ふと目を覚ますと白い天井が見えた。
窓の方へと視線を移すと朝焼けの光が差し込んでいた。
随分と懐かしい夢を見たなぁ。
ぐっと背伸びをして起き上がった。
子供の頃は念を習得した時も人を初めて殺した時もいつもイルミと一緒だった。
でも私も一人前と認められてからは一人で仕事をすることが多くなって、イルミとも次第に会わなくなった。
最後に会ったのいつだっけ…?
確か4年前に一度仕事中に見かけたくらいか…、ってそれはあった内に入らないか。
そんなことを考えているとコンコンとドアを叩く音がした。
「メル様入ります」
そういって中へ入ってきたのは緑の長い髪を一つに結い、スーツを美しく着こなしたイリアだった。
イリアは私が起きている事に驚いたのか少し間を置いてから話し出した。
「メル様がこんな朝早くに起きられるとは珍しいですね。何かあったのですか?」
「随分と懐かしい夢を見てね。もう少し見ていたかったなぁ」
「フフ、いつもならあと1時間は寝ているのに残念でしたね」
イリアは微笑みながら手帳を出した。
「今日の予定ですが、10時からレイモンド氏の依頼が1件、午後からロンド氏の依頼が1件あります」
「あぁ、あの趣味の悪いレイモンドさんとロンドさんね」
名前を聞いてメルはため息をついた。
仕事をする上で依頼主のことも調べ上げるけど、この2名は人身売買や人体コレクターであることが分かっている。
この業界にいるから珍しくもないけど、集め方が気に入らない。
生きたまま人間の一部を取り除き、要らない部分は飼っているペットの餌になるとか。
本当に趣味が悪い。でも依頼されたら仕方がない。
「二人ともサディスティックな面が有る様ですが会うのは数分です。もし何かメル様に失礼なことがあればこの私が始末致します」
にっこりと微笑みながら恐ろしいことを言い切るイリア。
ルイス家の娘である私に仕える使用人であるイリアは念能力者。それも達人レベルだ。
そこらの人間では歯は立たない。
「ありがとうイリア。気持ちだけ受け取っておくよ。さぁ、準備しよう」
メルはシャワーを浴びて髪を一つに結った。
メルの戦闘服は、黒くタイトなワンピースに黒のコート姿であった。コートにはレイス家のカラーである青色のラインが綺麗に映えている。
10:00
レイモンドとの約束の場所、レストシティのミナミビル地下1F駐車場にメルは現れた。
黒いスーツ姿の男3名は、突然人間が現れたことに驚きを見せた。
「お、お前があの…、ルイス家か?」
恐る恐る話し出す男は髪をオールバックにしてジャラジャラとアクセサリーを巻き付けている。
依頼主レイモンドだ。
他の2名の男は銀色のアタッシュケースを持っていた。
「はい。ルイス家の者です。先に代金をいただきます」
レイモンドは私を見るなり態度を変えた。
「はっ、ルイス家と言うからどんな大男が出てくるのかと思っていたが…お前の様な小娘だったとはな。本当に大丈夫なのか?」
レイモンドのその発言にイリアは鋭い殺気を飛ばした。
「ひっ‼」
短い悲鳴をあげるレイモンドを、メルは笑って見つめた。
その瞳は美しい碧眼で怪しく妖艶であった。
ぞくぞくと鳥肌が立ち、恐怖感にレイモンドは背筋を凍らせた。
なんなんだっ、ただの小娘なのにっ‼この俺がっ…震えている…‼
「私は御覧の通り華奢ですが、貴方も依頼をする時に私の名と実績で選んでいただいたのでは?もし、不安であればこの取引はなかったことにしても構いません」
「いっ、いや、頼むよ。ルイス家に取り次いでもらうだけでも多額の金がかかっているんだ。無駄にはできない」
「そうですか。では、代金の3憶を先に」
レイモンドの部下たちはイリアにアタッシュケースを渡した。
「確かに受け取りました。では仕事が終了した時点で一度連絡を入れます。」
「あぁ」
メル達が姿を消すとレイモンドは冷たいコンクリートにドサッと尻餅をついた。
「あれは…、本物の殺し屋の目だ…‼」
レイモンドはしばらく震えが止まらなかった。
