H×H イル×メル   作:@れんか

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43話 クロロ×ノ×陰謀

 

イルミの様子が少し可笑しい。

あの時からだ。

私の後ろにいた“なにか”を見てからだ。

 

 

いや、レストランにいたんだからモノではなくそれは人であったに違いない。

イルミをここまで動揺させて、警戒させる程の人物。

……思い当たらない。

そもそも、イルミが動揺することなんて、今までにあっただろうか。

こんなイルミを見るのは初めてだ。

 

 

 

「どうしたの?メル」

今はすっかり元のイルミに戻ってるけど……

私に気取られない様に振舞っているんじゃないか、と思うと胸がざわつく。

 

 

一体、誰がいたの?

イルミの知る人物と言えば、暗殺者関係だろうけど、……もしかして私の命を狙っている人だったりして。

だからこんなに警戒しているのかな?

イルミに全く信用されてないのかな私。

念を使えば、天空闘技場でもイルミに勝ってるんだけどな。

 

 

考えれば考えるだけ沼にハマっていく思考を、頭をブンブンと横に振って消し飛ばした。

「何でもないよ。それより、温泉楽しみだねぇ」

 

レストランから出る際、ふと目の際に捉えた、とある女性が嫌でも目に入ってきた。

「……わた…し?」

 

白銀の長髪にブルーの瞳……。

まるで、自分を見ているみたい。

……でもよく見れば、色味は少し違うし、スタイルも身長も今目に映っている人の方が良いし……

これが所謂ドッペルゲンガーっていうやつなのかな。

…ってことは私死んじゃうじゃない!!

 

 

足を止めて、ある方向に目を向けるメルの、目線の先にいたベラを見て、イルミは目を見張る。

スッとメルの肩に手を回してエスコートしながら、その場から立ち去ろうとするイルミの瞳には静かに殺気が籠っていた。

 

 

びりびりと感じる殺気に、メルの背筋から冷や汗が流れ落ちる。

この反応で嫌でも分かってしまった。

イルミが見ていたのはあの人だって。

 

 

どんな関係?

あの人も暗殺者の人?

なんで私にあんなに似ているの?

 

 

聞きたいことは沢山あった。

でも、私の口が開くことはなかった。

聞いてはいけないような気がしたからだ。

結局一言も話さないまま、温泉の入口へとやって来てしまった。

 

 

「じゃ、じゃぁね」

「……」

 

 

イルミは何も言わなかった。

その目はいつもより黒く、深く、闇を映しているみたいだった。

その瞳にゾクッと再び背筋が凍りつくような感覚に陥った。

 

咄嗟に目線を反らして、踵を返して背を向けて、私は逃げこむ様に女風呂の扉を開けた。

「はぁ」

 

 

感じ悪かったかな……?

聞きたいこと、沢山あったけど何も聞けなかったなぁ。

聞いてしまうと、何かが変わってしまう様な気がする。

イルミから何も言わないっていう事は、聞くなっていうことだよね?

 

 

「……はぁ、考えても仕方ないし、セバス自慢の温泉でまったりしよう」

メルは服を脱いで、用意されていたバスタオルで軽く体を隠しながら大浴場の扉を開けた。

それと同時に、立てこもる熱気と湯気と共に、温泉の香ばしい香りが鼻をくすぐった。

 

 

「わぁ!!」

シック調で統一されており、全体的に黒が主体だが所々映える赤がなんとも心を騒がせる空間に仕上がっていた。明かりは温かみのある間接照明が置かれており、暗すぎず、明るすぎないこの空間は別空間とも言える、非現実があった。

 

 

温泉は様々あり、各効能ごとに分かれている。客もちらほらと見られており、全員がこの湯と空間にうっとりと心と体を休めていた。

温泉の奥には、全面ガラス張りの大きな扉があり、その先にはシェラードアイランドの夜景と、その先にある美しい海とを一望できる、和モダンな露天風呂になっていた。

 

 

「さすがセバスだわ!!」

おっと、ここでマナーは忘れちゃいけないね。

まずは体を洗って、……よし!!

 

 

長い髪を高い位置でまとめてゆっくりと体を湯に沈めた。

「はぁ~」

 

 

体が心の底から気持ちいい!!って言ってるよ~!

温泉から出たらセバスをほめちぎらないと!!!

それでイルミにも感想を聞いて……って、そうだ。

イルミと少し変な感じになっちゃってるんだった。

でも、こういうのイルミも好きだと思うし、きっと温泉から上がったら元に戻ってるはず。

やっぱり、聞いてみよう。

温泉の感想も、あの人とどういう関係なのか。

イルミならきっとちゃんと話してくれるはず。

 

 

気分も良くなり、小さく鼻歌なんて歌っていると「お隣、よろしいかしら?」と声がした。

こんなに広い温泉なのに、わざわざ隣に?

