パソコンのある日常-Daily lives of there's a personal computer-   作:海色 桜斗

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最近の夏はミニファンで乗り切れるほど、ヤワではない


Shift5「噂の超天才少女、現る」

――季節は夏。梅雨明け特有のまさに真夏を体現したかのような気温の中、今日も夢島高等学校生徒諸君はメゲずに急な坂を登り続ける。寮があるといっても、校舎のある土地よりだいぶ下に設置されているため、何が何でも登らねばならないのだ。ふと周囲を見渡せば、男女関係なく皆一様に長袖のYシャツの腕のボタンを外し肘のあたりまでまくり上げている。

 

また、それだけでは暑さを解消できていない奴もいる。ある者は近くの自販機で飲み物を買い、ある者は鞄から取り出した下敷きを団扇がわりに代用し、顔の前でパタパタと仰いでいる。まぁ、斯く言う俺もその連中と全く同じ行動をしているわけだが。ここまで読んだ諸君は大体察したはず・・・・・・そう、まだ衣替えが行われていないのである!

 

「これは・・・・・・なかなかの暑さだな、ぬかしおる」

 

「バ、バカ野郎・・・・・・ここで、死ねるかぁっ・・・・・・!」

 

「・・・・・・」

 

何だこの三文芝居。見てる方としては呆れてものも言えなくなるな。まぁ、しかしこの天候だ。ちょっとやそっと頭がおかしくなっても仕方がない。あれだ、地球温暖化がついに本気を出しやがったんだ。そうに違いない。

 

「仕方がない、これで涼むとしよう」

 

「・・・・・・(そいや、鞄にミニファン入ってた気が・・・・・・どこだっけ?)」

 

「職員室にはエアコン常備なのにな。死ね、あのハゲェ・・・・・・!」

 

「ふぅ・・・・・・(お、あったあった。うはは、涼し~♪)」

 

「祐都、お前ェ!何してやがるんだァァァァ!?」

 

うお、びっくりした。何してたって・・・・・・ミニファンで涼んでただけじゃん?お前も何かで涼めばいいじゃないか。ほら、隣にいる龍だって団扇で仰いで涼んでるじゃねぇか。

 

「それをよこせぇぇぇ!」

 

「別にいいけど、その代わり――」

 

「おはよう、祐都君」

 

「貸料金を・・・・・・あ、葵さん!?あ、え、お、おはようさん・・・・・・」

 

何と言う偶然か。クラスの高嶺の花である葵に登校中に出会ってしまった!し、しまった、いきなり声をかけられたもんだからびっくりして挨拶がすごくぎこちなくなってしまった。仕切り直しでもう一度挨拶しよう。

 

「改めて・・・・・・おはようさん」

 

「今日は暑いね~。何か面倒臭くなってきちゃった・・・・・・」

 

「暑いな。ってわけで、これを献上」

 

この機会を逃すまいと俺はさっき修二に貸そうとしていたミニファンを持ち手を変えて葵の方に向けるように差し出す。すると、彼女の目が一瞬だけキラッと輝いた、ような気がした。

 

「えっ、貸してくれるの?さっきまで祐都君、使ってたみたいだけど?」

 

「気にしなさんな。こんなこともあろうかと予備のミニファンも用意してある」

 

「わ、本当?ありがとう、遠慮なく使わせてもらうね」

 

俺の満面のドヤ顔には触れずとも、彼女はそう言ってミニファン壱号機を受け取ると感謝の言葉と優しい微笑みを俺に向けて、先を急いで行った。やっぱ、可愛いな・・・・・・畜生め。

 

「おいぃぃぃ、俺のこと忘れてんじゃねぇよ、馬鹿がァ!?」

 

「ちっ、仕方ないな・・・・・・じゃ、扇子貸してやるからこれで我慢しろ」

 

「野郎にはタダじゃミニファン貸せねぇってか、えぇ!?弐号機を貸せ、弐号機を!」

 

「何だ贅沢を言う奴だな・・・・・・置いてくぞ~」

 

修二の『いっぺん地獄に落ちろやぁぁぁ!』という罵声を背に受けながら俺はお先に教室に特攻させてもらうことにしよう。何、B組に行って待っていれば後から龍も来るだろうしな。

