パソコンのある日常-Daily lives of there's a personal computer-   作:海色 桜斗

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何やかんや言うけれど、やはり人は最後に王道へ還る



Shift6「仲直り幼馴染」

2025/6/20 PM10:00

夢島高校部室棟2F 軽音楽部部室

Side:川知 智佳

 

「はぁ・・・・・・」

 

これで何回目かもわからない溜息をついた。最近はずっとこんな感じだ。携帯の電話帳に登録されてある唯一の男子の名前。それをクリックすれば電話番号とメールアドレスが表示される。ここをもう一度クリックすると電話がかけられる。アイツが出てくれるかもしれない。でも、中々押せない。そして、また溜息。この繰り返し。

 

「別にアイツに会いたいわけじゃないのに・・・・・・」

 

「およ?どったの、ちーが退屈そうにしてるなんて珍しいね」

 

自己紹介がまだだったかな、私の名前は川知智佳。市立夢島高校に通う2年生だ。軽音楽部に所属していて、副部長とボーカル兼ギターを勤めている。そして、先程私に話しかけてきた人物は紗々由鈴羽。同級生であり同じ軽音楽部所属。ちなみに彼女はドラム担当。

 

「別に、何でもないわよ」

 

「はは~ん、さては悩み事だな?おもに向坂絡みの」

 

「ち、違っ・・・・・・!別にっ、アイツのことで悩んでるわけじゃないんだから!」

 

図星を指され、思わずムキになって否定する。頭の中でそれを聞いたアイツが一瞬だけ悲しそうな顔をして、それからすぐに『まぁ、嫌われていて当然か』と言っているような平然とした顔に戻った。分からない。アイツが何故そんなにも自分に嫌われているものだと錯覚しているのかが。

 

「じゃあ、何で悩んでるのさ?」

 

「つ、次のライブで使う課題曲についてよ、課題曲について」

 

「へぇ~、まぁそういえばそろそろ次のライブ近いからなぁ。いつだっけ?」

 

「ちょうど一ヵ月後の予定。そろそろ大詰めってところね」

 

これ以上鈴に勘ぐられるのもあまり気分のいいものではないので適当な理由をつけて誤魔化す。鈴もそんな私の気持ちを汲み取ってくれたのか、『ふーん、そっか』と軽く相槌を打つと追求を諦めてくれた。

 

「まぁ、そのせいってかいつも通り、先輩はデスク前から動かないわけだけど」

 

「・・・・・・」

 

「あ、あの~、先輩?そろそろセッションやりませんか?」

 

「・・・・・・」

 

窓際の机でデスクワーク中の軽音楽部唯一の3年生こと比賀乃美月先輩。先程から、懸命に頭に浮かんだイメージを捻り出し、オリジナル楽曲の譜面を仕上げようとしているようだ。そんな先輩は部長兼ベース担当。

 

「・・・・・・ん~っ、ようやく一段落ついた~。んあ?何だ君たちか、どうかしたかい?」

 

少し間が空いて、ようやく比賀乃先輩が顔を上げる。普段ののほほんとした口調で私達の存在に今更気付いたということを証言している。これに至ってはもう仕方がない。何故なら、この人は一つの物事にどっぷり集中して周囲の変化に気づかないという事例が多々あるのだ。本当、今度から天才のイメージを書き換えなきゃいけないな。

 

「いや、どうかしたとかそういうんじゃないんですけど」

 

「あはは、すまないね。御覧の通り、先程の会話は全く聞けてないんだ」

 

「そうだと思いましたよー、セッションしませんかって言ったんですー」

 

「ああ、セッションか。分かった、すぐに取り掛かるとしよう」

 

比賀乃先輩が重い腰を上げ、準備を始めた。頭がいい、背も高い、スタイルもいい。私は頭はいいが、背は低いしスタイルもあまり良くない。だから、何でもかんでも優秀クラスの先輩が凄く羨ましい。アイツもああいう女の人が好きなのかな・・・・・・。

 

「あ、そう言えば伝え忘れてたけど、今日の昼から助っ人を頼んだ子が来るんだ。よろしく頼むよ」

 

私の思考にちょっとした雑念が入りかけたところで、比賀乃先輩がベースを片手に唐突すぎるお知らせを口にした。えっ、今このタイミングでいう事?

