窓から入る日差しを浴びてもメルとイルミは起きず、時間になっても起きてこないメルを起こしにやって来たイリアの叫び声でようやく2人は目を覚ました。
その後イルミとメルは、エルとラルにこっぴどくお説教をされる羽目になったが2人はどこかスッキリした表情であった。久しぶりに熟睡できた為体は軽く頭も冴えている。説教されたとは思えない程清々しい表情をしている二人を見てエルはため息をつき「もう行っていい」と言いようやく解放されたのだ。
「怒られちゃったけどすごく眠れた~」
うーんと背伸びをするメルを横目にイルミも「俺も」と呟いた。
心なしかいつも真っ白なイルミの顔色もどこか血色がよく見えた。
「今日はお父様も来るお茶会があるから服着替えなきゃね。まだ寝間着だし」
「俺何も服持ってないんだけど」
「それはこっちで用意するから大丈夫だよ!キルやゴンにも用意してあるんだ~」
「ふうん。メルはどんな格好なの?」
「青いドレスでね、腰の所がキュッて閉まっててスレンダーラインの綺麗な服なの!まるで星空みたいな服でお気に入りなんだけどね、それに合わせて3人の服も用意したの!多分イルミの部屋にもう置かれているんだじゃないかな」
「そうなんだ。じゃ俺着替えてくるよ」
それぞれ自室に戻り服に袖を通す。メルは長い髪を編み込んだお蔭でメルの細い首が更にスッキリとして見えていた。耳に服と同じ濃いブルーの宝石がはめ込まれたイヤリングをつけて準備完了。
「メル様綺麗!!」
「大変よくお似合いです!」
リリーとイリアが主の美しさに目を輝かせていると、ドアをノックする音が聞こえた。入って来たのはイルミで、濃紺のスーツを綺麗に着こなして、メルと同じ生地のネクタイをつけていた。
「わぁイルミ!!思った通りよく似合ってる!!」
「メルこそ綺麗だよ」
メルは少し照れながらもイルミの隣を歩き、茶会が開かれる中庭へと足を運んだ。
その様子を見ていたリリーは「はぁ」とため息を零す。
「イルミって、性格はあれだけどビジュアルだけはいいじゃない?ほんと嫌になるわ。2人が並んでるのを見たらお似合いだって、つい思ってしまった自分を殴りたいわ」
それを聞いてイリアはフッと笑みを浮かべた。
「私もだよ」
2人は少し距離を取りながらメル達の後を歩いた。
中庭には美しい花が咲き誇っており、白いテーブルを囲む様に椅子が配置されている。既にウィリアム、エル、ラル、キルア、ゴンは席についており、イルミとメルを見てその場にいた者は目を奪われる。
「わぁ!!メルとっても綺麗!!!俺たちと同じ柄の服だぁ!」
ゴンとキルアが来ているのは、メルと同じ生地のサスペンダーに、首元には濃紺のリボンが留められている。
「ありがとうゴン。2人も似合ってるね!せっかくだからお揃いにしちゃった。ゴンとキルアにあげるから、パーティや正装が必要な所に行くときに使って?」
「ありがとうメル!!」
「サンキュー!」
キルアもどうやら気に入っている様でゴンと一緒にはしゃいでいた。
テーブルには無類の甘いモノ好きな客の為に沢山の菓子が用意されていた。3段式のティースタンドにはスコーンやクッキーやマカロンなど色鮮やかなスイーツが並べられており視覚的にも十分楽しめる様工夫されている。キルアは早く食べたくてズズッと涎を啜っている様だ。
その様子を見てウィリアムはクスッと笑みを浮かべる。
「それじゃぁ茶会を始めようか。スイーツは気兼ねなく好きなだけ食べていいからね」
ウィリアムのその言葉を聞いてキルアはパクッとマカロンを手に取り口に頬張る。舌を唸らせながらゴンとどちらが沢山食べられるかという競争をしている様だ。
