パソコンのある日常-Daily lives of there's a personal computer-   作:海色 桜斗

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タイトルはアレですが、普通に重要な回です。お見逃しなく。


Shift16「両手には《用紙》 唱えるは《略図》 背中には《自家製ロンT》」

「寸前のところで悪いな、ヤクモ。この勝負、ギリギリで俺達の勝利だ・・・・・・!」

 

「・・・・・・しまっ、川知さんが!?」

 

俺との戦いに夢中になっていたヤクモの隙を付き、ヘヴィーランスごとヤクモに吹き飛ばされて気を失っていた智佳が目を覚まし、サブウエポンのスナイパーライフルに持ち替えたのを確認した。彼女に目配せをすると、それだけで何をするべきか見当のついた彼女は、即座にハイドスキルを使用。近くの草陰に身を隠すとライフルで狙いを定め、ヤクモの持っていた刀を吹き飛ばし、同時に脚部を打ち抜く。

 

「今は一対一のPvPじゃないのよ、上位ランカーさん」

 

ヘヴィーランスに持ち替え、それを思い切りぶん投げる。愛刀を失ったヤクモは防ぐ術もなく、それを身に受け、更衣室の壁に激突した。俺は、折れた剣を構え、ゆっくりとそこへ歩み寄る。

 

「状況逆転。チェックメイトだ、ヤクモ」

 

「やられちゃったか・・・・・・でも、いい試合だったね」

 

「あぁ、部の活動でまさか伝説級のSKOプレイヤーに出会えるとは思わなかったがな」

 

「それはこっちの台詞だよ」

 

メニュー画面でリタイヤ宣言をした彼女の手を引き、その場に立たせる。そして、そのまま握手を交わしたところで、雄輔から連絡が入った。

 

『其方も上手く行ったようだな』

 

「って事は、そっちもいい結果は残せたんだろうな?」

 

『無論、俺と鈴でPC部リーダーの篠崎を倒した。つまり、この一戦、我々HJSBの勝利だ・・・・・・!』

 

 

そんな所属陣営側の勝利宣言から翌日の事。何時ものように俺は学生寮を飛び出し、学校を目指す。何かで勝ったとか負けたとか、そんなくらいでは学生のこの基本習慣は絶対に揺らぐことはない。普段通りの朝が来た。

 

「しかし、アレだな」

 

まさか、密かに昨日の決戦の舞台ともなった場所に行くことになるとは。パソコン部所属メンバーとHJSB所属メンバーしか知らない限定的な聖地巡礼。いつもと変わらぬ景色も何だか特別に思えてくるから不思議なものである。

 

「あ、向坂君、おはよー」

 

「おう、おはよう。月曜日は朝から辛いな」

 

「あはは、そう言う向坂君は元気そうだねー」

 

「ちょっとばかし週末にいい事があったもんでな。そのせい、そのせい」

 

登校途中にクラスメイトの女子と遭遇し、一言二言交える。非リア充とはいっても、最低限の周囲との交流を絶ってはいけない。闇の中学時代から学んだ俺自身の教訓である。

 

「おはよう、向坂。また怠い一週間が来たな」

 

「おはようさん。こればっかりは回避できねぇし、仕方ねぇよ」

 

「あー、家で一日中ゴロゴロしてぇ・・・・・・」

 

「おいおい、何処のニートだよ」

 

幸い、俺の周囲は皆、良くも悪くもあまり垣根を作らない奴らばかりだ。昨今に始まったことではない虐め問題が未だに蔓延るとはいえ、我が校はそれとは無縁に只管平和な学校であった。

 

「あ、祐都君だ、おはよう」

 

「通学路で会うの珍しいっすね、葵さん」

 

「えぇー、偶に会ってるじゃん。酷いなぁ」

 

クラスメイトで昨日の時点で同じパソコン部員になったことが発覚した、葵さんと遭遇する。うん、今日も今日とて可愛い。だがしかしだ、昨日の戦いの後にこの人と会うと何か自然と身構えちまう。

 

「あ、そうだ。葵さん、これ、もし良ければ」

 

「わ、刀のキーホルダー?凄い、カッコいいね!」

 

時に人とは好奇心に抗えなくなる獣である。昨日の豹変ぶりがまた見たくなって、実物の刀は持ち込めないので、よくお土産売り場で売っているような刀のキーホルダーを葵さんにプレゼントする。実は、昨日の帰りに見かけて買ってみただけの奴なんだが、どうだろうか?