 

「今日からって・・・・・・急すぎませんか。まぁ、先輩の事ですから今更驚きませんけど」

 

「流石は智佳、話が早いなぁ。他の部から助っ人として来てくれるみたいなんだけどね」

 

「でも、あと一ヵ月しかないのに大丈夫なんですか、それ」

 

「大丈夫だとも、何と助っ人の彼は経験者だそうだ」

 

ん、待って。今、この先輩は彼、と言った。ということはその助っ人は確実に男子生徒というわけで。少し嫌な予感を抱きつつ、私は先輩に向かって問いかけた。

 

「因みに、その人の名前は?」

 

「ふふん、聞いて驚け。君等とも縁が深いことで有名な、パソコン部所属の向坂祐都君だ」

 

「「ええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」」

 

昼前。私と鈴の驚愕の叫びが土曜日の部室棟内に響き渡ったのだった。

 

 

2025/6/20 PM10:00

夢島高校本棟2F コンピュータ室

Side:向坂 祐都

 

 

「――というわけで、件の軽音楽部との提携について次回開催されるライブの助っ人の貸出の件についてだが、適当にお前を推薦しておいた」

 

「何故そうなった」

 

「前にギターくらいなら弾けると言っていたな。だからこそ、推薦したまでだ」

 

一方、此方の方は此方の方で唐突な救援活動要請を受けていた。運動部でもないのに珍しく土曜日に呼び出しがかかったかと思えばこれだ。幾ら何でも急すぎるだろう。

 

「確かに出来るとは言ったが、本番まで時間がないってのは流石に無茶だろ」

 

「これは軽音楽部の比賀乃先輩からの直々のご指名だ、断れるはずもあるまい。それと・・・・・・」

 

「何だよ」

 

「あの比賀乃先輩からの、だぞ。お前的にも悪い話ではないはずだ」

 

「そりゃあ・・・・・・まぁ、そうだが」

 

初めて美月先輩と会ったあの時、何よりも目を引かれたのが、母性の象徴ともいうべき大きなアレである。うん、隠しきれてないからもう素直に言おう、ズバリ胸・・・・・・バストである。それに、軽音楽部にかける情熱を語る時の美月先輩の瞳は、無邪気な子供のように輝いていた。見た目は凄く大人っぽくて綺麗な人なのに、その時の瞳は本当に純粋な思いで満ちていた。心の底から好きな物を語る人がする目だった。所謂、ギャップ萌えって奴だ。

 

『好きなものに集中しているといろんなことを忘れてしまうんだ、私はバカだからなぁ』

 

好きなものに対する集中力が高すぎるが故の障害。流石に、美月先輩みたく食事までも忘れて何かに没頭したなんてことはないけど。それでも、彼女のあの姿勢は俺が初めて推しの柏木結衣菜にあった時のような衝撃を与えた。そう、俺はあの時、人生で初めて心の底から尊敬できる先輩に出会ったのだ。

 

「余程心の許せる同志と出会えたようだな、球筋に出てるぞ」

 

「いや、今野球どころか球技すらやってねーだろ」

 

「フ、比賀乃先輩のスーパーギャラクシー?」

 

「でっけぇおっぱい!!・・・・・・ハッ!?」

 

つい龍の言葉に釣られてとんでもないことを口にしてしまった。しかし、軽音楽部か。美月先輩はいいとして問題は川知の奴だな・・・・・・。遭遇することが増えてきた最近ではあるが、うまくタイミングが掴めず、あの時の謝罪を未だに成しえていない状況だ。果たして、今回のこの機会を上手く拾うことができるだろうか。

 

「フ、やはり彼女との一件があるから少々躊躇いもあるようだな、任せても大丈夫か」

 

「悪いな、心配かけて。だけど、こればっかりはどうやら避けて通れない道らしいからよ。そういう運命に位置付けられてんならやるしかねぇだろ」

 

「比賀乃先輩に見とれて機嫌を損ねんようにな」

 

「・・・・・・善処しよう」

 