ウィリアムは早速イルミがメルにどんな修行をつけたのかを訪ねた。メルの念能力は特殊なモノばかりで誓約と制約や条件などが複雑に細かく決められていることが多く、命に繋がる力もある。その為父としては娘の能力を把握しておきたいという気持ちであったのだ。
「まずは、今ある念能力の欠点を全て書きだしたんだ。そしてそれをどうすれば補えるのか、具体的に詰めていったんだ。今ある能力の条件を変更することはできないことが分かって、いっその事新しい念能力を創りだした方が早いという結果にたどり着いて、そこからは早かったよ。俺は今ある能力との相性が良い能力を考えるのを手伝ったくらいかな。後はメルのイメージ力と念のセンスが凄かったからたった1か月で新技ができちゃったってわけ」
「いやイルミのお蔭だよ。客観的に指摘してくれなかったら自分では気づけなかったからね」
「まぁメルって実は凄いのにたまに抜けてるところあるからねー。能力を創る時誰かついてなきゃ、変な条件の能力創られるのも嫌だしねー」
「またってことは、他の念能力を創った時もイルミがいたの?」
ゴンは首を傾げる。
「私に念の基礎を教えてくれたのはイルミだからね。そのまま発も一緒に作ったの。“
「俺が仕事から帰ってから条件を決めるって約束だったのに、メルってば待ちきれなくて1人で勝手に条件決めちゃってさ、ややこしい条件だし傷を作ったら能力発動できないし、ほんと困ったもんだよ」
「だって想像してたら創る工程に入っちゃっててもう止められなかったもん」
「言い訳だね」
そう言ってイルミはフォークでぷっつりと突き刺したマカロンをメルの口に運び黙らせた。これ以上言い訳は聞きたくないよと言っている様で、メルは慌てて口を噤む。
「今回はどんな条件があるんだ?“
エルはズズっと紅茶を啜る。
「変な能力ってカプのこと?自我を持ってるから今の聞いたら怒ると思いますよ兄様。…“
「ほぅ。それは凄いねメル。条件を決めるのが念能力を創る上で悩むところなのにそれが実質こちらの負担が0で扱うことができるのはかなり凄いことだよ」
父に褒められてメルは嬉しそうに微笑んだ。
やはりメルはルイス家始まって以来の逸材だと、ウィリアムを含めエル、ラルも再認識した。そしてメルの才能を引き出しているのは間違いなくイルミであるということにも、3人は気づいていた。恐らく、他の者がいくらアドバイスしても、どれほど有能な能力を創るまでには至らなかったであろう。ゾルディック家で培ってきた知識とセンスが、メルに良い方向で影響を与えていたのだ。
ウィリアムは益々イルミ・ゾルディックという人間に興味を惹かれた。良きライバルであるシルバの息子であり、今やシルバにも迫る勢いの業績を上げているゾルディック家長男のイルミ。不運なことにゾルディック家頭首として認められる銀の髪ではないものの、その腕はかなりのモノだ。そればかりか、メルにも好意的で良い影響を与えてくれている。だが、それら全ては外面だけであってイルミ自身を知ったことにはならない。もっと彼のことが知りたい。ウィリアムは前のめりにイルミに話しかけた。
「メルの修行を見てくれたイルミ君の手腕はかなり高く評価しているよ」
イルミはペコっとお辞儀をする。
「そうそう、話は変わるんだけど……。イルミ君ってそろそろ24歳だったね?もう婚約の話とかきている頃じゃないか?」
メルは父の言葉を聞いてフォークを落とした。
こ、婚約の話!?
そんなの聞いてない!!