 

「おはようさん」

 

「おっ、おはよう。今日は異常に暑いな」

 

「うぃっす、こうも暑いと家のエアコンが恋しいぜ」

 

「おはよ~」

 

目的の場所へ行く前にまずは教室で荷物を降ろしてからだな。修二のやつは最近何かと龍にご熱心で鞄持ったまま行ったりするもんなぁ。せめて荷物置いてからでもいいだろうに。そんなことを思いながら、荷物を机にぶら下げると俺はB組の教室へと入っていった。すると――

 

「お~は~よ~ぉ~・・・・・・」

 

「優海さん!?ど、どうなされた?」

 

――目の前に現れたのはいつものような元気がない優海さんだった。足取りもふらふらと覚束無い感じで危ない。俺は保健室へ連れて行こうと彼女に手を差し出すと彼女は片手を前に突き出して気にしなさんな、とジェスチャーで表現した。

 

「今日の学校の坂道を登っている途中、私は面倒くさいという魔物に襲われて駄目になりそうでした」

 

「何故、いきなり敬語?」

 

「でも、パソコン部の皆とクラスの皆の顔を見たくてここまで来ました」

 

「は、はぁ・・・・・・恐縮です」

 

新手のボケか・・・・・・?いや、でも、一応最後まで聞いてみよう。何かわかるかもしれない。いや、分からないかもしれないけど。

 

「・・・・・・というわけでみんなの顔を見るという目標を達成したので帰ります」

 

「いや、帰るなら」

 

「今でしょ」

 

「いやいや、話途中で遮らんでくださいよ。今じゃないから、学校終わってからだから」

 

えー、と抗議の声を上げる優海さん。仕方がない・・・・・・彼女には悪いが最終兵器で釣らせてもらうとしよう。

 

「おっと、偶然にも暑さ対策にご尤もなハイテク機器ミニファン参号機と十勝あんパンが手持ちにあったなぁ、でも誰もいるって人いないしなぁ、どうしようかなぁ」

 

「ミ、ミニファンと十勝あんパン・・・・・・!?」

 

その素敵ワード2つを耳にした瞬間、先程までとろ~んとしていた優海さんの目がぱっちりと見開かれ輝いていた。予想通り、見事に意図も容易く釣れました。そして、ごめんなさい。

 

「祐都君、どうかそれを私に恵んでください!」

 

「あ、え?ええと・・・・・・別に構わないけど」

 

「え、ほんと!?やったぁぁぁ、バンザーイ!ヽ(´―`)ノバンザーイ」

 

あ、今滅多に見られない素の喋り方で喜んでる。本当に十勝あんパンが好きなんだな、球筋に出てるぜ?・・・・・・何が。

 

「女を喜ばせることができる男だとは。中々できるじゃないか」

 

「あ~、本当にな。それが意識下とかそういうんじゃなくて天然で繰り出されてるんだからこれまた腹立つわけなんだがな!」

 

と、ようやく二人が教室までたどり着いたようだ。えっ、そんな時間かかるか?あの距離で?まぁ、大抵の場合、修二がかなり話し込んできたんだろうけどさ。

 

 

「こ、これ・・・・・・すごいです・・・・・・(驚)」

 

「そーか?」

 

「も、もちろんです!尊敬です、先輩♪」

 

あれ?普通に喋れてる。今日も今日とてパソコン部に顔を出したわけだけれども、いつもの6人の顔触れがそろう中、彼女は律儀にそこにいた。そんでもって、いつも通りにパソコンを立ち上げ、ワープロ起動。小説を打ち込んでいると、彼女は何を思ったか後ろから覗き込んで熱心に見ていた。そして、普通に会話。うん、昨日の不安は杞憂だったようだ。何気なく会話できるよ、この子。

 

「仲睦まじい事良きかな。さ、運良く変態ロリコン幽霊部員さんがいつも通り欠席してるんで新入部員の夢野麻衣さんの入部歓迎会を予定通り行う事にする」

 

「おぉ、待ってましたktkr!若干一名が横でリア充展開してるんで少々イラ壁だったがここで解消して許してやる罠」

 

「誰もリア充展開なんてしてねぇだろ」

 

「おまいのことを言ったんだが?」

 

