「お迎え?」
ゴンは首を傾げる。
すると長身の男が笑いながらメルの方へ近づいてきた。
長い髪を結った男はひらひらとメルに手を振っている。
「ラル兄様!何もこんなに大勢で来なくても……」
「いや僕も本当は一人で来るつもりだったんだけどね、メルを心配してこんな人数が集まっちゃったって訳さ」
ラルはネテロを視認すると深くお辞儀をする。
顔を上げると、メルの隣に立つイルミを見たラルは「久しぶり」と声をかけた。
「ラルか。久しぶりだね」
ラルはイルミの腕を見て少し目を見開く。
「あれ~?どうしたのイルミ。その腕、折れてるんじゃない?君ともあろう者がどうしたのさ」
「あぁ、これ?そこの子供に折られたんだよ」
そう言ってイルミはゴンを見る。
ラルはブッと噴出した。
「あっはは!イルミの腕を折っただって!?君!やるじゃないか!」
ラルはゴンの肩に手を置きながらクスクスと笑う。
「あぁ、そうだ。イルミ腕今直しておくよ」
メルはイルミの腕に触れると腫れは直ぐに収まり砕けた骨は見事にくっついていた。
「ん。ありがとー。あ、そうだ。ラル」
「ん?」
「その子供、メルの弟子になるみたいだよ」
「えぇ!?」
ラルはぴしゃりと固まった。
「ちょっ、イルミなにも今言わなくても!」
「いつ言ったって同じだろう?」
恐る恐るラルを見ると、にっこりと微笑んでいた。
「メル?少し話があるんだ。いいかな?」
「は、はい」
ラルの目は笑っていない。
怒られるな……。
相談もなく勝手に弟子をとるなんてこと、流石に許してはくれないか。
でも、ゴンを弟子にしておかないとイルミがゴンに何をするか分からない。
それに、ただ単純にゴンを育てたいという気持ちも強い。
鍛えればゴンは必ず強くなる。
こんな原石をこのままにしておくのは勿体ない。
近くでゴンの成長していく様を見守りたい。
すると、後ろから低い声がした。
「これがメルの弟子か?」
振り向くとそこにはプラチナブロンドの髪をかきあげた美形の姿があった。
メルはその姿を見て目を大きく見開いた。
「エル兄様!?なんでここにっ!!」
エルは仕事が忙しすぎて自由な時間を殆ど作れない。
今も仕事をこなしている筈なのになぜこんなところにいるのか、とメルは驚いていた。
「お前が心配でな。ラルと共に迎えに来たのだ。それで?弟子をとるのか?」
「は、はい」
するとエルはゴンに目を移す。
ゴンは緊張した面持ちでエルを見上げた。
この人がメルのお兄さん。
兄妹だからとてもよく似ている。
でも、この人とはあまり一緒にいたくない……
服に血はついていないけど、なんて濃い血の匂いがするんだ。
目を合わしているだけなのに、物凄いプレッシャーを感じる。
エルはゴンを見下ろすと少し微笑んだ。
「?」
ゴンはその表情を見て警戒を解いた。
やっぱり、この人はメルのお兄さんだ。
怖いけど、少し笑った顔はメルと同じく温かい。
「好きにすればいい」
エルのその言葉にラルは驚いた。
「ちょ、兄さん!?好きにすればって、仕事はどうするのさ!」
「問題ない。全て俺に回せ」
「全てって、メルの仕事、予約埋まってるの知ってるでしょ!?兄さんだって何年も予約埋まってたでしょ!?」
「構わない。俺もお前も、好き勝手した時期があっただろう?」
そう言って口角を上げて笑っていた。
エルはメルと同じ目線までかがみ、頭に手を置いた。
「お前は自由だ。好きにして来い。困ったことがあればいつでも戻っておいで」
「エル兄様……!!」
その様子をみてラルは諦めた様に一息つく。
「兄さんがそう言うなら、メルの仕事は全て兄さんにつけておくよ。メルとまた離れるのは少し寂しいけど、息抜きだと思って思う存分外を楽しんでおいで」
「ラル兄様…!二人ともありがとう!!」
メルは今までにない以上に喜び二人に抱き着いた。
二人ともよしよしと溺愛する妹を撫でた。
「あ、そうだ」