 

「・・・・・・」

 

「えっと、どうかしたの?」

 

「あ、いえ、何でもないっす」

 

流石に互いに認め合ったとは言え、昨日の今日で掘り下げようとする魂胆を見透かされるわけにはいかないと思い、慌てて誤魔化した。だが、その態度が逆によろしくなかったのか。葵さんは俺の顔を不思議そうにじっと見つめた後、ニヤリと笑った。

 

「へぇー、さては私のアレが見たかったのかな?」

 

「な、何のことだか・・・・・・」

 

「でも、残念。実物の刀かVR内でのあの子に会わないと、気分乗らないんだよね」

 

「・・・・・・何それ怖い」

 

如何やら、俺みたいな奴が彼女の側面を上手く引き出せるようになるには、まだまだ修行が足りないらしい。こういう計算分野でも強い辺り、流石は高嶺の花である。存外に性格が身近過ぎたりもする・・・・・・というか、もしかしなくてもちょっと出てません、側面。

 

「クラス内では、内緒だよ♪」

 

「サー、イエス、サー!」

 

他の連中にやってるように無意味にはぐらかすと、葵さんの場合は後が怖いので、全力で同意しておく。いや、正確には普段の葵さんではなく、ヤクモモードの葵さんだが。

 

「でも、思い切ってパソコン部入ってみて良かったぁ」

 

「それは何より。葵さん程の人なら龍の奴も即採用したでしょう?」

 

「えっ、パソコン部入るのに龍君の審査が必要なの?」

 

「審査、というよりも、アイツの優秀な人材を確保する第六感での測定ですけどね」

 

奴の中で何時どんな時にどういう審査が行われているかは謎だが、実際、パソコン部に所属する現メンバーは誰もが何かしら部の活動へ貢献出来る、優秀な面を持ち合わせているのも事実だ。

 

本人はプログラマー顔負けの凄腕、鳴島はセキュリティ界のイージス製造機と呼ばれる腕前、修二は映像・画像編集の達人、俺はプレゼンテーション資料の作成技術、尚紀は各陣営のサポートと新作アプリ・ゲームの試運転、優海さんは各メンバーのメンタルフォローとケア、慧巳さんはもしもの時の相談役、麻衣ちゃんはSNS内での情報発信・需要調査・・・・・・等々。各個人の個性を活かした役割のサイクルが常に循環しているのである。

 

「今日の放課後は『Survival Infinity』についての資料まとめになりそうっすね。辛み」

 

「そっか。じゃあ、その作業、私も手伝うね」

 

「いいのか・・・・・・?だったら、助かります」

 

「何なら、より深くまとめる為に、私ともう一戦交えてもいいんだよ?」

 

やっぱり葵さんは優しいなぁ、と思ったら本音はそっちか。余程、俺と再戦したい様だ。

 

「・・・・・・朝から通学路で何て話してんのよ」

 

葵さんとの和気藹々(?)とした会話を楽しんでいると、俺の横にもう一人の女子生徒が呆れた顔をしながら近づいてきた。葵さんと同じくクラスメイトの川知智佳だ。現状で所属しているHJSBの団員同士でもあり、幼馴染みでもある。

 

「何て話も何も、普通の友人同士の話だが?」

 

「うん、何もおかしなこと言ってないよね?」

 

智佳の発言の意味が良く分からなかった俺は、智佳に対して質問する。葵さんも同じく理解に苦しむ、といった様子で智佳に質問をしていた。

 

「何時から友達になったのよ、アンタ等」

 

「え、人に言えない秘密を共有した時」

 

「SKOのヤクモが私だって言うの祐都君達にしか言ってないしね」

 

「「ね~?」」

 

俺と葵さんは息ぴったりにハイタッチする。憧れの人と距離が近くなったような感じがして、個人的に何か凄い嬉しい。やっぱり、持つべきものは趣味を共有できる友人だな!

