パソコンのある日常-Daily lives of there's a personal computer- 作:海色 桜斗
「ふふっ、チェックメイトだね」
「くっ・・・・・・!」
彼女が俺の首元に刀を添える。持っていた双剣の内、一本は弾き飛ばされて手元になく、もう一本は刀身が欠けて半分になっていた。これは完全に積みだ。
「ホントはもう少し楽しみたかったけど、もうお終いかぁ・・・・・・ちょっと残念」
「腕には自信があったつもりなんだけどな。まぁ、アンタにやられるのも悪かねぇ」
「うん、私もキミと戦えて凄く楽しかった。それじゃあ――」
そこで一旦言葉を切ると、彼女は持ち手に力を籠める。死のカウントダウンは、既に目の前に迫っていた。
「バイバイ」
――そして、刀身が容赦なく俺を切り捨てた。
その出来事が起こる2時間前。日付は8月25日(日)、時刻は午前10時。遂にやってきた決戦の日、俺は電車に乗って大曲駅で降りると、例の基地へと足を運ぶ。駅の入り口近くで俺を待っていた智佳と一緒に。あれ、何かこの構図、前にも見たな。
「律義に待ってなくたっていいんだぞ、どうせ合流すんだから」
「べ、別にいいでしょ」
「ポカリで良ければやるよ、飲んどけ」
「ん、あ、ありがと・・・・・・」
おまけに何か台詞までほぼほぼ一緒な気がする。違う点と言えば、智佳の頬がほんのり赤く染まっていた位。体調、悪いのかな?
「顔赤いけど大丈夫か、体調優れない様なら休んでも良かったんだぞ?」
「だ、大丈夫、平気よ」
「そうかぁ?ま、本気で怠い様ならその時は言えよ。部屋までは送ってってやるから」
「大丈夫って言ってるのに・・・・・・馬鹿」
最近はあまりツンケンしてないが、何分俺の幼馴染みは変なところで意地を張るからな。もし、無理をしてるなら強引にでも連れ帰ってやる。歩きながら、そう思う俺であった。
「そういや、今日は鈴と一緒じゃなかったのか?」
「親友だからって四六時中一緒にいるわけじゃないし」
「まぁ、そりゃそうか」
「それとも何、祐都は鈴がいた方が良かったの?」
「そうだな、少なくとも賑やかしにはなる」
そんな俺の言葉に、智佳はムッとした表情で俺を睨む。えぇ・・・・・・何か悪いことしたっけ?
「いいわよ、どうせ私とじゃあんまり楽しくないんでしょ」
「いや、誰もそこまで言ってねぇだろ」
「何よ・・・・・・無理に気を遣わなくても分かってるんだから」
かと思えば、急にネガティブになる。何だろう、今日は何時にも増して情緒不安定だな。やれやれ、流石にこれ以上不機嫌になられると後で色々困る。何とか機嫌直してやらんとな。
「仮に俺がそう思ってたんなら、今もまだ仲違いしたままの状態にしてたと思うぞ」
「それは・・・・・・嫌よ」
「だろうな、俺もそう思う。お前に受けた恩も返せなくなるしな」
「恩・・・・・・私、祐都に何かしてあげた事あったっけ?」
「・・・・・・お前が忘れるようなどうでもいい事でも、その時の俺には救いだったんだよ」
女性が特に何を思ってやったわけでもない何気ない行動が、逆に男には刺さったりするものだ。此方側も別に意図はないが性がそれを忘れまいとする。尤も、俺のこれはそれとは全く別物かもしれないが。正直、自分でも説明がしづらいのでやめておく。ホント、オタクやってれば日に日に語彙力下がっていくね、面倒くさいったらありゃしない。
「そ、そう。でも、そこまで気負わなくてもいいわよ。本人が覚えてないんだもの」
「そういう訳に行くかよ。借りを作ったら返さなきゃ筋が通らねぇだろ」
「あー、もう。何でそういう時だけ異様に面倒くさい性格してるのよ、アンタは」
おや、今度は何か盛大に呆れられている。別に間違ってることは言ってないはずなのに、何故だ。
「それに、そこまで貸し借り気にする仲じゃないでしょ、私達は」
「いや、しかし――」
「はぁ・・・・・・いいから黙って聞きなさい、祐都ッ!」
「お、おう」
智佳が腕組みをしながら、俺に向かって一喝した。おいおい、びっくりしたなぁ、もぅ。あ、というかここのシーンも何か凄い既視感。えっと、今回って総集編でしたっけ(※詳しくはShift9へ)?
