パソコンのある日常-Daily lives of there's a personal computer-   作:海色 桜斗

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人生における戦略的撤退は逃げではない






Shift14「ようこそ、新生パソコン部へ」

別にこれからスタイリッシュ逃亡劇が始まるわけでもなければ、タイトル改変する訳でもない。

 

 

「お、来た来た。待ちくたびれたぞ、男子共~」

 

「折角の休日だったのにいきなり呼び出しされて、挙句待たされるとか、ふざけてんの?」

 

「あれ、智佳ちゃんと鈴ちゃんだ。何で二人ともここにいるの~?」

 

前回のあらすじ。珍しく幼馴染みの紀郷雄輔から誘いが来て、大曲の方に出張する事になった俺こと向坂祐都と同じく幼馴染みで親友の藤堂夏希。その後、何やかんやあって雄輔によって道なき道を越えた先にあった謎の建物に案内され、そこはまさかの某反抗勢力が使っていそうな秘密基地仕様の部屋。そして、その部屋には俺達幼馴染み五人組の残り二人、川尻智佳と紗々由鈴が先客として待っていたのだった。

 

「おい、雄輔。テメェ、俺ら全員を漏れなく嵌めるとかどういう魂胆だ・・・・・・って、いねぇ!?」

 

「あれ~?何処行ったのかな、ユウくん」

 

いつもの如く炸裂したアイツの暴挙を叱るべく、入口の方を振り向くが、既にその場に雄輔の姿はなかった。しまった、また例の神出鬼没スキルか!?

 

「今更過ぎだね、向坂。紀郷の行動なんて、凡人の私達に分かる訳ないじゃん」

 

「そうね。ホント、あんな奴と付き合い長いと変な事にまで慣れてきちゃうから嫌になるわ」

 

鈴と智佳の二人が、雄輔とその行動に慣れてしまった自分達に呆れながら、そんな言葉を漏らす。だが、雄輔のお陰で智佳の奴も平常運転の様子。良かった、またプールの時みたいな感じになったらちょっと理性が持たないところだった。危ない危ない。

 

『フハハハハハッ、そう毒づいてくれるな、My同志達よ!』

 

その時、雄輔の高らかな笑い声が室内に響き渡り、正面にあった特大モニターの画面に奴の姿が映った。どうやら、この部屋の何処かにあるであろう音響部屋から映像を飛ばしているようだ、マジで何でもありだな、アイツ。

 

『先ずは此処まで共に足を運んでくれた事、感謝しよう』

 

『そして、同時に。今、現時刻を以って、我々でHJSBの結成を宣言する!』

 

俺達が何も反応を返せずに呆然とその場に立ち尽くす中、雄輔のその言葉を受けて、部屋の中に壮大なBGMが流れ始める。は、HJSB?結成?どゆこと?

 

「・・・・・・待って。何が何だか、さっぱり分かんないんだけど」

 

その場の一同の言葉を代表するかのような智佳の発言に、その場の全員がモニターを凝視しながら、うんうんと頷く。本人達は無意識であったが、見事なシンクロ率であった。

 

『まぁ、混乱するのも無理はない。何せ、急に発表したからな』

 

そんな一同の反応を見ても、不敵な笑みを崩さず、なお平然としている雄輔。成程、やっぱりあちらからも此方の様子が見えるようになっているんだな、強すぎない?

 

「そうだぞ、紀郷。ちゃんと全員に分かるように説明しろー」

 

『何、簡単な話よ。古き時から交流を育んできた、お前達への俺からの頼み、と言うヤツだ』

 

どういうヤツだ。というか、今の言葉だけでは俺達の問いに対して全く答えられてないじゃないか。

 

『俺から説明してもいいが、丁度ここに俺より説明するに相応しい人物を呼んでいる。では、よろしく頼んだぞ、同志篠崎』

 

『成程、最新の中継器が使われているのか・・・・・・興味深いな』

 

雄輔の姿が画面から見えなくなると、奴と入れ替わるように龍が姿を現した。え、何、この二人何時の間に繋がってたの?ちょっとこの作品、主人公置き去りにして裏で色々物語動きすぎじゃねぇ?大丈夫、サイドストーリー実装しとく?

