」
鳴島が作成した@ちゃんねるまとめサイトに真新しい記事がすっと躍り出る。俺はそこに長旅乙、とだけ書いて返信した。
「それじゃあ、俺の出番は1日目終了後のホテル移動の時だな。頑張って来いよ」
「あぁ、またな、兄貴」
「フッ、健闘を祈るぜ、弟よ」
篠崎兄弟の最低限の別れの挨拶を最後に、恭介氏の運転するバスは静かに去っていった。さて、今から設営に入るんすかね。だったら気を入れ直さないといかんなぁ。
「うおーし!折角こんなにいるんだから、上手い事分散して役割決めるぞ!」
「役割分担なら互いにフォローしあえる関係性が重要だな」
「応よッ!・・・・・・というわけで、向坂とちーはセット確定な~」
「「何で(さ)!?」」
本来ならちゃんと決めるべきなのだろうが、鈴はそんな事お構いなしでテキトーに数を合わせて選出していく。取り敢えず、俺は智佳の元へ向かった。
「よろしくな、相棒。今回は完全にハメられたな」
「全く、やってらんないわよ。でも、ま、よろしく」
お互いに悪態をつきながらハイタッチを交わす。いやぁ、慣れって怖いね、本当に。
「向坂とちーは私と会場内で設営ね。薄い本見放題、やったね!」
「見放題かどうかは別としてどういうジャンルだよ」
「んー?どういうも何もBLだけど?」
「まぁ、そんな気はしてた」
何の躊躇いもなく、BLという単語を口に出す鈴。うーん、駄目だコイツ、腐ってやがる。
「BLとな。まぁ、あの食べ合わせは最高だよね、合格」
「優海さん、それはベーコンレタスです」
「びぃえる?えっと、もしかして昔大ヒットした映画の――」
「慧巳さん、それはもしかしてビリギャルですか。タイトル詐欺ですよ、あんなもん」
「BL・・・・・・新しいネット用語ですかね、検索してみてもいいですか?」
「ちょっと待とうか、麻衣ちゃん!君にはまだ早い!」
「BLかぁ、祐都君も好きなら私も詳しく知りたいな」
「い、いえ、専門外っす、葵さん!?それに俺はどっちかっていうと百合・・・・・・何でもないです」
オタクに属していない人々から一斉にBLとは何ぞやという質問を受け付けられて、突っ込みながら適当にはぐらかす俺。女性として腐らせるには惜しい人材だ、特に麻衣ちゃんは。
「今日もモテモテだな、祐都」
「畜生、やっぱりテメェ何股かしてんだろ?あぁん!?」
「リア充、爆発しろ」
当然ながら、龍の弄りと妬み嫉みブラザーズの僻みが飛んでくる。尚紀は、先程からブツブツと何やら独り言をつぶやき続けていた。成程、此方には興味なしか。
「並んでる人沢山いますね・・・・・・凄いです!」
「うむぅ、参加者全員が全員、よく鍛えられた面構えをしておる。武士道、ここに極まれりかな」
「何かテンションおかしくない、優海?」
・・・・・・しかし、まぁ、何と言うか。こうして揃いも揃うとやっぱり美女ぞろいだな、俺の知り合いの女性陣。これはあれか、俺が完全に手出しできないようにする神からの嫌がらせか何かか。
「よーし、班分け終わりっ!各自作業場へGO~!」
鈴が決めたその他の班分けが此方。まず、買い出し係に尚紀と美月先輩。物販宣伝係に龍と優海さん。フィールドワーク係に修二と慧巳さん。同人誌出前係に鳴島と麻衣ちゃん。集金・計上係に葵さんが配置された。
「何かすみませんね、一番手間のある仕事任せてしまって」
「え?ううん、大丈夫。私はこういうの得意だから」
鈴と智佳の二人と協力して売場の展開をしながら、俺は会計に任命された葵さんに話しかけていた。くうぅっ、今日も今日とて慈悲深き心の持ち主だ、最高かよ。憧れの人がこんな至近距離で居てくれる・・・・・・それだけでやる気が限界突破した!下手な姿は見せられないな!