「確かにそれも大事だけど、勝手に押し付けられてるこっちの身にもなりなさいよ」
「というか、そこまで相手の事を考えられるんだったら、そんな考えにはならないはずよ。違う?」
「うっ・・・・・・実際、正面切って言われると確かにそうかもしれないな」
「そうかもじゃなくて、そうなの。気にするなとは言わないけど、最低限の折り合いは付けなさい」
あぁ、そうか。俺が彼女との仲違いを解消してまで彼女と交流をしたかったのは、恐らくこれに由来するのだろう。基本、人は他人の行動の悪い点をそこまで気にする訳ではない。俺とクラスメイトになって知り合ってきた者達がそうであったように。
ただ、彼女は・・・・・・智佳だけは違った。此方が何かやらかせば、きっちりと叱ってくれるし、只管こうやって真っ直ぐにぶつかってきてくれる。何でも言い合える友と言うのは本当に希少な存在だ。だから、そんな彼女との繋がりだけは決して失いたくはなかった。
「悪い、智佳。ちょっと自分勝手すぎた」
「別にいいわよ。祐都のそういうところ、き、嫌いじゃないし・・・・・・」
「ははっ、何だよ格好つかねぇな!」
「うっさい、馬鹿ッ!」
もしかしたら、俺は自分の想像以上に智佳に依存してしまっているのかもしれない。しかし、本当にこのままで大丈夫なのだろうか。智佳の奴に気になる異性が出来たら、当然俺はお役御免になる。その前に自分から断ち切らねばならないが、果たしてそれが今の俺にできるだろうか。
「ま、取り敢えず。今日の試合は絶対勝とうぜ、相棒」
「当然よ、足引っ張ったら許さないから」
いや、出来るかどうかじゃない。これだけは絶対にやらなければ。
「来たか、同志向坂。川知嬢も一緒のようだな」
その後、俺と智佳は町はずれの道を抜けてHJSBの基地へと辿り着く。部屋の中には既に雄輔を始めとする他3名が揃い踏みしていた。
「最近はちーも凄く積極的だから私の出番がなくなりそうで怖いなぁ」
「鈴ちゃんは十分キャラ濃いし大丈夫じゃないかな。俺の方が出番減りそうだもん」
「え、ホントに!?いやぁ、伊達にちーの親友やってただけあるなぁ、流石私!」
鈴がナツさんに褒められて(?)少しテンションが上がっていた。うーん、共感できるけど話の内容が内容だけにメタい、メタいなぁ。
「お腹減った・・・・・・」
そして、その隣では美月先輩がお腹をぐうぐう鳴らしながら、卓上に突っ伏していた。あー、成程。また数十時間にも及ぶ食べ忘れ状態でここまで来たという事か。本当にこの人、現状のままの一人暮らしで大丈夫なんだろうか、心配だな。
「何か作りましょうか?」
「祐都君お手製の鶏唐揚げが食べたい・・・・・・」
「流石にここじゃそれは作れないと思いますがね。雄輔、食料とか保管されてないか?」
「生ものはないが、確か惣菜パンぐらいはあった気がするな」
あるか分からない状態で聞いたけど、やっぱりあるんだな。流石は非公式情報処理部だ。もう、設定の枠を超えて何でもありである。
「じゃあ、それでいいや。適当なの幾つか持ってきてくれ」
「ふむ、了解した。少し待て」
雄輔はそれらが保存されている場所へ向かい、まとめて袋に詰めて持ってくる。美月先輩はそれを見るなり、目を輝かせて惣菜パンを貪り始めた。金曜日の帰宅後から、雄輔が貸し出してくれた訓練用のVRゲームをずっとプレイしては、就寝時間になったらログアウトしてそのまま寝、起きたらまたVRゲームに没頭する・・・・・・そんな日々を送っていたらしい。実に28時間ぶりの食事であった。
「HJSBプロトコル、オンライン。システム”オートダイヴ”起動」
『システム”Auto Dive”起動します』
「「「「「「リンク・スタート・・・・・・!」」」」」」
件の美月先輩がカロリーの補給を済ませると共に、向こう側との約束の時間になり、全員がVRゲーム内へとダイブする。そして、視界が完全にVR世界に切り替わった時、俺達から少し離れた位置にソイツ等はいた。
「約束の刻限ピッタリか、いい心がけだなHJSBの諸君」
「日頃の鬱憤を晴らすいい機会と聞いて。おまいら全員、壁パンの刑に処す」
「今日の俺はデータキャラだ。この試合、俺様達が99.9%の確率で勝つだろう」
「残りの0.01%の奇跡が起こって負けるパターンだぁね。賭けてもいいよ」
「祐都の野郎と藤堂は殺す、祐都の野郎と藤堂は絶対に殺す・・・・・・!」
やはり、彼方の面子はキャラ替え宣言している尚紀以外、全員が通常運転だった。さて、初の戦闘を前にして我が麗しの花は一体何をッ・・・・・・!?