 

『驚いたか?まぁ、無理もない。俺もまさか此処まで出来るとは思っていなくてな』

 

『先ずは告知だ。本日より、パソコン部と非公式情報処理部間の提携で産まれた、最新のVR専用ゲーム・・・・・・「Survival Infinity」の仮実装を開始する』

 

うん、やっぱり何もかも唐突過ぎてついてけねぇわ。突っ込み放棄していい?

 

『これは対戦ゲームで、二手のチームに分かれて対決する訳だが現在、お前達が居合わせている場所はその一環で提供された施設でHJSBというのもチーム名ということになる』

 

『故に、今日より一週間後、お前達には我が精鋭部隊・・・・・・そうだな、仮にPC部と名乗っておこうか。そいつらと模擬戦をしてもらう』

 

此処に来て、漸く現状に対する説明がされた。チーム名だったのか、俺はてっきり雄輔が片棒を担いでる犯罪組織に強制的に入会させられたものとばかり思っていたが、違ったようだ。

 

「へぇ、面白そうだね。定期的には来れないかもだけど、俺もやってみたいな」

 

「うんうん、そういうことなら私も協力するぜ。面白そうなイベントなら猶更だ!」

 

「どんな奴らが来るのか知らないけど、絶対に負けてなんてあげないんだから」

 

ナツさん達も如何やら参加する事に意欲的になったみたいで、各自意気込みを発している。しかし、此処で俺はこの場に集まった面子を見て、ある一点の疑問をモニター越しの龍に尋ねた。

 

「なぁ、龍。この面子で俺だけがパソコン部員なんだが、俺はこっちでいいのか?」

 

『あぁ、それに関してはこの場でお前自身が選べ。付きたい方に付けばいいさ』

 

持ち場選択が俺だけセルフかよ・・・・・・尊重されてんのかハブられてるのかもう分かんねぇな、これ。

 

『因みに、此方の布陣は俺、尚紀、鳴島、優海、修二。そして、葵だ』

 

「はぁ!?」

 

龍率いるPC組の編成メンバーの残り一人の名前を聞いた瞬間、俺は驚愕した。葵って、あの葵さんの事だよな・・・・・・何で葵さんがそっちに加わってんの!?

 

『フ、憧れの女性の名を聞いた途端、か。安心しろ、俺は其方の大将程、強引には加えない』

 

「じゃあ、葵さんが自分から加入したって事か?」

 

『あぁ、彼女は正式にパソコン部加入を希望した故に受け付けたまでだ』

 

『どうだ、お前が此方に来る動機としてはこれ以上ない理由だと思うが』

 

確かに、あの葵さんと自分の好きなジャンルのゲームで共闘できる機会は、早々ない事だ。彼女とタッグを組んで此方の精鋭を倒していくってのも何かいいかもしれない。

 

『迷っている様だな、同志よ』

 

俺がどちらに付くか思案していると、今度は龍に代わって雄輔がモニター越しに現れ、そう発言する。勿論、依然として不敵な笑みは崩さないままで。

 

「テメェ、まさかこうなる事を知ってて、律義にも態と俺に選択する権利を与えてる訳か?」

 

『俺の意思をどう受け取るかは、同志の自由だ』

 

『だが、敢えて意見するならば・・・・・・是非とも同志には此方側に付いてほしいがな』

 

雄輔が俺に対して此処まで執着する理由。恐らく此処で問えば確実に奴は、智佳の為と言うだろう。自分の本心は曝け出さずに、如何に俺を踏み止まらせる為の最善の策を模索する。奴の使いそうな常套手段だ。俺は・・・・・・どうする?