「・・・・・・スケベ」
「何でそうなるんだよ、智佳。別に疚しい事は考えてないぞ?」
すると、智佳が急に拗ねた声でそう発言したので即否定する。まぁ、嘘だが。本音はコミケ終わったら葵さんの水着姿が見れる、みたいな事を考えていたり・・・・・・しないでもない。
「知らないわよ、別に」
少し不愉快そうな顔をしながら、智佳は作業に戻った。全く、一体何だってんだ。
「あの、祐都君?智佳ちゃん、大丈夫、かな?」
「いつもの事っスから気にしないでくださいな」
「そ、そうなの?うーん、でも、気になるなぁ・・・・・・」
そんな智佳の様子を気にして心配してくれている葵さん。優しい、優しすぎるぜ!こんな人が彼女だったらどれだけ幸せな事か。でも、彼女程の女性は、俺じゃあ、きっと不釣り合いなんだろうな。
「ちーの事なら、向坂が言うように特に問題ないよ、あおっち」
「あ、あおっち・・・・・・?」
「そ、あおっち。名前『葵』だから、あおっちね」
鈴が葵さんに大丈夫だと促したが、ここで鈴の悪い癖である、独特な呼び方をする癖が発動し、さっそく葵さんに妙なあだ名をつけて呼んでいた。しかし、当の葵さんは、どちらかと言うと嬉しそうな表情をしていた。あ、笑った顔、最高、可愛い。
「そっか、あおっちかぁ。ふふふっ、私も漸く祐都君と同じ場所に来れた気がするな」
「いやぁ、流石は向坂、モテモテだね。こりゃあ、ちーも妬く訳だ、ひゅーひゅー!」
「べ、別に妬いてないわよッ!?」
直後、智佳のその突っ込みが予想以上に施設内で反響し、その場にいた全員の視線が僅かな時間だけ此方に全て注がれた。智佳はそれに気づいてか、恥ずかしさで顔を真っ赤にしてそれ以上は何も喋らなくなった。お前にも必要か、メンタルケア。
「そう言えば、コミケって一般の人が自分の作った漫画とか小説を持ち込んで販売する、んだよね、祐都君?」
「えぇ、まぁ。そういう解釈で特に間違ってないとは思いますが」
「ふーん、そっか」
そんな中、急に意味深な質問をした葵さんが俺を一転に見つめて、ニッコリ笑う。不意の笑顔にドキッとして固まる俺を他所に、葵さんは次の瞬間、驚くべき事を言い放った。
「ね、じゃあさ、今度また機会があったら、祐都君の小説も出してみたらいいんじゃないかな?」
「へ?あ、い、いやぁ。流石に、俺みたいな奴が出すにはまだまだ次元が違うっすよ」
「どうして?祐都君の書いてる小説面白いよ、この私が自信を持ってお勧めしてあげる!」
・・・・・・本当に末恐ろしい人だ、葵さん。どうして、オタク殺しの文句をそうまでさらりと言えるようなお人なのか。ここら辺でもう勘違いしそうになっている辺り、今の俺にまだまだ普通の恋愛は縁遠そうである。
「おおぅ、珍しくあの向坂が照れている・・・・・・!成程、向坂を弄るにはこれくらいしないとなのか」
そして、鈴が何か余計な事を考えているようだ。オイ、テメェ、もし今メモっているような事を何処かで実践でもしてみやがれ、その場で即乱闘だ、乱闘パーティだ。
それから、そんなに時間が経たないうちに、準備が全て完了し、此処に聖戦(ジ・ハザード)の火蓋が切って落とされた。開始の合図とともに一斉に雪崩れ込む一般参加者達、次々と押し寄せる客に目当ての品を渡しながら、にこやかに対応する同人作家達。そして、勿論、此方の陣営でもそれは例外ではなかった。
「あ、みゆり先生!お久しぶりですぅ~、去年の冬コミ以来ですね!」
「お、今回も来てくれたんだね、ありがとう!ささ、お客さん、こういうのは鮮度が大事ですぜ?」
「じゃあ、新刊の奴、両方ともお願いします!」
「はいよ~、Welcome to Hell Zone・・・・・・!!」
カッコつけのつもりなのだろうか、それともそれが同人作家《花森みゆり》としてのキャラクターなのだろうか、英字の部分だけやたらとデスボイスっぽく発音していた。何それ、デー〇ン閣下?