「・・・・・・いい試合にしようね、祐都君」
彼女の姿を見た時、まず最初に目に入ったのは彼女が自分で選んであろう武器。それは刀だった。
「装備が刀と来ましたか。因みにそれを選んだ理由は?」
「こっちの方が使い慣れてるから、かな」
「成程、龍の装備が珍しく双銃なのは葵さんがそれを選んだからか」
「そう、意外だったかな?」
腰のあたりに刀を携えながら不敵に微笑む彼女の姿は、普段よりも凛々しく、恐ろしい程に美しかった。クラスメイトだから、憧れの人だからと言う理由で戦うのを躊躇えば、此方がやられる。あの中では一番ゲーム等に縁がなさそうな人物だが、油断は出来そうにない。
「アンタは私が倒すわ、祐都はあの廃人共を止めなさい」
葵さんの只ならぬ雰囲気に若干押され気味になっていた俺の背後から、智佳がヘヴィランスを構えて足早に俺を追い抜く。その鋭い視線を葵さんに向け、宣戦布告のような台詞を吐き捨てると彼女のいる場所からすこし手前で立ち止まり、仁王立ちをした。
「川知さん、だったかな。丁度良かった、私も貴方と一度手合わせしてみたかったかも」
「そ、じゃあ、この私と二度目をやりたくないってくらいコテンパンにしてやるから。覚悟しなさい」
「・・・・・・」
「・・・・・・ッ!」
互いに向き合って相手と一言二言交わした時、一瞬にして両者の間に火花が散り始める。あ、あの、君等対立してるシーンなんて今までの話の中にありましたっけ。無いよな、無かったよな。おい作者ァ、変なところで突然勝手に何かを展開させる癖、いい加減直せよ。
「フ、念の為祐都には伝えておくが、彼女・・・・・・葵さんは強いぞ」
「マジか・・・・・・お前がそう言うなら事実って事だな」
「あぁ、葵さんはこう見えてSKOのPvPイベントの上位ランカーだ。プレイヤー名yakumoと言えば、少しは聞き覚えがあるだろう?」
「な、何だって、葵さんがあの《連鎖の乙女》のyakumo!?」
《連鎖の乙女》yakumo。SKO内で噂の絶えない超伝説級の有名人で、ギルド《修羅の国》所属のプレイヤーの一人。栗色の長い髪をしていて、特徴的な眼鏡をかけ、セーラー服を纏った女性アバター。
二つ名である《連鎖の乙女》の由来は、彼女の使用する武器「連鎖刀アイヴィスチェイン」の見た目にある。持ち手と鞘に鎖が巻き付いているという少し不気味なデザインとなっているが、その人気は彼女のお陰もあってか依然として高い。因みにそのイベントクエストの名前は『地獄より来たりし楔』という如何にもなタイトルで、難易度は超高難度。しかも、そのイベントで登場する限定BOSSモンスターが極僅かな確率でしか落とさないのだ。そんな最も入手困難とされるレジェンド武器を彼女だけが所有出来た。故に、連鎖刀に選ばれた乙女、という意味を込めてそう呼ばれている。
「という訳だ、智佳。こっち来い」
「えっ、ちょっ、ちょっと、祐都!?」
葵さんの前に立ちはだかる智佳の手を掴み、葵さんとPC部メンバー達から離れたところに連れていく。HJSB一行は何故かニヤニヤとしていたが、気にしている暇ではない。
「智佳、さっきの俺と龍の会話は聞いてたか?」
「な、何の事・・・・・・?」
「お前が喧嘩吹っ掛けた相手が只者じゃねぇって話だよ。彼女、PvPの上位ランカーらしい」
