イルミはイザベラの部屋を出て、150階の部屋へと戻るが、そこにメルの姿はなかった。
「……メル?」
円をしてもメルの気配は見当たらなかった。
嫌な汗が流れた。
イルミはイザベラの部屋に行き、メルに関する情報を手に入れた。
ゾルディックと親交のあるテイラー家の令嬢に針を突き刺す訳にはいかず、その為に3流の殺し屋がやる色を使って情報を集めていたのだ。
「メルルイスを狙っているのは幻影旅団。あの子が心配なら1人にしないことね」
イザベラは俺に忠告をしていた。
そう、片時も離れてはいけなかったんだ。
俺がこの部屋から離れて2時間程経っていた。
クロロのことだ。
メルの珍しい能力に惹かれたんだろうけど、……まさかお前がメルの母親を殺していたなんてね。
イルミはヒソカに連絡をしてみた。
『や♡久しぶりじゃないか』
「メルはどこ?」
『ククク。君勘がいいよね』
「いいから早く答えて」
『何時間か前にシェラードアイランドに団長含め11人の団員が向かったはずだよ。もう既に接触している筈さ。僕はメルに手出しできない指輪をはめられてしまっているから今回はお留守番って訳♡まぁ、この指輪が壊れてないのを見ると、メルはまだ生きてるよ。でも、無事ではないだろうね♡メルも抵抗すると思うし、うちのメンバーは短気なのが多いからね♡』
ピと電話を切り、窓から外へ降りようとした時だ。
慌ててセバスがやって来たのだ。
「イルミ様、メルお嬢様がこのホテルにいらっしゃらないのです。私の能力は、チェックインした全ての人間の位置も把握できるのですが、忽然と姿を消されたのです!」
「それはいつからか分かる?」
「23時頃でしょうか……。少し様子を見ていたのですが、一向に感知できないので先程からずっと探しているのです!!もうこのホテルにはメル様はいらっしゃりません。恐らく、自身の能力で誰にも気づかれずに外に出たものかと……」
23時頃。
……俺がイザベラの部屋に行った時間と同じ。
セバスの能力でも感知できないということは、自分の存在を消すことができる能力を創った可能性が高い。
その時間、なぜそんな能力を創ったか……。
……考えたくないけど、メルはあの部屋にいた?
俺たちの会話を聞いて、外に出たんじゃ……。
それにしてはあまりに不自然な程に物事が進んでる気がする。
メルは風呂場から出てから少し様子がおかしかった。
何かあった筈。
風呂場、女……、……イザベラしかいない。
彼女がメルに部屋に来るように言ったのか。
つまり、メルを1人にすることが目的。彼女は幻影旅団と手を組んでいたことになる。
「はぁ」
イルミの口から深いため息がこぼれる。
大体、クロロのやつ、何年も経つのにまだメルを狙うなんて粘着質な奴だ。
あいつがこれほどメルに執着する理由は恐らく能力に惹かれたことで合っているだろう。
イザベラとクロロが繋がっているとすれば、俺とメルが親しいことも伝えている筈。
となると、……俺が興味を持っている女、その情報だけでもクロロの興味は湧くだろう。
俺とメルとの関係性も、奴の興味を惹く原因になった可能性は高い。
もっとうまく立ち回ることもできた筈なのに。
よく考えればわかったはずだ。
ベラならいづれメルに危害を加えるかもしれない、と。
その前に殺さなければならなかった。
今すぐに殺したい衝動に駆り立てられるもイルミはグッと気持ちを抑え込んだ。
優先順位を間違えるな。
今はメルの安否が最優先だ。
「セバス、外は俺が探す。エル達に連絡を入れておいて」
「分かりました」
メルが飛び出したのは、多分、……俺とイザベラがしていたことを見聞きしてしまったからだ。
メルの情報を聞き出す為とは言え、あんな所を見られたのはさすがにまずい。
でも説明したらメルなら信じてくれる。
「クロロ。俺のモノに手を出して、ただで済むと思うな」
イルミからは鋭い殺気が溢れ出る。
ホテルの最上階からシェラードアイランド全体を見渡しても戦闘している様な気配は微塵もなかった。
既にカタがついたか、あるいはメルがうまくやり過ごして、戦闘になっていないかの二択。
メルの事だ。
きっとうまく隠れているに違いない。
メルには自我がある念能力、カプがついている。
もしうまくやり過ごせているなら、隠れられる場所はどこだ?