あまりに理不尽すぎやしないか。だって、普通にいつも通りワープロ打ってたら、彼女が興味津々で入ってきただけだぞ。言うなれば世間話状態。これの何処がリア充展開なのか、さぱらん。

 

「なぁ、リア充展開してたか?」

 

「わ、私にも分からない、です」

 

「フンっ・・・・・・!」

 

俺が麻衣ちゃんに確認をとると、鳴島はすぐ近くの壁を殴りだした。何それ、怖い。

 

「・・・・・・」

 

「お、おい、鳴島?冗談もそのくらいに――」

 

「しまったお・・・・・・深刻な壁不足になってしまった罠。仕方がない、代わりにお前を殴らせろ」

 

暴走状態のシヴァングリオンのようにヨロリと立ち上がると、殺意がらんらんと輝く目で俺の近くまで来て拳を振りかざす鳴島。おいおい、勘弁してくれ。

 

「おい、そこの二人組。あまり新入部員を困らせるな」

 

「チッ・・・・・・部長氏に命を救われたな、感謝するんだお」

 

龍の一言で、鳴島は回れ右をして自分の座っていた席へと戻っていった。俺も悪いような言い方されたけど、この際一命を取りとめただけでも良しとするか。

 

「別にいいが、具体的にどうするつもりだよ?」

 

「昨日話した通りだ。では、これより入部歓迎会を始める。まずは改めて自己紹介からだな。俺の名前は篠崎龍。特技はガンプラ作りと基本プログラム作成。趣味は――」

 

龍が昨日は不完全な自己紹介だったため、もう一度自己紹介している。まぁ、面倒くさいけど一応はやっておくか。俺と龍しか名乗ってないもんな。※以下、()内は発言した人物名。

 

 

高坂祐都だ。特技は自作小説執筆とキャラのラフ画作成。趣味はアニメ・ゲーム鑑賞。世間でいうオタクの部類に入る。一応、普通の話題もできる。よろしく。(祐都)

 

よ、よろしくお願いします、先輩♪(麻衣)

 

鳴島康平。特技はネットへのハッキングと壊れた精密機械を修復出来る事。好きなものはロボット。嫌いなものはリア充だお。リア充とか死ねばいい死ねばいい・・・・・・。(康平)

 

あ、あはは・・・・・・。よ、よろしくです。(麻衣)

 

藍園修二だ。特技はオンラインの格ゲーのランキングでTOP3入りする事。ここにいる他の奴らよりオタクとしての基本レベルは低い。よろしく。(修二)

 

へぇ~すごいですね♪よろしくです。(麻衣)

 

どもども~。パソコン部のアイドル、水鳥優海だぁよ♪シェケビギナ~ウ?(優海)

 

え、えっと・・・・・???よ、よろしくですっ。(麻衣)

 

藤林慧巳です。同じ女の子同士仲良くしようね♪(慧巳)

 

は、はいっ!よろしくお願いしますっ!(麻衣)

 

 

「入部歓迎会とは言っても外で食事会的な感じのものをやれるほど我が部の予算は多くない。今年は正直、期待が薄いと思われた。しかし、だ」

 

「先日、部室の備品保管庫の中のダンボール箱に偶然入っていた、尚紀の㊙俺様が選ぶエロゲ傑作選なるものの存在が明るみになり、その事実が校長にまで伝わった。結果、発見者である校長自らが中古品取扱店舗へ行き、無事買収された」

 

成程、最近備品保管庫のスペースが大分狭くなってるなと思ったら、また尚紀の奴がこっそり買い占めたバイブルで溢れかえっていたわけだ。ガムテープで頑丈に固定され、ワレモノ注意のシールがご丁寧に貼ってあったので触れずにいたが、そうかあれがパンドラの箱か。

 

「その後、パソコン部の部室スペースの一角を息子が私的占領した件での謝礼金として部に支払われ、部の臨時収入となった。あとはお前らの知る通り、その軍資金で購買と近くのマクバでパーティ用の食料を調達することが出来るに至ったわけだ」

 