 

「そんなシーン挟んでもないのに脈絡もなく仲良くなってんじゃないわよ、廃人共」

 

「ギャルゲーじゃねぇんだから、そんなの一々挟む必要ねぇだろ」

 

「そうそう。そういうのは後で幾らでも回収できるんだから」

 

「「ね~?」」

 

「キレそう」

 

そんなに妬くなよ、智佳。葵さんの中では、俺だけじゃなくてあの場に居合わせた全員が友達ってことになってるんだからお前も勿論対象内なんだぞ、もう少し喜べよ。

 

「何で私の時は普通にしてる癖に、葵の時はデレデレしてんのよ・・・・・・」

 

「・・・・・・?何か言ったか?」

 

「別に、何でもない。ふんっ・・・・・・祐都の馬鹿」

 

よく分からないが、更に不機嫌になってしまった様だ。ううむ、訳が分からん。

 

「あ、そうだ。よく考えたら、川知さんは私の事『葵』って呼んでくれてるのに、何時までも私が『川知さん』呼びじゃ不自然かも」

 

「普通に『智佳ちゃん』とかでいいんじゃないっすか?」

 

「うーん、それもいいけど。もうちょっと特別感が欲しいなぁ」

 

まぁ、そっとしておけばその内機嫌直るだろ。そう思って、俺は葵さんの智佳をどう呼ぶか、という相談に乗ることにした。特別感、特別感ねぇ・・・・・・。

 

「親友の鈴はよく『ちー』って呼んでますが、それを参考にしてみては?」

 

「あー、いいね、それ。じゃあそうだなぁ・・・・・・あ、『ちーちゃん』とかどうかな?」

 

「おぉー、一気に特別感出ましたね。それでいきましょう」

 

憧れの人を前にすると、俺は如何やら全肯定botと化してしまうらしい。それは友達となった今も変わりがないようで。自分で言うのもなんだけど、俺結構単純な性格だなぁ、おい。

 

「それじゃあ、えっと・・・・・・ちーちゃん?」

 

「勝手に人の呼び名決めてんじゃないわよ」

 

「えぇ~、でもそれじゃあ、私だけ浮いた感じになっちゃって寂しいなぁ」

 

「・・・・・・じゃあ、もういいわよ、それで」

 

「わぁぁ、本当!?ありがとう、よろしくね、ちーちゃん!」

 

智佳本人からの承認をもらって、ご機嫌な葵さん。その素敵すぎるスマイルを振りまいて、智佳と握手を交わす。智佳の方はというと、若干照れ臭そうにしながらも握手に応じていた。分かる、分かるぞ、お前の気持ち。あの笑顔は反則級だよな、120円どころかプライスレスだよな、うん!

 

「何でこんなにぐいぐい来るの、この子?」

 

「それが葵さんの魅力なんだよ。ヲタク殺しというか何というか」

 

「その程度じゃないでしょ、あれは。軽くイベント限定特攻よ、100%位は上昇してるわ」

 

そんなゲーマーじみた発言を智佳がボソッと呟いた。何だ、お前も同類じゃないか。

 

 

「我が高校の情報処理科の生徒の技術力はぁぁぁ、世界一ィィィィィ!!出来んことはない」

 

時間は飛んで、本日の4時間目の授業の事。情報処理の授業が開始すると共に、学校一の熱血漢と呼ばれるルドガー教師のクソデカボイスが炸裂した。出来る事なら、もうちょっと声質を下げてもらいたい。授業するならまだしも、今日自習の時間だから猶更。