「そ、そうなの?でも葵ってそんなイメージないって言うか・・・・・・」
智佳を壁際に立たせて、俺はその前に立って話をする。見ようによっては今流行りの「壁ドン」をしているように見えなくもない。またしても、自分の無自覚なところで相手を更に意識させてしまっていた。しかし、やはりと言うべきか、この時の俺はそれに気付いていない。
「お前の実力を疑ってるわけじゃないが、ここは俺とお前の二人で相手取る。それでいいな、智佳」
「わ、分かったわよ。だ、だから、その・・・・・・一旦、退いてくれる?」
智佳がそう言って、上目遣いで俺を見つめる。一点の濁りもないその綺麗な瞳に危うく吸い込まれそうになるが、何とか理性を総動員させて、彼女の前から退く。
「わ、悪い。強引すぎたな、忘れてくれ」
「あんなの、忘れられるわけないじゃない・・・・・・馬鹿」
先程の状況のこっ恥ずかしさを漸く理解して、互いに少しぎこちなくなる。だが、今いる場所が戦いの場だという事を思い出し、俺は咄嗟に頬を手で叩き、現状の本題に向き合うよう無理矢理思考を其方に向けた。
「ん、ん゛ん゛っ・・・・・・さて、準備は出来たか、HJBS諸君」
「あぁ、同志もこの通り彼方の世界から帰ってきたようだしな。始めようか、PC部の精鋭達よ」
「ルールは簡単だ、制限時間は今より2時間半後。それまでに両陣営のどちらかが全滅、或いは両陣営のどちらかのリーダーが討ち取られれば、倒した陣営側の勝利となる」
「それでは、『Survival Infinity』稼働テスト戦、開始だ!!」
そして、遂に戦いの火蓋は切って落とされた。先程まで何もなかった電脳空間が現実の景色とそっくりのフィールドに更新されると、PC部とHJSB、2つの勢力に所属する各メンバーが、各自の指定エリアに散開する。今回のフィールドは俺達にとって最も馴染みのある市立夢島高校の敷地内周辺。よし、先ずはあの中で一番やりやすいアイツを仕留める・・・・・・!
「ふひゃはははははっ、流石は俺様の見込んだ戦友だ、最初に俺様を選ぶとはなァッ!」
その刹那、奴がいつも持っている大斧が俺のいる方へ真っ直ぐ飛来してくる。俺は、その飛来物を手持ちの双剣で受け流し、奴へと返す。大方の予想通り、俺の配置位置から一番手前に奴を置いてくるとは。分かってんな、龍。
「初手にしちゃあお互いに悪く無い相手だ。だろ、尚紀?」
「そうだな。その礼として、貴様を地獄に送ってやるぜぇぇぇぇぇ!!」
接敵すると同時に奴から繰り出された、大斧による無数の波状攻撃。奴が狙いを定めて俺の位置を正確に狙ってくる。だが、俺もそれしきの動きに対応できない程、ゲームに精通していない訳じゃない。
俺はその連撃を
――避け、
――躱し、
――捌き、
――鍔迫り合う。
「そうだ、そうじゃなくちゃあな!いいぜぇ、俺様を100%楽しませてみろぉぉぉぉッ!!」
「ッ・・・・・・!」
と、試合開始前に言っていたデータキャラだったことを思い出した尚紀は、そんな台詞を吐き出す。しかし、分かってねぇな、尚紀。お前のそのこういうところに熱中して周りが見えなくなる癖はもうお見通し。つまりお前は今、俺が狙った作戦地点にまんまと誘い込まれているんだよ、馬鹿め!