メルが頼る場所。
イルミはその場所へ行き、ドアをノックした。
「うるさいわねぇ!!!一体何時だと思ってるのー!!!!って……あれ?アンタどうしたのだわさ」
イルミが向かった場所はビスケの家であった。
戦闘能力で考えれば、ビスケの力を借りるのが妥当かと思ったけど……。
「メルいる?」
「いないけど……。なにアンタ!!メルに何かしたんじゃないでしょうね!!!」
「いないならいい」
そう言ってその場を去ろうとしたイルミの腕をビスケはガッシリと掴んだ。
「俺急いでるんだけど」
「何かあったのね?早く言いなさい」
「……メルが幻影旅団って盗賊に狙われてる」
「なんだって!!??それを早く言いなさい!!!私も探すからあんたは飛行場や港に行きな!!」
「…分かった」
港や飛行船はシェラードアイランドの北東に位置している。
やってきたはいいものの、深夜帯というのに旅行客がウロウロとしていた。
メルの容姿を知っている店員に聞けば、メルがここに来たかどうか分かるだろう。
そう思って片っ端から話しかけても、誰一人としてメルの姿を見た者は見つからなかった。
そして、メルが見つからないまま夜が明けた。
メルはこの島にはもういない。
幻影旅団と思われる人間も誰一人として目撃情報は得られず、メルはこの島から忽然と姿を消していた。
探している途中に分かったが、少し開けた森に近い公園で大規模な戦闘を行った痕跡が見つかった。
足跡も複数あり、その1つはメルの足の大きさと一致した。
つまり、メルは幻影旅団と遭遇し、この場所で戦闘をしたのだ。
ヒソカの指輪が壊れていないことから、メルは生きていると思われるが、この戦闘跡では無事ではないと想像がつく。
日が明けると同時に、ルイス家の人間が続々とシェラードアイランド港に集まった。
ラルは俺を見るなり殴りつけた。
殴られて当然だ、と自覚していたから避けはしなかった。
「お前っ……!!!お前が付いていながらっ……」
ラルは拳を震わせながらぽたぽたと涙を流している。
こんなに感情を表に出せたら少しは俺のこの気持ちも落ち着くのだろうか。
「イルミ。全て話せ。お前の言葉に嘘偽りがあれば、ゾルディック家との協定は白紙となる。そのくらい今回の件は重い」
エルも怒りを抑えられず、唇をかみしめていた。
それを宥める様に、ウィリアムがラルとエルの肩に手を置いた。
「イルミ君だけを責めるんじゃないよ。責任があるとしたら僕たちの方だ。まんまと蜘蛛の作戦にハマって、ルイス家本社にうまく誘導されていたんだからね。この件を重く見る必要はないよイルミ君。ただ、なぜメルが1人になったか、そこは詳しく聞かせてもらうけどね」
ぎらりと青い眼光が光った。
失望しただろうか。
メルを守りきれる自信があったのにこの体たらくだ。
メルと旅行を楽しんで気が抜けていたのか…?