 

「誰しもが誇れる技術力持ってると思うなよ、マジで」

 

「何を言うか。お前だって、動画サイトのMAD作者並みの編集力持ってんじゃん」

 

「あ゛ぁん!?趣味以外で使う気になれるかよ、クソが」

 

「お前は出てくるたびに暴言吐かんと死ぬのか、修二」

 

俺は、出番毎に暴言吐かないと死ぬ死ぬ症候群に罹っている、友人でクラスメイトの修二と会話しながら、授業を受けていた。ま、授業でやる範囲位なら内容聞いてなくても余裕で出来るんですがね。だからといって、サボると内定に響くからちゃんと受けるけど。

 

「ねぇねぇ、祐都君。此処ってどうやればいいか、分かる?」

 

修二の相手をしていると、少し離れた位置に座っていた葵さんがローラーの付いた椅子毎、此方に近寄ってきて操作の仕方を聞いてきた。面倒くさいのは分かるけど、せめて椅子は置いてきましょうよ、葵さん。可愛いからいいけど!

 

「どれどれ、何処っすか・・・・・・あー、ここはちょっと複雑なんだが、こうして、こうする、と」

 

「ホントだ、凄い、上手くいった。ありがとう、祐都君」

 

「いえいえ、どういたしましてー」

 

再び椅子毎、自分の席へ戻っていく葵さんを見送って、作業に取り掛かろうとすると、やはりと言うべきか。修二が此方に対して睨みを利かせていた。

 

「おい、お前・・・・・・態とか?」

 

「何でそうなる。葵さん的にはPC部所属のお前も友達のカテゴリには入ってるぞ、きっと」

 

「ば、馬鹿野郎、分かってるさ。ただ、やっぱりお前に聞くんだな、ってよ」

 

「そりゃあだって、加工処理が得意だけどExcel不得手な奴にExcelについて聞くかよ、普通」

 

それも分かってる、とは返してきているものの、特定の異性と距離が近くなってちょっとドキドキしている我が友の態度に普通に引いた。妬み嫉みブラザーズな印象が強いが、コイツ、アレだな。実は男女関係において最も単純な奴でしたってオチね。俺もそうだけど。

 

「Excel使えれば、モテんのか!?なら、Excel教えろや!」

 

「それが人にものを頼むときの態度かよ・・・・・・で、何処を教えればいいのさ」

 

「そりゃあ、テメェ、全部だ」

 

「基礎部分はせめて自分でやれよ」

 

お前それでも情報処理科の生徒ですか、と突っ込みたくなるような発言をする修二。そんな彼に呆れつつ、親身になって教えていると、再び俺の元に来訪者が。

 

「・・・・・・此処、教えなさいよ」

 

「お前のそれも、人に頼むときの態度じゃあないよな」

 

「う、五月蠅いわね。いいから、ちょっと教えてよ」

 

それは、紛れもなくヤツさ。そう、智佳だ。しかし、何で俺の周りってこんなに頼む態度に難ありな奴ばっかなのか。俺が甘やかしてるせいもあるのか、そんな馬鹿な。

 

「分かったよ。で、何処だ」

 

「此処よ、此処」

 

「あー、成程、計算式が違うな。お前の席何処だっけ?」

 

「向こう。付いて来てよ」

 

「ほいほい、っと。じゃあ、済まんな修二。後は自力で頑張れ」

 

この女たらしがぁぁぁぁぁ、という修二の声を背に俺は智佳の席へと向かう。悪いね、基礎中の基礎から躓いてる奴に教えるのと基礎は出来てるけど応用が出来ない奴に教えるのとでは、教える側としては遥かに後者の方が楽なんだよ。許せ、クルピラ野郎。

 

「此処よ。で、どうすればいいの?」

 

「こっちとそっちの式の配置が逆な。間違いやすいけど、これ解消しない限りずっとエラー吐くから」

 