何かよくわからんが、川知といる時に他の女性陣の誰か(鈴以外)と出くわすと急に機嫌が悪くなるのだ。もしかして、俺のことが多少気になっている?いやいや、まさかそんな。俺がやってるみたいなギャルゲの世界じゃあるまいし、視覚的にも分かる単純な恋愛模様が現実にあるはずがないだろう。それにギャルゲの主人公もただそこにいるだけでモテているわけでもなく、ちゃんと特定のヒロイン√に突入するまでの努力とか姿勢が評価されてそこに至ってるわけで、何もしなければ『誰とも付き合わずに終わったEND』が見れたりするのだ。現実は非常である。

 

「もし気が乗らないなら、尚紀を派遣しよう。奴は比賀乃先輩に一番ご執心だったはずだ」

 

「やめてくれ、余計に川知からクレームが来る」

 

「そうだな。最悪、話がなかったことにされるかもしれん、やめておこう」

 

自分の存在を受け止めてくれる年上の女性がいなかった彼に、美月先輩は少し刺激が強すぎたかもしれない。一目惚れしたようで、初対面の時に『御姉様』と呼んでいた。勿論、美月先輩はそんな彼の事も迷わず受け入れてくれた。とはいえ、その他女性陣からはまだ受け入れられてはいない訳で、絶対トラブル起こして追い出されてトボトボ帰ってくる姿が余裕で想像できる。ハイリスクノーリターン、ダメ絶対。

 

「・・・・・・」

 

「おい、せめてノックぐらいしてから入って来い」

 

「う、五月蠅いわね。いいじゃない、別に」

 

龍さんとの会話が一通り終わって出入り口付近に視線を送ると、いつの間にか川知の奴が顔を真っ赤にしながらそこに立っていた。あぁ、誰が行くかのじゃんけんで負けたんだな、ご愁傷様。

 

「フ、さっそく迎えが来たようだな。川知さん、ウチの書記参謀をよろしく頼む」

 

「同じ学年なんだし、智佳、でいいわよ」

 

「そうか。では、智佳さん、改めてよろしく」

 

やっぱり俺以外には普通なんだなぁ、コイツ。まぁ、俺は特別嫌われてるから仕方ないといえば仕方ないのだが。けれど、それを置いといたにしてもなんだかなぁ、ですよね。因みに、俺がこの名前で呼ぶ流れに悪乗りするとこうなる。

 

「そっかー。なぁ、智佳」

 

「・・・・・・ッ!?ア、アンタには言ってないわよ!」

 

「ちぇー」

 

そんなムキになって突っぱねなくたっていいじゃない。仮にも俺等同学年ってだけでなく幼馴染なんだからさ、もう少し親睦深めてくれてもいいよね・・・・・・いえ、今はあんまり仲良くありませんでしたね、つい調子乗ってしまってすまない。

 

「とっ、兎に角、私が迎えに来てあげたんだから、感謝しなさい!」

 

「おう、態々ありがとな。さっさと行こうぜ」

 

「ど、どういたしまして・・・・・・」

 

急にしおらしくなる。どうした、いつもの情緒不安定にでもなったか。しかし・・・・・・素直になると案外可愛く見えてくるじゃねぇか、どうしてくれんだクソ野郎。

 

「しかし、珍しいな。お前が俺を迎えに来るとは」

 

「何よ、私じゃ不満なわけ?」

 

「誰もそこまで言ってねぇだろ。鈴か美月先輩が来ると思ってたから、少し驚いただけだ」

 

「やっぱり、背が高くてスタイルいいほうがいいんだ・・・・・・いいわよ、どうせ私なんて」

 

ええい、面倒くさい。勝手に解釈して勝手に凹んでるんじゃありません、確かにお前は背が低いがいいじゃないか。むしろ、俺的には低い女性は好みだが。いや、うん、ここで個人的見解述べても仕方ないわけですけど。

 

「他人と比較すると余計空しくなるぞ、やめておけ」

 

「それはそうだけど・・・・・・でも」

 

「俺は少なくとも、十分可愛いほうだと思うがな、お前は」

 

「か、可愛・・・・・・っ!?」

 

と、言うか俺の周りにいる女子は基本可愛かったり美しい方々ばかりだと思ってるわけだが。そんでもって逆にTVとかで持て囃されてる美人とか美少女とかにはそこまでビビッと来なかったりする。最悪、美人でなくてブスの間違いだろ、なんて思うくらいには。あ~ぁ、これじゃあ万が一彼女を作りたくなったとしてもレベルの度合いが違いすぎて手が出せんではないか。俺がもう少し・・・・・・いや、遺伝子改造レベルでイケメンで才能にあふれる人材だったなら。或いは、きっと。