「オラオラァ、どうしたァ!?そろそろそっちから仕掛けてこいよ、戦友よォ!!」
「・・・・・・作戦名〈オペレーション・ムーンビューティ〉、開始だッ!!」
「あにぃ!?」
作戦開始地点到達後、木陰に隠れて待機していた美月先輩が飛び出し、姿を現した。そして、それを見た尚紀の動きが止まった。ちょっと卑怯な作戦だが、許せよ尚紀・・・・・・!
「し、しまった、囲まれた!そんでもって、御姉様を倒すなんて俺様にはできない・・・・・・!」
「美月先輩、そのまま惹き付け頼みます!」
「あぁ、了解したぞ、祐都君」
「ち、畜生!こんな戦い方、俺様のデータにないぞ!?」
「なら、さっさと・・・・・・急造したデータキャラ止めちまえぇぇぇぇぇぇぇッ!!」
双剣を構える。俺の視線は真っ直ぐに尚紀を捉え、肉薄する。尚紀は咄嗟に斧で防ごうとするが、もう遅い。双剣の片方を大斧の隙間に突き立て、もう片方を握り、背後に回る。
「龍、鳴島、水鳥ィ・・・・・・やられ千葉ァ!?」
その言葉を口にして、尚紀は見事に俺の振るった剣に切り裂かれ、消滅した。あと5人、か。
「美月先輩は次の地点へ向かってください、俺は引き続き周辺を探索します!」
「分かった、気を付けるんだぞ、祐都君」
美月先輩からのエールに励まされて、俺は再び周囲を警戒する。恐らく、こんな分かりやすい配置で尚紀を置いたのは奴が囮とする為。だとすれば本命は――
「そこか・・・・・・ッ!」
夢島高校別棟の傍の木の陰、そこに向かってサブ装備のピンを投げる。すると、ガサガサッと木の葉が揺れ、迷彩色の衣装に身を包んだ鳴島が姿を現した。
「チッ、俺としたことが既に気付かれてたなんて失態だったのだぜ」
「言ったろ、テメェらとは長い付き合いだから大体の思考は読める、ってな!」
飯島が適度に俺から距離を取りながら次々に放ってくる暗器を躱す。流石はSKOで暗殺者のクラスをセレクトしているだけある。これは奴が全ての暗器に何かしらの状態異常にしてくるアビリティを仕掛けてるに違いない。だが、しかし。
「例え見た目に似合わず高殺傷力の暗器でも、当たらなければどうと言う事はない」
「やはり連投だけでは仕留められんお。ならば、秘術・霧隠れ・・・・・・!」
鳴島の姿が消えると同時にフィールド上に濃い霧がかかり、視界が周囲の状況を確かめられなくなる。くっ、奴の十八番の芸当にまんまと嵌められてしまった・・・・・・!
「おまいの強力な双剣もこの霧の中じゃ恐るるに足らず・・・・・・漏れが何処だか分かるかお?」
視界の悪い中で、再び鳴島の放った暗器が俺を襲う。さっきよりも命中精度を上げに特化させた為本数は少なくなるが、それでも一本一本が凶器となりえる代物だ。下手に当たるわけにはいかない。
「・・・・・・(視界に頼っても駄目だ。なら、奴が発している(リア充に向けての)殺気を読むしかない)」
探し当てろ、現実では出来ない真似もこのVR空間なら可能なはずだ。奴の気配遮断スキルはSKOでは天下一品だが、典型的な非リア充のリア充に対して向けられる妬みと嫉み。それだけが奴の唯一の欠点だ。それをより引き立てる為には。
「合わせろ、智佳ァ!」
「んな大声で叫ばなくても分かってるわ、よッ!」
待機場所にサブウエポンの長銃が持つステルス状態になり、気配を消すことが出来るスキルを使って隠れていた智佳が勢いよく飛び出し、俺と背中合わせの状態になる。どうだ鳴島、完全な暗殺者になれないお前にこの状況が看破できるか!?
「簡単な話、ならばおまいを嫁ごと葬る・・・・・・!」
成程、そこか。大凡の位置が分かれば、後はこっちのもんだ。鳴島、打ち取ったり!