「はい?」

 

 

後ろを振り向くと、先程レストランで見かけた私に似た人が立っていた。

「あ、……・はい。どうぞ」

としか言えず、少し俯く私を見てか、クスッと言う笑い声がした。

 

 

ん……笑われたのかな?

「あの、何か用でしょうか?」

そう言うと、ゆっくりと肩を並べて湯に浸かり「あなた、メル・ルイスね?」と笑顔で尋ねられた。

 

 

イルミが知ってる人と言えば、暗殺関係の人だろうし、……同業者だと私の顔を知っていても不思議じゃないか…。

「はい。そうですが……。貴方は?」

「あら?イルミから何も聞いていないの?」

「!」

 

 

イルミの名前が出てきて咄嗟に肩がビクッと上がり、あからさまな反応をしてしまう私を見て、私のそっくりさんはまたクスクスと笑っていた。

「私は、イザベラ・テイラー。イルミの婚約者よ」

「あのテイラー家の?……って、今なんて……」

「あら?聞こえなかったかしら。私、キキョウ様にも認めてもらっている、イルミの婚約者なの」

 

 

こ、こ、こ、……婚約者!?

待って、でも、イルミは確か、お茶会で、そんな手紙は全て破り捨ててるって言ってたけれど……それってつまり婚約するつもりはないってことだよね!?

なのに何で婚約者がいるの??

 

 

「そ、その、イルミの婚約者さんが私に何の用が……」

そう言うと、イザベラの顔から一瞬にして笑顔が消え去った。

「それ、本気で言ってるの?」

「…あ…」

 

 

そうだ、この人が本当にイルミの婚約者なら、こうしてイルミを独占して連れまわしている私は言うなれば浮気相手……みたいになっちゃう。

 

 

「でも、イルミからそんな話は聞いてな…「貴方に言うまでもなかったんじゃなくて?だって、貴方相当箱入りで育てられてるみたいじゃない?箱入りのお嬢ちゃんなんて、すぐ傷ついて泣いてしまうでしょう?ゾルディック家とルイス家は今協定を結んでいるし、その友好に傷を付けたくなかったから、貴方のおもりもしてるのよ。その他にも私が昔イルミに、下の子の面倒も見なさいって言っちゃったこともあって、それでイルミは貴方のこと弟子として育ててたって訳。でも、そろそろ返してもらってもいいかしら?あの人は、私のなのよ」

 

 

頭がまわらない。

一体どういうこと?

この人がイルミの婚約者で、今までイルミが私と一緒にいたのは協定を守るための友好の証としての行動だったってこと?

それにこの人に言われて私を弟子にって……。

 

 

イルミが人の言う事を素直に聞くような性格じゃないのを知ってるからこそ、にわかに信じがたいなぁ。

私の傍にはいつもイルミがいた。

沢山の言葉と、力と、勇気をくれた。

イルミはちゃんと私のことを、ちゃんと弟子として、友達として、大事な人として見てくれていた。

そう、イルミはいつだって私を心配してくれて、大切にしてくれた。

この人の言っていることに、何一つとして信憑性はない!!

私はイルミを信じる。

 

 

 

「なにその顔?納得してないって表情だけど……。じゃぁ、何で私達がこんなにも容姿が似ていると思う?」

「……分かりません」

 

 

「フフ。少し教えてあげる。言っておくけど、私、貴方よりもイルミと過ごした期間は長いわよ?イルミが小さい時から組手をしてあげてたし、5歳くらいまでは私が暗技を教えたことだってあったわ。イルミはよく懐いてくれてね、それは可愛かったわぁ」

 

 

イルミを教えていた!?

一時でも、あのイルミの師匠をしていたっていうの!?

 

 

「テイラー家は暗殺家業の他にも医者をしていてね、私も忙しかった時があったのよ。そんな時、私によく似た貴方をイルミの傍で見かけるようになった。いい?彼にとって、貴方は私の代わりなのよ」

 

 

違う。

 

 

「貴方を見ている様で、本当はその奥にいる私を見ていたの。貴方にかけられた言葉も、行動も全て、貴方に対してじゃないわ」

「違う…っ、イルミは、ちゃんと私を見てくれて……」

 

 

ボソッと呟く私に、イザベラは苛立ちを露わにしたかのように、深いため息をついた。

「はぁ、聞き分けの悪いお人形さんねぇ。はっきり言うけど、もう二度と、私たちの邪魔をしないでくれるかしら?ウロチョロされて迷惑なのよ」

イザベラは私の顎を掴んで無理やり上を向けさせた。

 