「花森氏、例のブツを2つと総集本一つ」
「厚くて薄い本、まいどありぃ」
「ところで、今回もあの子連れてきてるんですな」
「応よ、だが、キミにはやらんぞ?ちーは私の嫁だぁ!」
「おうふ、花森氏とそのお友達の百合関係ktkr!」
何と言うか、鳴島に近いものを感じる奴が来たな。まぁ、同類というものが何処にいてもおかしくないのがオタクという種族の持つ宿命。スタンド使いとスタンド使いと惹かれ合うように、オタクもまたオタクと惹かれ合うのだ・・・・・・!
常時こんな感じで癖の強いお客たちを出迎えて、一人一人に丁寧に接客する鈴を見て、流石に常連参加者は面構えが違うなと思った俺であった。そして、あっという間に一日目が終わり、俺達は予約されてあった近くのホテルに泊まる事となった。勿論、その宿も西条産業系列の貸切宿だった。
『当店自慢の特大の露天風呂、只今、混浴スペースとして開放中!』
なんて、張り紙が超見えやすい位置にでっかく掲示されていて、何か他人の意図的な物を感じたが・・・・・・まぁ、いい。流石に混浴は気が引ける。普通に男湯に行こう、その方が落ち着く。そう思って、男湯の暖簾を潜ろうとした矢先、入口近くにこんな張り紙を見つけた。
『男湯・女湯、何れも故障中につき。混浴をご利用ください』
「神様ァッ・・・・・・!」
俺はこの時、生まれて初めて神を呪った。このホテルに住まいし余計な世話を焼こうとする神に。
「と、とはいえ、流石に混浴だとしても今時どちらも上下素っ裸ってわけじゃあないよな、うん!」
江戸時代じゃねぇんだ。第一、今の日本でそんなことが罷り通るなら、ツイぽで暗躍している、自称・フェミニストたちが黙ってはいないだろう。本当にフェミニストなのかはさて置いてだが。
「ふぅ・・・・・・これで、ヨシ!」
俺は何時かツイぽのタイムライン上で見た、今流行りの『現場ぬこ』なるものの真似をして海パンの着用を確認しながら、噂の大浴場へと潜入。急いで辺りを見回す。ふむ、どうやら誰もが混浴と聞いて大人しく部屋のシャワーで済ませているのだろう、安心した。
「こんな広い場所を貸切状態とか最高すぎる・・・・・・!」
普段から、資金に余裕があれば近くの銭湯に足を運ぶ俺にとってその空間はまさにパラダイス。旅の疲れとコミケの疲れをリラックスさせるには、これ以上の素敵空間は他をおいてなかった。
「おや、そこに誰かいるのかい?」
ふと、そんな静寂を破るかのように響いた声に俺は思わず身構える。ま、まさかこの声は――
「おぉっ、やっぱり祐都君か。折角だし、あまりない機会をお互いに楽しもうじゃないか」
「み、美月先輩!?」
そう、紛れもなくそれは美月先輩であった。しかし、俺が驚いたのは、別に先輩がいたからとかそういう問題だけではない。では、他に何に驚いたか?答えは至極簡単、何故なら。
「ふぅ、いいお湯だ。そうは思わないか、祐都君」
「ハイ・・・・・・」
「一人で入るのも悪くはないが、会話がなくて少し寂しくもあったからな。キミが来てくれてよかった」
「ハイ・・・・・・」