 

 

→・このままHJSBに残る

 

・PC部に加入する

 

 

「テメェの策に乗せられるのは癪だが、今回だけは乗ってやる」

 

『フ・・・・・・流石は我が同志、その申し出有り難く受け取ろう』

 

 

智佳√《幼馴染みと同人誌のある日常》の解放条件2をクリアしました。

智佳√《幼馴染みと同人誌のある日常》の解放条件・最終を解放しました。

 

 

『其方を選んだか。では、次は仮想現実の戦場で相見えよう、我が友よ』

 

龍が再びモニター越しに現れてそう言うや否や、モニターがブラックアウトし、次の瞬間には最初に見たHJSBの文字と象徴的なアイコンが表示された画面へと戻った。如何やら、今日ここに呼び出された理由の最たる目的は果たされたようだ。あー、何かどっと疲れた。

 

「ん、そっか。祐都はこっちに残ってくれるのね」

 

モニター越しの通信が終わったことを確認して、智佳が俺に話しかけてきた。俺を見つめるその姿が、心なしか少し嬉しそうに見えた気がする。あくまで予測の域、ではあるが。

 

「まぁ、悪友の期待に応えてやるのも幼馴染みの務め、ってな」

 

「ふぅん・・・・・・」

 

そう答えた俺にまるで、予想していた返しと違って興ざめした、と言わんばかりに此方から目を逸らしてぶっきら棒に呟く智佳。難しいな、乙女心。

 

「向坂が向こう行ったらどうしようと思ったけど、こっちにいてくれて安心したよ」

 

「そうだね。こういうゲーム、俺絶対に足手まといになるから、祐ちゃんがいれば心強いな」

 

暫らく俺と智佳の様子を見ていたであろう鈴とナツさんが、会話に加わってきた。正直、そんなに期待されるもんじゃないと思うけど、そこまで言われたんなら、まぁね。

 

「ゲーセンでよく見るゾンビ倒してくゲームのPVP用のオンライン対戦版みたいなもんだろ、ナツさんと鈴ならきっと上手く出来るさ」

 

「あー、そういう感じ、なのかな?だったら少しは力になれるかも」

 

「へへっ、それでも向坂がいれば百人力な事に変わりないよ。ちーの事でも、ね」

 

俺の例えが良かったのか、ナツさんは先程までの少し不安そうな顔を綻ばせて、やる気に満ちた顔になった。うんうん、ゾンビゲーはゲーセンの十八番理論はリア充界隈にも通じるようだ。有難いね。

 

「で、鈴。お前は一体何を企んでいる」

 

「うえぇ、信用ないなぁ。別に何も企んでなんてないよ?」

 

「そりゃあ、お前が智佳絡みで何かしなかったことがねぇからな」

 

「今回ばかりは私も紀郷の企みの被害者だってば。仲良くしようぜ、向坂~」

 

そう言われても今までの言動があるから信用ならないのだが。しかし、当の本人はいざ知らず、唐突に思い出したかのように最初の俺と智佳のやり取りについて言及してきた。

 

「しかし、さっきのちーとの会話は良くないなぁ、向坂。そういう時は嘘でもいいから、君の為に残ったんだよ、位言わないと」

 

「待て、鈴。それは俺のキャラじゃない」

 

鈴なりに真似て見せてるんだろうけど全く似てないからな。そして何故若干しゃがれ声にした。

 

「キャラじゃなかろうと言ってあげるのが紳士って奴だよ。分かってないなぁ」

 

「そ、そうなのか?」

 

「ん、モテる男は大体皆、そうやってるはずだよ。さぁさぁ早く、ちーの機嫌よくして来て」

 

自分でも体よく鈴の言葉に騙されている気がしてならないが、これから同じチームで頑張っていかねばならんのだ。出来るだけ早く関係は修復しておかないとな。そう思って、俺は再び智佳の方へ向き直る。依然として智佳は拗ねてツーンとしたままだった。怒っては・・・・・・ない、よな?