メルが危険な状態なのは始めから分かっていたことだったのに。
いくらでも対策なんかできた筈だ。
ゾルディック家の地下室に連れて行けばこんなことにはならなかっただろう。
いや、……俺が始めからイザベラに針を刺しておけば良かった。
テイラー家なんてどうでもよかった。
メルの命と比べられるモノなんて何もないのに。
イルミは淡々とあったことを全て話した。
「なるほど。…彼女をここに」
ウィリアムの言葉で連れてこられたのは、イザベラだった。
無理やり連れてこられたのか靴は片方脱げていて動けない様に拘束されている。
「イルミ君、彼女が言うには君は婚約者らしい。そのことに対して反論は?」
「母さんが勝手に言ってるだけで、俺にそのつもりはない。何度もベラにそのことは伝えてる」
「そう。君にそのつもりはないということだね?」
頷くと、ウィリアムは笑みを浮かべながら携帯を取り出してどこかに電話をかけ始めた。
「シルバに話はつけた。イザベラ・テイラーとの婚約の話は白紙だって。これでゾルディック家と彼女は関係ないね。実は、テイラー家にも既に連絡していてね、メルが行方不明になった原因の女性がお宅の娘だとちゃんと伝えたんだ」
ウィリアムは膝まづくイザベラと目線を合わせた。
「ひぃっ!!」
イザベラはビクッと肩を上げて震えていた。
それもそのはず。
にっこりと笑ってはいるが、今にも殺してしまいそうな殺気が立ち込めているからだ。
「テイラー家頭首、つまり君のお父さんからの言伝だよ。君との縁を切る、ルイス家に身柄を渡すからテイラー家との関係はこれまでどおり友好でいて欲しいと懇願された。でもね、僕もあまり人ができていないんだ。大事な娘を行方不明にしてくれたんだ。君1人で済む問題じゃないのは、理解してくれるね?」
「あっ、……あのっ……私……とんでもないことをー…」
「今更気付いても遅すぎるよね?」
怪しく微笑むウィリアムに、イザベラは終始びくびくと肩を震わせていた。
するとブーとエルの携帯電話が鳴る。
「……。父さん、連絡が入りました。テイラー家頭首とその一家全員の首を跳ねた、と」
「そう。流石メルの部下だ。仕事が早くて助かるよ。さて、テイラー家最後の生き残りになってしまった君には、少し聞きたいことがある。それから、死んだ方がマシだと思えるくらいの罰を用意してあげよう」
「そっ、そんなっ!!いや!!!」
じたばたと暴れるイザベラは、這いつくばりながらイルミのズボンの裾を掴んだ。
「イルミ!!助けて……!!!!!私、貴方が小さい頃からずっと、……面倒みてあげたじゃない!?………ひっ」
イザベラはイルミを見上げると、まるで芋虫でも見ているかの様に冷たい視線で自身を見下ろしており、小さく声を震わせた。
イルミは針を握りしめて容赦なくイザベラに突き刺そうとしたが、その右手を止めたのはウィリアムだった。
「メルに何かしたら殺す。そう言ったよね、ベラ」
「ひぃっ」
「イルミ君。怒りは最もだけど、彼女の処分はルイス家に任せてくれないかな?」
「……分かった」
「さて、君の得た情報の、メルが生きているという言葉を信じて行動しよう。イルミ君、君にもメル奪還の為に一肌脱いでもらうよ」
「分かった。協力はする。でも、俺は1人の方が動きやすいから独自で追うよ?」
「ならこうしよう。エルと組んでメルの捜索をしてもらう。その都度こちらにも情報をよこすこと。いいね?」
「…分かった」
こうして、メルの捜索が始まったのだ。
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メルはその頃、ジェットボートの上にいた。
「まさかクロロが仲間にしちゃうなんてね。驚いたよ」
「チッ。拷問したかったネ」
「俺ぁノブナガってんだ。嬢ちゃんの持ってる刀、ありゃ相当良いのを持ってるな!!今度じっくり見せてくれよ!!」
「ガッハハハ!!女でも強い奴ぁ大歓迎だぜぇ!!お前も飲むか?」
わいわいと賑わうボートの上で、メルはポツンとその状況が飲み込めないでいた。
なんか……
想っていたのと違う。
こんな分け合いあいとしてるんだ?
もっと殺伐とした感じかと思っていたけど……。
「あんたら、相当ドン引きされてるよ。まずは自己紹介でもすれば?」
「そういうお前からしろよ」
「はぁ、……私はマチ。よろしくね」
「よ、宜しく」
戦いの最中、念の糸で私を拘束しようとしていた人だ!!
あの技凄かったなァ。
「私はシズク!!メルちゃん宜しくね!」
「う、うん」
この人は具現化系の人だ!!
確か…デメチャンって言ってたっけ?
掃除機で土煙吸い込んでたな。
「私はパクノダ。女性陣が増えて嬉しいわ」
この人、銃を構えていたけど……
ただの銃では、ないよね?