イリアは自身の念能力である”
「相変わらず便利だね、イリアの能力は」
「メル様の為の能力ですから。お役に立てて光栄です」
イリアの念能力”
それだけではなく、空間と空間をつなぐ事も可能。
つまり、その空間を通れば一瞬にして人間が移動することも可能なのである。
これを暗殺に応用するならば、殺したい相手を空間の中に入れてさえしまえば時空事引き裂くことも、永遠に出口のない空間へ閉じ込めてしまうことも可能。
これ程有能な能力だ。
もちろんクリアする為の条件がある。
1つ目は、忠誠を誓った主の為になること。つまりメルが関係していないと能力を使えない。もしそれを破ってしまえば死。
2つ目は、自分が一度行ったことがある場所でないと空間を繋げることができない。破ると死。
「イリアは先に屋敷に帰っていていいよ。お金はもう手に入ったしね。現金払いを選択された時が一番困るんだよね。あのケース本当に重たいから」
「ではメル様、仕事が終われば連絡していただけますか?近くまで迎えに来ます」
「わかった」
私はイリアと別れて単独でターゲットがいるホテルへと向かった。
レイモンドが依頼してきたのはコレクター仲間の男。
暗殺理由は何とも幼稚なことで、その男と欲しいコレクションが被ってしまい口論になり暗殺依頼をしてきたのだ。
全く…、こんなことで依頼をするなんて。
この世界も終わったものだ。
メルは白いワンピースに着替えて男の部屋の階へとやってきた。
誰がどう見てもメルを暗殺者だとは思わなかった。
そしてターゲットの部屋の前まで行き、予め用意していたマスターキーで中へと侵入した。
音を消し、絶で気配を断つメルを一般人は認識さえできない。
今回のターゲットは念能力も使えないただの一般人。
その相手に対して自分の能力を出すほどの労力は必要ない。
今回はナイフ一本で終わりだね。
懐に隠していたナイフを握った。
足をゆっくりと進めた時だ。
「そこにいるのは誰だ?」
男の声が部屋に響いた。
「っ!?」
明らかに今入ってきた私に向けられた言葉。
私の存在に気付いた?
どうやって?
今回のターゲットは念能力は使えない。
普通絶をしている私に気付ける訳ないのに…‼
メルは警戒して瞬時に円を使った。
するとこの部屋には二人の男の姿があった。
しかも一人は念能力使い。それもかなりの腕前だ。
私の円に反応している。
「-っ」
一度部屋を出るべきか…?
否、二人とも仕留めてしまえば問題ない。
メルは足にオーラを集中させて、通常よりも格段に速いスピードでまずはターゲットの男の首元を狙った。
だがその横にいた男に阻止された。
この男から消すしかないか…
距離をとり、相手の姿をお互い認識した。
間違えない、一人はターゲットの男。
念能力者の方は、ターバンをぐるぐると頭に巻きたばこを咥えていた。
「おぉ、やっぱりお前狙われてるじゃねぇか」
「ひいっ、本当にあんなことで殺し屋を雇うなんて…‼」
「まぁレイモンドのやつぁ昔から短気な奴だったからなぁ」
この状況下で男は豪快に笑う。
「すみませんがこちらも依頼を受けた身ですので容赦はできません」
「まぁそうだろうな。でもよ、こいつぁ俺の古いダチでなぁ。昔俺が遺跡の発掘資金を募ってる時に世話になったんだよ」
「…そうですか。それは残念ですね。お別れの言葉を交わしてください。それくらいは待ちます」
「ははっ、あんた殺し屋なのにおもしれぇな!」
「おもしろい?そんなこと始めて言われたけど…」
「あんた、ルイス家のもんだろ?」
男のその発言でターゲットの男は悲鳴を上げた。
「ルイスってあの!?」
「えぇ」
「それも相当腕が立つやつみたいだ。俺としてもあんたとやりあってただで済みそうにねぇ。どうだ?ここはひとつ取引をしねぇか?」
「取引ですか?…まぁ条件次第ですが」
「はは、ほんと話が早くて助かるぜ」
なんなの?この人。
普通、殺し屋を前にこんなに堂々としかも笑いながら話ができるものなの?