 

「なぁ、智佳」

 

「・・・・・・何よ」

 

「その、悪かったな。上手いこと言えなくて」

 

「・・・・・・」

 

結局、その言葉を出すのが精一杯で、それ以上の事は何も言えず仕舞いだった。当たり前だろ、あんなこっ恥ずかしい台詞、意識して言えるものか。どう考えたって無理だわ!?(←時々、持ち前の天然でそれをやってのける男)

 

「別に、いいわよ。私も悪かったし・・・・・・」

 

ふと、そんな智佳の呟きが聞こえた気がして、下げた頭を戻し、顔を上げる。すると智佳が気まずそうに此方の様子をちらちらと伺う様子が見て取れた。目が合うとすぐに視線を逸らされてしまうのは相変わらずだったが。

 

「全くもー、ちーもそこでグイグイいかなきゃ駄目だってばー」

 

「グイグイって言ったって、何をすればいいのよ・・・・・・」

 

「何をって、そりゃあ、無言のまま祐都の腕に抱き着いてみたり?」

 

「ッ、それじゃあただの痴女じゃない!?」

 

痺れを切らした鈴が智佳に何やら入れ知恵をしているが、思いっきり拒否されている。作戦内容はひそひそ声の為、聞き取れなかったが、十中八九とんでもない内容に違いない。あと、智佳に痴女なんて言葉仕込んだの何処のどいつだ。鈴か、鈴の仕業だな。よぉし、覚悟しろ、雄物川の藻屑にしてやる。

 

「えー、でも東京の旅館では二人してだき――」

 

「もぅ、それは内緒って言ったでしょ、鈴ッ!」

 

「いいじゃん、いいじゃん。そうすればきっと向坂も理性吹き飛んで、智佳ァ、もう我慢できねぇ、スケベしようぜ、ハァハァ、って言うはずだからさ!」

 

「ゆ、祐都はそんなキモいおっさんみたいなこと言わないわよ!」

 

今度は後半部分がはっきりと聞こえたわけだが。え、鈴の脳内での俺ってそんな感じなのか。言わねーし、思いもしねーよ。そんな度胸があったら、今頃彼女いない歴=年齢で通ってないはずだからね。いや、もしかすると社会的に既に死んでいたかもしれない。万が一、理性を吹き飛ばしたときの代償って知ってる?DEATH or DIE、テストに出るよ、覚えときな。

 

「裕ちゃんモテモテだね~」

 

「今の状況を見て、どうしてそう言えるんだよ。頭DTか?」

 

「うん、まぁ、現状はDTかなぁ」

 

「そっかー、このッ・・・・・・DT野郎が!」

 

「オマエモナー」

 

女性陣に対抗したわけじゃないけど、こちらも特に意味のない会話で盛り上がる。うん、リア充サイドだけど俺との長い付き合いのせいで、会話中にネットスラングが無意識的に入り込むようになってきたナツさん、嫌いじゃないなぁ。

 

「さて、同志達よ。そろそろこのゲームの説明を・・・・・・と、思ったが中々に場がカオスだな」

 

そんな中、漸くこの場に姿を現した雄輔だったが、居合わせた現場が現場だった。女性陣はトンチキな妄想語りを、男性陣はこの世の非情さをしみじみと感じながら今思いついた適当な話を言い並べ始めている。あらゆる分野の混沌が欲張りセット並みに一堂に会していた。

 

「如何やら、俺としたことが来るべき時を間違えてしまった様だ」

 

そう言って雄輔が部屋を引き返そうとしたその時、その場にいる全員が全員雄輔の存在に気づき、一斉に視線を向ける。幼馴染み達の一糸乱れぬ動きに、この時は彼でさえ軽く恐怖を覚えたと言う。

 

「「「「聞・い・て・る・よ?」」」」

 

「フ、ハハハ、怪談話や百物語に強い俺にそのような脅しは全くの無意味。残念だったな!」

 

勿論、これも彼としては初めて使う事を余儀なくされた精一杯の強がりだった。本来なら、気の知れた仲間に遠慮は不要だが、彼は現在、とある人物の目を、幼馴染み達・・・・・・特に祐都と智佳を中心にしたグループから逸らすために道化を演じている最中なのであった。故に、彼はまだ仮面の下に隠れた素顔を決して見せることはしない。今はまだその時ではないのだ。

 

「兎に角だ。彼方からの提案としては本日より1週間後・・・・・つまり、2学期開始後の土曜日となる」

 

「そして当然、我々HJSBが念願の初結成ともなれば、是非とも初陣は勝利で納めたいところだ」

 

「故に、これよりこのゲームを実際にプレイし、CPU戦を行う!」

 