勢いよくイルミの方を見ると表情一つ変えずに「うん。きてるよ」と答えるのだ。
メルは開いた口が塞がらず、ぽかんとしてイルミを見ていると、食べ物を催促していると思ったイルミは、メルの口に沢山お菓子を詰め込んでいく。
「そんなに欲しかったの?ほらいっぱいお食べ」
「もぐもぐ、あっ、これすごく美味しいね!……じゃなくて!イルミ婚約するの!?」
「わ、メルってば食べながら喋らないの」
イルミはナプキンでメルの口を優しくふき取る。
するとラルが笑いながら答えた。
「メルは知らなかったのかい?イルミには引っ切り無しに婚約してほしいだのなんだの書いた手紙が沢山送られてきてるよ?」
「まぁ全部破り捨ててるけどね。あれは母さんが勝手にやってることだし」
イルミはフォークでマカロンをブッスリと突き刺しながら淡々と話す様子を見て本当に興味がないんだ、とメルはほっと胸をなでおろした。
って、安心なんかしてる場合じゃない!だってイルミ好きな人がいるらしいし、……いやヒソカの言う事を信用していいのかな。……でも、“拘束する戒めのリング”を使ってるから嘘はつけない。キキョウさん絡みで、婚約の話が沢山きてたってことは間違えなく相手は暗殺者の家系かそれに属する人だ。仕事場であったりしたのかなぁ、あぁ、誰だろう。暗殺者の人なら私も相当詳しいし、多分名前を聞いたら知っていると思うんだけどなぁ。
するとキルアが笑いながら口をはさむ。
「メル、ババアが紹介する相手なんざろくな奴がいなかったぜ?死体愛好家に猛毒使い、人間の指だけを集める変な趣味の女とかな!」
キルアはメルが自身の兄に好意を寄せていることに薄々気付いており、少しでも不安を取り払おうとイルミに婚約を申し込んだ女がいかに酷かったかを語る。すると、自分ばかり言われいたのでは面白くないと、イルミも饒舌になっていく。
「キルアにもきてたじゃない。ゾルディックやルイスには及ばないけど有名な暗殺名家の令嬢とかね。体中を糸で塗ってる人もいたね。あ、そうそう。母さんってばキルがまだ子供なのに30歳の人を見合いさせようとしたこともあったねぇ」
「わっ、嫌なこと思い出させないでくれよ!!」
ゾルディック家兄弟の浮ついた話を聞いてメルは再びぽかんと口が開いていく。
驚いたな、まさかこの2人からこんな話が聞けるなんて。しかも2人はモテている!!いやそうでなきゃ可笑しいよね。
だってキルアはまだ子供だけどゾルディック家が期待している将来有望な子。イルミは綺麗なビジュアルだし暗殺も超一流なプロ。既にゾルディック家になくてはならない主要人物になってるし…、この2人は暗殺を生業とする人なら逃したくはないだろうね。
それに比べて私はー……今までそんな浮ついた話が1つもない!!!!
ゴンは「もちろんメルなら沢山そんな話があるんだよね?」と無垢な瞳で私を見ていた。
「うぅ……私そんな話一切ないんだけど……」
この2人の後に私に振らないでよゴン!!!
「えぇ!?」
「いやメルに限ってそんなことないだろ!?」
キルとゴンは驚いて口からポロっとクッキーが零れ落ちた。
そう言われても生まれてから1度もただの手紙でさえもらったことがない。暗殺者の娘に好意を寄せる者は少ないんだと思ってたけど、キルアとイルミの話を聞く限りそうでもないっていうのが分かった。つまり私自身にただ興味をもたれていないということ。
なんだか恥ずかしい。
イルミとの差がこれだけ明確に分かってしまうと嫌でも距離を感じてしまう。
「何落ち込んでるのメル。エル達がもみ消してるに決まってるでしょ?」
「へ?」
「毎年メルの婚約者に立候補する奴が多すぎて、ルイス家に裏で消される奴も少なくないって話もあるんだよ?」
なっ、何その話!?初耳なんだけど!?しかも消してるの!?
ちらっと兄エルを見ると、首を振りながら「俺じゃないよ」と言う。
その横に座る父ウィリアムに目を向けると、「そう、僕だよー」と満面の笑みを浮かべていた。
犯人お父様だったの!?
なんでそんなことを…!!