「智佳、スナイパーライフルを構えろ。そんで、南東の方角に80度回頭。いいな?」
「分かったわ、南東の方角80度、転換・・・・・・!」
「座標修正、オールクリア。3・2・1、発射ッ!」
智佳のスナイパーライフルから発射された銃弾が俺が指定した方角に真っ直ぐ飛んでいく。その弾の方角へ俺は一気に跳躍した。
「やれやれ、この霧の中では流石にアイツらも・・・・・・ぐっ!?」
見事、鳴島の脳天をスナイパーライフルの弾が打ち抜き、ふらつく。術者がダメージを受けたことで辺りを覆っていた霧が晴れていく。そして、アイツの視界が元の景色を捉えた次の瞬間。
「チェックメイトだ、鳴島」
「ちょっ、マジ、ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
一閃。俺の双剣が無慈悲な連撃を奴に直接叩き込み、装甲の薄い暗殺者を葬った。俺の視界も完全に元に戻り、智佳の元まで足早に向かう。これで2人目か。
「ナイスフォローだったぜ、智佳・・・・・・って、何だ、もう一人いたのか」
「みたいね。まぁ、猪狩り程余裕なものもないけど」
「畜生・・・・・・がッ!」
もしもの保険として鳴島と徒党を組んでいたらしい修二は、俺が鳴島を獲りに行った後に、奇襲を仕掛けるも敢え無く智佳のヘヴィーランスに潰されてしまったらしい。これで3人目、か。
『仲睦まじいところ、失礼するぞ同志よ。たった今、俺と鈴で優海嬢を墜とした。残るは2人だな』
すると、雄輔から連絡が入り、4人目の撃破が伝えられた。後は葵さんと龍だけか。
「そんなに余裕かましてるとやられるぞ、どっちも強いんだからな」
『そうだな、ここは慎重に行きたいところだ』
「恐らく龍の奴は全員倒すまで出てこないつもりだろ。なら、やるべきは一人だ」
『ふむ、葵嬢か。手厳しそうだな、急いで其方に合流するとしよう』
「頼んだぜ、リーダー」
雄輔との通信を切り、指定された目標地点へ智佳と共に進む。ここまでは順調だったが、此処から先はきっとこういう風にサクッと進めたりはしないんだろうな。そんな事を思いながら、暫らく歩を進める事、数分。場所は俺達の高校の敷地内の中でも最も有名なパワースポットとされる伝説の桜の木、通称「百年桜」のある場所へと辿り着いた。
「おぉっ、すげぇ・・・・・・!」
「き、綺麗・・・・・・!」
百年桜の圧倒的な雰囲気を前に俺達は、思わず息を飲む。現実世界であれば、季節はもう夏だから花が散って青々とした葉桜が生い茂っている事だろう。だが、このVR空間で再現されたこの場所は春の時期の丁度満開の状態の百年桜の姿が切り取られていたのだ。
「この木の下で告白すれば、恋が成就する、か。根拠のない只の噂だが、良い景色なのは間違いないな」
「え、あの伝説って嘘なの?」
「ああ、ここの山を元々管理してた爺さんに聞いたら、少なくともそんなロマンチックなもんではないんだとさ」
最初は、厄災を払う為のシンボルとして建てられたこの木。それが、夢島高校側へ土地を売って、学生が入ってきた瞬間に、そんな何処からか聞いたか分からない、根も葉もない噂が広がったんだとか何とか。要するに、歴史の長い学校とかによくある伝説に憧れたこの高校のOB達の誰かが銘打っただけの中身の伴わない噂、それが独り歩きして現在に至るという訳だ。
「そっか・・・・・・それは残念ね」
「・・・・・・智佳は、好きな奴とかいないのか?」
「はぁ!?な、何でそういう話になるのよ!?」
「いや、何か興味ありげに見てたから、もしかしたらと思ってな」
もし、智佳の奴に本当に好きな男がいるとするなら、そうだな。せめて、修学旅行が終わるまで。その時まで居てくれれば、俺は胸を張って智佳をソイツの元に送り出せる。そんな気がした。
「・・・・・・い、いるわよ。一人だけ」
智佳が顔を赤らめて、そんな事を呟く。やっぱり、いるのか。そりゃあそうだ、これ程美しくて可愛い、そんな素材の良さを持っているなら、散々言い寄られて、その中に好みの異性を見つけてもおかしくはない。その返事を聞いた瞬間から変に痛みだした胸に疑問を覚えながら、俺は笑い返した。
「いや、普通一人だけだし。そんな何人もいるわけねぇだろ」
「う、五月蠅いわね、言葉の綾よ!」
「そっか。・・・・・・なぁ、智佳。なら、せめて修学旅行の時くらいまでは一緒にいさせてくれよな」
「は、突然何おかしなこと言って――」
俺の発言に異を唱えようとした智佳が何かを言い返そうとしたその時、通信機器が突然けたたましい音を立てて鳴った。緊急通信・・・・・・くっそぅ、よりによってこんなときか・・・・・・!