俺は水着を着ている。だが、肝心の美月先輩はそんなものを着ておらず、何と一糸纏わぬ姿だったからだ。此方に美月先輩が近づいてくる時に少しだけ見えてしまった、柔らかな曲線を描いた豊満な双丘と、服を着ている時よりもより鮮明に分かる魅惑のボディラインが。湯気のお陰で一部ぼんやりとしていたが、童貞を殺すには十分すぎる刺激だった。
「じゃ、じゃあ、身体洗ってきますわ・・・・・・」
「ん、そうか。では、折角だ。私が背中を洗ってあげようじゃないか」
「えぇ、お願いします・・・・・・って、はい!?」
余りにも突拍子のない事を言うもんだから、つい承諾するところだったが、現状を咄嗟に理解した俺は声が裏返る。まさか、と思って後ろを向くと、今まさに美月先輩が俺に続いて風呂の中から立ち上がって此方に向かってきていた為、慌てて目を逸らす。正直、あのまま見てたら色々見えそうでヤバい。何かこう、R-18的な部位まで。
「よし、じゃあ、洗っていこうか。何、私に全て任せるといいさ」
そう言って、美月先輩は俺が事前に用意していたボディタオルにソープを付け、ゆっくりと全身を拭いてくれる。俺はもう何も対抗する術を持ってはなく、ただされるがままになっていた。しかし、そうやって洗っていけば何れ通常の状態と何かが違う事に誰もが気付くだろう。美月先輩も如何やらそれの違和感に気付いてしまったようだ。
「・・・・・・?なぁ、君は温泉に入る時はいつも水着着用なのか?」
「い、いえ、いつもなら履きませんにょ、えぇ」
いかん、緊張のあまり噛んでしまった。そして、当然俺は美月先輩の顔を見れない。だって、今振り向いたらかなり至近距離のはずだから絶対見えるじゃん、色々!アニメじゃないから湯気も謎の光も仕事しないよ、現実だもの!!
「むぅ、これでは細かいところまで洗えないな。一回、脱いではくれないか?」
そんなお願いをされるが無理なものは無理だ。大体、そこまで洗おうものなら絶対に正面に付いたアレに触れてしまう事になる。そうなれば完全にOUTだ。俺、貞操の危機!?
「そ、そこだけは自分で洗うんでいいっすよ。背面の、洗えるとこだけでいいです・・・・・・」
「そうか、残念だ。じゃあ、洗い終わったことだし、流そうか」
美月先輩がシャワーを取ろうとして前屈みになったせいで、俺の背中に美月先輩の豊満でふっくらとした双丘が諸に当たった。某堕天使風に言うなら、ヤバい、達する、達するゥ!
「んっ、よいっしょっと。すまない、キミにちょっと寄りかかる形になってしまった」
「イエ、ダイジョウブデスヨ、ダイジョウブ・・・・・・」
くそぅ、今の感触絶対一生忘れられなくなる・・・・・・!やっぱ、デッケェおっぱい最高!今なら声を大にして言えるかもしれねぇ、スーパーギャラクシー・・・・・・いや、止めろし。
「よし、流し終わったな。お疲れ様」
「ソンナ、センパイコソ、オツカレサマDEATH」
「それじゃあ、次は私の背中を当たってもらおうかな」
「何ですとぉ!?」
また唐突に変な事を言い出した先輩は、俺の座っている椅子のすぐ隣にあった椅子に腰かける。ヤバい、見える、私にも見えるぞ!、って馬鹿!!