「僕が鄭重にお断りさせてもらっているんだ。それにまだ1つもいい話が来ていないから、メルまで話が下りてないんだよ。僕もいい人がいたら1人や2人、メルに紹介してあげたいんだけどねー、相応しそうな人がまだ見つからないんだ。たまに礼儀を知らない奴がいるから何人か消したことも確かあったねぇ」
そう、ルイス家の中で1番メルに執着しているのはルイス家の大黒柱、ウィリアムなのだ。娘を大事に思うばかりに、少しでも娘に近づこうものなら依頼もなれていないのに殺してしまう程の子煩悩なのだ。これにはエルもラルも呆れ笑いを浮かべている。
「父様!やりすぎです!いくら何でも消すことはないですよ!」
「何を言っているんだい。大事な娘に汚い手でちょっかい掛けようとしたんだよ?メルを傷つけるのが目に見えて分かる。そんな奴は消えて当然だよ。ね?イルミ君」
青い宝石瞳と黒い瞳が視線を絡める。
ウィリアムは、愛娘を傷つける様な真似をすればいくらメルが慕っていても消すよ、という意味も込めてにっこりと微笑んでいた。
イルミが答える間もなくウィリアムは続ける。
「そうそう、イルミ君はメルにどんな人が合うと思う?」
エルはイルミに視線を移しながら少し同情していた。
父さんも本当に人を試すのが好きだな。イルミがメルの事を好いていることくらい分かっている筈なのに。父さんはイルミに釘をさすつもりなのか?
イルミは相変わらず表情一つ変えず淡々と話す。
「メルを守れるくらい強い人であるのが絶対条件だよね。しかもメルって抜けたところがあるからそれをカバーしてあげられるような機転が利くやつじゃないといけない。そして俺たち暗殺一家に求められるのは非情さ。暗殺者にとって1番は仕事を達成すること。不自由な二択を迫られた時、そこに感情なんか必要ない。仕事をクリアする為に他者を切り捨てられる非情さが重要になってくる。それに、命を刈り取る時に躊躇う様じゃ仕事はおろか、何も守れない」
その言葉を聞いてメルはイルミらしいなと納得した。
確かに仲間が敵に捕まったとしてもなにより優先されるのは依頼を達成すること。敵に捕まれば、それは自分の修行が足りていなかったということだ。つまりは自業自得。その時に容赦なく仲間を捨てられる程の非情さが重要だっ、てイルミは言っているんだ。
ウィリアムは怪しげに笑みを浮かべている。
「やはり君はゾルディック家の様だ。君のその淡々とした口調に表情、相手に自分の考えを悟られない様かなり訓練しているね?まるで君は熱を持たない人形みたいに冷たく、そして非情な人間だと理解したよ。メルは君を師としてかなり慕い、信頼している用だけど父親としては少し心配なんだ。君の様な人間がメルに今後どう影響を与えるか、ね」
父のその言葉にメルは胸が締め付けられる様に痛んだ。膝の上で震える指を片方の手で強く握りしめた。
なんなの、……自分からイルミを招待しておいてなんでイルミを責めるようなことを言うの?
イルミが冷たくて、非情?
……違う。
イルミは優しくて暖かくて、……普段何事も無いように振舞っているけど実はとっても繊細なんだ。
私がつらい時に傍にいてくれて落ち着くまで抱きしめてくれるんだ。
きっと私やキルアが捕まったりピンチになった時は、非情な選択を選んだとしても仕事もクリアして最後はきっと助けてくれる。
それがイルミなんだ。
今まで私がどれだけイルミに救われてきたか。
きっと今も何ともない顔してるけど傷ついてる。
「のに……」
「?」
「何も知らないのにそんなこと言わないで!!」
普段温厚なメルの怒鳴り声にその場にいた全員驚き視線がメルに集まった。
すると、大きな目に少し涙を貯めてイルミの手を握って走り出した。
「父様の馬鹿!!!」
捨て台詞まで残して去っていく愛娘の後ろ姿を見てウィリアムは石の様に固まった。顔面蒼白で、ウィリアムは柄にもなくたらりと冷や汗を流していた。
「……エル。どうしよう、メルが、メルが僕に馬鹿ってっ、馬鹿って」
ウィリアムは初めて愛娘が自分に反抗したことに驚き、両手で顔を覆った。
「意地悪をするからです」
「それにしてもあんなに起こったメルは初めて見たなぁ。父さん、嫌われちゃったかも」
それを聞いてウィリアムは更にフリーズするのであった。