先程垣間見せた隙を拭い去るように、雄輔は再び高らかに叫んだ。祐都達はその様子を無言で見つめていたが、この基地に入った時からずっと疑問に感じていたことを祐都は雄輔に尋ねることにした。

 

「あ、質問いいか。雄輔」

 

「どうした、My同志向坂」

 

「今更過ぎるかもしれんが、HJSBって何だ?」

 

「何、簡単な話よ。Hikousiki(非公式) Jouhou(情報) Syori(処理) Bu(部)・・・・・・略してHJSBだ」

 

その雄輔の言葉を聞いて、メンバー全員が「成程、コイツだったら確かに考えそうだ」と納得し、特に下手な突っ込みをせずにそのまま受け入れた様だった。

 

「それで、実際にプレイするのか」

 

「勿論だ。先ずはCPUと戦って軽く肩慣らしと行こう」

 

その言葉を最後まで言い終える前に、メンバー一人一人にVRヘッドセットを渡していった。祐都は「学校内の規定に縛られないからって、色々と豪勢に構えすぎじゃないか?」と一瞬思ったが、その資金が一体何処から来てどう処理しているのか。それを考えると突くのは藪蛇モノだと気付き、彼は考えるのを止めた。

 

「あ、そうだ。これって向こうのPC部の連中と6対6で勝負するんだろ~?」

 

「あぁ、その通りだ」

 

「紀郷を合わせても私達5人しかいないよ?」

 

鈴の当然と言えば当然の問いに、隣に座っている智佳が静かに首を縦に振る。確かに、向こうのPC部メンバーは最初から祐都を除いたところで6人以上いるのは変わりない。今から部員を新たに集めようにも今はまだ夏季休暇中。上手くスカウトできるかどうか分からないし、そもそも部員として正式に登録することが出来ない事になる。

 

「その点も心配はいらない。我がHJSB側の戦力に加わってくれる人材を向こうから借りてきた」

 

「やぁやぁ、キミ達。数日ぶりだね、元気にしていたかい?」

 

雄輔が最初に智佳と鈴が出てきた部屋の扉、とは反対側に付けられた扉からその人物が部屋の中へ入ってきた。そう、その人物こそ、智佳と鈴が現在も所属している軽音楽部の唯一の先輩、比賀乃美月その人だった。

 

「わぉ、美月先輩だ。数日ぶり~」

 

「やぁ、鈴。元気そうで何よりだよ」

 

「美月先輩・・・・・・負けませんよ、私」

 

「???」

 

鈴は気軽に挨拶を返したが、智佳は如何やらこの間の出来事があったというこもあり対抗心を燃やしていた。当の本人には天然ぶりが総じた結果であった為、1ミリも伝わってはいなかったが。

 

「俺は会うの初めてかな、よろしくお願いします、先輩」

 

「おー、キミが夏希君だね。話は鈴たちからよく聞いてるよ、此方こそよろしく」

 

「美月先輩がこっちに来たんなら、尚紀は確実に倒せるな。特攻付与、感謝だぜ」

 

「んん、尚紀くんがどうかしたかい?彼も向こうで元気そうだったぞ」

 

同じ軽音楽部の面々の座っている位置を通り過ぎると、次に初対面の夏希と挨拶を交わす美月。そして、今や美月の存在自体が弱点となったある男の姿を思い浮かべながら、何処ぞの策士風にニヤリと不敵な笑みを浮かべた祐都の意図とは筋違いな答えを発言する美月。見事な程に会話が噛み合っていなかった。

 

「では、起動するぞ。HJSBプロトコル、対象範囲全てのVR接続確認。システム”オートダイヴ”」

 

『イエス、マスター。HJSB Protocol オンライン、システム”Auto Dive”起動します』

 

「認証コード『Survival Infinity』、リンク・スタート」

 

「「「「「リンク・スタート・・・・・・!」」」」」

 