 

「つか、お前ほどの奴がそう感じてるんだったら、俺はどうすりゃあいいんだ」

 

「し、知らないわよ、そんなこと言われても」

 

「ふーん・・・・・・ていうか、川知って正直モテるだろ?」

 

「別に、興味ないもの」

 

「マジか、勿体ねぇなぁ」

 

あれ、何かよくわからんがコイツとそれなりに長々と会話できてるな。この間の最長記録越えたかもしれん、銀トロフィーとか貰えそう。

 

「今日は機嫌いいんだな」

 

「いつも通りだし」

 

「そか、世話かけるな」

 

「別に、これくらいならいいわよ」

 

先程から、川知との淡々とした会話が続く。うーん、なんかこうもうちょっと長引きそうな話題ないかな。俺が得意なジャンルからちょっと試し打ちしてみよう。案外、どっかで引っかかってくれるはずだ。

 

 

→・スカイクラッドオンラインについて

・最近のアニメについて

 

 

「なぁ、川知は《スカイクラッド・オンライン》やったことあるか?」

 

「最近、鈴に誘われて始めた。アンタもやってるの?」

 

「あぁ、良かったら今度パーティ組んでみないか」

 

「まぁ・・・・・・気が向いたら」

 

やり始めて間もないから、男子共と違ってちょっと反応が薄かった。この話題はダメそうだな、じゃあ次は・・・・・・

 

 

・スカイクラッドオンラインについて

→・最近のアニメについて

 

 

「最近やってるアニメで一押しの作品とかあるか?あったら教えてくれよ」

 

「煌々の陸上自衛隊。あと、カクシゴトも外せないわね」

 

「へぇ、そんなのもあるんだな。後で見てみよう。因みに俺のお薦めは覇王学院の不適合者な」

 

「それってなろう系じゃ・・・・・・まぁ、いいわ。時間があったら一通り目を通しておくわね」

 

あ、意外といい反応。やっぱり隠し持ったオタクの素質がある限り、この手の話題には反応せざるを得ないようだな。もうちょっと深堀してみよう、そう思って再び話を振ろうとしたが、先に川知の方から珍しく口を開いた。

 

「・・・・・・ねぇ、アンタは私がオタクだったって知って、正直気持ち悪いとか思った?」

 

「馬鹿言え、手前でオタクに染まった奴が同類を貶せるものか」

 

「そ、そう・・・・・・ふーん」

 

「そういうのは妄信的になりすぎて狂気に走った奴とアンチ共の芝居みたいなものさ。まぁ、俺は正直言って結構嬉しかったんだぜ。共通して話せる話題があるって最高だろ?」

 

「偶に臆面もなく気障な事言うわよね、アンタ」

 

「あれ、今のいい話風に言ったつもりなんだが!?」

 

「アンタって時々つまんない程リアリストで時々中二病よね」

 

マイナスな事を言っていた川知を励まそうとした結果がこれである。しかも、妙にダイレクトで胸を抉ってくるパターンの奴。仕方ないじゃない、そういう生き物だもの。

 

「でも別に、その、嫌いじゃないって言うか・・・・・・」

 

「ん、何か言ったか?」

 

「なっ、何も言ってないわよ、馬鹿ッ!」

 

「理不尽!?」

 

ついには殴られてしまった。優海さんの《ぎゃるぱんち》と違って、こっちはマジ力だからかなり痛い。ったく・・・・・・相変わらず加減ってもんが分かってない奴だなぁ。本当なら注意すべきなのだろうが、ノックアウトされて床に軽く叩きつけられた俺を見て「あ、やっちゃった、どうしよう」とでも言いたげな表情が曇っている彼女を誰が追い込めようものか。それとも俺がただ単に女性に甘すぎるだけなのか。

 

「あ・・・・・・ごめん」

 

「気にするな、頑丈さには自信がある。一発如きを耐えられんようでは男が廃るしな」

 

まぁ、強がりなんですけどね。周りの男子連中と比べれば、力も耐久力の差も歴然である。そうだな、ここは保険としてとある大佐のお言葉をお借りしつつ、敢えて言おう。

 

「ヘルメットがなければ即死だった」

 

