メルが話しかけてもキルアは何か考えている様で、心ここにあらずという言葉がふさわしかった。
「キルア?」
様子がおかしい……
余程ショックを受けたんだ。
無理もないか……
キルアなら当然分かった筈だ。
キルアの為ならイルミは本当にゴンを殺してしまっただろうということを。
あの言葉は冗談なんかじゃなく、本気だったということを。
大切にしたい友達を危険にさらしている。
しかも、キルアは自身で選んでしまった。
イルミと戦うより、ゴンを殺してしまう選択を。
キルアはそのままの状態で、次の試合が始まった。
キルアとボドロの試合。
それは衝撃的な展開になるのであった。
なんとキルアはボドロさんを刺し殺してしまったのだ。
全員、その光景を息をのんで見つめていた。
「キル……ア」
あそこにいるのは、本当にキルアなのかと疑ってしまう光景だった。
メルの中ではキルアはいつも笑顔だった。
そのキルアはどこにもいない。
全く別人の様な姿だった。
自動的にキルアは不合格となり、試験は最悪な展開で幕を閉じた。
「キルア‼待って‼」
メルが呼び止めてもキルアは振り返ることさえせずに会場の門をくぐり一人姿を消してしまった。
「メル、何驚いてるの?」
「え?」
「キルは殺し屋なんだからあんなの普通でしょ」
「違う!!キルアは、あんなことしない。自暴自棄になっただけだよ。そうさせたのはイルミなんだよ?……この後合格者に講習があるみたいだからそれが終わったら一緒にキルを追いかけようね」
「えー」
「えーじゃないよ!絶対行くからね!!」
メルはイルミが逃げられない様に右手を握る。
講習が始まってしばらくすると、出入口の扉が開いた。
ゴンがやってきたのだった。
「キルアに謝れ!!」
そう言いながらイルミの前に来て言い放った。
どうやらサトツさんから何があったのかを全て聞いた様だ。
「ゴン、落ち着いて」
ゴンを宥めようとするも、メルの言葉は全く耳に入っていない。
怒りでイルミのことしか頭に入っていないな。
イルミ、頼むから挑発するようなことは言わないでっ。
「謝る?何を?」
「そんなことも分からないの?」
「うん」
「お前に兄貴である資格はないよ」
「兄弟に資格がいるのかな」
すると、ゴンは怒りのあまり血管を怒張させ、イルミの腕をつかんで引っ張り上げた。
イルミは宙に浮くも、綺麗に着地する。
「友達になるのだって資格はいらない!!」
そう言ってゴンはイルミを掴む腕に力を込める。
ミシミシと骨がきしむ音がした。
いけない、ゴンってばイルミの腕をへし折るつもりだ!!
「ちょっ、ゴン!やめてっ!!試験が終わったら私がイルミを連れてキルアに謝りにいくつもりだから!!」
「誰かに連れられてじゃないといけないの!?」
「それはー…」
何も言えなくなりメルは口ごもる。
「もう謝らなくていいよ。キルアの所に案内してくれるだけでいい」
「そしてどうするの?」
「決まってるじゃん!キルアを連れ戻す!!」
「まるでキルが誘拐でもされた様な口ぶりだなぁ」
「自分の意志じゃない。お前に操られているんだから誘拐されたも同然だ」
すると、ネテロが口を開いた。
「ちょうどそのことで議論していた所じゃよ。クラピカやレオリオからキルアの不合格は不当だと意義が唱えられてな」
「キルアは明らかに不自然だった。大戦の際に何らかの暗示をかけられたからあの様な行為に至ったと考えられる。通常ならいかに強い催眠術をかけても殺人を強要するなんて不可能だ!!でも暗殺一家として育ったキルアにとって殺人は日常のことで倫理的抑制が効かなくなったとしても不思議ではない!」
クラピカは立ち上がりネテロ会長に訴えかける。
「いずれにせよ、キルアは自らの意志で行動できない状態であった。よって今回の不合格は不当だ!!
