パソコンのある日常-Daily lives of there's a personal computer-   作:海色 桜斗

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作品内限定オリジナル用語解説・その2


・PSV2
正式名称「PSVita2」。当時最新鋭の携帯ゲーム機として発売しつつも、その機能を十全に生かせずに生産終了した、PSVitaの後継機。今回は、ゲームソフト開発者達が今流行りのVRMMOに対抗すべく、総力を挙げて制作しているため、ゲーム機に搭載された性能を生かしつつ、誰もが楽しめるような魅力的なソフトが多数存在する。売上的には、同じ携帯ゲーム機の「Ninendo Switch lite」に僅差で勝っている。

・祐都の脳内義妹
主人公・祐都が愛して止まない、自作小説に出てくるオリジナルキャラ。桃色のショートヘアで顔は童顔、翡翠色の瞳をしている。名前は「火迎 杏(ヒムカイ アンズ)」。主に徹夜作業をする際のお供として必須の存在となっており、その溺愛っぷりにはパソコン部メンバーが揃ってドン引きする程。背はちょっと低めで、胸は大きめ。私服の組み合わせは、水色のキャミソールと黄色のパーカー、青色のショートパンツ。




Shift3「この一歩から実現へ」

龍さんの大胆宣言からちょうど一週間が過ぎた頃、部活動紹介の時期がやってきた。

 

そして、今日はその部活動紹介当日。これはある意味小さな学校祭のようなイベント行事で各部活動が部員達と相談をした上で2日間に渡り、運動部なら技とパフォーマンスを見せ、文化部であれば活動内容に関するレポート、資料、漫才等を披露して新入生の気を引く。一日目は普通に部活動紹介。二日目は実際にその部活動に新入生が顔を出し活動を見たり体験したりする見学会という日程になっている。

 

「――斯くして、我々パソコン部はこのシステムを応用して、あらゆる分野に精通する精鋭をそろえたいと考えている。コンピュータ部の説明に関しては以上、これで紹介を終わる」

 

「なお、今の話で少しでもパソコンに興味を持った者、もしくはコンピュータ部の新システムに触れてみたいと言う者は明日の見学会で是非ともコンピュータ室を訪れてみてくれ」

 

数分に及ぶプレゼンテーションを披露しつつ、龍の説明がようやく終了する。俺の業務は画面に映し出されたプレゼンテーションを話の進み方に合わせてスライドさせるだけの簡単なお仕事。正直、暇すぎたんで途中で睡魔に襲われて眠りそうだった。と、説明を終えた龍がサポーター席に座っている俺の元へと歩み寄ってきた。

 

「ふわぁぁぁぁぁ・・・・・・よぉ、お疲れさん」

 

「眠そうだな、大丈夫か」

 

「睡魔には何とか打ち勝ったが、こうも終わってしまうとな。後は徹夜分の疲労しか残らないわけで」

 

「そうか。徹夜でのプレゼンテーション製作具合とはとても思えないくらい全く打ちミスがなかったな。しかし、何故プレゼンの解説用キャラにお前の脳内義妹を使う必要があった?」

 

「いや、そうでもしないと徹夜作業なんてやってらんねーから」

 

「そ、そうか。さて、これはさておき・・・・・・明日、人が集まるといいのだが」

 

さぁね。大体、今回の説明だけでは謎過ぎて聞いてるとき首傾げてる奴が殆どだったぞ。一部は興味ないのか爆睡してたが。

 

「俺様が調達してきたエナジードリンクとかいうやつのお陰だな」

 

「あぁ、確かにあれは効いた。味も気に入ったし、今度は自分でも買ってみよう」

 

「当然だろ、俺様の最初期にして絶対的な戦友のお前に相応しいプレゼント

さ。・・・・・・しかし、あれ本当に美味かったか?」

 

「あれは作業のストレスとか疲労が溜まってるときに飲むと美味いんだよ。お前、横で新作のテイクスやってただけだろ」

 

一応、尚紀の奴も今回のプロジェクトには珍しく協力的だったので何か手伝わせてやろうと寮の自室に呼んだのだが、ソフト関連で特に得意なものがないと言われたので、発表用の資料の原本製作をゲームをやっている合間合間で熟させていたにすぎない。まぁ、それでも大分助かったけど。