イルミは思い出したかのようにポンっと手をつく。
「エル。君さ、この試験俺が受けること知ってたでしょ?それでメルが試験受けに行くの許可したんだろ?」
イルミのその言葉を聞いてエルはニヤッと笑う。
「まぁな」
「エル、この借りは高くつくよ」
「そうか?お前も満更じゃない様だが?」
イルミはムッと目を細めた。
「……君ってつくづく嫌な性格だね」
「お前には言われたくない」
エルは知っているのだ。
イルミがメルに好意を寄せていることを。
イルミの性格上メルを一人にさせることはできない。
エル達が頼まなくとも、勝手に気にかけてくれるとエルは分かってメルを送り出したのだ。
こいつ、俺の前でメルに自由にしてこいって言ったのもわざとだな。
試験の延長で俺にメルを見張らせる気か。
でも俺がいくら気に掛けると言っても仕事もあるし限度もある。
メルが一人になる時間は必ずできる。
それなのに、妹馬鹿のこいつが自由にすると言い切ったという事は、何名かメルにルイスの見張りがつくってことだ。
これで本当に自由と呼べるのか疑わしいけど、メルは喜んでるしまぁいっか。
「エル、今回は君の作戦にのってあげるよ。でも、面倒な仕事手伝ってもらうから覚悟しといてよね」
「フッ、かまわん」
「兄様、もう少し一緒にいたいのだけど私すぐにキルアを追いかけたいの」
「キルに何かあったのかい?」
ラルは首をかしげる。
「うん……ちょっとね。さ、イルミ行こう?」
そう言ってイルミの手を握るもイルミは微動だにしない。
「?」
「俺今から仕事があるんだよね」
「今から?仕事なら仕方ないけど……」
落ち込んだ顔で俯くメルを見たエルは「イルミ、その仕事引き受けてやってもいいぞ」と言い始めたのだ。
イルミは一瞬間を開けた。
「は?何言ってるの?」
「だから仕事を引き受けると言ったのだ。もちろんお前の手柄にしてもらって構わんぞ。今回試験中にメルを見てくれたからな。その礼だ」
ラルは、もうどうにでもしてくれと言わんばかりに呆れた顔でエルを見ていた。
「エルってさ、本当に馬鹿なの?」
イルミは首をグリンと傾げる。
「俺も大概だけどエルは度を越してるよね」
「お前にだけは言われたくない」
そう言いながら片手で携帯を取り出しどこかに電話をかけ始める。
話し終わって、エルは「許可もおりた」と言うのだ。
「許可?……まさかエル、さっきの電話……」
「あぁ、シルバさんにかけた。問題ないと言っていた」
イルミはため息をつく。
父さんはかなりエルを買っているからな。
それにうちが損をしないこの取引は断る理由がない。
でも、父さんにこんな理由で取引をしてしまうのは君くらいだよエル。
妹のメルが暗い顔をしていたから
なんて理由で君に殺される相手が少し気の毒になるよ。
「分かったよ。父さんがいいなら俺も構わない」
イルミは諦めた顔をしてメルを見た。
「じゃぁ行こうかメル」
「うん!!兄様本当にありがとう!帰ったら何かお礼をさせてね!」
にっこりと微笑むメルをみて、エルもラルも表情を柔らかくする。
「そうだ、すぐそこに飛行船を停めてるからそれでククルーマウンテンまで送ってあげるよ」
ラルはゴンの後ろにいるクラピカやレオリオにも声をかけた。
二人とも緊張した面持ちで頷く。
メル達が会場を出て飛行船へ乗り込んでいる時、エルはネテロ会長に挨拶をしていた。
「久しぶりじゃなエルよ。随分と活躍しておるようじゃな」
「お久しぶりですネテロ会長。メルがお世話になりました」
「ふむ。実に良い子じゃったぞ」
メルをほめるとエルは笑いながら「当然です」と断言する。
「フォッフォッフォッ、昔お前が妹のことをあまりにも話すからどんな子かと思っておったが、お前の話通り魅力のある、実に優秀な人材じゃった。本当に、昔のお前たちを見ている様でつい懐かしんでしまったわい。やっぱり良いのぅ、前線で若い才能を見つけるというのは。こういう人材と巡り合えるからこそ辞められんわい」