全員の掛け声と共に、システムが連動して部屋中のVRプログラムが一斉に起動した。何か凄く厨二心にグサッと来る劇的な演出に興奮冷めやらぬ事になったのも束の間。意識が飛び、膨大なデータの放流に沈んでいく感覚を覚える。そして、次の瞬間には現実の自分と全く瓜二つの容姿をしたアバターが作成され、俺達はその姿のまま、電脳世界へと足を踏み入れていた。

 

「すげぇ、現実での姿のまんまだから生身でVR空間に来たかのような感覚だ・・・・・・!」

 

「ホントだ。凄いなぁ、どうやって再現してるんだろう?」

 

「長年慣れ親しんだ自分の感覚が何の狂いもなく伝わってくる・・・・・・最高ー!!」

 

「SKOのアバターを使うより一体感が凄い・・・・・・!」

 

「ふふふ、不思議な感覚だなぁ」

 

視界から見える景色は、電脳世界特有のメカメカしいデザイン。しかし、身体は現実世界での自分自身そのもの。それ故に、他のVRゲームにはない没入感が味わえた。マジでこれを龍と雄輔の奴が共同で開発したものとか・・・・・・そら恐ろしいね。

 

「フ、存分に驚いて貰えたか、同志達。これが真のVRだ」

 

聞きなれた声が響き、俺達はその方向を見る。俺達が固まるように転送された場所から少し離れた手前に浮かぶ、幾何学模様が刻まれた巨大な石の上に奴はいた。

 

「本来であれば、SKOのアバターを連携して持ってくるべきだが・・・・・・まぁ、今はまだ我々が身内で使用している状態故、現実の姿そのままにさせてもらった。その方がやりやすかろう」

 

「何時の間にこんなデータ取ったんだよ、そのまますぎて気味悪いぜ」

 

「それは同志達があの部屋に入った瞬間から、自動でスキャンしていたに決まっている」

 

「相変わらず、やることは学生のそれを逸脱してんな、オイ・・・・・・」

 

「褒めても何も出んぞ、My同志向坂」

 

赤の他人が作ったシステムに計測されたとなれば、一抹の不安も残るが、コイツが携わったシステムであるなら、その点は問題ないだろう。セキュリティシステム組ませたら、既存のソフトよりも遥かに上を行く鉄壁の守りを作り出す。異世界チート転生モノにありそうな設定だよな。

 

「武器はその中から好きに選ぶといい。敢えて使い慣れない獲物を使うのも作戦の一つだぞ」

 

雄輔はそう言ったが、やはり私的センスに一番ビビッと来るのはこれしかない。俺は迷わずSKOの世界でも酷使している双剣を手に取った。仮初の姿のアバターではなく、現実の自分自身の姿でこれを持つ。嘗てこれ程熱い展開があっただろうか・・・・・・いや、ない。

 

「同志はやはりそれを使うのだな」

 

「当たり前だ。これを他の誰でもない、現実の俺の姿で使うことに意味がある」

 

「双剣に心奪われた者、という訳か。その一途さ、見習いたいものだ」

 

実際、現実世界で真剣を2本装備して戦うとなれば、人並みくらいの筋肉量はあるが、そのスタイルを維持するとなれば正直かなりキツいだろう。剣の重みは命の重み、と言う奴だ。相応の覚悟が無ければ、握って立つ事さえ許されない。

 

しかし、仮想現実内であれば、現実世界とは裏腹に意図も簡単に持ててしまう。それ故に、誰かの命運を変えることはできないが、個人の憧れなら叶えられる。驕り高ぶる事能わず、ふとした瞬間に現実世界の退屈を変える狂気にさえ目が眩む。そんな人類にこれ以上ない平和という概念が生み出した空想の産物、それがこの世界だ。

 

「智佳はヘヴィーランスか、何か意外だな」

 

「ま、SKOでもこれ使ってるし。何だかんだ言うけど、結局は使い慣れた武器に行き着くわよね」

 

ヘヴィーランス。別名、重槍とも呼ばれるこの槍はSKO内でも扱いが難しく人を選ぶ。通常であればタンク役を担うプレイヤーが愛用するが、智佳はアタッカーで敢えてそれを使っているタイプか。

 

「へぇ、そうなのか。じゃあ、今度暇な時にパーティ組もうぜ」

 