『ゆ、祐ちゃん!?こ、此方夏希。ごめん、葵さんと龍君に見つかっちゃった・・・・・・!』
「な、何だって!?」
『今、比賀乃先輩と一緒に逃げてるんだけど、凄く早くて・・・・・・う、うわぁぁぁぁぁぁぁっ!?』
向こうで爆発音が聞こえたと思ったらブツッ、と音を立て、通信機が強制的に切れる。同時に、生存者リストのナツさんと美月先輩の欄が赤くなり、戦闘不能の文字が表示された。
「ナツさんと美月先輩がやられた・・・・・・行くぞ、智佳!」
「了解よ。気を付けながら進みましょう、祐都」
ナツさん達の反応が最後に消えたエリアまで走って向かう、俺と智佳。その途中、今度は雄輔から通信が入る。逸る気持ちを抑えながら、俺は通信に応じた。
『同志、其方は無事か』
「あぁ、だけどナツさんと美月先輩がやられた!気を付けろ、アイツら、二人がかりで来てるぞ!」
『最後まで様子見しているかと思ったら、もう動いたか。仕方あるまい、残った我々で仕留めるぞ』
「油断してやられんなよ、あの二人相手は流石の俺と智佳でもキツいからな・・・・・・!」
『フ、了解した。心配するな、同志に後れは取らんよ』
『向坂、ちーの事は任せたよ!私も何とか粘ってみるからフォローよろしくね!』
「了解・・・・・・!」
今のところ両名とも無事だったらしい。俺はホッと胸を撫で下ろし、道中を急ぐ。まだ油断はできない、もしかしたら今はもう二手に分かれて一気に此方を制圧する気かもしれない。
「向かうとしたら、雄輔達の方に葵さんが行って、こっちに龍が来るかもな」
「・・・・・・祐都、残念だけどそれ、外れみたいよ」
「は?何が・・・・・・って、危ねッ!?」
智佳が意味深な言葉を呟いたその瞬間、俺が装備しているのと同じサブウエポンのピンが顔の横を掠める。咄嗟に気付いて顔を逸らしてなければ、脳天を貫かれて即死だった。
「あーあ、残念。当たると思ったんだけどなぁ」
「その声は、葵さん・・・・・・!」
「でも、流石祐都君だね。SKOでも隠れた英雄としてちょっと人気なんだよ、キミ」
プールの授業で使われる男女更衣室の裏手から彼女はゆっくりと此方に姿を現す。俺が普段から目にしてきたあの優しさに溢れた眼差しではなく、純粋に獲物を狩る者の目。それが目の前の俺と智佳を交互に見据えた。
「はっ、別にどっかのアニメみたいに首謀者の運営討った訳でもねぇのにな」
「うん、確かにね。でも、その双剣を使って色んなボスを攻略して回る様がそれに見えたんじゃないかな。だって、ほら、SKOのプレイヤーって大体の人がそれに影響されてたりするから」
「違いねぇ、日本人はどいつもコイツも雁首揃えて厨二病だったりするからな」
「へぇ、じゃあもしかして、私もそういうのだったりするのかな?」
まだ彼女と剣戟を交わしたわけでもないが、何と言う威圧感。恐らくこの日常的な風景で刀を携える姿の不気味さ故に感じるものもあるが、これが彼女の本質か。
「そうだな、葵さんも大概かもしれないな」
「ふーん、そっか。じゃあ、今日はちょっと優しくできないかも。だって、今私、祐都君と戦えることにワクワクしてるんだもん・・・・・・!」
重い一撃。気配を読んでギリギリ防ぐことは叶った。だが、何て速さだ、刀を抜いた姿さえ捉えられないとは。ええい、PvPのトップランカーは化け物か!?