 

「しかし、惜しいな。その作業中に俺様が考えてた素晴らしい演説もあったのによぉ?」

 

「何、この俺に君らが嫌悪していた西条尚紀は死んだ、何故だ!?とでも言わせる気だったか?」

 

「うは、突然の死」

 

「いや、何で死んでるんだよ、御覧のとおりまだピンピンしてるぜぇ!?」

 

「何言ってんだ、国葬だぞ?喜べよ」

 

「だから勝手に殺すんじゃねぇぇぇぇぇぇ~(↑)!!」

 

尚紀の本家大本とそのファンにタコ殴りにされそうなぐらいの過剰な声真似は放っておいて、そろそろ撮影班を呼び戻すか。そう思って、俺は修二の携帯に電話を掛けた。因みに、基本であれば放課後まで携帯は各クラスの担任に預けねばならないが、今日の報告会で撮影組との連絡含めて使用するという旨の特許申請書を提出し、OKをもらって特例で持たせてもらっていたというところだ。

 

『お前から電話が来たってことはもう終わったってことでいいんだよな』

 

「察しが早くて助かる。そうゆうことだ、撮影班撤収~」

 

『それはテメェが言うべきセリフじゃねぇだろ』

 

「一々細かいところまで突っ込んでるとその内頭禿げるぞ?」

 

『嫌ぁぁぁぁあぁぁ!?畜生、本当に禿げたらテメェを殺す!』

 

一方的に暴言を吐かれて通話を切られた。幾ら何でも我らがクラス担任の事嫌いすぎだろう、あの先生確かに毛根ないが、教師としては面白いし、いい先生だろうが。

 

「いや、しかし、そうなると俺様が殉職で2階級特進とかなって副部長になれそうだな」

 

「お前・・・・・・それでいいのか、それで」

 

「あぁ、こうなりゃヤケだ」

 

「別に部の名誉のために死んだわけじゃないなら、そんな措置降りんぞ。大体、うちは軍ではない」

 

「畜生ーーーーーーーーーッ!?」

 

そう言い残し、尚紀は明後日の方向へ駆け出して行ってしまった。おーい、まだ帰りのHRやってないからそのまま帰ると無断欠席なるけどいいのかい。とは言いかけたが、それよりも早く尚紀の姿を見失ってしまった為、別にいいかと悟り、俺達は各自クラスへ解散となった。

 

 

満を持して、翌日。今日は部活動見学会が5~6時間目を通して行われる日だ。さて、今日のお陀仏なるその時間の教科は・・・・・・おっ、5時間目に数学がある。よっしゃ、今日は難しい問題と睨めっこしなくて済むんだな。6時間目は・・・・・・現代文か。少し惜しい事をしたな。

 

「おはよ、祐都君。そんなに時間割と睨めっこしてどうかしたの?」

 

「おぅ、おはよう、えっと・・・・・・瀬野さん」

 

朝から俺に話しかけてくれたこのお方は瀬野葵。2-A一の天才少女でこれまでのテストの戦績は学級順位・学年順位共に1位に降臨している、まさに高嶺の花。努力で勝ち取る才能の持ち主で俺にとっては常に憧れの存在。でも、意外とグータラな面もあるので親近感も覚えやすい方だ。

 

「もぅ、普通に名前で呼んでいいってば。私と祐都君の仲じゃない」

 

「そ、そうか?悪い、じゃあ、葵さん」

 

「ん、よろしい」

 

一見、何の共通点もない彼女と何故知り合いになれたのか。クラスメイトだってのも確かにあるかもしれないが、それ以前に彼女とは一番上が自分で下に弟や妹がいるという、共に其々の一家の長男・長女であるという共通点があったから。弟や妹が自分よりも優れているとか劣っているとかそういうの関係なしに背負わざるを得ない苦労事等をお互いに理解しあえるからこそ出来上がった関係かもしれない。まぁ、俺的には憧れの人と身近に話せて最高に俺得である。

 

「や、今日は5~6時間目が部活動見学会で御取潰しになるだろ?だから、どんな教科が潰れたか確認しておきたくて」

 