「ヘルメット・・・・・・?」

 

あ、駄目だ、通じてない。そっかー、女性にガンバムネタは通用しないか~。いや、中には通じる人もいるってのは分かってるよ。イケメン男性パイロット多いもんね、分かります。

 

 

そんなこんなで最終的にちょっとお互い気まずい雰囲気で軽音楽部の部室前へと到着した俺と川知。中に入ろうと引き戸に手をかけると、川知が背後から俺の服の裾を引っ張ってきたので後ろを振り返る。すると。

 

「そう言えばアンタ、楽器とかできる方だっけ?」

 

「ギターとボーカルなら自身がある、任せろ」

 

右手の親指を上にぐっと立てていい感じにサムズアップする俺。フ、決まった・・・・・・!

 

「うっ・・・・・・私のポジションと丸被りじゃない」

 

「冷たいことを言うな、我が同志よ」

 

「あ、アイツの喋り方の真似しないで!あの時の事思い出して鳥肌立つから」

 

あ、やっぱり川知もちょっと後悔してたんだな、あの時の事。だが安心しろ、奴は部室棟には絶対に近寄ってこない。故にまたあのように引っ掻き回されることはない・・・・・・と思う。

 

「何だ、廊下の方が騒がしいなと思ったら、ちーと向坂じゃん」

 

「おぉ、祐都君か。君の登場を今か今かと待ってたぞ」

 

その時、部室の引き戸がすっと開いて、入り口前で屯する形になっていた俺と川知の視界に、そこからひょっこり顔を出した鈴が映った。姿は見えずとも中から聞こえてきた声は美月先輩のものだろう。

 

「向坂の腕前確かめたいから早く入りなよ、ちーだけで独占したい気持ちもわかるけど」

 

「なっ・・・・・・そ、そんなわけないじゃない!?」

 

「はいはい、じゃあ記念すべき助っ人第一号君を我らが部室にご案内だー」

 

流石は鈴。俺と違ってずっと川知と一緒だったから、扱い方と流し方を完全に理解しているんだな。しかし川知よ、お前はもうちょっと落ち着いたほうがいいんじゃないか、弄られとるぞ。

 

「やぁ、祐都君。遠路遥々ご苦労だったね」

 

「美月先輩、お疲れ様っす」

 

中に入ると、俺が部室前に来るまでやっていたであろうベースの調整を終わらせて、手持ち無沙汰になっていた美月先輩が爽やかな笑顔で俺を出迎えた。これは、天使だ。

 

「確かギターとボーカルが出来るんだったかな。さっそく実践、の前に私とハグをしようか」

 

「喜んで!」

 

「むっ・・・・・・」

 

美月先輩からの素敵なご提案に勢いよく飛びついたまでは良かったが、そうは問屋が卸さなかった。例の通り、川知が背後から殺気を放って、俺を鬼ような形相で睨んでいた。

 

「い、いや、遠慮しときます・・・・・・」

 

「そうか、そう言えば智佳がいるって事を失念していたよ。また今度だ」

 

背後からの殺気を感じ取った俺は、龍さんのアドバイスを思い出し身を引いた。先輩も川知に気を遣ってくれたようだ。やっぱり、いい先輩だ。

 

「んじゃ、向坂はそこのギター使って軽く演奏してみてよ」

 

「ん、分かった」

 

「あっ、因みにそれぇ、ちーが使ってたやつなんだけどぉ~」

 

「ちょ、ちょっと鈴!?」

 

鈴がニタニタしながら此方に視線を向けてくるが、それがどうした。ここには大きい機材と楽器以外は自分で持ち込みしないとないから、川知の使わせてもらうしかないだろ。

 

「というわけで、お前の借りてもいいか?駄目なら、寮から自前の取ってくるけど」

 

「べ、別に使ってもいいわよ。そんな面倒な事させるぐらいなら」

 

「そっか、サンキュな」

 

「次からは、自前で持ってきなさいよね」

 

自分のものを使わせるのがちょっと気恥しいらしく、川知が俺から目を逸らしながらそう言った。そうか、そういう事意外と気にするタイプなんだな。俺?俺は別に構わんよ。

 

「じゃあ、適当に弾くから当ててみろ」

 