レオリオもクラピカに続いた。
するとポックルも口をはさみ始めた。
「不自然な合格だというならば、クラピカとヒソカ戦も相当不自然だったぜ?ヒソカに何かを囁かれて合格したんだ。何らかの密約が交わされたとしか考えられない」
各々が自らの意見を出し合い議論をしていると、ゴンは「そんなのどうだっていい!!」と叫んだ。
ゴンの言葉で会場は静まり返る。
「人の合格にとやかく言うことはない。自分の合格に不満があるなら満足できるまで精進すればいい。キルアならもう一度ハンター試験を受ければ絶対に合格できる。それより、もしキルアに望まない人殺しをさせていたなら、お前を許さない!!」
ゴンの言葉はメルにも大きく突き刺さった。
「許さない、か。で?どうする?」
「どうもしないさ。お前からキルアを取り戻して合わせない様にするだけさ」
イルミはゴンに手を伸ばそうとする。
その手はオーラを纏っていた。
メルはそれを見逃さなかった。
「イルミ!!」
メルは両手を広げてゴンの前に立つ。
イルミはぴたりと動きを止めた。
「ゴンはキルと私の友達。それに、ゴンは私の弟子なの。手は出させないよ」
メルの弟子発言にイルミは眉を潜ませる。
「は?今なんて?」
「私ゴンを育てることにしたの。今のままゴンを一人にしておくのは危険だしね。イルミ、ゴンのこと本気で殺そうと考えそうだし。でもゴンが私の弟子なら簡単に手は出せない。ゾルディック家とルイス家は今協定を結んでいるからね。ゴンに手を出したら、ルイス家に脅威を示す存在になり、協定に違反することになる」
キルアの友達は私が守る。
キルアに何もしてあげられなかった分、これからは沢山してあげたい。
もっと自由に生きて欲しい。
もっと心から笑った顔を見せて欲しい。
そんなメルを見て、イルミは深いため息をつき伸ばしていた手を引っ込めた。
するとネテロはゴホンッと咳ばらいをする。
「さて、いいかな?ゴンの言った通り、自分の本当の合格は自分で決めるといい。他人の合格云々を言っても我々は合格を取り消すつもりはない。キルアの不合格は変わらんし、お主たちの合格も変わらん」
その言葉で全員納得し、立ち上がっていた者は席へ腰を下ろした。
メルも一息ついて椅子に座る。
イルミは何事も無かったかのような涼しい顔でメルの隣に座った。
ふと視線を落とすと、ゴンが掴んでいたイルミの腕はぷっくりと腫れあがっていた。
「!……イルミ、その腕……」
「ん?あぁ、折れてるね。まぁ大丈夫だよ」
「後で治すよ」
「うん」
重たい空気の中、ビーンズは講習の続きを始めた。
それはハンターライセンスの説明であった。
このカードがあれば民間人が入国禁止の90%と、立ち入り禁止区域の75%まで入ることが可能になるかぁ。
しかも、売れば人生7回くらい遊んで暮らせるし持っているだけでも一生遊んでいられるとか
正直全く頭に入らず、キルアを早く追いかけることで頭がいっぱいだった。
「では、ここにいる8名を新しくハンターとして認める」
ネテロ会長のその言葉で講習は締めくくられ解散となった。
メルとイルミは立ち上がり会場を出ようとすると、ゴンが走ってやってきた。
「ギタラクル!!キルアの居場所、教えて」
「本当に連れ戻す気?やめた方がいいよ」
「キルアは俺が連れ戻す!!」
強い意志を持つ瞳に、揺らぎは一切なかった。
「後ろの二人も一緒かい?」
ゴンの後ろにはクラピカとレオリオがいた。
「当然」
するとイルミはため息つく。
「いいだろう。教えたところでどうせたどり着けないし。……ククルーマウンテン。その頂上に俺たちの住処がある」
「ククルーマウンテン……。メル!メルも一緒に行こうよ!!メルだって心配でしょ?」
そう言ってゴンはメルの手を握った。
「うん、必ず行くよ。でも、一緒に行くのはちょっと難しいかも」
メルは申し訳なさそうな顔でゴンを見た。
「?」
会場の外には黒いスーツを着た者達が取り囲んでいたのだ。
合格者たちは全員何事かと身を固くして警戒態勢に入る。
異変に気付きネテロ会長や他のハンター試験監督者たちもやって来ていた。
「あ~、……やっぱりこんな大人数で迎えが来ちゃってる」
メルは少し苦笑いをして黒服達を見つめた。