「むっ、そういう不真面目は駄目なんだよ?でも、私としても午後がフリーになるのは嬉しいかも」

 

「葵さんだって結局楽しんでるんじゃないか」

 

「あははっ、ミイラ取りがミイラになっちゃってるね」

 

高嶺の花だけど、こうやってちょっとだらけたところが余計親近感を覚えやすいし最高に可愛い。眼鏡で黒髪セミロングってのが最高に溜まらない。いやぁ、あくまで冷静に自重を促せる性格が上手い具合に仕事をしたからこそ、こうしてドン引きされずに今まで来れてるわけで。今日まで俺が積み上げてきたものは全部無駄じゃなかった、これからも自重し続けることでこの関係は続く・・・・・・!

 

「あ、それより昨日のパソコン部の発表、見たよ。龍君、凄く良かったね」

 

「龍、か・・・・・・その感想なら本人に言ってやってくれ、俺は何もしてない」

 

葵さんの口から龍の名前が出た時、ちょっとだけムッとしてしまい、つい言葉が冷たくなってしまったかもしれない。あぁ、調子に乗った瞬間これだ。昔からの自分のどうしようもない欠点に腹が立つ。しかし、俺がそんな自己嫌悪に陥ってる事を気にも止めずに言葉を続けた。

 

「でも、あのプレゼンテーションの製作は誰がやったの、って昨日龍君に聞いたら、祐都君が全部やった、って言ってたよ?凄いね」

 

「あの野郎、もう既に無差別的にばら撒いてるな、畜生め」

 

行く先々で俺の知り合いに悪い顔をしながら、ここだけの話、と吹き込んでいるのだろう。全部事実なんだけど、裏方に徹している時はあんまりそういう言うの広めないでほしい。と言うか、俺の所属しているクラス、情報科よ?あれくらい出来る奴、絶対大半はいるって。だが、葵さんに褒められると悪い気はしない。

 

「いやぁ、あの位ならうちのクラスの奴なら、大体できるだろうし・・・・・・」

 

「そうかな、PowerPointをあそこまで使いこなせるなんて凄いと思うよ。少なくとも私は無理、かな」

 

「葵さんならすぐに出来るようになりそうだけど」

 

「えぇ~、それはちょっと過大評価だよ。でも、そこまで言われたからにはやってみようかな」

 

そう言って葵さんは、俺に向かって微笑んでくれた。嗚呼、可愛い。そして、気づけば徹夜疲れで限界値まで来ていたはずの眠気が吹っ飛んでいた。憧れパワー恐るべし。

 

「さっきから何デレデレしてんのよ、気持ち悪いわね」

 

「何の用だ、川知。いいところで突っかかってくるんじゃねぇよ」

 

俺的幸せ空間を暴言と共にぶち抜いてきたのは、俺の幼馴染で絶賛仲互い中の川知智佳その人だった。この野郎、幾ら何でもタイミングってもんが悪すぎるだろうが。

 

「あれ、川知さんって祐都君の知り合いだったんだ?」

 

「えぇ、その通りよ。残念ながらね」

 

「それはこっちの台詞だ」

 

この前会ったときは比較的大人しめだったが、成程、いつもの調子のようだ。しかし、何でこうも毎回絡んでくるんだ、俺が嫌いならスルーすればいい話だろうに。性格的に損してるなコイツ。

 

「へ、へぇ~、それにしては何か凄い険悪そうな雰囲気だよ・・・・・・?」

 

「悪いな、葵さん。コイツとは絶賛仲違い中でな、原因は兎も角、奴の日頃の態度の悪さに少しイラッときてるだけだ」

 

「ッ・・・・・・何よ、アンタが私の視界に映らなきゃいい話でしょ!」

 

「それを人は横暴というのだ、お前の視界情報なんて俺に察せるはずねぇだろうが」

 

身長差はそれなりにあれど奴と俺の間で火花が散る。いや、しかし、改めて意識して見るとコイツかなり小さいな。やろうと思えば認識外からの小突きを喰らわせられそうだが、それは俺の主義に反する。だから、どれだけ相手が憎かろうがしない。

 

「おおっと、夫婦喧嘩もいいが、それより俺を匿ってはくれまいか」

 

