霊夢達とマテリアルの少女の戦い。それは思いのほか、戦況は一方的であった。
「くっ、何故だ!?」
そう、強大な力を持っているはずの少女の方が、苦戦を強いられていたのだ。
これには幾つかの理由が有った。まずは単純な人数差。少女が四人全員に気を配らなくてはならないのに対し、霊夢達は基本的に少女だけに攻撃すれば良い。時に同士討ちすれすれの攻撃があるものの、それなりに付き合いがあるメンバーだ。相手の考えていることは、それなりに読める。だからこそ図らずもチームプレイが成立し、少女を追いつめていた。
さらに、少女の戦術にも問題が有った。少女が扱う魔法は、詠唱に時間が掛かる代わりに、広範囲の敵を殲滅するものが多い。それ故、対多数戦は得意ではあるのだが、その相手には近距離戦が可能な咲夜と妖夢が居る。彼女らの攻撃によって詠唱が阻害され、十二分に実力を発揮することが出来ないのだ。彼女が真の力を発揮するためには、その身を守る盾となる存在が必要。だが今は一人。その事実が彼女を苦しめていた。
そして、どれだけ少女の力が高くても、それはあくまで人間と比べてである。霊夢達は幾度となく異変が起こる度に、幻想郷の実力者と競って来た。例えこれが弾幕勝負で無くても、それで恐怖を感じるような者はこの場には居ない。そのため霊夢達は、いつも通りの実力を発揮出来ている。
これらの要素が重なり、勝負は霊夢達が優勢を保っていた。この事実に歯噛みしたのは、彼女達を相手する銀髪の少女である。
「何なのだ貴様らは! このような多勢で襲い掛かるなど、卑怯だとは思わないのかっ!!」
「思わないわね」
あまりの惨状に少女が不平を言うが、霊夢がさらりと受け流す。
「大体、ここのルールを守らない奴に、卑怯とか言われたくは無いわね」
「ここのルールなんぞ、我の知ったことかっ!!」
少女が漆黒の魔力弾を放つが、狙いが甘く全て避けられる。その間にも近づいた咲夜と妖夢がそれぞれの獲物を手に斬りかかる。
「お嬢様の姿を真似た不敬、ここで償いなさい」
「あなたが何なのかは、ここで斬って確かめます!!」
少女も障壁を生み出すが、突発的に作ったため強度が足りず、簡単に打ち砕かれる。
「これでも喰らいなっ!!」
さらに体勢を崩したところへ、魔理沙が熱線を放つ。魔理沙の攻撃はいずれも威力が高く、このレーザーにも見た目以上の魔力が込められている。それをまともに受けるのは危険と判断した少女は、シールドを斜めに配置することで、レーザーを最小限の力で受け流す。だが、障壁とレーザーがぶつかった衝撃で発せらえた光が、少女の視界を閉ざした。それが少女の命運を決めた。
「終わりよっ!!」
気が付くと、前方に大量の符が配置されている。それを仕込んだ霊夢は指で印を描き、その力を解き放つ。
「『夢想封印』っ!!」
少女へと殺到する霊力。これに飲み込まれれば、いかなる人間でも妖怪でも倒れることは必至。
「おのれーっ!!」
誰もが少女の敗北を確信する。霊夢の渾身の一撃を受け、無様に地へと堕ちる、そんな光景を頭に思い描く。だがそれを現実にさせまいと動く二つの意思が近づいていた。
「待てーいっ!!」
「させませんよ」
どこからともなく放たれた青い雷と真紅の炎が、少女へと迫った霊力弾と激しくぶつかり合う。
「きゃあっ!?」
「うえっ!?」
その衝撃で、近くに居た咲夜と妖夢が吹き飛ばされる。だがすぐに体勢を整え、上空へと視線を戻す。そこには未だに健在の少女に加え、新たに二つの人影が有った。
「王様はボクらが守ーるっ!」
「遅れて申し訳ありません、ディアーチェ」
天真爛漫と言った表現が合いそうな、青髪のツインテールが特徴的な少女、マテリアルL。そし赤紫の衣装を纏い、杖を霊夢達へ向ける無表情な少女、マテリアルS。彼女らはまるで、霊夢達から銀髪の少女を守るように陣取っていた。
その姿を見た銀髪の少女は二人を見て笑みを浮かべる。
「おお、シュテルにレヴィ!」
「……ああ、それが我らの名前でしたね」
「そういえばそうだっけ。やっぱりボクの名前ってかっこいー!」
銀髪の少女『ディアーチェ』に呼ばれ、やっと自分の名を思い出した『シュテル』と『レヴィ』。長い時を超え再会した三人は、その感動を分かち合う。だが、それに水を差す者が居た。
「あんたら、勝手に話を進めてんじゃないわよ」