「し、仕方ないわね。祐都がそう言うなら・・・・・・」

 

「プレイヤーネーム何て言うんだ?あ、俺はファイヤな」

 

「ローゼリンデ、よ。あ、赤い鎧で目立つからすぐに分かる、と思う」

 

へぇ、プレイヤーネームが意外と本格的で驚いた。智佳の事だから、男キャラにして名前がエドっていう感じとばかり思っていたけど。いや、俺じゃあるまいしキャラ再現は流石にやらんか。

 

「何かヘヴィーランスが通常より一回り大きく見えるな」

 

「・・・・・・そう言われると思ったから、あんまり使いたくなかったんだけど」

 

そう言って智佳が不貞腐れてしまう。あー、そっか、コイツ確か一般的な女子より背が低いの気にしてたな。俺としては別に気にしなくてもいいと思うし、それに知り合いの中だと葵さんの方が一番背が低いぞ。まぁ、そこが葵さんの可愛いところと言うかなんというか。

 

「そうか。でも、俺は背が低い女子は普通に可愛いと思うぜ?」

 

「っ・・・・・・ほ、本当!?」

 

「お、おう。やっぱ守ってやんなきゃなーって気持ちになるしさ」

 

「・・・・・・じゃあ、もう気にしなくてもいいんだ。え、えへへ」

 

何が嬉しかったのか、智佳は頬を赤く染めて満面の笑みを浮かべていた。そして、その顔にドキッとして目を奪われ、気付く。あ、駄目だ。智佳のこの表情に凄く弱いわ、俺。

 

「おー、見せつけてくれんねぇ。一応、外野もいるんだぞ~」

 

「裕ちゃん凄いなぁ、普通にあんなこと言えちゃうんだもん」

 

「流石は特定の条件を満たすと異性に特攻状態になる我が友だ。鼻が高いぞ」

 

そんな外野の声など露知らず、俺はまたプールの時みたいに智佳から目が離せなくなってしまう。いいや、しっかりしろ、俺。さっきみたいに智佳が笑顔になれる、相性のいい異性を見つけるまでは失った4年間の空白を出来るだけ埋めて恩返ししなきゃならねぇんだから。

 

そう、この時の祐都はある決定的な事実をすっかり失念していることにまだ気づいていない。彼女が密かに好意を寄せている相手が自分自身になっていることに。そして、その好意を寄せられている自分自身こそが彼女を先程のような笑顔に出来る唯一無二の存在であることに。

 

「あっ、なぁなぁ、智佳。さっきPCの特徴が赤い鎧って言ってたよな?」

 

「えっ、あっ、う、うん・・・・・・」

 

「そっかぁ、実は俺も赤が主体の和服っぽい奴を着てるぜ、配色一緒だな!」

 

「祐都と一緒・・・・・・そ、そうね」

 

「やっぱり赤はいいよな!赤と言えば、赤い彗星のシャアと赤い弓兵の英霊エミヤ!俺が一目惚れした男キャラのトレードマークともいえる色なのさ」

 

しかし、そんな事実はお構いなしに祐都は喋り続ける。ちょうど自分が好きな赤いモノについての話題変えた途端これである。そして、そういうときほど彼の無意識下の天然が発生しやすくなる。結局、どういう事かと言うと。

 

「同じ色だと何かいいよな、ペアルックみたいで!」

 

ペアルック。それは、世間一般でいう恋人同士、その中でも特に扱いに困るとされる通称・バカップル達が自分達の仲の良さを周りに自慢したいが為に同じデザインと同じ色の服を互いに着ている状態をそう呼ぶ。つまり、これっぽい事をする=バカップルである事を認めるということに他ならない。そして、そんな言葉を自身の片想い人から聞いた川知智佳がどうなったかと言うと。

 

「ペ、ペアッ・・・・・・!?」

 

瞬間沸騰!アニメや漫画等で登場人物の中でも特に初心で純粋な心の持ち主が、自身で耐えられる限界以上の羞恥や気恥ずかしさを覚えた時に一瞬で顔が真っ赤になり、頭の上から煙の様なものを上げてしまうという現実ではまずありえない現象。だが、そこは現実は小説より奇なり。彼女が今まさにその状態になっていたのである。