「「誰が夫婦喧嘩だ(よ)!」」

 

「フフフ、相変わらず息がぴったりではないか。我が同志・向坂と川知嬢よ」

 

と、今にも壮絶な罵りあいが始まろうしていた時、俺と川知の間に一人の変人が割って入ってきた。奴の名は紀郷雄輔。俺の小学校時代からの盟友で鳴島と同じく2-Cに所属している、史上最強の変人ハッカー。その腕は同じハッカーの鳴島と一位二位を争うレベルで、味方につければかなり心強い存在となるだろう。しかし、普段から神出鬼没で御覧の通り飄々とした真意がいまいち掴めない性格の持ち主で、何をやらかしたか、最近は生徒会の《ブラックリスト》に名前が掲載され、生徒会面々との何でもありの逃亡戦を繰り広げている。謎の多い男だ。

 

「何だ、また何かやらかしたのか?」

 

「やらかしたとは心外だな、同志よ!まぁ、少しばかり生徒会のHPアドレスをエロ動画サイトのものに書き換えただけなんだが」

 

「はぁ、それのどこがやらかしてないことになるわけよ!?」

 

「何を言う、清く正しい青少年なら必ず見るものだろう。今のこの国の保健体育の授業範囲だけではすぐに少子化まっしぐらのお先真っ暗地獄ではないか」

 

そう言って、含みのある笑みを携えて俺を一瞥する。やめろ、確かにそういうものに興味を持つ年頃ではあるがここで暴露するような恥知らずだけにはなりたくない。俺は敢えてその視線を無視した。一方、川知はそのワードを聞いた瞬間から顔が真っ赤である。

 

「同志の冷たい反応は兎も角、川知嬢はこちらの予想通りの反応で助かるぞ」

 

「こ、公共の場でそんな単語発するなんて・・・・・・ひ、非常識よ!」

 

「ハーッハッハッハ、川知嬢の常識の物差しでこの俺の並外れた常識が図れるはずもあるまい。だが、悲しいな。これが我が国の末路とは」

 

「五月蠅い、この変態!!」

 

昔はコイツと俺と川知と鈴でよくつるんだ仲だが、何故こうまで変人ばかりの集団に・・・・・・(俺を含めて)。川知は相変わらず頑張って奴に応戦しているが、照れを隠せぬようではまだまだである。ふと、葵さんの方を見ると、先程から状況に置いてけぼりにされてやや困惑気味のご様子だった。

 

「俺の知り合い共が朝から騒がしくて済まん・・・・・・」

 

「え?あはは、いいよ、気にしないで。紀郷くん、でいいんだっけ」

 

「ご存じで?」

 

「えっと・・・・・・実は、生徒会の知り合いからよく愚痴を聞かされてたりして」

 

それは、毎度毎度ウチの悪友が申し訳ない。そもそもこの学校に通う大半の奴らでさえ、滅多な事では生徒会には目を付けられないはずなんだが。俺も前に、知り合いなんだったら止めてよね、的な事を言われたことがある。事実に基づいて言うなら無理難題である、奴は盟友の頼みでもあのスタンスだけは変えない。手強い奴だ。

 

「同志向坂よ、目下攻略中の御仁がいたのなら俺に紹介ぐらいしてくれてもいいだろう」

 

「待て、雄輔。この人はクラスメイトの葵さんだ、ギャルゲじゃないんだから攻略中とかいうな」

 

「よ、よろしく・・・・・・?」

 

「やれやれ、我が同志の鈍感っぷりには呆れを通り越して笑えて来る。しかし、ここで知り合えたも何かの縁。困ったときはこの名刺に書いてある場所を訪ねてきたまえ、協力は惜しまん」

 

雄輔が葵さんに胸ポケットから取り出した一枚の名刺を渡す。まぁ、どうせ《非公式情報部》って奴の名刺だろう。通称《地獄への片道切符》と言われ、忌み嫌われる品である。

 

「何でアンタは毎度毎度そうやって・・・・・・ッ!」

 

「川知もいい加減落ち着け。コイツに何言っても聞かないのは分かってることだろ」

 

「ふ、ふんっ!元々はアンタがそこにいたから悪いのよ」

 