そう言って俺は、演奏に入るため、ギターを弾くことに全神経を集中する。川知達も知ってるような曲を選ばなきゃな・・・・・・そうだな、最初はアレにしよう。

 

「♪~」

 

「「あ、アジカンのリライト(だ)・・・・・・!」」

 

前奏弾き始めて間もなく、川知と鈴の二人が同時に反応を示す。ふむ・・・・・・あの二人は俺と同類だから引き込みやすいが、問題は美月先輩か。じゃあ、あのCMソングを。

 

「♪~」

 

「おっ、ワタリドリかぁ。祐都君はセンスがいいなぁ」

 

どうやらお眼鏡に叶うが曲が披露できたようで何よりだ。では、次はバンドと言えばの括りで行こう。

 

「♪~」

 

「去年のライブでやったGod knowsだ!私も混ぜてー!」

 

バンドをしてる者の血が騒いだのか、鈴がドラムセットの前に座り、俺に合わせるように演奏を始める。ドラムの音が加わったことにより、ちょっと豪華になった演奏に聞き入っている美月先輩と何の躊躇いもなくセッションし始めた鈴をちょっと羨ましそうな目で見つめる川知の姿があった。

 

「「♪~」」

 

「Crow Song・・・・・・アイツにしてはやるじゃない」

 

「ドラムとのセッションも初めてなのに上手くいってるなぁ。これは、私も混ざる流れかな」

 

更に美月先輩がベースを持って加わり、より豪華になった演奏に聞き入る川知。その姿が少しだけ寂しそうに見えたのは気のせいではないだろう。そういや、ギター兼ヴォーカルでやってるって話だったな。よし、ならば。

 

「「「♪~」」」

 

「瞬間センチメンタル・・・・・・」

 

鈴と美月先輩には楽譜渡してないはずなんだが。ここまで出来るか、恐ろしい人達だ。それはさておいて、意図的に川知にヴォーカル加入を促すべく、さっきから前奏の所を態と繰り返しているわけだが、如何なものか。

 

「っ・・・・・・もう!分かったわよ、歌えばいいんでしょ!?」

 

俺達三人の露骨な待機を見て、若干ヤケクソ気味に叫んだ川知はマイクスタンドの前に立ち、歌う準備を始める。それを見た俺達は一瞬だけ顔を見合わせて、ニヤリと笑い合い、Aメロに入った。

 

「「「「♪~」」」」

 

ヴォーカルが加わったことにより、完全なバンドグループがここに完成した。俺のギターが響き、鈴のドラムが走り、美月先輩のベースが唸り、川知の歌声が共鳴する。それにしても、初めて川知の歌声を聞いたけど・・・・・・なんか凄く綺麗だ。

 

「は~、演奏終わったー、気持ちいい~!」

 

「祐都君の実践を見るだけのつもりが、ついつい誘われてしまったなぁ」

 

「ヴォーカルに専念したの、ほんと久しぶり。けど、悪くなかったわ」

 

「はは・・・・・・活動初日から限界突破しちまった。手が動かねぇ」

 

結局例の曲の後も何曲か追加でセッションしてしまい、そこに居合わせたメンバー全員がへとへとになるまで夢中で演奏し続けたのである。寝転がったフローリングの床の冷たさと部室に設置されていた空調設備から出る冷風が妙に心地よかった。

 

「ふと、思ったんだが智佳も祐都君もヴォーカルとギター出来るなら二人で交互にって方針でどうかな?」

 

「うおー、ってことは向坂の歌声も聞けんのかー、ヤバいね」

 

「なら、猶更私は負けられないわね・・・・・・勝負よ、祐都」

 

「・・・・・・」

 

美月先輩の鶴の一声でライブに向けての活動方針が決まり、その場にいる全員のテンションが上がる。だが、その時俺は見て聞いてしまった。今までの俺を見ていた侮蔑の表情とは打って変わって、自分の知る限りでの強力なライバルに出会えたと物語るやる気に燃えた川知の瞳と、その川知が小学校の時のように俺を名前で呼んだ事を。

 

「おー、さっきから黙りこんでどうした、向坂ー」

 

「ちょっと、返事位しなさいよ」

 

これは、もしかしてこの時が来たのかもしれない。俺はそう思って、顔を上げてそれほど離れていない川知の顔を見つめた。ハイになってるからだろうか、この時の川知はいつものような反応はせず、不思議そうに俺を見つめ返していた。