「ふんふん・・・・・・」

 

「で、後はこのAVERAGEが一字だけ誤字ってる。全部手で打つと面倒だから迷った時は此処な」

 

「ん、ありがと・・・・・・」

 

でもって、智佳の場合は頼む態度はアレだったが、聞くときはちゃんと聞いてくれるのでそこが決定的差かな。アイツの場合「あ゛!?」とか「んな事言われたって」とか一々突っかかるから余計に教える気がなくなるというか何と言うか。

 

「祐都は昔から得意よね、こういうの」

 

「そりゃあ、まぁ、ガキの頃はこういう技術の結晶的な奴に目がないからな。それの延長戦だ」

 

「・・・・・・分かんないところあったらまた聞くから」

 

「ん、お前ならそっから先は大丈夫だとは思うが。頑張れよ、智佳」

 

「う、うん・・・・・・」

 

危うく一生懸命頑張る智佳の頭をポンポンと叩きそうになるが、堪えて席に戻る。妹に対するスキンシップをアイツにしてどうするというのだ、全く。あまり調子に乗るなよ、俺。

 

「あ、祐都君、祐都君。もう一回、いいかな?」

 

今度こそ修二の奴に教えてやろう、そう思った矢先、葵さんが再びヘルプを要請してくる。ええ、どうぞどうぞ。葵さんの為ならたとえ地の果てであろうとも参上仕りましょう。

 

「さっきの続きとかですか?」

 

「あ、ううん、違うの。今度はえっと・・・・・・PowerPointの方なんだけど」

 

「確かにこれは苦戦しそうだ。例として幾つか教えますんで、取り敢えずやってみてくださいな」

 

「あれ、此処は祐都君がやってくれたりしないの?」

 

悪戯っぽい笑みを浮かべて、彼女がそんな事を聞いてくる。成程、葵さんの脳内が今、かったるいタイムに突入したようだ。可愛いから特許でやってあげたいけれど、此処は敢えて。

 

「そこまではちょっと。これに関しては人の個性とかが出るもんなんで」

 

「えー、でも、今なら先生の目盗み放題だよー?」

 

「そんな訳ないでしょう。あの先生がまさかそんな」

 

とは思いつつも、ちょっと期待して教卓の方をチラリと見てみる。すると、そこには、デスクトップPCと卓上コピー機に上手い具合に隠れる形で机に突っ伏している、ルドガー教師の姿があった。NE・TE・RU・SI!!

 

「ね、盗み放題、でしょ?」

 

「ソウデスネ」

 

職務怠慢ではあるが、五月蠅くないだけマシである。というわけで、そんなルドガー教師の眠りを更に深く心地良いものにする為、コンピュータ室の備品室から薄めの毛布を取ってきて、それを彼の体に被せた。どうか安らかな眠りを、アーメン。その後、クラスメイト達からの音量控えめの拍手喝采が贈られたのは無理もない。

 

「むぅ、此処からどう進めようものか・・・・・・」

 

自習時間中に仕上げるべきものをパパッと仕上げた俺は、筆箱の中に隠してあるUSBメモリを取り出し、PCにセット。自作小説の執筆に力を入れていた。うん、作業用BGMがほしいところ。

 

「そして、コイツの出番という訳だ」

 

PCのパソコン部共有フォルダを開き、そこから近代的なデザインのアイコンをダブルクリックする。

 

《Welcome to DEMETER.MS》

 

画面内にそんな文字が表示され、出てきたのは無数にも及びリストアップされた音楽ファイル。そう、名前がゴツゴツしいので教師達が見つけようにも手が出せない謎のアプリ。その正体は鳴島が1年前に作成した自作の音楽再生ソフトであった。

 

「Bluetooth、接続。いざ、可能性の海にダイブ・・・・・・!」

 