「あぁ、俺とお前が言い争ってたから奴に隙を与えた。俺を嫌うのはお前の勝手だけど、今のはお互い様のはずだろ」

 

「うぐっ・・・・・・それは、そうだけど・・・・・・」

 

それと、いい加減に川知の奴を落ち着かせないと話が次に進まなそうなので、府には落ちないが話を通すことにした。奴の刺々しい文句に果敢に立ち向かい、事実だけを伝えると、案の定手を引いてくれたようだ。うん、まぁ、冷静にさせれば理解力のある奴だってのは分かってたからいいが。

 

「ふむ、同志よ。一つ忠告しておくが、複数の女性を同時攻略するのはやめておけ」

 

「んなわけねーだろ、現に川知は俺を嫌っている」

 

葵さんとの取引を終えた雄輔がこちらに視線を向けて、突拍子もないことを言うので現状を踏まえて、冷静に否定しておいた。全く、何を言うかと思えばしょうもない。

 

「そうなのか?しかし・・・・・・いや、同志が気付いてないのなら此方がみなまで言う必要もあるまい」

 

「何か言ったか?」

 

「フ、何でもないぞ同志よ。ただの独り言だ」

 

あぁ、ムカつく。現時点での混乱を巻き起こしている張本人だというのに未だ見物人気取りなのが本当にムカつく。今更、容易に手を切れないのが悔やまれるくらいには。

 

「それより、件の話を引き受けてくれまいか」

 

「・・・・・・分かった、ただし条件付きだ」

 

「ほぅ、我が同志にしては珍しく条件報酬を希望か。可能な限りで頼むぞ」

 

「今、パソコン部で新しいアプリツールを開発している。それに協力してくれないか」

 

「新しいアプリ、か。ふむ・・・・・・」

 

前述の通り、コイツは生徒会からブラックリスト指定を受けてるとんでもない奴だ。だが、奴の保有している技術面はパソコン部の例のプロジェクトに必要になってくるものだろう。だからこそ、奴を匿うというハイリスクを犯す代わりに技術力の提供というハイリターンな協定をつけておかなければ、此方の身が持たない。うん、偉そうに言ってるけどこういう交渉事、あんまり得意じゃないのよね。

 

「そうだな、確かに同志向坂だけに重荷を背負わせるわけにはいくまい。いいぞ、その協定とやらに乗ろうではないか」

 

「交渉成立、だな。いつものベランダでいいか?」

 

「フ、話が分かるじゃないか。では、お言葉に甘えて失礼する」

 

そう言って雄輔は手慣れた動作で窓からベランダに降り立ち、一瞬のうちに姿を消した。ホント、校内の構造を誰よりも把握している男だ、規模が違う。

 

「なんか、嵐のような人だったね・・・・・・」

 

「悪いな、葵さん。何だか巻き込んじまったようで」

 

「あ、ううん、気にしてないから大丈夫だよ。でも祐都君の友達は面白い人が多いね、羨ましいな」

 

葵さんがそう言ってにっこりと微笑む。あ、やっぱりこの人、天使だわ。

 

「んで、川知も。そろそろ鈴のところいかねぇとHRの予鈴なっちまうぞ」

 

「わ、分かってるわよ。全く・・・・・・アイツのせいで余計疲れたわ」

 

雄輔との会話でヒートアップしすぎて疲れたのだろう。いつものように俺に突っかかることなく、廊下の方へと雄輔への愚痴を垂らしながら去っていった。

 

「長々と付き合ってくれてありがとな。それじゃ、俺はこれから徹夜分の仮眠取るから、またな」

 

「ん、HRまでにはちゃんと起きないと駄目だよ」

 

「起こしてくれたりしません?」

 

「駄目、そこまで面倒は見ないよ。でも、うん。おやすみ」

 

「うぃ~す・・・・・・」

 

取り合えず今仮眠取っておかなければ、今日の授業内容がまともに耳に入ってこないだろう。さぁ、気の赴くままに夢の世界へダイブしましょうかねぇ。夢でν’sかアキュアかサキガケに会えたらどれだけ幸せな事か。確率は低いが実現は可能な希望を抱いて俺は静かに机に突っ伏した。

 

 