 

「ぷ、ぷしゅぅぅぅ~・・・・・・」

 

「うわぁぁぁっ、ちーの脳が限界処理負荷を越えてパンクしたぁぁぁ!?」

 

「わ、ホントだ。ユウくん、取り敢えず一回ログアウトしようよ」

 

「むぅ、こうなっては致し方なしか・・・・・・分かった、少し待っていろ」

 

智佳はそのまま倒れるように気絶。それを大慌てで優しく受け止めて、心配そうに声を掛ける続ける鈴。状況を見て、雄輔に全員を一旦ログアウトさせるように伝える夏希。夏希の指示を得て、システムにログアウトするよう呼びかける雄輔。そんな急に慌ただしくなった幼馴染み達の現状を理解できず、今更自分の世界から帰ってきた祐都が一言。

 

「あれ、俺何かやっちまったのか・・・・・・?」

 

聞いてて少しイライラするくらいのなろう系異世界転生モノの主人公のような台詞を発して、その場にただ呆然と立ち尽くすしかなかったのである。一方、美月の方はと言うと。

 

「うん、やっぱり皆いつも通りの元気さで安心したぞ」

 

そんな果たして周りの話を聞いているのかいないのか、それともただマイペースがブレないだけなのか。いつも通りののほほんとした態度で彼らの行動を温かく見守っていた。

 

 

「――では、以上で今回の実践想定訓練を終わる。各自、次の土曜は必ず空けておけ、解散!」

 

「はぁ~、終わった。帰ったら寝よう、今日はしんどいしんどい」

 

「結構面白かったね、俺、久しぶりにワクワク出来るゲームに出会えた気がする」

 

「いやー、全身使って動いてたような気がするよね。ちーはどうだった?」

 

「ん、このゲーム内でのヘヴィランスにも慣れたし、実践でも負ける気がしないわ」

 

「お腹すいた・・・・・・帰りにコンビニ寄って帰ろう」

 

解散の号令が掛かると、雄輔以外のメンバー達は各々の寮部屋までぞろぞろと帰っていく。そして、彼だけが部屋のモニター前の椅子にぽつんと座ったままの状態になった時、その静寂を破るように彼の形態の着信音が部屋中に鳴り響く。彼はそれを手に取り、真っ先に耳に当てた。

 

「ふむ、中瀬川か。どうだ、お前に頼んでいた件は?」

 

『まぁ、ぼちぼちって感じかな。今のところは向こうに動きはないみたいだし』

 

「そうか。では、引き続き奴の監視を頼む」

 

『りょーかい。ま、あんまり期待しないでおいてね』

 

中瀬川、と呼ばれた電話の向こうの主が雄輔の指示に的確に答えていく。声を聴く限り女性だということは間違いない。ただ、その女性が何処の誰で何故彼と関わりがあるのか。それはまだ誰にも分からない。

 

「My同志向坂を始めとした、我が腐れ縁の縁者達。彼らのHJSB加入で此方の守りは間もなく頑強なものとなる。そう、貴様がどんな手を使ってきたとしても無駄になる、と言う事だ」

 

「お前は信じないかもしれんが、これでも俺はお前のことを一番に思っての事なのだぞ」

 

そんな独り言を呟いて、席を後にした雄輔は、去り際に入り口近くで更に一言漏らした。

 

「向坂、お前は昔からの親友であることに変わりはない、()()()()()

 

 

                                        Shift14 To be continued...

 

 

Next Shift...

 

 

遂に決行されたPC部とHJSB間によるゲーム内の決闘。手に汗握る波乱の展開、次々と凶弾に倒されていく仲間達。そんな中、祐都と智佳の二人に勝機はあるのだろうか。そして、絶体絶命の窮地を前に祐都が出した秘策とは。

 

 

次回、パソコンのある日常、第15話「PC部 VS HJSB」。君は、生き延びることが出来るか。

        

 

 

 




SKOは《スカイクラッド・オンライン》の略です。突然略称表記して済まんかった。
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