 

「まぁ、なぁに?その目。まだ信じてるの?」

「何か誤解があったのかもしれません。一度、イルミも交えてお話してみませんか?ここで私達が話会うには、役者不足ではないでしょうか」

 

 

黙ってなんかいられないよ。

今、イルミと過ごした全ての時間をこの人に否定されたんだから。

そんなの許さない。

 

 

イザベラは怪訝そうな顔で私を見下ろしていた。

生意気な子ねぇ。

すると、突然何かを思いついたかのように、イザベラは不敵な笑みを浮かべた。

 

 

「貴方、イルミから求められたことある?」

「も、求められたって……?」

「流石に全部言わなきゃ分からないくらいお子ちゃまじゃないでしょう?」

 

 

つまり、……体の関係があったかって聞いてるの?

「それは……ないけど。でもそれは今関係ないんじゃ…

「そう。ないんだ」

明らかに私の方が上だ、と言わんばかりの表情に、怒りと共にどこか寂しい気持ちになった。

 

 

この人はイルミと関係を持ったことがあるんだ。

そう思うと、大人びた体つきと自分のまだ未熟な体をつい見比べてしまい、恥ずかしさがこみあげてきた。

でも、この人が勝手にそう言っているだけかもしれない。

イルミはハッキリと、手紙は破り捨てた、と言ってたし、破り捨てる行動は、婚約を否定しているも同義。

そこにイルミの気持ちはないはずだ。

 

 

でも、もし、私にイルミが嘘をついているとしたら?

この人の事が全て本当だとしたら……?

今までイルミが私にしてくれたことが、全て気持ちも何もなかったことになってしまう。

 

 

「なんだか可哀そうになってきたわぁ。イルミが何も教えていなかったのがいけないんだし、代わりに私が教えてあげる。今夜、イルミは私の部屋に来ることになっているの。貴方なら、オーラや気配さえも完璧に消して、私の部屋に来ることなんて簡単でしょう?」

 

 

「自分の目で見て確かめろって言いたいの……?」

「そう。結局は他の誰かの言葉なんて、信じられないでしょう?なら、自分で実際に見てみるべきだと思うのよねぇ」

「……」

 

 

それだけ言うと、イザベラは笑いながら「お先に失礼」と言って、先に出て行ってしまった。

 

 

もぅ、何なの?

今日は何でこうも色々あるのよ。

ルイス家本社を襲った犯人も気になるし、イルミとイザベラのことも気になるし……。

「はぁ」

 

 

素直に温泉を楽しめなくなっちゃった。

温泉を出ると、イルミが待っていた。

色白のイルミの肌はほんのりと赤みを帯びていて、温泉を堪能できたのがそれだけで分かった。

 

 

温泉良かったでしょ?

気持ちよかった?

あの景色良かったよね!!

 

 

話すことなんて幾らでもあった。

なのに、何一つとして喋れなかった。

 

 

「メル?」

様子の可笑しい私を首を傾げるイルミ。

「あ、ごめん。少し上せちゃって、……ちょっとぼぅっとしてるっていうか……その……・」

口ごもっていると、ふわっと体が宙に浮いた。

 

 

「えっ!?」

イルミは軽々とメルを抱きかかえてスタスタと歩き始めた。

「上せてるんでしょ?部屋でもう休みなよ」

「う、うん」

 

 

このイルミの行動も、私自身を想ってのことじゃなくて、イザベラに似ているから?ルイス家との協定の友好の為?

…違う。

これは私に向けられた優しさだ。私に対するイルミの行動だ。

イザベラやルイス家は関係ない。

イルミは私自身を見てくれてる。

 

 

イルミの首に回す手にきゅっと力が籠った。

部屋に戻るとベッドに寝かしつけられて、セバスから貰った扇子で仰いでくれた。

 

 

「も、もういいよ。ありがとうイルミ」

「そう?まだ顔色悪いけど」

イルミの手が私の頬に触れてくる。

 

 

「何かあった?」

核心をついてくるこの言葉に、動揺を隠しながら「何もないよ」と少し微笑みながらいう私を見て「そう」そっけない返事だけが帰ってきた。

 

 

「今日は色々あって疲れちゃった。私もう寝るね」

「分かった。お休み」

 

 

優しく大事なモノを触れるように優しく髪を撫でてくれた。

やっぱりあの人の言う事は信じられない。

これが嘘だなんて思えない。

 

 

今日23時にあの人の部屋に行って確かめよう。

それでちゃんと言おう。

イルミは私に嘘なんてついていないって。

 