尚紀の父親、西条大厳。ここ夢島高校の校長を務めると共に実家の家業である、世界経済を牛耳る超々大手株式会社の《西条産業》の現社長としても務めており、年間にもらえる収入は国会議員すら凌駕する。そんな親父さんの懐から度々10万引き出しては1日足らずで全部使い切るというとてつもないバカ息子っぷり。親父さん的にはその程度の金額痛くも痒くもないが、その金額分を取り戻す保障だけはしっかりと立てている。因みに、ここパソコン部のその見張りの拠点ともいうべき場所で、今回こそ親父さん自らが目撃したが、我等パソコン部員もグッズを見かけたら即売却で全額とはいかずとも回収をお手伝いさせて戴くといった、絶対的な協力関係にあるのだ。

 

「アイツ、賃金の最低基準が10万だからな。これを機に反省するといいが」

 

「無理だろう。まず、一般的な感覚が奴の中にあるとは思えん」

 

龍が溜息をつきながら、はっきりと断言した。まぁ、ですよね。

 

「わぁ~お、龍さん太っ腹だぁねぇ。食べなきゃ損損だよ」

 

「まぁま、皆さん奴のどうでもいい話はおいといてさっそくご馳走にありつくとしましょうよ。さて、どれから開封の儀式を行うべきですかな?」

 

「奴の物で得た軍資金で買ったものを食うのはいい気はしないが、せっかくだし頂いておこう。食料に罪はないからな」

 

「わぁぁぁ、皆さん私なんかの為に・・・・・・ありがとうございますぅ~」

 

外野三人組が次々と漁り始める。普段の言動と今回の行動からあまり同情は寄せたくないが、一応会費の犠牲者となった者に対して一言・・・・・・自業自得だ、尚紀よ。

 

「ふぃ~、食った食った」

 

「ふ・・・・・・他人の不幸で盛られた食事、テラ美味し」

 

「ふへへぇ・・・・・・もう食べらんないよぉ♪」

 

「美味しかったです~」

 

その後、己々が一喜一憂どんちゃん騒ぎを起こしつつグダグダ気味で進行されてきた新入部員歓迎会は閉会となった。結局最後まで犠牲者である幽霊部員こと西条尚紀君は姿を現さず、平和なまま解散に至ったのだった。

 

 

その、翌日の事――

 

「何ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!?」

 

「ん~、どうした、尚紀。バナナミン不足による禁断症状か?」

 

「ち、違ぇよ!こ、ここにあった俺様のコレクションがない!!」

 

「へぇ・・・・・・それは神の悪戯か、はたまた悪魔の罠か。う~ん、謎が謎呼ぶ――」

 

「悪魔の罠だぜよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」

 

ほら見ろ、奴の深刻なる叫びが俺との漫才のようなやり取りで、まるで相方にツッコミを入れたような感じで聞こえる。うは、ざまあねぇwww

 

「時に尚紀、真実を知る勇気はあるか?」

 

「真実でも嘘でも何でもいい!俺様のコレクションは一体何処に――」

 

「ヒント1、理事長先生」

 

「――ひょっ!?」

 

最近覚えたての某魔王様の声真似をしながらシリアス風味に言葉を紡いでいく俺。一方、尚紀はヒント1の地点でもう想像がついたようで、既に顔面蒼白になっていた。

 

「ヒント2、世界経済を牛耳る」

 

「ままま、不味い!な、なぁ、嘘なんだろ、嘘だと言ってくれぇ!?」

 

ヒントをさらに答えの核心へ近づけていく。狼狽え出す、尚紀。ちょっと楽しくなってきた。

 

「ヒント3、貴様の親父殿だ」

 

「お、終わったぁぁぁぁ!畜生、こうなったら頭下げに行くしか・・・・・・」

 

頭を抱えて蹲る尚紀。しかし、それも束の間、玉砕覚悟で自分の父親との交渉によってブツを取り返そうとしている奴に、俺は無情にも最後の揺るがない証拠、つまり売却価格が表示されたレシートを突き付けた。

 

「謝罪したところで、返してもらえるとでも思ったか」

 

「あんまりだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

最後のキメ台詞が決まった・・・・・・!俺は密かに自己満足していた。尚紀の方はというと、嘆き声を豪快に上げながら廊下に向かって一目散で駆け出していった。さらば、尚紀。また会う日まで・・・・・・会いたくないけど。

 

