屋敷に着くなり、大勢の部下がホール全体を埋め尽くしていて、私の姿を見て全員が安堵していた。
「メル様ぁ!!よくご無事で!!」
「あぁ、本当に無事にお戻りになられたんだ!!」
全員が暗殺者だと言うのに、その表情は緩み切っており中には泣き出してしまう者もいた。
私の軽率な行動のせいでどれだけの人を心配させたのだろうか。この光景を見て痛いほど理解した。
私の胸はきゅっと締め付けられる様に熱くなった。
皆に何か言わなきゃ……!!
口を開こうとすると、涙がぽたぽたと溢れてきた。
あれ……?
なんで私こんなに泣いてるの……っ、うまく……喋れないよ……っ
泣きじゃくる私を見かねて父様はポンっと私の頭の上に手を置いた。
「皆、メルはこの通り無事だ。苦労をかけたね。メルは疲れてるだろうからそろそろ自室に戻る。メルに何か伝えることがあるなら、イリアを通す様に」
立ち去ろうとした時、人をかき分けて息を切らしたレンがやって来た。こんなにも取り乱している彼を見たのは久しい。
私を見るなり普段冷静で部下に厳しく指導をしているレンが涙をこぼしていた。その瞳はあの時の様に赤く輝いている。
私はいてもたってもいられずレンに駆け寄った。
「レン!……泣かないで」
頬に触れるととても冷たくてまるで死体の様だ。
青ざめた顔で私をただ見つめ、ボロボロと泣いているレンは自身が泣いている事に気が付いてない様であった。
「心配かけてごめんね」
震える手に自身の手を重ねる。
見かねたウィリアムが深いため息を零しながら近づき、レンの肩を抱いて立たせた。
「取り乱してしまい申し訳…ありませんでした」
涙をぬぐい深く頭を下げるレン。
頭を下げるのはこっちだよ…。
その場でレンに、自身も仇である蜘蛛の一員になってしまった事はとてもじゃないが言えなかった。
父様は私達2人に
「今はしっかりと休みなさい」
それだけ言うと、すぐに姿を消した。
レンが自室まで送ってくれる。その際会話は一切なかった。重苦しい空気だけが流れ、レンとは部屋の前で分かれた。
イルミは私のそばにいる様に言われたのかずっと隣に居てくれている。
「メル、1人になりたかったら俺も出て行くけど?」
「いや、……そばにいて欲しい……」
俯きながら、心細そうに喋るメルは、悪いことをした子供が親に怒られて落ち込んでいるかの様に小さく見えた。
「分かったよ」
「……私、イルミに話さなきゃいけない事があるんだ。……まずは、イルミに聞いてもらいたい」
あのホテルでの出来事で蜘蛛と出会った事を……。
そのメンバーになってしまった事を……。
この1週間皆を心配させていたのに少し楽しんでしまっていた事を……。
大好きなあなたには全てを知ってもらいたい。
メルは震える手でワンピースを脱いでイルミに背を向けた。
白く小さなお尻には、腰まで足が伸びる大きな蜘蛛の入れ墨が掘られていた。
ナンバー0
それがメルに与えられた旅団ナンバーであった。
「……!」
イルミは目を見開き少し動揺するもすぐにいつもの冷静さを取り戻した。
「メル、無理やり入れられたの?」
イルミの声は冷たく殺気が部屋中を覆った。
「クロロは私にこう言ったわ。イザベラさんを殺されたくなければ蜘蛛に入れって」
「……え?」
イルミは理解できないと言わんばかりにさっきまで研ぎ澄まされていた殺気が揺らいだ。
「……私、イルミの婚約者はイザベラさんだと思い込んでて、その人を殺されたらイルミが悲しむと思って。イルミって他の人から見ると、クールで誰も頼らずに生きていける人だと思われてると思うの。実際そうなのかもしれないけど、私から見えるイルミは少し違うの。寂しがりやで本当は誰か傍にいて欲しいと思ってる。イザベラさんは婚約者で、イルミの大切な人。だからその人を失ったらイルミは本当に1人になってしまう。イルミが1人になるくらいなら私は……っ!!」