「手間を掛けさせて悪いが、よろしく頼むぞ」
「ハ、ハイ・・・・・・」
もうここまで来たら、覚悟を決めてやるしかないか。そう思って、美月先輩の背中を洗おうとした矢先、俺の背後から声がかかった。
「ア、アンタ・・・・・・何してんのよ!?」
「じゃあ、洗いますよー、って智佳!?」
聞き覚えのありまくる声に、恐る恐る背後を振り返る。すると、俺の背後でかなり怖い顔をしながら仁王立ちしている幼馴染みがいた。あ、俺、死んだわ。
「やぁ、智佳も来てたのか。どうだ、よければ一緒に――」
「美月先輩だけ全裸にさせて自分は海パン履いてるとか・・・・・・このッ、ド変態!!」
「超理不尽!?」
次の瞬間、俺の頭部に激痛が走り、俺はそのまま床に倒れ伏せた。倒れる直前に俺は、怒り心頭の幼馴染みの顔と何でこうなったのか理解できないといった顔をした美月先輩、そして、激痛が走った原因である、幼馴染が投げ付けたであろう風呂桶のケロヨンの赤い4文字を見た。
「・・・・・・(今まで、ついぞ来ないと思っていたラブコメ展開における理不尽の呪いが、遂に自分に回ってきたからって、止まるんじゃねぇぞ・・・・・・!)」
そんな某団長の最後の号令を心の中で叫びながら、俺は意識を失った。
「――あれ、此処は?」
そして、意識が覚醒した。目を覚ますと、そこは見慣れない天井の広い和室だった。あぁ、そうか、俺、旅館に泊まりに来てたんだった。
「・・・・・・ッ、祐都!」
起き上がろうとすると、近くで口を真一文字にして項垂れていた智佳が俺に抱き着いて来る。その身体は小刻みに震えていた。
「ごめん、ごめんなさい、私・・・・・・!」
「・・・・・・」
今、完全に思い出した。そうだ、俺は混浴用の大浴場で理不尽呪いを受けて一回死・・・・・・いや、気絶したんだった。で、その原因が勘違いした幼馴染みに寄るもの、と。ふぅ、やれやれ。俺は震える智佳の身体を抱き寄せて、頭を撫でながら優しく諭した。
「まぁ、誰だってあの状況見れば誤解くらいするって。あんまり気にすんな」
「ごめん・・・・・・祐都が倒れちゃった時、もしかしたら、私、やりすぎちゃったんじゃないかって思って」
「あぁ」
「それで、中々祐都が目を覚ましてくれないから・・・・・・ひぐっ、打ちどころが悪くて死んじゃったんじゃないかって・・・・・・!」
「馬鹿野郎、あれくらいで死んでたまるか」
「本当、ごめん・・・・・・」
成程、素が出てるってことは滅茶苦茶反省してるって事、だよな。コイツにとっては。本当、根が優しい奴だな、お前は。俺は、抱き寄せた智佳の身体を優しく押し返して、奴に言う。
「だーから、気にすんな。ほら、いつもみたいにツン、と構えてろ。その方がお前らしい」
「ッ・・・・・・ふ、ふん。何よ、人の気も知らないで・・・・・・」
「ははっ、それでこそ俺らしいしお前らしいじゃんか」
随分とぎらついた日が差し込んでいる。という事は、もう昼前か。なんてこった、すっかり寝過ごしちまったな。何日目だか分からねぇが、援護に向かわねぇと。
「智佳、今日はコミケ何日目だ?」
「い、一応、まだ2日目。行くなら、お昼食べてからになるわね・・・・・・」
何だ、まだ2日目か。良かった、丸一日寝込んでいたって事にならなくて。
「さ、行こうぜ、智佳。心配かけた分、今日は奢ってやるよ」
「でも、そうなった原因は私が・・・・・・」
「いいから、いいから。いつもみたいに黙って奢られろ、分かったな?」
「う、うん・・・・・・」
1日目から割とインパクトある日になったじゃねぇの。これは、残り2日も楽しみでしょうがないね。取り敢えずは、まぁ、まだしょんぼり気分の幼馴染みのご機嫌取ってからにしましょうか。鈴達にも後で迷惑かけたって謝っておかねぇと。こうして、俺はまだ少し痛む身体を労わりながら、智佳と共に旅館から会場へ向かう。そしてお互いに、自然と手を握っていた。
Shift11 To be continued...
Next Shift...
コミケでの激戦を終え、つかの間の休息に勤しむ祐都達一行。そして、ついに物語の舞台は華麗な水着を身に付けた美少女達が織り成す、圧倒的な空間へと生まれ変わる。今こそ訪れる選択の時。果たして、祐都は誰と交流を育むのか。次回、パソコンのある日常、第12話「コミケ夏の陣、そしてミーミルの泉へ-水辺の天使編-」。そして、物語は恋を紡ぎ出す。
後半が大分気持ち悪い。R-15だとどこまで表現可能なのだろうか。R17.5のタグ付けた方いいんだろうか。
前回、次回更新の予告忘れてましたね。すみません。
お楽しみの水着回となる次回は、11月3日(火) 18:00頃の投稿になります。
『今回の前書き、だぁ~れがやったかぁ、分かったかぁな、テメェらぁ~?』