再び筆箱をあさり、今度はBluetooth対応イヤホンを取り出し、耳に装着。機器接続をして、俺だけが音楽を楽しめるようにセッティングする。実は、本来であれば学校の共用PC如きがBluetooth対応等という高品質な物を備えているはずがない。つまり、どういう事かと言うと。

 

「流石はNARUSIMA Edition Ver3.82。太尊の掃除機並みに静かな駆動音だ・・・・・・!」

 

此処の席は、パソコン部での俺の常駐スペースで、更にPC自体が鳴島の改造付き。修二が座っている所も改造が施されており、動画・画像加工に特化したプロフェッショナル機能を備えてある。見た目だけ周りと同じボンクラPCで中身はまるっきり違う。PCに詳しくなければ分からない、秘密の仕様変更をされているのであった。

 

『2025年の段階で未だにWindows10なのは草も生えん。待ってろ、おまいを最新のWindows12にしてやる・・・・・・!』

 

去年の夏頃、そんな事を宣った鳴島の俊敏な動きによって、元々ついていたパーツが取り出され、改修されたオーバースペックのジャンクパーツが組み上げられ、次々と取り付けられていった。工事が完了し、パソコンを再起動した時、画面に表示されたのは紛れもなくWindows12の文字だった。以上、これが特殊仕様PC『NARUSIMA Edition』が出来上がるまでの知られざる制作秘話である。

 

「あ、祐都君が小説書いてる」

 

整備された特殊環境の中で執筆活動に熱を込めていると、下からひょっこりと顔を覗かせた葵さんが画面をじっと見つめていた。自習範囲、もう終わったのかな?

 

「ええと・・・・・執筆中に見られるのは流石に恥ずかしいんですが」

 

「え、だって、この後出来上がったら公開するんでしょ?別に変わりないじゃん」

 

「物書きに携わってる者の感覚ってそういうもんなんです。偉い人には分からんのですよ」

 

「ふーん、そうなんだ」

 

口ではそう言いつつも、やっぱり気にはなるようで自分の席に戻ってからもチラチラと此方の様子を伺っているようだった。大分、熱心な読者に愛されたな。タカキも頑張ってたし、俺も頑張らないと。

 

「何よ、サボり?」

 

「違う。少なくとも、ずっと自習してるよりかは勉強になるし」

 

「でも、傍から見たらサボりじゃない」

 

「課題は終わりました。故にサボりじゃありませーん」

 

葵さんが引っ込んだと思ったら、次は智佳が此方にやってきた。何だろう、今日は何故かこの二人が交互に接触してくるんだけど。何かが俺の秘密裏に進行中なんです?

 

「あ、そうだ。これ見てみてよ、試しに描いてみたんだけど」

 

「描いてみたって何を・・・・・・って、おおっ!?」

 

智佳が持っていたUSBメモリをもう一つの差込口にさして、その中のピクチャフォルダの一つを開いた。見た瞬間、あまりにも急な出来事で我が目を疑ったが、そこに描かれていたのは、間違いなく俺が現在小説で書いている、お気に入りのヒロインの立ち絵だった。

 

「我が脳内妹の可愛さが前面に発揮されたかのような洗練されたデザイン・・・・・・神かよ」

 

「ふふん、私に掛かればざっとこんなもんよ!」

 

「畜生、こんなもん見せられたら、俄然執筆意欲が湧いてくるってもんだぜ・・・・・・!」

 

俺にはないイラストを書くことに特化した我が幼馴染みの才能を、改めて羨ましく思う。俺に此処までの才能があったなら、きっと小学校の頃からの夢である漫画家を諦めないでも良かったかもしれないというのに。マジでどうやったらそこまで上手くなれるのだ、誰か教えてくれ。

 

「わ、ちーちゃんの絵見たら、祐都君の文章打ち込む速度が凄く早くなった」

 

「どうよ!アンタには祐都の創造意欲を引き出すことが出来るものがあったかしら!?」

 

何か意地悪な小姑みたいな口ぶりになってるぞ、智佳。何時もの智佳、カムバーック。

 