 

******************

 

 

23:00

 

 

イルミは静かに起きて、ドアから出ていった。

閉まる音を聞いてから私はゆっくりとカプを呼んだ。

 

 

『お呼びでしょうかマスター』

うん。

 

『……元気がないようですが…』

ほんとカプって、人間みたいな感情持ってるよね。

念能力って忘れそうになる。……今日は透明化の能力が欲しい。

 

 

『畏まりました。精度はいかがしますか?ただ姿を相手から見えなくするだけなのか、それとも触れられても相手に物体として認識できないようなものにするか。これによって消費するオーラ量が異なってきます』

 

んー、そうだなぁ、なら後者にしてくれる?それに、ドアを開けなくても中に入れる、つまりすり抜けることもできる能力にしてほしい。

 

『分かりましたマスター。……能力創造完了。能力名“認知不可領域(クリアゾーン)”』

 

 

この能力、仕事で役に立つだろうなぁ。

でも、カプを使う程の仕事があれば、だけど。

 

 

「よし!」

確かめにいくぞ~!!

イルミがイザベラの部屋に行く理由は……よく分からないけれど何か行かなければならない事があるに違いない。

イルミは無駄なことはしない主義だもの。

 

 

確か、部屋の番号はー……。

125と書かれた扉の前まで来た。

 

 

カプの説明では、絶対不可領域発動中は、声を出しても相手には聞こえず、まさに私の存在自体を一切認識することができないというもの。でも、これだけ有能な能力だから制限は多少ある。

 

 

1つは時間。

10分間というこの時間が過ぎてしまえば、能力は自動的に解除されてしまう。

でも、更にオーラを使用し続ければ、その時間を延長することができるというなんともチートな能力。

 

 

もう1つは、この能力発動中に他の念能力は使用できないというもの。

まぁ、話を少し聞いて出ていくだけだから、戦闘になることもないし時間もそうかからない筈。

ゆっくりと深呼吸を繰り返して、私は扉の中へと足を進めた。

 

 

中に入るとイルミとイザベラの声が聞こえてきた。

どうやら寝室にいる様だ。

 

 

寝室の扉をすり抜けると、そこにはイルミがイザベラにキスを落とした所であった。

「え?」

 

 

聞こえて無い筈なのに、つい口元を手で押さえこんだ。

イザベラは自身の体に相当自身があるのか、こんなに明るい部屋にも関わらず、肌が見える程薄く透明なネグリジェを着ており、そのイザベラをイルミが押し倒している様な状態だった。

 

「イルミ、貴方のその表情が1番好きなのよねぇ。どんな状況でも変わらないその冷たい顔、瞳。あぁ、本当に最高だわ。まるで死体みたいでうっとりしちゃうわぁ」

 

「……ネクロフィリアなのは変わってないようだね」

「それで、さっきした話を聞いて、あのお人形さんのこと、どうするつもりなの?」

イザベラはにやっと微笑みを浮かべる。

 

「俺には関係ない」

 

 

 

「……」

胸がさっきからズキズキと痛む。

関係ない……か。

イルミらしいと言えば、イルミらしい……かぁ。

でも、じゃぁイルミの今までの言葉は……?

「全部嘘なの?……イルミ」

 

 

 

ぶわっと涙があふれてきた。

カプ、声が聞こえない仕様にしてくれてありがとう。

こんなの、……声を我慢するなんてできないや。

 

 

 

「イルミ……ふぅっ……うぅっ……」

ぽたぽたと雫が床に落ちていくが、シミはできず、どうやら体から離れた物質さえ、このカーペットも認識できないらしい。

 

 

 

「まぁ、貴方あのお人形と随分親しそうにしていたじゃない」

「形だけはね。ルイス家とは仲良くしておかなくちゃゾルディックが困るからね。ルイス程力を持った同業者はいないからね。もし、ゾルディックの存在を脅かす者がいたとしたら、それはルイス以外いない」

 

 

「ふぅっ…うぅ……」

本当にここにいるのはイルミなの?

いつも私に優しくしてくれてたイルミは嘘で、私の事なんて何とも思ってなかったってこと?

