そんな考えから書いた作品です。
冷たい風が吹く、冬の季節。とある街では、悲しい事件の終幕を迎えようとしていた。
海上に浮かぶ巨体。それは数多の欲望と怨嗟を煮詰めた、闇の化身。その姿は苦痛に呻いているようにも見える。
その頭上には三人の少女が居た。
「全力全開!!」
純白の衣装を身に纏った天使のような少女は、悲劇を繰り返させないという強い意志を持って、
「雷光一閃!!」
漆黒のスーツと白いマントを纏った少女は、過去の悲しみを乗り越え、前に進む決意を胸に、
「響け終焉の笛!!」
モノクロの服に黒い六枚羽が特徴の少女は、目の前の怪物に対する哀れみの眼差しを向けながら、
「スターライト……」
「プラズマザンバー……」
「ラグナロク……」
三人の少女が持つ杖に途方もないエネルギーが溜まる。
誰もが固唾を飲んで見守る。永劫に続くと思われた悲しき呪いの連鎖を断ち切るために。
「「「ブレイカー!!!!」」」
放たれた光の奔流は、それぞれ怪物の体を削り取る。怪物は悲痛な鳴き声を上げながら再生しようとするものの、強大な力の前には追い付かない。
そして体の中心部から、禍々しい結晶が露となる。
「捕まえ……たっ!」
その結晶が緑の騎士の手によって捕縛される。そして同時に結晶は衛星軌道上へと運ばれる。二度と復活しないように、二度と悲劇を起こさせないように、その存在を跡形もなく抹消すべく、強力な砲撃によって破壊するために。
だが彼らは気付かなかった。三人の少女によって破壊された怪物の体。そこから一つの光が零れ落ちたことに。その光は誰にも気づかれることなく、静かに水底へと沈んでいく。
それから数か月後。この光が、彼らの知らない場所で事件を引き起こすことを、誰も予想することなど出来なかった。
それから数ヶ月の時が過ぎた。
忘れ去られた者たちが行き着く先、幻想郷。
人間や妖怪、神など、ありとあらゆる存在が生活しているこの場所で、また新たな異変が起きようとしていた。
それは一つの光。幻想郷の上空に現れた紫色に輝くその光は、何度か明滅すると突如として花火のように弾けた。幾つもの淡い光の雨が幻想郷中に降り注ぐ。それはまるで流れ星のようにも、雪のようにも見える。
そして一際大きな光が四つ。燃えるような真紅。澄み渡った水色。優し気に輝く濃紫。他とは違う禍々しい赤紫色。それぞれの光は不安定に揺れると、四方八方へと飛び散っていく。そして濃紫色の光は、同じ色をした表紙を持つ本へと姿を変えながら鬱蒼とした森の中へ、禍々しい光はその輝きを失いながら暗い湖へと落ちていった。
幻想郷の中にある魔法の森。そこで暮らす魔法使い『アリス・マーガトロイド』は、森に起きた異常を感じ取り、夜中にも関わらず外を出歩いていた。
「これは、何かしら?」
彼女は空から光の球が弾け、その一つが近くに落ちるのをその目で見ていた。
落ちて来た光自体は、それほど大きな力を持っていないように感じる。だが、何か嫌な予感がする。
夜の魔法の森はかなり危険だ。この森特有のキノコが活発に活動する時間帯でもあり、慣れているものでなければ、すぐに幻覚にとらわれ、最悪死に至る。
しかしアリスにはそんなことは関係ない。見た目こそ普通の人間の少女に見えるが、実際の彼女は幻想郷でも有数の魔法使いである。勿論、魔法の森には長い間住んでいるため、キノコの胞子ぐらいでは何の影響も受けない。むしろ、このキノコによって大抵の妖怪は寄って来ないし、この胞子は魔法使いの魔力を高める効果がある。アリスにとってはほぼ利点しかない。
あえて欠点を述べるとしたら、近所に勝手に本を盗み出す厄介な友人がいるぐらいだ。
何はともあれ、自らの勘に従い、アリスはすぐさま準備を整え、外に出ることにする。ここら辺が、パチュリーとアリスの大きな違いだろう。
一体の人形にランタンを持たせると、警戒しながら森の中を進んだ。
そして道なき道を進むこと四半刻。アリスはようやくその魔力の根源へと辿り着く。
そこにあったのは一冊の紫色の表紙を持つ本。見た目こそただの古本に見えるが、アリスはその本から溢れ出るとてつもない魔力を感じ取っていた。