「うwwwはwww中年ゴリラがさっきすごい大声でわんわん泣きながら廊下を走り去っていった件wwwワロスwwwバロスwww」

 

「あまり虐めるなよ、あれでも一応大切な部員だ」

 

事の状況を面白可笑しく眺めていた鳴島の言葉を聞いて、龍がそのへんにしておけと言わんばかりに止めに入る。あれでも、って言ってる時点でフォローなってないけど、まぁいいや。

 

「何となく答えは見えてるけど・・・・・・その心は?」

 

「パソコン部存続のための最低メンバー維持に必要な人材だ。謂わば廃部防衛ラインだな」

 

てってててててー♪西条尚紀は称号《廃部防衛ライン第一戦線隊長》の称号を獲得した!

 

「まぁ、でも奴もただ単純な構ってちゃんだから適度にいじってあげれば内容がどうであれ嬉しいのでは?」

 

「あの揺るぎないたった一つの真実が、果たして嬉しいかどうかは甚だ疑問だな」

 

でしょうね、あれで喜んでたらもう真性のドMよ。まぁ、それでないにせよ、立ち直りは早いからな。きっと、明日来た時にはいつも通りにけろっとしてることだろう。そして、一ヵ月も立たないうちにまた再犯するだろう。少しは懲りろよ、馬鹿野郎。

 

「しかし、流石は祐都だな。長年戦ってきた因縁の中でそこまで分かってやれるとは関心関心。では、副部長の名誉をやろう」

 

てれてれてれってててっててん♪向坂佑都の階級が部員から副部長にランクアップした!

 

「チート飛び昇級、乙」

 

「おいおい、夢のないことを言うなよ」

 

「ひょっとして龍くんに黄金色のお菓子あげたんかい?向坂屋、お主もワルよのぉ」

 

「いやいや、優海さん、俺ら越後屋じゃないですから(苦笑)」

 

いや、何この全然信用されてない感、余裕で泣けてくるわ。誰も努力の末(?)の結末であることを称えてくれないとはなぁ・・・・・・くそぅ。

 

「まぁまぁ、冗談はさておいて。時に祐都君や、ちょっとした噂に関しては詳しい方かい?」

 

優海さんに先程やり取りを冗談の言い合いとして処理されてしまった。まぁ、それは置いておくとして、噂か・・・・・・そう言えば一時期噂とかそういうのを集めてた時が俺にもあったなぁ。

 

「詳しい方ではないと思うけど」

 

「へぇ、それは情報提供し甲斐があるね。ではでは、噂の超天才美少女について話して進ぜよう」

 

「あ、それ私も知ってるよ、結構有名だよね」

 

語り部モードになった優海さんがその噂について話し始めたところ、近くで様子を見守っていた慧巳さんが話の輪に入ってきた。慧巳さんも噂好きだったりするのかな。

 

「うんうん、慧巳さんも入っておいでぇ。何でもその人、噂のタイトル通り超が付く程の天才でスタイル抜群の超絶美人らしいんだよね」

 

「正直、羨ましいよね。頭もよくてスタイルもよくて美人さんなんて」

 

全くその通りだ。時々いるよね、そういう『天は人に二物を与えず』の対象外の人って。二物どころか何物与えたんだよってくらいの。

 

「でも、実際にその本人を見かけたって人からは、噂とは裏腹にこんな情報が寄せられてきてる」

 

話を進めつつ、優海さんは俺と慧巳さんの近くに、いつの間にか用意したであろう学校の噂掲示板のスレッド画面がコピーされた紙を差し出した。

 

「えっと・・・・・・かなりの空腹状態で廊下に倒れていたところを目撃された、だって?」

 

何故、そういう経緯になったのか分からないが実際にあった事らしい。その時の状況を描いたイラストが掲載されていたが、その綺麗なくらいの倒れ具合を見て、某団長様の最期を思い出した。止まるんじゃねぇぞ・・・・・・。

 

「廊下ですれ違ったときに落とし物をしていたので、それを拾って声をかけたが、特に此方を気にすることなくそのまま部室棟の方へ消えていった。あれ、愚痴みたいになってる?」

 

慧巳さんが疑問に思った通り、これは確実に情報掲示板というより、ただの特定の個人に対する愚痴を言う場所になっている。コイツは、如何なる事情があろうと筋が通らねぇな。