一体どんな能力なんだろう。
「俺はウボォーギン!!よろしくなァ、確かメルとか言ったっけ?お前酒は好きかぁ?」
「お、お酒は…あまり」
この人見るからに強化系なんだよなぁ。
戦闘中も、ビッグバンインパクト~って物凄いパワー系の攻撃してたな。
「さっきも言ったが、俺はノブナガだ!刀を具現化する程推してるなんて気が合いそうだなァ!よろしくな嬢ちゃん!!」
「は、はい」
そうだ、この人!一太刀が凄く重たくて受けるのが大変だったあの人だ!斬りかかっても全部受け止められちゃったし、この人相当な使い手だ!!
「俺はシャルナーク。分かってると思うけど操作系の念能力者さ。君と同じハンターライセンス持ってるから、ある程度の情報収集は得意だよ」
クロロが言ってた情報収集が得意な仲間って、この人のことだったんだ。
「僕はコルトピ。よろしくね」
…モップ?なんだかマスコットキャラみたいで可愛らしいな。戦闘にはあまり関わってない印象だけど、この人もただ者じゃないオーラがするんだよね。
「俺はフィンクスだ」
頭の被り物のセンス!!何か別のモノを被った方が似合う気が……。でもこの人顔怖いし何も言わないでおこう。
「俺はボノレノフ。あんたの戦い方美しかったよ。まるで舞いを披露しながら戦ってるみたいに見えた。俺の一族は世界一美しく戦うんだ。美しく戦える仲間ができて光栄に思うよ」
「……世界一美しく戦う…、ギュドンドンド族……?」
「わ!流石ルイス家だなぁ。博識だね!」
シャルナークは目を大きく見開かせる。
「はいはい、あと3人いるんだからテンポよくいくよー。次アンタだよ」
このバラバラなメンバーだけど、まとめ役がいたからやっていけたのね。マチさんが今までまとめてたりしてたのかな?
「俺はフランクリン。うるせーやつばっかりだがよろしくな」
この人両手から念弾を出す人だ!!かなりの威力だったな…。アヴァホテルのガラス割れないかしら……。
「…チッ。フェイタンネ」
フェイタンっていうんだ。正直この人かなり強いのよね。速さも力も群を抜いてる。この人ほど暗殺業に向いてる人そういない!!!
「最後、団長だよ」
すると、クロロは読んでいた本をパタンと閉じて私を見た。
「クロロルシルフルだ。メル、お前には蜘蛛についてと今後のことを説明しておく。これからアジトに行って、お前の体に団員ナンバーが入った12本足の蜘蛛の刺青を彫る。ナンバーは0だ。通常、欠員が出なければ団員の補充はしないのだが、お前は特別だ。お前の能力はかなり珍しい。それは皆も見て分かっただろう」
ざわついていたのに空気ががらりと変わり全員真剣な面持ちになっていた。
すると金髪の男、シャルナークが手を挙げた。
「クロロちょっと質問。メルから能力を奪ってしまえば、団員補充なんてしなくていいのに、なんでそうしないの?そもそも能力を奪って、あとは殺すか売り飛ばすかって話になってたのにさ?」
「こいつの能力は異質だ。恐らく、メル、お前自身も自分の能力について正確に把握しきれていないんじゃないか?戦いながらその結論に至った。俺のスキルハンターは、使い手が自身の能力を正確に全て理解し俺に説明しなければ、能力は奪えない。つまり、本人も理解してない能力を俺が奪える筈がないということだ」
「え?自分の能力なのに理解していないって本当なの?自分で制約とか初めに決めるじゃん」
全員の視線が私に向けられた。
ここで1つでも嘘をつこうものなら、なぶり殺しに合うのは目に見えていた。
こんな状況で嘘をつくのは得策でないのは馬鹿でも分かる。
「……えっと、はい。いくつか念能力を持っているけど、能力を創造する能力、“
カプに関して分からないのは本当でこれ以上なんとも言えないのだ。
「じゃぁどうやってその能力に目覚めたの?制約はどんなの?」
ん、シャルナークって人ぐいぐいくるなぁ。
普通人の能力についてこんなに聞く!?
私かなり情報晒してるんだけど!?
するとそれを察したのかマチさんがフォローしてくれた。
「それくらいにしなよ。あんたらだって、自分の能力は他人に知られたくないだろう」
「まぁ、そうだけどさぁ」
マ、マチさん!!!