 

 

心のどこかで、イルミは私の事を好きなんじゃないかって思ったこともあった。

好き、イルミがそんな感情を私に抱く筈なんかったんだ。

だって、ただの友人でもない。

私はイルミにとって、どうでもいいその他大勢の1人だったんだ。

 

 

「じゃぁ貴方、別にあの子に何か特別な感情があった訳じゃないのね?」

「特別な感情?そんなの、俺が持ち合わせているように見えるの?」

「ふふっ、やはり貴方は他の男とは違うわぁ」

 

 

 

私はすぐにその部屋から出ていった。

これ以上何も聞きたくなかったからだ。

 

 

私は部屋にも帰らずに、そのままホテルの外に出た。

気付くと15分が立っていて、自動的に“認知不可領域(クリアゾーン)”は解けていた。

 

 

「うぅ……ヒック、…ふぅ…うっ…イルミのバカっ。……何もしなくてもルイスとゾルディックの協定は続くに決まってるじゃない。お爺様とハク様、お父様とシルバさんが大の仲良しなんだから今更どうこうなるようなことじゃないよっ。……顔も見たくない」

 

 

 

1番許せないのが、私を見ているようで、その奥にいるイザベラを見ていて、それを私に隠そうとしたことだ。

嘘をつかれることが1番堪える。

 

 

 

私はルイス家の娘として、幼い頃から色んな人を紹介された。

有名な資産家、一流企業の総取締役、カキン王国の3大マフィア、十老頭……

ルイスというブランドに群がり、仲良くなることでそのお零れを少しでも啜ろうと、まだ手懐けやすい、幼ない私を懐柔させる為に、色んな人が挨拶に来た。

 

 

その人達の顔はどれも同じで、いかにルイスと近づくか、悪意に満ちたそんな顔。

人を利用しようとばかり企む人たちに嫌気がさして、イルミにも相談したなぁ。

 

 

あの時イルミ、「俺もうんざりするよ」って言ってて、私と同じ悩みを持つ人ができたって、嬉しかったな。

でも、貴方もその人たちと同じ。

私個人を見ずに、私のブランドを見ていた。

そして、イザベラと重ねて私と接してたんだ。

 

 

そこに私という個人は存在しない。

私は、一体何だったの……?

「私は……貴方の何だったの?……イルミ」

 

 

 

シェラードアイランドは、夜でも煌びやかで今の私にはあまりにも眩しすぎる。

ルイス家に戻ろう。

もう、誰とも関わりたくない。

飛行場へと向かおうとした時だ。

 

 

 

誰かが私の前に立っていた。

月明かりがその人を怪しげに照らす。

ゆっくりと視線を上に向けると、その姿に全身がぶるっと震えた。

 

 

「あなたー……」

「俺を覚えているか?」

 

 

黒い髪、黒い瞳。

背丈はあの頃よりも随分と伸びて、体格もしっかりしている。

でも、どんなに成長したからと言って、私が見間違える筈ない。

その声、そのオーラ。

間違いない。

 

 

「忘れる筈ないでしょう。母様の仇なんだから」

空気がカラッと乾く程に、メルから鋭い殺気が放たれた。

 

 

「ふっ。俺も君を忘れたことはないよ。君の能力は素晴らしい」

「……私の念能力が目的だったのね。せっかくこうしてまた会えたんだから、名前くらい教えてくれないかしら」

「いいだろう。俺はクロロ・ルシルフル」

 

 

クロロ・ルシルフル。

メルは笑みを浮かべた。

 

 

「この状況で笑うか。流石はルイス家で、イルミの女だけあるな。そのお前がなぜ1人で泣いている?イルミに捨てられたか?」

「うっ、……煩い」

「どうやら図星の様だ。まぁ、お前を1人にする為の作戦だったが、こうも簡単にいくとはな」

 

 

私を1人にする為の作戦……?

「-……!!」

メルは目を見張った。

 

 

私が目的なら、なぜ私が普段出入りしないルイス家本社を襲った?

それはルイス家の重鎮、父様や兄様をその件で足止めする為。

私の事を、イルミの女とまで断言しきったということは、私とイルミが一緒にいるという情報をどこかで得た。

つまり協力者がいた筈。

私を部屋に呼んでイルミとの関係を見せつけて、私1人出て行かせた張本人は、イザベラ。

このクロロとイザベラは始めから手を組んでいたということだ。

 

 

「その様子じゃ全て理解した様だ」

「随分と回りくどいことをしますね。私はずっとあなたを待っていたというのに」

にっこりと微笑むメルの右手には、白い刀がいつの間にか握られていた。

 

 

「ほう。神の略奪者、テオスプランダラか」

「私の能力もご存じということは、余程有能な情報収集能力をお持ちなんですね」

「情報収集が得意な仲間がいるからな」

 

 

するとクロロの右手には1冊の本が握られていた。

あの本!!