目前の勝利を奪われた形となった霊夢は、苛立ちを露にした表情でお祓い棒を三人へ向ける。魔理沙と妖夢、咲夜も同様に武器を構えた。そんな霊夢達の様子を見降ろしていたディアーチェは、先程とは打って変わって、獰猛な笑みを浮かべる。
「ふん、我ら三基のマテリアルが揃った今、敗北の二文字は存在しない。ここで屈辱を晴らさせてもらうぞっ!!」
「よーし、ボクもっ!」
「いえ、待ってください」
ディアーチェの意思に従い、レヴィも獲物である杖を構え、今にも飛び出しそうである。だがその二人をシュテルが諫めた。
「ええい、一体何だシュテル!」
目の前の敵を叩き潰そうと思っていたところに待ったを掛けられ、ディアーチェの口調が荒れる。だが主の怒号にも怯まず、シュテルは自らの意見を述べる。
「今の王には、少なくないダメージが有ります。さすがにこのまま継戦するのは、今後の活動に関わるかと」
「ぐぬっ……」
指摘通りディアーチェには先程の戦闘によるダメージがある。シュテルとレヴィは万全ではあるが、対する霊夢達も大きなダメージは負っていない。戦闘を続ければ、確実に不利になるだろう。
「それに、我々はこの世界での戦闘について、まだ準備が済んでいません」
「準備?」
首を傾げたレヴィに対し、シュテルがあるものを懐から取り出す。それを視界に捉えた魔理沙は目を見開いた。
「おい、あれって……」
それは幻想郷における決闘で最も重要な道具、『スペルカード』そのものだった。
「何だこれは?」
「詳しい説明は省きますが、これは『スペルカード』と呼ばれるもので、この幻想郷における決闘で必要な道具だそうです」
「へー、ボク達もこれを使うの?」
シュテルは静かに頷く。昨日であった紫との話し合いの中で学んだスペルカードルール。これを用いて戦うべきであると進言した。
「へー、なんか面白そう!」
「ふん、何故我がこのようなものを」
レヴィはこのルールに肯定的だが、反対にディアーチェはあまり乗り気では無い。だがシュテルは言葉を続ける。
「郷に入っては郷に従え、という言葉が有ります。この地で真の勝利を得るためには、この地のルールに合わせた方が良いかと」
「ううむ……」
シュテルはそれ以外にもスペルカードルールを薦めた理由があった。まず第一に、このルールに従えば、八雲紫による妨害を防ぐことが出来るという点である。シュテルは彼女と出会った時、強大な気配を感じていた。もしあれが邪魔をすれば、目的の達成が困難となる。それは防がなくてはならない。そのためにも、スペルカードルールを遵守が必要である。
また、スペルカードルールの性質上、余力を保ったままで決着を付けられるという特性も理由の一つだ。霊夢達以外にも、自分達の邪魔をするものが現れるかもしれない。それなら少ない労力で決着を付けられるスペルカードによる決闘が良いだろうという考えが有った。
ひとしきり悩んだ後、ディアーチェは渋々と言った表情を浮かべる。
「仕方あるまい。臣下の言葉に耳を傾けるのも王の務めだ」
「ありがとうございます、ディアーチェ」
そしてシュテルは霊夢達へと視線を移す。
「ハクレイレイム、あなたと決着をつけるは、また次の機会に預けます。その時こそ私の真の魔導を見せましょう」
「あんた、やっぱりあの時の……」
シュテルの口ぶりから、博麗神社へとやって来た偽妖夢と彼女が同一人物であると結びつく。
「おいお前! 今日は見逃してやるから、次に会ったときは覚えてろよーっ!!」
「はんっ。逃げるのか?」
「誰が逃げるかっ!!」
レヴィが魔理沙へと宣戦布告するが、逆に挑発され頭に血が上る。それをシュテルに諫められるが、それでもなお手にした杖を振り回して威嚇する。
「貴様ら、今回は退かせてもらおう。だが、いずれ我らは『砕け得ぬ闇』を手に入れる。その時こそ、貴様らの最期だっ!!」
ディアーチェの仰々しい台詞と共に、シュテルが足元に魔法陣を描くと、三人の少女の姿が一瞬にして消えた。
「ちっ、逃がしたわね……」
みすみす目の前の敵を逃したことを悔しがる霊夢。他の三人も同じように歯噛みする。だが、それを後悔しているだけでは何も進まない。
「とりあえず、あいつらを見つけないとな」
「まあそうね。面倒なことをされる前に、ちゃっちゃと片付けないと」
霊夢の言葉に妖夢と咲夜も頷く。時折争う仲ではあるが、今回は目的が同じだ。それなら協力した方が解決は早いだろう。
そして四人は揃って魔法の森の出口へと向かう。この厄介な異変の元凶である三人の少女を見つけるために。