段々と涙がこみ上げてきた。全ては愚かで浅はかな自分の勘違い。それが恥ずかしくて、悔しくて、信じられなかった自分に心底幻滅してしまう。
小刻みに震えるメルをイルミは後ろから抱きしめた。
「ばかだね」
「……っ!……ごめんなさい」
本当にバカだよメルは。
俺なんかの為に、1番憎んでいた母親の仇のメンバーになってしまうなんて。
でも、こうなってしまったのは俺のせいだ。
「ごめんねメル」
「……え?」
「俺、イザベラから蜘蛛に関する情報を聞き出すためにあの日イザベラの部屋に行ったんだ。イザベラから部屋に来るように言われたんだろ?」
メルは小さく頷いた。
「少しでもメルを危険から守りたくて、どうしても情報が欲しかったんだ。テイラー家とは確かに昔から繋がりはあって、イザベラには子供の頃世話になったこともあるし、たまーに仕事で遺体処理とかで手伝ってもらった事もある。母さんは婚約者としてベラを推してたのも本当。でも、俺に気持ちは微塵もない。知ってる?ベラって、少しでも俺の傍にいるメルに近づきたくて、顔も整形して髪の色だってわざわざ染めてるんだよ。ベラに何を言われたか分からないけど、あいつの言葉はほとんどは嘘だ」
そうだったんだ。
やっぱり私を通してイザベラさんを見ていたわけじゃなくて、イルミはちゃんと私自身を見てくれていたんだ。
「俺はメルしかいらない。誰もメルの代わりになんかならない。だから、俺の傍にいてくれる?」
大粒の涙が次々に溢れ出てくる。
「へへ、まるでイルミ告白してるみたい」
「え?そうなんだけど」
「……ん?」
しばらく沈黙が続いた。
「え!?こ、告白だよイルミ!?意味分かってる!?」
「何言ってるの?分かって言ってるんだけど」
開いた口が塞がらない様子を見て、イルミはクスッと笑う。
「ほんと、ばかだねメルは」
イルミはメルの小さな唇に自分の唇を重ねた。
「~!!!!!」
「ばかなメルでも、意味、分かるよね?」
「……は…ぃ」
すっかり委縮してしまったメルは、嬉しさと恥ずかしさで顔が真っ赤になっていた。
するとイルミはバサッと白いシーツをメルにかけた。
「早く服着なよ。メルはバカだから風邪引いちゃうよ」
ふと我に返ると今になって、イルミに下着姿を見られたことが恥ずかしくなって全身が脈を打つように熱くなっていった。
「何今更恥ずかしがってるの?自分で脱いだくせに」
「そ、そうだけどあの時は……」
口ごもりながらメルはシーツにくるまり、ワンピースに袖を通した。
「それにしても、これからどうするつもり?クロロはメルの事諦めないと思うよ。それにもうメンバーになっちゃってるんだから、必ず接触してくるに違いないね」
「私が教えてもらった事と言えば、団長命令は絶対ってことくらい。もし、クロロに何か命じられてそれが、私が絶対にしたくないことだった場合、旅団員全員に命を狙われるかもしれない。今回実際に旅団全員と対峙してみて彼らの強さはよくわかった。
「メルって意外に傲慢な所あるよねぇ。さすがに全員を1人で相手するのはできないでしょ。俺もできないし。でも、前回と違って今回は俺がいる。それでもまだ形勢不利だ。つまり、1人ずつ確実に殺していくしかないよね」
殺すー…かぁ…
「蜘蛛はもちろん全員残虐な事を今までにしてきた。私の母様も、レンの一族だってそう。された恨みや憎しみは消えない。彼らはそれほど他者を傷つけている。でも、接してみて分かったこともあるの。蜘蛛の中には仲間を思い合える人達もいるの。仲間を大事に思える心があるのになぜ残虐なことができるのか。各々が私みたいに何らかの折り合いをつけているんじゃないかなと思うの。彼らは恐らくただの殺人鬼ではないわ。問題は、団長の命令には絶対のこのルール。クロロの思考を把握しないと、何が目的かは分からない。クロロは何かを知りたがっている。それを自分自身が知りたいがために、過去残虐なことをしてきたんじゃないかな」