こんな人初めてだ。
男が出してきた条件は、レイモンドが出した倍の金額を支払うこと。そしてこのターゲットの男を戸籍上消去し完全に別人とすること。つまり私が見逃したことがばれない様にすると言ってきたのだ。
「それが可能ならいいけれど、会ったばかりの人にそこまで信用はおけない。ルイス家が見逃したとなれば信用も落ちてしまうからね。残念だけどここで死んでもらうしかないわ」
「それが可能なんだ」
「?」
男は懐からあるカードを取り出した。
「これはハンターライセンスだ。俺はハンターだ」
「ハンター…、だから?」
「見てろ?」
男は携帯を取り出したかと思えばスピーカーにして私にも内容が聞こえるようにした。
その電話一本で男は役場の者と掛け合いターゲットの男を戸籍上消したことにし、別の新たな戸籍を作ったのだ。
それもたった数分のうちに。
「あなた…何者なの?」
「俺は遺跡ハンター。二つ星なんだぜ?」
ハンターという職業は表の世界では権力と決定権を持つものなの?
遺跡ハンターってことは各地の色んな遺跡を旅してまわって調査しているのかな。
他にも色んなハンターがいるってことだよね?
うぅ…知りたい…‼
メルは女の身でありながらルイス家の顔ともいわれる程上り詰めたのには理由があった。
それはどん欲なまでの『知識欲』‼
自分が知りえないことはすべて調べつくすまで気が収まらないのだ。
そして今未知の世界に身を置く男が目の前にいる。
それもかなりの実力者だ。自分も極めた念能力に対してもかなりの知識と経験があるこの男にメルは興味を惹かれていた。
自分の中で高鳴る思いを必死に抑え込み、あくまでポーカーフェイスを崩さない。
「ルイス家の名が汚れず報酬も倍額頂けるならこちらとしても何も言うことはないです。後日、この口座に6憶、振り込んでおいてください。7日目になった瞬間、その男は必ず消します」
「ハハッ、6憶な?」
男はメルから口座がかかれた紙切れを受け取り、携帯を操作して6憶を振り込んだのだった。
6憶って大金だよね…?
そんなお金ポンっと他人に支払えるんだ、この人。
その行動を見てポーカーフェイスを崩さなかったメルは口角を上げて笑った。
「あなたみたいな人間もいるのね」
「あぁ、この世界は広い。俺みたいなやつは沢山いる。お前はどうやらまだ世界を知らないようだな」
「そんなに楽しいの?ハンターの仕事は」
男はハンターの話をする時よく笑っていた。
殺し屋と対面しても笑えるなんてやっぱり凄いことだよ。
「あぁ、すげぇ楽しいぜ。俺はジン・フリークス。待ってるぜ、メル・ルイス」
「!」
男はそう言ってターゲットの男と共に姿をくらませた。
「私の名前知っていたんだ」
メルは「ふぅ」と一息つき、後ろにあったベッドにもたれかかった。
携帯の電源を入れて依頼主のレイモンドへと繋ぎ、ターゲットを始末したと伝えた。
「まさかこんな方法で逃げられるなんてね。…はぁ~、何があるか分からないな」
ハンターか。
少し知らべて見ようかな。
それから数分後イリアが迎えに来てくれてそのまま私は次の仕事へと向かった。
メルの挿絵挿入しました。
ちなみにメルは美人設定です。
思うように描けなかったのですが雰囲気はこんな感じ。
挿絵は練習着を着せています。
裏設定でイルミから貰ったものです。