「んでさぁ、今日何となく俺様が昼寝してたらエステルが夢の中に出てきてな、俺様と楽しく戯れてたんだぜ~?どうだ、凄いだろ~?」

 

「で、そん時に現実世界では寝言で何回も嫁の名前を口にしてはデュフフと笑っていたと。何それ、怖い」

 

「違うな、正しくはデュフフではなくフヒヒだ)キリッ」

 

「はいはい、全く違いの無い訂正、乙。最早ここまで来たら無双もんだろ、jk。でも、そこに痺れる憧れるぅ~・・・・・・訳あるかってーの」

 

そして、部室。今日は珍しく幽霊部員の妖怪エロエロも出席しており、現コンピュータ部の全員が集った。本人に直接話を聞くと、新入部員候補に現実離れしたきゃわいい美女が現れるのではないか、という何とも脳みそお花畑な回答が返ってきた。にしても来るのかねぇ、新入部員希望者。大抵が見るだけの奴ってのはよくある事だが。

 

「このために用意した俺様の高画質ブロマイドカードと華麗な踊りがあるというのに、な!今、ここで踊って集めちゃうもんね!ほっ、ほっ、しぇい!」

 

「やめろ。かえって人が集まってこなくなる」

 

「うおぇぇぇぇ、むさい野郎が腹の脂肪をぶるんぶるん言わせて踊ってる姿は流石に萎える。こんなん誰得なんだよ?吐き気と悪寒と怖気が同時に走って軽く死ぬるし、草も生えん」

 

「はわわっ・・・・・・!」

 

「こらこら、サトちゃんには目の毒だよ、見ちゃいけません」

 

そう言って、優海さんは慧巳さんの視界を手で覆って隠した。何だろう、いまちょっと優海さんにバブみを感じた。

 

「やむを得まい。俺の108ある禁じ手の内の一つ、喰らえ!巨大マシュマロ押し込みッ!」

 

「ふげほぉっ!?それをどっから・・・・・・っていうか、煩悩の数だけあんのかよ!?」

 

視覚的にも不味い奴の暴走を止める為、俺は意を決して秘術を放った。説明しよう、この技は確実に相手の口封じと沈静化を同時に行う禁じ手であり、小学校の頃、俺に無謀にも挑んできた、クラスメイトの女子に喰らわせたものだ。その女の名はマミと言うこともあり、別名「マミった」とも言われているぞ。

 

あ、一応言っておくと、事前にそういう流れで行くって本人と相談したうえでだからね、コントみたいなもんよ?決して虐めなどという筋の通らないものではない。

 

「あの~?コンピュータ部の部室ってここでいいんですよね?」

 

「あぁ、ここでいい。新入部員希望か、それとも見学に来ただけか?」

 

「あ、はい。その、新入部員希望・・・・・・です」

 

ふと、部室の扉の前を見ると恐る恐る部屋に足を踏み入れてきた女子生徒と龍が何やら話し合っていた。よし、新入部員と来たらまずは俺の出番だ!

 

「フ・・・・・・そうか。では、昨日は話せなかった残りの部分も話していこうか。コイツはこのパソコン部の部長を務める――ラボメンナンバー002、カルマ!ちなみに俺はこの未来ガジェット研究所の長において狂気のメェァートサイエンティスト、ラボメンナンバー001、鳳凰院凶真だッ!」

 

「???」

 

やる気全開で中二病モード発動したは良かったが、いや良くはないが。名乗り終わった後に彼女からの純粋な疑問の眼差しに罪悪感を覚えた俺は、心の中で軽く自己嫌悪に陥った。

 

「おい、お前が代わりに名乗ってどうする。後、今の俺はカルマじゃない。篠崎龍だ」

 

そして、龍に普通に突っ込まれてしまった。まぁ、そうなりますよね。

 

「お前も鳳凰院凶真などではなく、向坂祐都だろう。折角、我が部に興味を示して来てくれたというのに、最初から怯えさせてどうする」

 

「すまん、出来心だった・・・・・・」

 

「祐さんや、新人相手にやりすぎはNGだぁよ♪」

 

突っ込みつつも優しげな口調の優海さんに慰められながら、俺は部長席から立ち上がり、元の席へと戻ったのだった。

 