ありがとう!!!
というか、クロロ、私と戦いながらカプの分析もしていたってことだよね。
流石、幻影旅団の団長だけあるな。
「君特質系でしょ?ほんと特質系って変わった能力が多いよね」
シャルナークさんって突然仲間になった私に偏見とかないのかな。
あまり受け入れられる様な状況ではない筈だけど。
フェイタンって人やフィンクスって人はさっきから凄い警戒して睨んでるのに。
「やはり、自分でも能力について分かっていなかったのか。天下のルイス家の娘がとんだじゃじゃ馬だとはな」
そう言い放ちクロロはフッと笑みを浮かべる。
何だろう、小ばかにされたよね今。
「話を進める。団員は普段各自自由に行動していて、俺の招集に応じて集合し、旅団としての活動を行うが、当分お前に自由はない。ルイス家が血眼になって探しているだろうからな。しばらくは俺の傍で待機してもらおう」
「……分かった」
「俺の命令は絶対だ。団員同士の抗争は厳禁。もしトラブルが生じた場合はコイントスで解決することになっている。団員の命よりも、旅団の存続が優先だ。このくらいか。何か質問はあるか?」
蜘蛛に入ったっていう事は、私もクロロの命令があれば人を殺さないといけないのだろうか。
頭に浮かんできたのは、母様と部下のレン、クラピカの顔だった。
蜘蛛は目的の為ならば容赦なく殺戮を行う。
同じ“殺し”でも両者には大きな壁がある。
私は生きる為に仕事として殺す。
でも彼らは自分の私利私欲の為に殺す。
私の考えとは目的がかなり異なる。
クロロは私の能力が目的で母を殺した。
それだけじゃない。
例をあげればクルタ族も被害者だ。
彼らは世界三大美色である緋の目がたまたまクロロの目にとまってしまったばかりに一族が滅んでしまった。
私の友達のクラピカもかなり苦しんでいる。
私の部下のレンも、クルタ族。出身だ。
レンはあの日…、蜘蛛に襲われた日村にいたそうだ。
奇跡的に蜘蛛から逃れられ、私が偶然見つけた時には今にも死んでしまいそうな程深手だった。
私の大事な人を殺し、今も苦しませている元凶の蜘蛛と一緒に、私もクロロの言う“殺し”をしなければならないの?
そんなの……絶対に嫌だ。
「……わ、…私は理不尽に命を奪ったりはしない」
ボソッと呟いたことだが、フェイタンはしっかりと聞き取れたようで、更に私をきつく睨んできた。
「ハッ。殺し屋が何を言ってるネ。お前、下手したらワタシ達より殺してるヨ」
「それは仕事だから。生きるために仕事として依頼を受けて殺すの。それにちゃんと取引相手は選んでる。同じ殺しでも、理由や目的が違うわ」
「でも殺しは殺しネ。正当化しようとしてもお前はワタシ等に近い存在な事に変わりないヨ」
するとクロロが話を遮ってきた。
「フェイ、その辺にしておけ。殺しに理由が必要な人間もいる、ということだ。メル、いいか?お前が殺しをするもしないも、俺の命令が全てだ。あの女の命がかかっていることを忘れるな」
「!」
そうだ、…逆らえばイザベラが死ぬ。
彼女もそこそこ腕の立つ殺し屋だろうけど、この人たちには到底及ばない。
残酷に殺されて、それをみたイルミはどう思う?
……恐らく顔色一つ変えないだろうけど、きっと酷く落ち込むんだろうな。
そんな顔みたくない。
私が傍にいなくても、イルミさえ幸せに生きてくれたら私はそれでいい。
その為に彼女は必要だ。
今は大人しく、この人の言う事に従うしかない。
もし、殺戮を求められたら……その時はー……。
メルはゴクッと生唾を飲み込んだ。
気分を変えようとメルは海を眺めた。
私がいなくなったことで、ルイス家が総動員で捜索を開始した頃だろうな。
こんな時に蜘蛛も大きな行動は起こさないと思うし、しばらく落ち着いて過ごせる筈。
深いため息をつきながら、メルを乗せたボートは着々とアジトへと向かっていった。