そうだ、この人の能力は他人の能力を盗むことだ。

 

 

母様はあの本から出現した能力で殺された。

「ふぅ」

 

 

落ち着くのよ、メルルイス。

急いではいけない。

落ち着いてクロロの能力の分析をするの。

相手は近接戦闘が得意だったから、なるべく間合いを取ってまずは様子を見る。

 

 

「やけに慎重じゃないか。俺を殺したかったんじゃないのか?」

「暗殺者たるもの焦ってはいけない。機を待つことこそ1番大切」

「この状況でもそんなことが言えるか?」

「?」

 

 

 

すると、突然周囲を囲む様に凄まじい念能力使い達が現れたのだ。

「なっ……!!」

11人!?

 

 

それもかなりの念能力の達人レベル!!!

クロロだけならまだしも、このレベルを相手しながら戦うのはいくら私でもかなり厳しい。

ぽたりと冷や汗がつたい落ちる。

 

 

「流石にこの人数はいくらルイス家と言えどキツでしょ」

にこにこと笑いながら金髪の男、シャルナークはメルを見据える。

 

 

「ガッハハハハ!!!団長、今回の目当てはこいつか?お前も不運だったな。団長に目を付けられるなんて」

「ウボォー。不運どころじゃねぇだろ。流石に少しは同情するぜ」

「ノブナガは流されやすいからね」

「なんだとマチ!!俺がいつ流されたっていうんだ!!」

 

 

 

「チッ。こんな小娘にこんな人数必要ないネ」

「フェイの言う通りだぜ。団長、俺1人で十分だ」

「バカねあんた達。あの、ルイス家の娘よ?強いに決まっているでしょう。それに、団長が昔から狙っていたのになかなか手に入れられなかったのよ?相当手こずるわよ?」

「パクノダは黙ってるネ」

 

 

1人1人が凄い能力を持っているって嫌でも分かる。

私に死は許されない。

ルイス家の娘として、こんな所で死ぬわけにはいかない。

なんせ母様の仇が目の前にいる!

この大事な戦いで私も死ねば、父様や兄様がどんなに悲しむか。

……死ねない。

こんな所で……

 

 

「ルイス家に負けは許されない」

「はぁ?お前なにほざいてるネ。この人数見てわからないのカ?」

 

 

傲慢な絶対君主(リベラロード)

私の髪はプラチナブロンドから真っ黒に染まっていく。瞳まで黒くなった所で、私は直ぐに行動した。

先手必勝!!!

 

 

私の黒いオーラは形を変えながら11人全員を捉えようと、物凄いスピードで追いかけた。

「なんだこれ!?」

「おい!!おろせ!!」

 

 

さすが母様を殺した人の仲間だけある。

初手では何名か捕まえきれなかったけど、全員捉えるのに時間はかからなかった。

 

 

全員をすまきの様にぐるぐるにオーラを巻き付けて縛り上げて、宙にぷらりと吊るしてみたはいいけれど……

かなりキツイ!!!

これだけの念能力者を拘束するのはやはり厳しい。

オーラの消費量も激しいし、絶えずこの12人からオーラを奪っていないと維持できない。

 

 

 

この状況で神の略奪者(テオスプランダラ)を発動させる余裕なんてなく、捉えたと同時にしまわなければ、拘束が解けてしまう程だ。

「-っく」

嫌でも顔が歪んでしまう。

 

 

それを見て宙ぶらりんになりながら自身も私にオーラを吸われているというのに、クロロは至って冷静であった。

「ほぅ。これは凄いな。君にオーラが絶えず流れている。だが、俺たちを捉えておくにはかなりきつそうだな。その集中力が途切れるのが早いか、俺たちのオーラがなくなるのが早いか、一体どちらが早いか」

 

 

「なあに悠長なこといってるのクロロ!!もし俺たちのオーラを吸い取られたら、何もできずにこの子になぶり殺しになるんだよ!!」

シャルナークはじたばたとしながらクロロに一括を入れる。

 

 

「ふむ。それもそうだ」

「バカネ」

「団長……」

 

「いいか?この能力はオーラは吸い取られるが、強制的な絶状態を強いられているわけではない」

「つまり、オーラがなくなる前に全力で足掻けってことだね」

 

 

「!?」

全員一気に自身の念能力を発動させた。

それと同時にぎりぎり抑えられていた黒いオーラがブチブチとちぎれていった。

 

 

すると、凄まじい速さでフェイタンと呼ばれる小柄な男は、仕込み刀で斬りつけてきた。

咄嗟に神の略奪者(テオスプランダラ)を発動させて剣戟を受け止めると、その横から大きく振り被った大柄の男、ウボォーギンの協力な一撃“超破壊拳(ビッグバンインパクト)”が振り下ろされる。

 

 

横に回避しながら堅で防御力を高めると、避けた先にいたシャルナークが笑顔でアンテナを投げつける。

イルミと同じ操作系の能力者!!