「これでも・・・・・・喰らいなさいッ!」
「・・・・・・!川知さんか、ちょっと今は邪魔しないでもらえる、かなッ!」
「かはっ・・・・・・!」
俺に斬りかかってきた葵さんの死角からヘヴィーランスを投げ付ける智佳。しかし、その一撃は呆気なく葵さんに防がれると、彼女の刀で跳ね返されたそれが智佳の元へ飛んでいき、不意を突かれた智佳はランスと共に近くの外壁に叩きつけられた。
「智佳・・・・・・!」
「余所見してる場合じゃないよ、祐都君。ううん、ファイア君!」
「その名前で呼ぶかよ、ヤクモさんよぉ・・・・・・!」
何とか此方に食らいついてきた葵さん・・・・・・いや、ヤクモを払うことが出来た。しかし、まだ倒せたわけではない。どうすれば突破できる、考えろ、俺・・・・・・!
「うんうん、やっぱり藤堂君と比賀乃先輩とは大違い。龍君に頼んでキミを譲ってもらった事、感謝しないと・・・・・・ねッ!」
「ははっ、そういう事かよ。やっぱこれも全部龍の目論見通りって奴か、気に入らねぇな・・・・・・!」
試合始める前のあのやり取りを見て、その方が面白いだろうと思った龍が仕組んだことだとしたら、実にアイツらしいやり方だ。葵さんのヤクモになりきった時の本質を見抜いて、その他のメンバーを全て囮として総動員するとか、相変わらず恐ろしい親友だよ、お前は。
「容赦ねぇな、流石は《連鎖の乙女》。噂以上の強さだ・・・・・・!」
「そういうキミもやっぱり強いね、流石は《深紅の獄炎》・・・・・・!」
深紅の獄炎。それはまだSKOがβテストの段階だった頃、鳴島や修二達と共に只管ダンジョンに潜って敵を狩り倒し続けていた時に他のβテストプレイヤー達から付けられた俺の二つ名だ。ネット内で有名になる事を恐れた俺は、βテストから本サービス移行時に、それまで使っていたプレイヤーネームの《ゴクエン》を《ファイア》に変え、アバターの姿形をも一新してプレイに打ち込んだ。それでも、本サービス開始の後も同じメンバーで狩りを続けた為、一部の聡い者にかかれば、プレイヤー《ファイヤ》がβテストプレイヤーの《ゴクエン》だと気づかれるのも無理はないが。
《連鎖の乙女》と元《深紅の獄炎》が切り結んでから既に1時間が経過し、場面は冒頭のシーンに戻る。今更どう足掻いても打つ手なし。後はこの首に刀が振り下ろされるのを待つだけ。
「(憧れの人に倒されるとか、役得以外の何物でもねぇよな・・・・・・)」
ふと、そんな事を思う。しかし、彼女はまだ気付いていない。いや、正確にはこの俺の存在という価値観が凄く高い状態にある彼女は忘れているのだ。この場に、もう一人居合わせたことを。
「(けど、誇り高きゲーマーとしては、そんなのは死んでも御免だぜ・・・・・・!)」
現実で殺されかけてる訳でもなければ、彼女が実際に自分に殺意を向けてきているとかそういう訳ではない。これは所詮VRゲーム内での戦い、ならば此方も相応の戦いぶりを見せよう。それで彼女が満足するならば。
「寸前のところで悪いな、ヤクモ。この勝負、俺達HJSBの勝利だ・・・・・・!」
「・・・・・・っ!?」
Shift15 To be continued...
Next Shift...
PC部とHJSB、2つの勢力のゲーム内の闘いの終局は、SKO内において最強と謳われた謎の女性アバターyakumoの主・瀬野葵の勝利で終わるかと思われた。しかし、そんな彼女を祐都の最後の手段が無情にも全てを貫いたとき、その場にいた者達は何を見るのか。
次回、パソコンのある日常、第16話「両手には《用紙》 唱えるは《略図》 背中には《自家製ロンT》」。今、情報が