「……はぁ」
イルミは重いため息をつく。
「たった1週間で蜘蛛の内情を把握分析したことは誉めるけど、まさか殺さないでって言いたいわけ?」
これを言ったらイルミは怒るかもしれないけれどー……
「私はこれから、ナンバー0としてこのまま蜘蛛に属してみようと思う。クロロの問題は、自分の欲求を満たすために間違った命令を下し、それを旅団員が実行してしまうこと。それを私が違う方向へ変えられたら……今後蜘蛛による被害者が少しでも減る。逆に私が、蜘蛛を抜けようとしたり旅団員を殺そうとすれば、その報復は私の命だけじゃきっと済まない。このルイス家にも必ず影響が出てくる。イルミと繋がっていることもクロロは知っているから、もしかしたらゾルディック家にも迷惑をかけるかもしれない。なら、旅団員としてうまく立ち回った方が賢明でしょ?それに、蜘蛛に属してるからすべての行動が縛られる訳でもない。基本命令が下るまでは、自由行動だし……」
イルミはさらに重いため息をついた。
「メルって1度言い出したら聞かないし、ま、仕方ないか。でも、条件がある。メルが旅団として活動する場合、俺も同伴。これは守ってもらうよ」
「え!?……私としてはイルミが一緒にいてくれるなら心強いけど……仕事とか大丈夫なの?」
「別に、今更どうってことないよ。エルやラルにも協力してもらうし」
「えー!兄様達を巻き込めないよ…!!ハンター試験を受ける時にもかなり迷惑かけちゃってるし……」
「いいよね、エル?」
「え!?エル兄様!?」
すると、イルミの携帯が鳴った。
「うんうん、あ、メル大丈夫だってー」
「にっ、兄様もしかして今までの会話全部聞いてたの…!?」
「えー、はいはい。メルに代われだって」
イルミから携帯を受け取った。
「メル、すまない。会話はそのー…全部きかせてもらった。今回のことがあったからルイス家は今厳重警戒中なんだ。とくにメルの部屋には異変がすぐに把握できるよう、センサーが張り巡らされている。今回はイルミがお前の部屋に入る為、イルミに小型マイクを仕込んでいたんだ。すまない」
すると後ろの方からラルの声も聞こえてきた。
「メルごめんね!!嫌だろうけど僕たちも心配なんだ」
「まったく、シスコンもここまできたらとんでもないよね」
イルミは、服の襟につけられた小型マイクに口を近づけて悪態をつく。
「メル、イルミに後で覚えておけと伝えておいてくれ。それから、俺たちの事は気にしなくていい。メルが安全ならそれに越したことはない。イルミの強さは俺も認めている。あいつがお前の傍にいるなら俺達も安心だ」
「兄様……。ありがとうございます」
「今日はもう休みなさい。イルミに変わってくれるか?」
「はい」
イルミに携帯を返すと、数秒話したと思えばすぐに携帯の通話を終了させていた。
「さ、もう疲れただろうしもう寝るよメル」
「い、一緒に寝るの?」
「何言ってるの?今日からずっと一緒に寝ることになるんだけど」
「え!?そうなの!?」
「だって常に一緒にいないとメル何するか分からないし」
そう言って無理やりメルをベッドに寝かしつけた。
どきどきと心臓が高鳴っていたが、久しぶりの柔らかいベッドは簡単にメルをまどろみの中へと引きずり込んだ。
お久しぶりです。またぼちぼちと更新していきます!
今後メルは旅団員としてイルミと活動していく展開になります。
原作も絡めて進行していきますので次回をお待ちください♪