「フ.もう年なんですからほどほどにして下さいね。また、裏の依頼お待ちしていますよ」
「ふむ」
エルは一足遅れて飛行船へと乗り込んだ。
乗り込む際中、ちらりとある男に視線を向ける。
エルは冷たい瞳でそれを見るも無視をして飛行船の扉を閉めた。
あぁ♡
なんて極上の果実なんだァ
イルミと出会った時のことをつい思い出してしまう♡
あの冷たい瞳……
堪らない
あぁ
今すぐに……
コワシテシマイタイ
ヒソカは一人悶えながら飛び立つ飛行船を眺めるのであった。
ルイス家が所有する飛行船は、メル達の瞳の色を象徴する青が使われておりただの飛行船なのにどことなく気品すら感じる。
中の内装にも青が使われており、ゴンは目を輝かせた。
「うわぁああ!!」
へばりつく様に窓から外を眺めるゴンを見て、ラルはその首根っこを掴む。
「こらこら。君、もうメルの弟子なんでしょ?つまりルイス家傘下の一員になったという事だ。メルの顔もあるんだからそんなはしたないことしないでよね」
「ふうん、そうなんだ。メルって凄いんだね!!」
ゴンを見てラルは呆れたようにため息をつく。
「メル、本当にこの子でいいのかい?弟子なんて初めてなんだしもっとちゃんとした子でも……。メルに教えを請いたいって人間はかなり人数がいたし」
「へぇメルって人気なんだねぇ」
するとラルは力が籠る。
「だってメルってばこんなに可愛いでしょ?しかも歴代のルイス家の中でも戦闘センスは飛びぬけているんだ。だからメルに教えを請おうと、毎年群がる虫が沸いちゃうんだけど」
「兄様恥ずかしいからそんなこと堂々と言わないで下さい!!」
メルは耳まで赤くなる。
するとクラピカはクスクスと笑い始めた。
「失礼。……ルイス家は噂ではとても冷たい印象しかなかったからギャップが凄くてな」
「俺たちは別に好きで人を殺している訳ではない。これが稼業だからだ。俺たちは普通に笑うし、普通に誰かを愛したりもする。お前たちと何も変わらんよ」
そう言ってエルはソファに腰を掛ける。
「ククルーマウンテンまでしばらくある。メル、ハンター試験でどんなことがあったか教えてくれるか?」
エルのメルを見る目は優しくて、普通の兄そのものだった。
ゴンをはじめ、クラピカ、レオリオの3名は緊張はすっかり解けていた。
分け合いあいとメルと話をする様子を見て、ラルもエルも時折笑顔を見せている。
楽しい時間はあっという間に過ぎてしまい、目的のククルーマウンテンへと到着した。
「3人とも、メルをよろしく頼んだよ」
ラルは手を振りながらゴン達を見送った。
「それじゃぁ行ってきます兄様」
「あぁ。たまには顔を見せにおいで」
「はい!」
メルは嬉しさに揺れるような微笑みを見せた。
イルミとエルは目線だけを合わせる。
そしてそのまま何も言わずにイルミはエルの横を通っていく。
俺は他人にメルを任せることはしない。
メルはルイス家始まって以来の逸材だ。
失うことは許されない。
ゾルディック家でいう、キルアの様な存在だろう。
かといって、メルの顔を曇らせるようなことはしたくはない。
メルは頭の良い子だ。
自分のルイス家での立ち位置をよく理解し、仕事にも自分なりに折り合いをつけて向き合っている。
俺はメルの笑顔には何度も助けられた。
ルイス家として必要な存在である以前に、メルは俺にとってかけてはならない特別な人間だ。
だからこそ、メルが望むならば俺は何でもしよう。
だがメルが危険に晒されることはあってはならない。
本来なら俺が守ってやってあげたいが、流石にメルの仕事を引き受けながらずっと傍についておくことはできない。
イルミ、お前だからメルを任せられるんだ。
お前はメルを裏切れない。
お前はメルを愛してしまっているからな。
エル達は、5人の背中を見送り各々を待つ仕事へと向かっていくのであった。