「なんでこんなものが……?」
これが落ちて来たものの正体だろうか。しかし、何故このようなものが幻想郷に来たのだろうか。
それに、この本が発する魔力は、私達が使うものとは違う気がする。それがどういうことなのかと聞かれると、答えに困るのだが。
危険なものであることは間違いないだろう。しかし、ただ置いておくにはもったいない代物だ。
「パチュリーなら、何か知っているかも……」
数少ない友人に相談することを決めたアリスは、ひとまず目の前の本を家に持ち帰ることにする。ついでに、この本に込められた魔力が家で暴走したりしないように、簡単な封印を掛けた。これで万が一、誰かに盗まれたとしても、悪用はされないはずだ。
さて、一度家に戻って少し眠ることにしよう。封印した本を人形に持たせ、通ってきた道のりを再び歩き出す。
この時、アリスもまた気付いていなかった。人形が持っている本が、静かに脈動していることに…。
冥界。そこは死した人間が辿り着く世界。そこでは幾つもの魂が揺らめきながら存在している。そんな冥界に一つの光が落ちた。
突如として落下した真紅の光に、冥界に住まう魂たちは何事かとざわめきだす。
「……ここは?」
そんな中、年若い少女の声が聞こえる。その声を発したのは、落ちて来た真紅の光そのものだ。
「私は……」
光は思考する。自分は何者か。何故自分がここに居るのか。
・現在地の座標―不明。第97管理外世界地球と予測されるが、詳細な座標についての該当情報無し。
・現在の状況―個体××××は現在エネルギー体の状態に有り、今後の行動に困難が生じる可能性が有る。そのため至急物理的躯体の生成が求められる。
・保持データについて―一部欠損有り。個体名称その他についても欠損があるため、今後の行動への支障が予測される。
・××の×へのアクセス―不能。現在、該当プログラムとは分離状態に有り、かつアクセスに必要なプログラムも現在破損中である。
自らの名すら忘れた光は、この状況を打開すべく行動を開始する。まずはこの場で活動を行うための肉体を確保しなくてはならない。
そんな光の視界にあるものが映る。それは自分と共にこの地へ舞い降りたエネルギー片。それはこの世界に存在する記憶を取り込むことで、一人の少女の姿を写し取る。白髪のボブカット、白いシャツに青緑色のスカート、そして背中と腰には二振りの刀。目は虚ろとしており、意識があるようには思えない。
真紅の光はそれを見て直感的に理解する。これはかつて自分と共にあった存在の欠片であると。いずれ記憶を基に活動を始めるであろうが、今はまだ意識が無い。これならば自身の肉体の依り代とすることが出来るだろう、と。
自らの考えを実行すべく、真紅の光はその少女の姿を模した欠片の中へと吸収される。その瞬間、少女の姿は変貌する。白いシャツは赤黒く、緑色のスカートとベストも光と同じように真紅へと変わっていく。そして虚ろだった瞳に光が灯った。
「……うまく行きましたね」
少女の姿を乗っ取ったそれは静かに呟く。そしてその視線をどこかへと向ける。
「では、行きましょうか……」
自分は何かを手に入れなくてはならない。それが何なのかは分からないが、心が燃え滾るほど自分がそれを欲していることは理解できた。それはまるで本能である。ならばこの地を駆け巡って探そう。同じような欠片を吸収すれば、記憶も戻るかもしれない。邪魔する者は全て焼き払う。それが×××××の臣下たる私の存在意義なのだから……。
そして少女は冥界から飛び立つ。その姿を見ていたのは、言葉も発することが出来ず、ただ揺らめく魂だけであった。
これは外の世界に忘れ去られ、幻想郷へと流れ着いた一冊の魔導書を発端とする物語。後に『紫天異変』と呼ばれることとなる幻想郷の存亡をかけた異変である。
本作の時系列は、「東方花映塚」~「東方風神録」の間の夏の出来事です。
また、なのは側の世界線としては、TV版に近いルートで、リインフォースが消滅することを選んだという状況です。