「創造意欲を引き出す・・・・・・あ、それなら一つだけ、あったよ」

 

「何があるってのよ」

 

「じゃあ、お手本実践しちゃうよ?・・・・・・ね、祐都君」

 

「な、何すか」

 

「そろそろ、私ともう一戦、やろ?」

 

葵さんの手が俺の両頬を包み込んだと思いきや、そのままグイっと真上を見る感じなる。そこで、葵さんはその真上から自分の顔を近づけて、意味ありげな笑みを浮かべて、言う。正直、照れくさいよりも少し怖いという感情の方が勝つ、謎のスキンシップだった。

 

「そんなにやりたいんすか、もう一戦」

 

「うん。それにほら、少し暴れてストレス発散すれば、いいアイデア浮かんでくるかもしれないし」

 

「確かに、一理ありますが・・・・・・」

 

「ね、私と一緒に気持ち良くなろう?」

 

誘い文句が完全にR-15らしからぬ状態ではあったが。それでも、彼女の囁きには不思議な力があり、無茶なお願いでもついつい引き受けてしまうそうな、危うさがあった。

 

「何、授業中に催眠にかけようとしてるのよ。全く、油断も隙もないわね」

 

葵さんから漂ってくる甘美な香りに誘惑され、思わず承諾しそうになっていると、手にひんやりとして柔らかい触感があるのを確認して、我に返る。智佳の手だ、智佳が俺の右手を包み込むように少し力を込めて握っていた。

 

「えぇー、そんなことしてないよ。ねー、祐都君?」

 

「いや、あのー、葵さん?出来ればそろそろ元の体制に戻りたいのですが」

 

「・・・・・・まぁ、いっか。どうせ今日もパソコン部の活動はあるし、その時にでも」

 

その言葉を皮切りに、葵さんは俺の両頬から手を放し、俺は漸く、放置していたPCの画面を見ることが叶ったのだった。何だったんだ、今の状況は。

 

「はぁっ・・・・・・ヤバかった、首が変になりかけた・・・・・・!」

 

「祐都、大丈夫?」

 

「わ、悪いな、智佳。世話かけた」

 

「べ、別にこれくらい普通よ、普通!」

 

俺が智佳に感謝を述べると、途端に智佳は現在の状況に一抹の恥ずかしさを覚え、顔を真っ赤になり、握っていた俺の手をパッと放して、自分にも言い聞かせるような感じでそう言った。

 

『キーンコーンカーンコーン、キーンコーンカーンコーン・・・・・・』

 

「ぐかー・・・・・んおっ、もうこんな時間か。では、諸君、きりぃぃぃぃぃつ!!」

 

「礼、ありがとうございましたァァァァァァ!!

 

「「「「「あーとーござーましたー」」」」」

 

予鈴が鳴ったことで漸くお目覚めになったルドガー教師のとても目覚めたばかりとは思えないほどのクソデカボイスで締めの挨拶が始まり、クラスメイトたちは皆、「うわぁ、出たよ」とでも言いたげな視線で適当な挨拶をかました。元来の意味を侮辱するような感じで発言されたその挨拶は特に突っ込まれることなく、直ぐに空間の中へ掻き消えた。うん、要はそれっぽく聞こえればどうでもいいのだろう。

 

 

――そして、その日の放課後の事。

 

「成程、そんなことがあったのか。災難だったな、同志よ」

 

「おまけに後でその現状を近くで見させられた修二から散々文句言われてさ、冗談キツいぜ」

 

「はっはっは、そればかりはお前の日頃の行いと自業自得だ、広い心で受け入れよ」

 

帰りのLHRが終了すると共に、今日の放課後はゆっくりしたかった俺は、葵さんに捕まる前にこうしてHJSBの秘密基地内へ逃げ仰せてきたのだ。しかし、それにしても。

 

「まさか、校内から此処まで直通で通じる地下通路があったとは・・・・・・!」

 

「驚いたか、同志よ。普段は隠し通したいが、今回は女難の相が出ている同志に免じて、お披露目させて頂いた訳だ」

 

過疎地域活性化プログラムなるものが数年前から実施されているにも拘らず、未だに地下鉄の一本も走らぬこの地で、あんなに地下鉄チックな場所が存在していようとは。もしかして、地下鉄出来ないのって、コイツが原因だったりする?