当たるわけにはいかない。

 

 

空中へと回避すると、待っていましたと言わんばかりにノブナガが思い切り刀を振り下ろした。

空中では踏ん張ることができず、簡単に私の体は地面にたたきつけられた。

 

 

「ゴホッゴホッ!!」

土煙立ち込める中、土煙の僅かな揺らぎを見てフェイタンの剣劇やシャルナークのアンテナを避けていく。

 

 

あ~、キツイ!!

避けるのが精いっぱいで反撃に転じれない!!

 

 

誰かに助けを呼ばないと本当に死んでしまうかもしれない……!!!!

誰かー……

ふと、頭に浮かんだのはイルミだった。

 

 

駄目だ。

イルミにはもう頼れない。

やっぱり自分でなんとかするしかない。

 

 

私は唯一絶対にオーラを離さなかった男、クロロを一瞥した。

相変わらず宙ぶらりんで、既にかなりのオーラを吸い取られている筈なのになぜか余裕の表情をしている。

 

 

「いいの!?貴方たちのボスはまだ私のオーラの手中にいる!!この場を引いてくれるなら、この男を離すわ。でも、このまま続けるというのなら、この男の命だけは私が死んでももらう」

 

 

その言葉でぴたりと11人の攻撃がやんだ。

やはり仲間の命は惜しい、そういうことよね?

 

 

と思っていたメルの考えはすぐに覆された。

「メル・ルイス。お前は何か勘違いをしている。頭がなくても動ける組織、それが幻影旅団…蜘蛛だ」

「幻影旅団!?」

 

 

そうかこの人たちが幻影旅団。

父様に何度も言われた。

幻影旅団には近づくなって。

 

そういう意味だったの。

やはり父様は分かっていたんだ。

母様を殺した犯人のことを。

 

私が知ってしまったら、必ず1人で過去を清算しに行こうとしてただろう。

それを見越して……。

 

胸が熱くなった。

私はずっと守られていたんだ。

 

父様……。

ごめんなさい。

私はもしかしたら死ぬかもしれない。

 

親孝行できなくてごめんなさい。

でも、母様の仇だけは、……クロロだけは道ずれにする。

 

 

 

「カプ」

『はい、マスター何の能力をご所望でしょうか?』

 

 

「私とクロロ、2人きりにしてほしい。邪魔が入らない様な空間、作れるかしら」

『畏まりました。どんな物理攻撃も完全に遮断する空間、ということでよろしいですね。では、能力創造開始します』

 

 

「お前、何をブツブツ言っているネ」

「“超越する部屋”」

 

すると、私の周りにいた幻影旅団員達は全員弾き飛ばされた。

私取り囲む周囲50mの透明な立方体は、外部からのどんな事象も干渉できない。

この透明な空間に触れると、軽く数メートルは弾き飛ばされる使用になっている。

 

 

傲慢な絶対君主(リベラロード)を解除する。

「俺との一騎打ちをご所望か」

 

 

「えぇ。このまま貴方のオーラを吸い続けて殺すのも良かったけれど、ずっと追っていた相手に対してこんなに簡単に終わらせてしまうのは失礼だからね。クロロ、貴方とはちゃんと戦いたい」

 

 

「フっ。お前、死ぬ気だな。もし俺を殺しても、その後仲間に殺される。それを分かって、この空間を作っているだろう?恐らく、この能力には制限がある。時間制限があるか、術者のオーラが一定ライン以下になると解除されるかのどちらかだろう。恐らく前者。この手の能力は維持するのにかなりのリスクを伴うだろうからな。時間制限、といった所が妥当だろう」

 

 

勘がいいな。

「えぇ、その通り。私は15分以内に貴方を倒す」

「いいだろう。その申し出、受けよう」

 

 

再びクロロの右手に本が握られた。

私も神の略奪者(テオスプランダラ)を強く握る。

 

 

両者は同時に地面を蹴り、距離を詰めた。

クロロは本を出しながら、片手にはベンズナイフを握っている。

 

 

あの形状は……仕込み毒がある筈。

シルバさんがベンズナイフ好きだったから昔調べ上げたことがあったんだよね。

その知識がこんな所で役に立つとは。

 

 

長物を使っている私の方が、剣戟戦では有利!!