「全く・・・・・・さて、君の名前をまだ聞いてなかったな。何と言う?」

 

「あ、す、すみません。自己紹介が遅れましたね。えっと、い、1-Aに所属しています。ゆ、夢野麻衣、です」

 

「夢野麻衣、か。当たり障りの無い様、夢野さんと呼ぶ事にしよう。いいか?」

 

「や、えと、あのっ・・・・・・ふ、普通に麻衣でいいですっ・・・・・・!」

 

「そうか。では、麻衣。ここの詳細をさらに詳しく説明しよう。いいか、俺の兄であり前部長のとある男が俺との共同開発で作り上げたこのソフト、『近代PCテクノロジー』は今や大々的に普及された携帯の拡張現実を見る専用ソフト『SK057 2nd EDITON ver1.50』で映し出された映像をこちらの機械に直接データを流し込み、まるで部屋から見えるはずの無い外の風景を見ているかのような感覚にすることが可能だ。さらにこの映像は直接登録してある携帯のアカウントとリアルタイムでデータ共有がされていてな。常にその風景をリアルタイムで見続ける事が出来・・・・・・」

 

あぁ・・・・・・もう何言ってんのか訳ワカンネ。駄目だ、ここで黙っている事自体耐えられそうに無い。と、言う事で何か飲料を買ってくるので一時ログアウトしますわ。後、よろしく。

 

「――ふむ、気分よく炭酸でグッといくか、優雅にミルクティーと洒落込むか。意外とこの選択は大事なんだよな。後で後悔したくないし。ん~・・・・・・よし、ここは午後ティーで行こう」

 

『ガコンッ!』と音を立てて、目的の物が取り出し口に落下してきた。よしよし、やはりミルクティーといえば午後ティーに決まりだな。まぁ、学校の自動販売機に知的飲料のドクトルペッパーさえあったなら素直にそれしか買わないがな。

 

「さて、部室に戻るか・・・・・・って、ん?今何かおぞましい物見えた気が」

 

部室に素直に引き返そうとした俺の目に飛び込んできたのは『夢島高校一の厨二病』『変態紳士ゴリラ』『ロリ巨乳好きバル厨』で定評のある西条尚紀。どうやら、さっき部室で踊れなかった分の踊りを今、外の非常階段前で実行しているらしい。

 

『捕まるよタヒチー、平日夜はジャスコに、輪投げのゲーム曲げワロスちゃんのペース、ブームなバインダー佐賀原人のスペース、現民脂っこい現民安っこい、現民フライパン現民面白い、現民水曜現民ストーレン、現民活気s現民ワンツー、あなたは水蟹ダイモス邸でスモーレンモーレン、日中決闘天ぷらクエスチョンヘアーforマイン適度に』

 

『てめーらにシークレット嫉妬するビーン、目にはウィッチプラザVIP先生、割といいチーズをルーにかけ、(中略)オーダーレストラン 余計迷惑、ワロ死ぬVIP、ワロ死ぬVIP、ワロ死ぬVIP、鼻毛メカ』

 

何処から調達したか分からん腰蓑を装備し、現在進行形で不思議な踊りを踊っている尚紀・・・・・・あれは確か、昔に流行った海外の無声映画のとある一シーンに空耳翻訳された曲を合わせた伝説の動画、通称「VIP先生」。元ネタの映画「メトロポリス」は、音声の一切がないにも関わらず、その洗練された表現方法に映画マニアの間では今尚愛されている作品だ。

 

しかしまぁ、よくそんなマニアックなものを知ってたな、尚紀の奴め。つっても、たぶん元ネタ知らんってオチだろうけど。あ奴に現代のSFから果てはエロゲまでの数々の創作の基盤ともいえるものを理解できるとは到底思えない。曲の元ネタはスーパーマリオRPG好きの外国の方が作った創作曲である。気になった方は、時間がある時に是非ともググっていただきたい。

 

 

「うぃーす。もう説明終わったか?」

 

「あぁ、もうとっくに終わってあの子も帰ったぞ。部屋の教師用テーブルの上にこんなものを残して、な」

 

龍が満足そうに笑いながらその忽然と置かれていたA4サイズのプリント用紙を俺の眼前に突きつけてきた。見ると、彼女直筆で氏名、住所、学年、組、志望理由がしっかりと記入されて、上に我等がコンピュータ部の顧問、関智紀氏の真っ赤な実印が押されていた。なッ・・・・・・もう承認済みだ・・・・・・と・・・・・・!?

