ビーンズは小さく咳ばらいをして話し始めた。
「皆様、三次試験のスタート地点はここ、トリックタワーと呼ばれる所です。合格の条件はこの塔を、生きて下まで降りてくること。制限時間は72時間です。ではこれより三次試験を開始いたします。皆様の検討をお祈りいたします」
説明が終わると、受験者以外のスタッフは全員飛行船に乗り込み塔からどんどんと離れていく。
「ふぅん、下まで降りるのが試験内容かぁ」
メルは塔の下を眺めながら呟く。
念を使えばこの高さから降りても問題はないけど……
ハンター試験は念が使えない受験者たちにも合格できるようになっている筈。
ならばここから飛び降りるだけ、という訳ではなさそう。
何か仕掛けがあるはずだ。
すると一流のロッククライマーだと言い張る男が、塔の外壁のわずかな隙間に手足をかけながら降りていく姿がメルの目に留まった。
「器用な人もいたものだね」
「……でも、見てみなよ」
赤い体をし、大きな翼をもつ怪鳥が翼を羽ばたかせながら男を丸のみにしてしまったのだ。
メルはその様子を見て目を丸くした。
「や、やっぱり外壁から降りるのは違うみたいね」
「そだね。まぁ、十中八九この床に仕掛けがあるんだろうね」
そう言いながらギタラクルはコンコンと地面をたたく。
すると反転する床を見つけたのだ。
「ほらね」
「本当だ。……その狭さなら一人しか通れないね」
「メル、その床も反転するよ」
ギタラクルが指さしたのは斜め上の床板だった。
「ありがとう。じゃぁお互い無事に下で会おうね」
「うん。メル、くれぐれも気を抜かないようにね」
「分かってるって」
そういうと、メルは思い切り飛び込んだ。
メルは軽やかに着地する。
辺りは暗いが等間隔に蝋燭が並べられている。
ゆっくりと立ち上がると「や」という声が暗闇の中から聞こえてくる。
姿を現したのはギタラクルだった。
「随分と短い別れだったね」
メルは呆れたように笑みをこぼした。
「そだね。まさか下で繋がっているとはね」
「でも安心したよ。私達二人なら余裕でクリアできるね」
なんて言うと、更に暗闇の奥から喉を鳴らしながら笑う声が響いた。
「ククク、残念だけど僕もいるよ♡」
怪しく笑うピエロを見てメルは驚きと共にため息をつく。
「酷いなぁ、邪魔者扱いはよしてくれ」
「別にしてませんよ」
「そうかい?クク、まぁこれから72時間はずっと時間を共有しないといけないみたいだから仲良くしてね♡」
「はいはい」
投げやりに返事をするメル。
すると上空から男の音声がしてきた。
「私の名はリッポー。刑務所所長兼第三次試験の試験管だ。このタワーには幾通りものルートが用意されている。お前たちが選んだのは、“暴虐の道”。男二人はいいとして、この道を女の子が引いてしまうことになったのは些か可哀そうだが、自分の運がなかったと悔やむしかないね」
暴虐の道かぁ。つまり、惨い行為で人を苦しめる道。
明らかにこれから何らかの戦闘を強制されそうだなぁ。
でも私は普通の女の子じゃないし、むしろこの方が分かりやすくてやりやすい。
「ハンターとしての強さと勇敢さを見せてもらう!では君たち三人に検討を祈る!!」
男の声が聞こえなくなると同時に鉄の扉が開いた。
扉の先には薄暗い通路が蝋燭の光に照らされていた。
「なんだか嫌な道だね」
「ま、俺たちに打ってつけな道だよねー。さ、早く行こうか」
「そうだね♢」
全員が扉の先を潜ると、鉄の扉は再び閉まり、後戻りはできなくなった。
しばらく歩いた頃であった。
この道の先からとてつもない殺気が立ち込めている。
「クク、どうやら僕のお客みたいだね」
この殺気を出している人、相当ヒソカを恨んでいるね。
自分に向けられたモノではないけど肌が痛いよ。
通路の先には広い空間があった。
そこに一人、男が立っている。
殺気はあの男から出ていた。
「待っていたぜ、ヒソカ。今年は試験管ではなくリベンジャーとしてな。去年の試験以来貴様を殺すことだけを考えていた」
そういうと、男は変わった形の刀を取り出した。
切っ先は三日月の様に綺麗な弧を描いている。
「この傷の恨み、今日こそ晴らす!!」
男の体には無数の切り傷が付けられた跡が残っていた。
あぁ、トンパさんが確か言っていたなぁ。
ヒソカは去年のハンター試験で試験管を殺しかけたとか……。
あの人がそうなのね。
メルとギタラクルは壁にもたれて二人の戦闘を見守っていた。
「フフ。君が試験管として能力が足りなかっただけの事。それを逆恨みと言うんだよ」
「ほざけ!ヘッヘ、覚悟しなァア!」
男は次から次に同じ形状の刀を取り出していく。
合計4本の刀は上下左右上面背後お構いなしにヒソカ目掛けて飛んでいく。
「わぁ、曲芸みたいだね」
メルは少し目を見張る。
ヒソカは華麗に全てを交わしていく。
「お前を切り刻む!!」
男は休むことなく色んな角度から投げ込み続ける。
「確かにこのまま避け続けるのは少し難しそうだ」
少し喉を鳴らしながらヒソカは高速回転しながら飛び回る刀をいとも容易く受け止めた。
「なら、止めてしまえばいいだけのこと」
舌先でぺろりと刃を舐めとる。
あれくらいヒソカなら受け止められて当然だ。
にしても……一度ヒソカと手合わせをしているのにこれでよく勝てると思ったね。
貴方の残念な所はヒソカと戦って命があったのに自らその命を差し出しに行ってしまったこと。
メルは静かに目を閉じた。
「無駄な努力ご苦労様♡」
ヒソカは刀を投げ返し、その刃は男の首を綺麗に両断した。
「おつかれー。全然大したことなかったねー」
ギタラクルはゆっくりとヒソカの元へと歩み寄り、クリッとした大きな瞳で男の死体を見下ろした。」
「もっと強くなって戻ってくるのかと思ったけど期待外れもいいところだね。さ、次に行こうか」
メルは黙って死体の横を通り過ぎた。
ヒソカは強い人間と戦うことしか考えていないんだね。
少しずつ分かってきたよ。
戦闘という自分の快感を満たしてくれるならどんなこともするサイコキラー。
私はやはり貴方のことは好きになれそうにないな。
メルの表情を見てヒソカはぺろりと舌を舐める。
いつかは君という極上の果実を……♡
その様子を見てギタラクルはヒソカに針を投げつけた。
軽々と避けるヒソカは「危ないじゃないか」と余裕の表情。
「何度も言ったよね?そんな目でメルを見ないでくれるかな」
「ククク。仕方ないじゃないか♢とっても美味しそうなんだから」
するとギタラクルは更に針を構える。
それを見たヒソカは両手を上げて「ごめんごめん」と笑いながら謝る。
お楽しみは最後までとっておく主義なんだよ?僕は♡
ギタラクルはため息をつきながら針をしまう。
3人は更に奥の暗闇へと足を進めていくのであった。