メルは悩んでいることがある。
それはイルミへの初めてのメールの文章であった。
一体なんて送ろうか。
元気?とか…?
でもそんなどうでもいいことを送られても困るよね。
何を送るべきか……。
「ん~」
メルはキングサイズのベッドに寝転がりながら携帯と睨めっこする。
その隣では練を疲れ切るまで行ったキルアとゴンが寝息を立てて眠っていた。
そんなことを思っているとメルの携帯が振動する。
「わっ!」
送ってきたのはイルミだったのだ。
名前を見るだけで心臓が飛び跳ねる。
体中の血液が沸騰するみたいに熱くなった。
“修行はどう?順調に進んでいるの?”
“うん。順調だよ。ちなみにキルアは変化形だったよ。ゴンは強化系だった。今は毎日練を疲れるまでやってもらってるよ”
“そう”
他愛無い会話。
こんなやり取りをするだけでも嬉しい。
「はぁ、会いたいなぁ」
ぼそっと呟きながらメルも瞳を閉じるのであった。
それから数時間が経った頃、メルは気配を感じて目を覚ました。
起き上がると出入口にはニタリと怪しげに笑う奇術師の姿があった。
ついため息が出てしまう。
「ここで何をしているの?」
「ククク。君に会いに来たのさ」
笑いながら奇術師は一歩ずつこちらへ近づいてくる。
「それ以上近づかないで」
メルはベッドから降りて眠るキルアとゴンの前へと立つ。
「わお。欲情的な恰好をしているね♡」
メルは胸元が大胆に開いたキャミソールタイプの白いワンピースを着ていた。
白い肌に月の光が当たり妖艶に照らしている。
「私に何の用?」
「分かっているくせに♡」
「まさか私と戦いたいってこと?」
「その通り」
「ヒソカはフロアマスターじゃないでしょ?私とはまずフロアマスターにならないと戦えないよ」
「ふうん、じゃぁフロアマスターになれば戦ってくれるんだね?♡あと1勝したらなれるんだよね~」
あと1戦!
「……じゃぁその1戦はゴンにくれる?」
「クク、構わないよ。それで君と戦えるのなら」
ヒソカは怪しく笑いながらメルを見据える。
「交渉成立だね。もう用はないでしょ、早く帰って?疲労しすぎて二人とも熟睡してるけどこれ以上長居されたら流石に起こしてしまう」
「分かったよ。僕は帰るとするよ♡」
そう言うとヒソカは背を向けて部屋を出て行った。
メルはため息をついて警戒を解く。
全く、油断も隙もないな。
ヒソカなら天空闘技場へ来ると思っていたけどまさかこんな所までやってくるなんて。
メルはふとゴンへと目を落とす。
ゴンはまだヒソカと戦うには早すぎる。
でも、戦い方次第では一発くらいは喰らわせられるか。
メルは小さく寝息を立てる可愛い弟子達を抱きしめながら再び深い眠りへと落ちていく。
次の日メルはゴンにヒソカとした約束を告げた。
するとゴンは全身に力が入ったのかオーラがボウッと迸る。
「やる気満々って感じだねゴン」
「うん!!……今の力を早く試したくてうずうずしてるんだ!!」
「次の試合は200階クラスだからね!まだまだ二人は念の初心者だから無茶はしないように。いいね?」
すると二人とも深く頷いた。
闘技場の観戦席へ入るとウィングが笑いながらこちらに手を振っていた。
どうやらキルアとゴンの試合が気になり見に来たようだ。
その隣にはズシ君もいる。
「押忍!!おはようございます!ウィング師匠からお話を聞かせてもらっています!ズシと申します!よろしくっす!メルさん!」
胸の前で両手をクロスしお辞儀をするズシは格闘家らしく礼儀正しい。
可愛くてメルはいがぐり頭をつい撫でてしまう。
「よろしくねズシ君」
「メルさん、ゴン君とキルア君の修行はどうですか?」
「あぁ、二人とも1日で纏・絶・練をマスターしていますよ」
私の発言を聞いてウイングは勢いよく振り向き目を見開いた。
「いっ、1日で!?って、あなたねぇ!!まさか無理やり起こしたんですか!?なんて危険なことを!!」
耳にキーンと響くウイングの大声にメルは肩をすくめる。
「おっ、落ち着いて下さいウイングさん!…あまり人に自分の能力を言いたくはなかったのですが、私には無理やり起こす方法をとっても、安全に修行ができる念能力があるの」
するとウイングは眼鏡をずらしながらきょとんとした顔をしている。
「そ、そうでしたか。これは失礼しました」
「いえいえ、あ。そろそろキルアの試合が始まりますね」
ウイングは眼鏡を直しながらメルを見つめる。
安全に修行ができる念能力だと?