 

「本当に入るのか、あの子?見たところ、非オタみたいだけど」

 

「あぁ、その通りだ。だが、彼女は大のネット好きらしくてな。チャットだとかツイぽに事ある毎に書き込んでいるのだそうだ。それでそのような事もやっているのかと聞かれて、当然だと答えたらそれに至ったまでだ」

 

「マジか・・・・・・」

 

非オタでありながらネット好きとは、中々に物好きな子だな。ニヤニヤ動画とかnewtubeの話題出せば何か話せるんかな。最近流行のnewtuberなる職業の実況動画とかの話だと、俺あんまし見ないからついていけない気がするけど。

 

「おぉ、そうだった。発表に使ったプレゼンテーションのオリジナルアニメーションの巧みな技術レベルと作者の名前を彼女に言ったらやたらと興味を示していたぞ。良かったではないか、あんな可愛い後輩に慕われた先輩さん」

 

「またバラしたのかよ・・・・・・お前、絶対口軽いほうだろ」

 

「はっはっは、日頃からギャルゲをプレイするほど恋愛することに飢えているお前に二度とないチャンスを与えてやっているのだぞ?もっと感謝しろ」

 

うるせぇ、この野郎。ギャルゲやってるからって現実でも同じような事象を望むなんて、完全に頭お花畑じゃねーか。現実なんてとんだクソゲーですから、ほんと。この世界作った奴の顔が知りたいね、絶対禄な思考回路してないよ。

 

「いや、お前の場合は既に小学校からの幼馴染と憧れの高嶺の花と我が部に所属する女性陣二人とより取り見取りだったな。ギャルゲ主人公になれる日もそう遠くはないんじゃないか」

 

「ギャルゲ主人公にあこがれた時期が俺にもありますた・・・・・・」

 

「ほぅ、過去形か」

 

当たり前だろう。確かに若干ハーレムめいた感じにはなるが、その代わり理不尽すぎる運命に巻き込まれていく√だってあるんだからね、人生に絶対的なハッピーエンドはないよ。

 

「俺は死にゲーの主人公になりたい」

 

「それ絶対、死にすぎで頭おかしくなるぞ」

 

「顔の形変わるか?」

 

「あぁ、確実にな」

 

因みに今の龍の問いは深夜帯にやっている『相席街道』のとある回で有名プロレスラーが発した言葉を借りたものである。正しくは『顔の形、変わるぞ』という脅し文句的な奴。流行語大賞にノミネートされてほしい言葉だけど、最近の流行語大賞は何か上からの力が働いてるようにしか思えないほどの詰まらなさだからな。それ本当に国民の間で流行りましたか?いいえ、審査委員である自分が好きだから入れました、的な。

 

「まぁ、とはいえ来たものは来たのだ。腹をくくれ、先輩」

 

「立場的にはお前もだろうがよ、部長様」

 

「忙しくなるな、お互いに」

 

女子の後輩か、確かに男だったらこれは思ってもみない至福。年下好きの俺としても素晴らしく喜ばしい。だが、果たしてちょいと臆病なところありそうなあの子と会話が出来るかどうか。俺のそんな一抹の不安を残しながら・・・・・・次回に続く。

 

                                                            Shift3 To be continued...

                                            

Next Shift...

 

 

「次に示すは、主人公・向坂祐都とある女子生徒との出会いを描いた、ほんの序章」

 

 

「お前達には、これから始まる大きな運命の変化点を見逃さないための心の準備をしていてほしい」

 

 

「そう、何気ない日常にこそ真意は宿るものなのだから」

 

 

「パソコンのある日常、次回第四話『斯くして彼は彼女に出会う』」

 

 

「人生における出会いは全て偶然という2文字だけでは片付かない」

 




というわけで、本日の元ネタ、こちらです。お納めください。

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https://www.nicovideo.jp/watch/sm689


次回投稿は9月16日(水)11:00頃を予定しております。

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