 

「この空気に水差すようで悪いけど、川知。俺、お前にずっと言いたかったことがあるんだ」

 

「な、何よ、藪から棒に」

 

ゲームとかだったらここで見上げれば青空か夕暮れ空があったんだろうが、此処は室内、風情も減ったくれもない。だけど、妙に格好つかないところが俺らしい気もしてそのまま言葉を続ける。一方、鈴と美月先輩は空気を察して少し離れたところに、移動した。俺と川知をその場に残して。

 

「小学校6年の頃、行事に参加しなかった俺に声をかけてくれたお前にらしくない当たり方しちまってたよな・・・・・・あの時の事、ずっと謝りたかったんだ。ごめんな」

 

「アンタ・・・・・・まさか、それずっと気にしてたの?私なんてそんな時の事もうすっかり忘れたっていうのに。でも、そっか・・・・・・うん、ありがとう」

 

俺の言葉を聞いた川知は『そんな些細なことはもうとっくに時効だ』と笑い飛ばしつつも、優しそうな笑みを携えて俺を見る。あぁ、俺が空回りしたがばっかりにずっと見ていなかったアイツの・・・・・・川知の本来の笑みがやっと見れた。ったく、こっちにお釣りが来てどうするよ。

 

「はは、漸く肩の荷が下りた。ほんと、馬鹿馬鹿しいな」

 

「ホントよ。すごく馬鹿馬鹿しいけど、私たちらしいかもね」

 

そして、二人で向かい合って笑った。今思えば、実にしょうもない仲違いだった。しかも、原因が一番川知に遠慮していた自分の思い込みで引き起こしたものだと知ったからには猶更だ。きっと、この状況をかの有名なフロイト先生が何処かで見ていたなら、大爆笑していたに違いない。落ちるべき落ちもない、小説で書くとしたら三流以下のストーリー。だが、それは今まで書いてきたものよりも遥かに自分らしいものだと正直に思えた。

 

「あ、そうだ。さっきのお前への返答だが・・・・・負けて後悔すんなよ、智佳」

 

「あんでアンタなんかに負ける前提なのよ、そっちこそ覚悟しときなさい、祐都」

 

お互いの拳をコツン、とぶつける。再会した幼馴染があるジャンルで才能が拮抗するレベルで同じでお互いに切磋琢磨しあいながら腕を競い合う。いいじゃん、青春展開ktkr!

 

「向坂、ちー、やったじゃん」

 

「競い合う相手、か。羨ましい限りだなぁ」

 

そんな二人の様子を見ながら、思い思いの発言をする鈴と美月。こうして、長期的に張り合い続けてきた二人が漸く和解し、元の関係性へと至ることができた。だが、彼らの運命はまだまだ動き始めたばかりである。果たして、ライブは無事成功へと結びつけるのか。そして、パソコン部と軽音楽部の間に結ばれた協定で一体何を目指すのか。また、この時は単なる幼馴染同士の再会と言うことで祐都と昔みたいに喋りたいというそれだけの願いの為に、ぶっきら棒かつ攻撃的な一面で多方面の女子からの接触を警戒していた彼女だが、そんな彼女の幼馴染に向ける親愛が、この道の先に恋慕へと変わっていくことになるのだが、それはまた先のお話である。

 

                                                                  Shift6 To be continued...

 

 

 

Next Shift...

 

【第一問】

問 あと少しで夏休みに入りますが、休み中自身の為にやっておきたいことを自由に述べなさい。

 

 

西条尚紀の答え

『まとめ買いしたエロゲー千本ノックを達成し、ギネスに記録として残す』

 

 

教師のコメント

『あい、夏休み中、第四演習室に缶詰めな』

 

 

 

次回予告

 

 

夏休みと計画とライブアライブ・前編

 

 

 

『ここ、テストに出ます』

 




お陰様でSAOの方も(というか方が)大変好評(?)みたいで。



勿論、こっちに目を通してくれてもいいんですよ?


これからも更新頑張ります!

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各小説の現在の更新予定日

パソコンのある日常:6日毎1話更新

ソードアート・オンライン:出来上がり次第、即更新


となっております!活動報告内で裏話もしてるんで、良ければそっちも見てね。

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