回復系の念能力か、あるいはもっとあふれ出す念を抑え込む能力があるのか……
どれも異質なものであるのには変わりない。
貴方は一体……。
メルはリング上に目を向けていると入場ゲートからキルアが出てきた。
この数日毎日疲れるまで練をし続けさせ、私が体術もかなり向上させた。
今の2人ならそこらの念能力者相手ならばなかなかいい勝負をしてくれる筈。
えっと、……キルの対戦相手はリールベルトか。
200階へ入りたての者をターゲットにしてる卑怯な人たちだ。
リールベルトくらいならいい練習相手になるね。
キル、思い切り楽しんでおいで。
キルアは淀みない見事な纏をして相手の様子を伺っている。
リールベルトはキルアの纏を見て少し驚いた様子を見せるもすぐに顔つきが変わる。
キルアのことをただの子供と舐めていたがその様な考えがどうやら取り払われた様だ。
仕掛けたのはキルアの方からだった。
持ち前の早さを生かして空中に高く跳躍し、自身が最も攻撃しやすい体制へと体を捻り回転を加えながらリールベルトの背後を取ったのだ。そして練をして勢いよくリールベルトの首筋に鋭い一撃をくらわせようとしていた。
普通の人間ならばアレを喰らえば首が飛ぶね。
でもキルアは念を覚えたてだし、相手も念能力者としてこの天空闘技場の200階クラスを死守してきただけあって、そう簡単には首は飛ばないか。
でもキルアの動きはものすごくいい。
そろそろオーラの攻防力移動の修行に入ってもよさそうだなぁ。
メルの予想通りキルアの攻撃はかわされてしまう。リールベルトの車椅子に念が込められ物凄いスピードで回避したのであった。
するとリールベルトは「ツインスネイク!!」と叫びながら1本の鞭を取り出す。そして器用に鞭を扱い、パチンッと乾いた音をさせ地面をはじく。
キルアはそれを見て容易に荒れ狂う鞭を見事掴んで見せたのだ。すると、蛇の頭の様になっている鞭の先端がはキルアの両腕をガブリとかみついた。それと同時に激しい電流がキルアに走る。常人であれば失神するレベルの電圧がキルアの体に流れる。
だがその様子を見てメルは目を細める。
ゾルディック家で育ったってことがこんな形で有利になるなんてね。
キルアは拷問の訓練で電撃を毎日の様に浴びている。
あんな電撃キルアには効かない。
キルアは余裕の表情でそのままリールベルトに一歩、また一歩へと近づく。
「俺には効かねぇぜ?」
キルアはふと笑ったかと思えば、素早く地面を蹴り猛スピードでリールベルトへと距離を詰める。そして電撃を浴びながらリールベルトの肩を掴んだ。
「ああああああああああああああ!!!」というリールベルトの悲痛な声が会場に響き渡り、キルアの勝利が確定した。
キルア、言う事なしの試合だったよ。
次の段階へ進む頃合いだね。
さて、次はゴンだ!!
リング上の整備が終わると、ゴンは堂々とやって来た。
ゴンの対戦相手はギド。
対峙するなりゴンはギドへと真っ向から突っ走っていく。するとギドは“舞踏駒”を発動させた。リング上には小さな駒がぶつかり合いながら不規則に飛び跳ねながら回り続け、ゴンは足を止めた。
自身へと飛んでくる駒を避けながらなかなか前へ進めずにいるゴン。
持ち前の速さを止められて、どう攻める?ゴン。
メルは笑みを浮かべながらゴンを見る。だがメルの顔からすぐに笑顔は消えた。
なんとゴンはこの状況で絶をしてしまったのだった。
「ゴン!?」つい声を荒げて立ち上がる。
なんて無茶な真似をするの!?もし当たれば良くて骨折。当たり所が悪ければ死んでしまっても可笑しくない!!