 

「本棟から部室棟に繋がる連絡通路の方で上空を見上げていたので何かと思って複数の人達が同じ方向を見上げたが特に何もなく何も起こることはなかった、か」

 

別に空を見上げようが見上げまいが個人の自由だろうが、それは。何だ、お前たちは有名人は必ず自分たちの期待以上の成果を起こしてくれるとでも思っているのか。

 

「有名人も楽じゃないってね」

 

「それでも、これは流石に言いすぎというか求めすぎというか」

 

「私もそれは調べてて思ったよ。でも、残念な事にこれが世の中の普通の反応なわけでして」

 

やれやれといったジェスチャーを交えて、その時の気持ちを説明していた優海さんが、少し腹が立ってイライラしつつあった俺の目の前に思いっきり顔を近づけてきた。ち、近い・・・・・・。

 

「でも、そうやって見ず知らずの人に対する身勝手な批判を怒れる祐都君は優しいねぇ」

 

「祐都君のいいところだよね」

 

「お、俺は別に。その、特に思うだけで直接正面向かって言うってのは出来ませんよ」

 

それこそ、コイツ等と同等の屑と言われても仕方がないくらいには。何処かの誰かが言ってたが、その場でそう思ったとか不満を漏らしたとかそういうのは誰にでも出来ることで、大切なのは直接その相手に対して反論できるかどうかである、と言う事。該当しない場合、人はそれを偽善と言うのだ。

 

「フ、女性には格別に優しいからな、コイツは。故に、モテない」

 

「あぁ、聞いたことあるお。特定の人物だけじゃなくて、不特定の人物に優しい奴って異性から地雷扱いされるらしいじゃんよ。うは、ざまぁwww」

 

と、背後から龍と鳴島が煽ってくる。う~ん、ダイレクトにそれを言われると傷つくなぁ。しかし、それ自体がもはや天然で発揮されているわけでこの時の俺はまだそれを知らない。

 

「うるせぇ、黙っとけ」

 

「世の中の女性はギャルゲのヒロインじゃないんだぞ、向坂ァ」

 

「異性どころか同性の歓迎ムードも入学早々に吹き飛ばした奴がよく言う」

 

龍や鳴島に乗っかるように修二の奴も煽ってきていた。お前の場合は、何て言うか・・・・・・お前が言うな状態だよな。

 

「そうか~、初対面の私にそこまで気を遣ってくれるのか。優しいなぁ、キミは」

 

「や、だから優しいとかそういうのじゃない・・・・・・って、え?」

 

更に、背後から女性の声が聞こえてきたのでそれに返事をした瞬間、頭の中に疑問が生じた。あれ、今の全く聞き覚えのない声は誰だ?麻衣ちゃんは絶対違う、慧巳さんや優海さんでもない。

 

「やぁ、偶然廊下を通りかかったらキミの話し声が聞こえてきたから、つい聞き入ってしまったよ」

 

「あ、あの、何方様でしょうか?」

 

俺の今座っている席の後方、デスクトップPCを挟んですぐ近く。PC本体の上に肘をつきながら、此方を見つめている女性がそこにいた。綺麗な茶髪のロングストレート、顔つきは物凄く大人っぽくて、でも瞳は少年のようにキラキラとしている。そんな一際目を引く美人が。

 

「私かい?私は、今し方キミ達が話していた話題の張本人だとも」

 

「は、何故?ど、どういう事!?」

 

「見事に驚いているようだな。では、話題の本人がいる経緯をオレが説明しよう」

 

そう言って、龍が取り出したのは一枚の資料。そこに目を通すと、パソコン部と軽音楽部が一時的に交流を図り、協定を結ぼうとしている事が分かった。え、協定、何で?