メルは得意の剣劇でクロロを追い詰めるも、クロロは相変わらず余裕の表情でどこか笑ってさえいる。

 

 

 

メルの超越する部屋の外で、クロロとメルの戦いを見ていた団員達はいつの間にか酒をどこからか掻っ攫い、飲みながら鑑賞していた。

「ちょっとアンタたち。真面目にしなよ」

マチはため息をつきながらウボォーやノブナガ、フィンクスを一瞥する。

 

 

「マチ!てめぇも飲め!!」

「飲まないってば」

 

 

「しっかし、あの嬢ちゃんありゃかなり強ぇな!殺しちまうのが勿体ねぇくれぇだぜ!!」

ノブナガはカッカッカッと大笑いしながら酒を飲む。

 

「ま、ルイスって名乗るだけはあるネ」

「だって、あんた達が束になっても簡単に避けられてたしね」

「黙るネパクノダ」

 

 

「ルイス家って、容姿もいいからどっかのマフィアや貴族連中にはかなり評判良いと思うんだよねぇ。能力を奪った後は、高値で売ってしまった方がいいと思うんだ~。どう??」

無邪気に笑うシャルナークの意見に、異を唱えたのはフェイタンであった。

 

 

「シャル、それこそ勿体ないネ。ワタシが拷問して遊んでからならイイヨ」

「フェイタンの拷問かぁ、人格を保ててたらいいんだけどね。人格破綻したら流石に値が落ちちゃうよ」

 

 

「なぁ、お前ら、結局この戦い、どっちが勝つと思う?あのメルって奴かなり押してるぜ?しかも、正々堂々と戦いたいからって、あの黒いオーラ引っ込めて戦ってんだろ?あれ使えばもしかしたら団長やられてたんじゃねぇ?」

 

 

「何言ってるのフィンクス。団長が負ける訳ないじゃない」

「もし負けたら、この能力解いた瞬間にワタシ等で殺して終わりネ」

 

 

 

 

 

メルは何度も自ら仕掛けに行くがなかなか攻撃が決まらないでいた。

それは、ヒソカ並みの体術がクロロに備わっていたからだ。

しかも、右手で本を開きながら私と同等に渡り合っている。

 

 

これがもし両手だったらー……。

そう考えると背筋がゾッとする。

この人……強い!!!!

 

 

 

「流石、幻影旅団の団長を務めるだけありますね。攻撃が当たりません」

「それはこちらも同じだが。かすり傷一つ負わせられないのは初めてで興味深い」

「それはどうも」

 

 

すると、クロロは少し思案する様子を見せた。

だが、それを待つメルではない。

 

 

隙があれば見逃さない。

刀を振り上げようとしたその時だ。

 

 

「メル・ルイス。お前、俺たちの仲間にならないか?」

「………はぁ?」

 

 

呆れてメルは振り上げられたまま、硬直した。

「な、なに言ってるの?私があなたたちの仲間になんてなる訳ないでしょ」

「そうか。なら、条件を出そう」

「条件……?」

 

 

「お前が仲間にならなければ、イザベラ・テイラーを殺す」

「!!!」

 

 

ドクンドクンと心臓が飛び上がる。

「何を……言っているの」

「イザベラ・テイラーはイルミの婚約者だそうだな」

「……そ、それが私になんの関係が」

 

 

「俺は昔、お前の母親を殺してから、お前の行動を見張っていた。お前の傍にはいつもイルミがいたな。あいつのおかげで手を出すのに時間がかかったが、お前がイルミに寄せている感情は愛…

「やめて!!!!!」

 

 

私はふーふーと肩で息をする程呼吸が乱れていた。

「フッ、お前の性格はよく知っている。イルミがお前を捨てても、お前はイルミを捨てられない。そのイルミの婚約者を、お前は殺せないだろう。師として、最愛の人間として、イルミの幸せを心から願っている。―…何とも人間という生き物は感情に流されやすいモノだ。自分を捨てる原因になった女の為に、お前は命を張って蜘蛛に入団するのだからな」

 

 

「………っ」

殺したい……この男を今すぐに殺したい……!!!

でも、代わりにイザベラが殺されたら?

イルミはきっと悲しむ。

イルミはああ見えて繊細なんだ。

私がいない分、イザベラが彼の傍にいなきゃいけない。

その彼女を殺される訳にはいかない。

 

 

……母様、ごめんなさい。

私はイルミに幸せになってもらいたい…。

 

 

「分かった。……蜘蛛に入る。その代わりに私からも条件がある」

「いいだろう」

「ゾルディック家、ルイス家、テイラー家に一切手は出さないこと。これを守ってくれるなら入団する」

「分かった。契約成立だ」

 

 

ぽたぽたと大粒の涙が流れ落ちる。

父様、兄様…ごめんなさい。

イルミー……元気でね。

 

 

 

私はシェラードアイランドを一望し、踵を返してクロロ達の後に続き、姿を眩ませた。

 

 

 

 

 

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