この状況ならば練はせずとも纏は必須!!どうするつもりなの!?ゴン!!!
ゴンはリング上で絶をしながら感覚で駒を避け続けていた。
「!!」
笑ってる……。この状況を楽しんでるの……?
メルはゴンの戦う様を見て目を見開く。
メルが体術を教えてくれた時、筋肉の動かし方、関節の動かし方も一緒に教えてくれたけど自分の思った通りに体が動く!!
そうか、自分の力を理解して戦うというのはこういうことなんだ!!
なんて動きやすいんだ!!
でも今の俺じゃ集中するには絶をしないと完璧によけきれない。
もうちょっとこの中で戦いたい!!!
ゴンはメルによって高められた身体能力をまさに実践で実感していた。だがすぐにこの状況は終了してしまう。
ゴンが左へと避けた時、次に避ける方向はなく、駒はゴンの左腕に向かって飛んでいく。
メルは柄にもなく大声を上げた。
「ゴン!!!!練をしなさい!!!!」
メルの澄んだ声はゴンの耳にも届いた。
直ぐに防御に徹したゴンの左腕には、ギドの駒が鋭くめり込む。
「うぅ!!」
少し練をするのが遅れた為駒の当たる衝撃を完全には防ぎきれず鈍い痛みがゴンの左腕に走る。
メルは小さく握りこぶしを作りながらゴンを見守っていた。
腕が吹き飛ばずに済んでよかった…。
ゴンの左腕は骨折しており右手で左腕を抑えるゴンを見てメルは目を細める。
気が気でない。
ハラハラしてこっちの方が倒れてしまいそうだわ。
ゴン、その折れた左腕を庇いながら一体どうするつもり?
ゴンの額からは汗が流れる。
思った通りに動けるのが楽しすぎて少しやりすぎちゃったかな。
メルの声で咄嗟に練をしなかったらもしかしたら腕が飛んでたかも。
後でメルに怒られちゃうな。
ゴンは茶目っ気にベッと舌を出す。
よし、今度は新しく覚えた念を使って戦ってみよう。
「練!!」
ゴンは安定した練をギドに見せつける。
そういえば、メルっていつもどうやってあんなに速く動けるんだろう?念は奥が深いと言っていたけど、もしこのオーラを足に集中させたらどうなるんだろうか。もし、拳にオーラを集めたらどうなるんだろうか。それって、とんでもなく力が凝縮することができるんじゃ……。試したい…!!
ゴンのまっすぐな瞳がきらりと輝いた。
「おおおおおおおおおおお!!!!」
ゴンは歯を食いしばりながらなんとかイメージした様にオーラを練り始める。
それを見たメルは大笑いした。
「あっははははは!!!」
「メ、メルさん?一体どうしたんだろう」
急に笑いだすメルを見てズシは目を丸くする。
肉体の一部にオーラを集中させる技、まさしく凝!!!
あれを目にすることができたら陰でかくされたオーラを見抜いたりもできる。
まだ教えていないのに戦いの中で学んでいる!!
まだ未完成だがゴンは今自身が出来うる力を全て右こぶしに貯める。
そして、なんとか少しだけ足にオーラを集中させ思い切り踏み込み高く宙を舞った。
リング上でぶつかり合う駒のはるか上空へと飛び、落下する勢いも込めて大きく振りかぶった。
ギドはそれを見て慌てて自身を駒に見立てて回転し始める。
それでもゴンは止まらない。
「うおおおおおおおお!!!」
ゴンの重い一撃はギドの意識を完全に奪うのには十分な程の威力だったのだ。
すぐに審判はギドのノックアウトを告げてゴンの勝利が確定した。
メルはそれを聞き走ってゲート前まで移動する。
楽しそうに会話をしながら愛弟子2人は仲良く揃って出てきた。
メルは勢いよく2人を抱きしめて「よく頑張ったね!!」と頭を撫でた。
「うん!!」
「おう!!」
キルアとゴンは顔を見合わせて小さな拳をお互いぶつけるのであった。