 

「前に説明した通り、我がパソコン部では只今、『新アプリ』の開発を行っている。今まで通り、お前の製作したPR用のプレゼンテーション資料を公開しつづけるのは依然変わりない」

 

「だが、それだけでは気を惹かれなくなってくる瞬間が近い未来に存在する。だからこそ、更に我々の部のイメージ図を伝える資料を欲していたところなのだ」

 

龍が柄にもなく、熱く語り始める。だかそれは、龍がそれほどこの企画に入れ込んでいるという証でもある。普段からちょっとローテンションというか傍観者的なスタイルでいることが多い奴だが、こういう意外な一面があるからこそ、面白い逸材であるわけだ。

 

「故に、この部のテーマBGMでも作ってみようという話になってな。専門家を頼ってみた」

 

「それが私というわけだ」

 

成程、つい先週あたりから忙しくしていたのはそのせいでもあったのか。それで、えっと、この人の名前は何ていうんだろう、さっきからまるで紹介がない。

 

「おっと、そういえば自己紹介がまだだった。私は比賀乃美月、軽音楽部所属の3年生だ」

 

やっぱり先輩でしたか、道理でいろいろ大人びている人だなと思ってました。しかし、この人中々特徴的な口調で喋る人だな。

 

「水鳥優海だぁよ、よろしくね♪」

 

「ふ、藤林慧巳です。よろしくお願いします」

 

「本田修二、よろしくっす」

 

「鳴島康平ですお、よろしく仕り候」

 

「夢野麻衣です、よろしくです、先輩!」

 

比賀乃先輩の自己紹介に続くようにして、パソコン部の面々が次々と名乗り始める。ここに俺と龍を足して七人。いやぁ、ずいぶん賑やかになってきたな、この部室も。

 

「超絶美人な先輩がいると聞いて!西条尚紀ですっ、よろしくお願いしまぁぁぁす!」

 

大分前に飛び出していった喧しい奴が再び舞い戻ってきた。あぁ、そういえば尚紀数えるの忘れてたよ、正しくは八人な。

 

「ふふ、中々どうして楽しそうなメンバーじゃないか。それで、キミの名前は?」

 

「あ、ええと、向坂祐都っす。よろしくお願いします」

 

「祐都君、か。此方こそよろしく頼むよ」

 

と、何を思ったか、比賀乃先輩は、今まで立っていた場所から此方にやってきて、両手を広げると突然俺に抱き着いてきたのだ。な、なんばしよっと!?

 

「あ、あの、比賀乃先輩。これは一体・・・・・・」

 

「何って、フレンドリー的な意味でのハグだ。海外だとよくある事だろう?」

 

いや、ここは日本ですよ、先輩。あと、何か外野の野郎3人組の視線が突き刺さるように痛いんで、そろそろやめてもらっていいですかね。うん、そう、龍を除く野郎共ね。

 

「祐都君にはさっきのお礼も込めてしたが、勿論、キミ達が良ければやってあげようじゃないか」

 

「じゃ、じゃあ、私から!」

 

「優海君だったかな、それじゃハグ~」

 

「あぁ~、今私有名人にハグされてる、しゃ~わせぇ~」

 

俺をハグから開放すると、今度は珍しく自己主張を激しくした優海さんにハグをしに行った。優海さんの顔が今まで見たことが無い程に幸せにあふれている。良かったっすね、優海さん。

 

「あっ、優海ばっかりズルい!私もお願いしま~す」

 

「わ、私もいいでしょうか・・・・・・?」

 

「いいぞ~、どんどん来~い」

 

そして、流れるように女性陣が一斉にハグを求め始める。それを見て鳴島は何故か満足げに何度も頷き、修二は羨ましそうに見つつも興味ない素振りを貫き、尚紀は目を全力で見開いてその光景を見ていた。

 

「うんうん、やはり百合カプこそ至高。本当に、ありがとうございますた」

 

「・・・・・・」

 

「う、羨ましすぎるぜぇ・・・・・・!」

 

その後、女性陣のハグが終わっても一向に声を上げない野郎共。龍はもう既に交渉に挑んだ時にされているのだろう、若干の黒さが入った余裕の笑みだ。

 

「フ、何をしているチェリーボーイ共。試しに行ってみればよかろう」

 

「痛てぇ!?」

 

野郎3人組を煽った発言をしながら、龍はそのうちの一人、尚紀の背中を後ろから思いっきり押した。尚紀はつんのめりそうになりながらも辛うじて耐え、ほんの数歩先で留まった。

 

「おい、いきなり何すんだ龍――」

 

「勿論、キミも大歓迎だ、ハグ~」

 