 

「いや、それとこれは別問題だぞ、同志向坂。俺が原因なのではない、奴らに作る気がないのだ」

 

「そうか。なら、今度は延々と歩かされるんじゃなくて、もうちょっと楽な移動方法を・・・・・・」

 

「ふむ、それは一理あるな。では、今度来た時にでもトロッコを置くとしようか」

 

「・・・・・・マジで?」

 

「冗談だ。只管に平行なエレベーター位なら付けるかもしれんが」

 

耳を疑うような内容だがコイツならやりかねん、そう思った。ただ、その時は諸費用とか電気代とか諸々どうすんだろうな、とも思ったが、考えるだけ無駄だろう。

 

「突っ込みなし、か。流石は我が同志だ、もう此方に染まってくれているとは、実に有難い」

 

「ああそうかい。そりゃあ、どうも」

 

雄輔の言葉に適当な返事を返すと、俺は部屋の中を見渡す。特に代わり映えのない、何時ものHJSBの拠点だ。だが、しかし。

 

「今日は、俺とお前以外誰もいないんだな」

 

「正式メンバー3名と補助要員1名は本来所属している部活で忙しいようだ。仕方あるまい」

 

多分、PC部の本拠点であるコンピュータ室には、俺や雄輔と同じく暇を持て余した連中が出席しているに違いない。その中にはきっと葵さんもいる事だろう。

 

「向こうのPC使わせてもらうぞ。『Survival Infinity』の書類関係作るからよ」

 

「あぁ、好きに使うといい。昼間同志が使ってたものとはまた違っていいぞ、俺スペックだ」

 

別クラスで部内の人間でもない癖に何故そこまで情報に通じているのか。分からない、全く分からないが・・・・・・人生時には分からなくていい事もある。そういう事さ。

 

こっちにあるものは学校の所有物とは別物で、完全に見た目も性能も全て現時点での最高水準の機器だというのが嫌でも分かる。PC本体に刻まれた文様みたいなものがライトアップされて七色にビカビカと光っていた。これが、最高級ゲーミングPCの、力か。

 

「あぁ、そうだった。雄輔はこの後何かする予定あるか?」

 

「いや、特にないな。しかし、今回は量が量だからな、俺も手伝おう」

 

「あぁ、サンキューな」

 

「フ、他ならぬ同志の頼みだ。お安い御用さ」

 

雄輔は二つ返事で協力を承諾してくれた。やっぱ持つべきものは頼れる親友か。

 

「あー、それともう一つ。個人的な相談があった、作業しながら聞いてくれ」

 

「了解した。同志の幼馴染みで親友であるこの俺に、何でも話すがいいさ」

 

シーンと静まり返ったその部屋に、PCのキーボードを叩く音と、俺の今後を左右するようなちょっとした悩みのようなものを話す声だけが響き渡った。

 

 

                                                                    Shift16 To be continued...

 

Next Shift...

 

祐都は遂に訪れた幼馴染みとの決別を果たそうとしていた。しかし、その一方で智佳への想いが徐々に確定的なものとなっていく。互いに擦れ違い続けた両者の想いが旅の中で交差する時、物語は新たなステージへと突入する。

 

 

次回、パソコンのある日常第17話「修学旅行-学び修める為じゃなくただ遊び倒す為に-」。

 

今、冒険が新たな境地へ進化(アップデート)する。

 

 




漸く此処まで来れたのかぁ、感無量ですね。√突入まで、残すは後1話!!

乞う、ご期待ください。

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