その事について、龍に抗議しようとした次の瞬間、数歩踏み出したその行為がハグ希望だと勘違いされ、尚紀は比賀乃先輩の抱擁を一身に受けていた。

 

「?????」

 

「キミの噂も度々聞いてるよ、同じ有名人同士、骨が折れる生き方をしているな」

 

この唐突な現状をまだ理解できていない尚紀に比賀乃先輩が優しく語り掛ける。間違いない、これは確実に聖母だ。今なら後光がさして見えるもの。そして、やがて現状を理解し終えた尚紀がとった行動は思いっきり泣きつくことだった。

 

「お、御姉様ーーーーーーーーッ!!」

 

「あはは、御姉様とは随分大仰な呼び方をしてくれるなぁ。いいぞ~、キミも頑張ったろうしなぁ」

 

ちょっと日頃の気持ち悪い部分が見え始めた尚紀ではあったが、それさえも比賀乃先輩は優しく受け止めたのだ。リアル『我が神はここにありて』だ。一方、世界一不遇な男さえも受け入れられている様を見た残りの二人組はと言うと。

 

「・・・・・・何でアイツまで受け入れられてんだァ、畜生め」

 

「不遇の立場の少年が救済される、王道の展開だお」

 

修二は割と悔しがっているが、鳴島はそんな素振りはない。多分、突っ込んだら負けだと思ってるんだろうけど。

 

 

それから、小一時間程経って、結局その二人はハグすることなく、今は今後の協定内で進められる予定の確認をしていた。まぁ、二人ともそういうの柄じゃないことは分かってたけど、何も遠慮することはなかったんじゃないかなと。現に、あの時の比賀乃先輩に押し当てられた柔らかい双丘の感触を俺はまだ覚えているのだから。スーパーギャラクシー、でっけぇおっぱい!!

 

「――以上が詳細だ。もっと詳しいことについては後日改めて発表しよう」

 

「一応、助っ人に選んだ人についても追って本人に伝えるぞ、では解散!」

 

龍と比賀乃先輩がタッグを組んで行われた合同ミーティングは終了、解散の運びとなった。

 

「あぁ、そういえば伝え忘れていたことが一つあった」

 

「私は日頃、軽音楽部の部室にいるが、もし用事があって訪ねた際には私が作業に取り組んでいるかどうかの確認だけしておいてくれないか」

 

「何でですか?」

 

比賀乃先輩とお近づきになれて幸せいっぱいの優海さんが質問をする。表情はいつも通りだが、周りに漂う空気が何だがいつもよりぽあぽあしている。

 

「好きなものに集中しているといろんなことを忘れてしまうんだ、私はバカだからなぁ」

 

比賀乃先輩の一言で一瞬にして空気が変わった。あの超天才と謳われた先輩が自分はバカだから、と発言したからだろう。確かに比賀乃先輩は成績もよくて頭の回転も速い、常人離れした才能の持ち主ではある。だが、古来としてそういう天才風な方々は我々の常識より一線を凌駕している事が多く、その史実に触れた人々を驚かせてきたのもまた事実である。果たして、そんな数奇な運命によって巡り合った彼女との交流がこれからのパソコン部に何を生み、何を育てていくのか。そして、ここからこの物語はさらに大きく動き出すこととなる。読者諸君には是非とも、これからの新生パソコン部の実態をより楽しんでもらえればと切に願う。と、いうわけで次回、お楽しみに。

 

 

 

                                                                   Shift5 To be continued...

 

 

 

 

 

 

Next Shift..

 

 

「ムッ、次回予告の時間か。キャンプの準備で忙しいから手短にやるぞ」

 

 

「パソコンのある日常、次回は第六話『仲直り幼馴染』だ」

 

 

「幼馴染は、いいぞ」

 

 

 




はい、というわけで美月先輩の初登場回だったわけですが、モデルになったキャラクターがいましてね。さて、ここで問題です。

Q.美月先輩のモデルとして起用したキャラクターは誰でしょう?

分かった人は素晴らしい、同じギャルゲ道を行く同志かもしれませんね。正解発表は次回更新回の前書きで言うとしましょうか。

次回更新は9月28日(月)15:00頃を予定しています。ではでは、この辺にて失礼いたします。
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