幻想郷の各地で起こる闇の欠片による騒動。様々な人間や妖怪の偽物と幻想郷の実力者による戦闘が巻き起こっていた。
「ぐあっ!?」
人里の入り口では、赤髪の悪魔を模したものが襲撃を仕掛けていたが、それを寺子屋の教師でもある女性が打ち倒す。
「ぎゃあーっ!?」
妖怪の山の麓で暴れていた夜雀の偽物は、たまたま通りがかった大酒飲みの鬼によって沈められる。
「「「ひゃあ~!?」」」
恐れも知らず太陽の畑で好き勝手に音楽を鳴らしていた三人の騒霊の紛い物は、その畑の主である花妖怪が放った光線で纏めて焼き尽くされる。
それぞれが自らのテリトリーを守ることにより、徐々に闇の欠片の数を減らしていく。そしてそんな実力者達の目をすり抜け、生き残った欠片達は、首謀者を追う霊夢達の手によって駆除されていく。未だに逃走した三人の少女の姿は見当たらないが、闇の欠片を駆逐すると同時に、徐々に彼女達が潜んでいると考えられる場所の目星が付き始めた。
「まだ探してないのは、あそこだけだな」
箒に乗った魔理沙が、ある地点を見ながら呟く。そこにあるのは、かつて人間が暮らしていたが、今では崩れかけた家屋しか残らない廃村。妖怪の山近くにあるということも有り、人間が訪れることは滅多にない。隠れるにはおあつらえ向きだろう。
「早く決着を付けましょう!」
妖夢の携えた腰の刀の鍔が、風を切って高い音を鳴らす。それはまるで、戦うことを待ちきれない妖夢の感情を表しているようでもある。
ここに来るまでにも多くの偽物達を倒してきた彼女らだが、気力は有り余っている。異変を起こした少女達を倒すだけの余裕は有った。
四人は少女達が潜んでいるであろう廃村へと徐々に近づく……はずだった。
「ねえ、変じゃない?」
「どうしたんだ?」
咲夜の呟きに魔理沙が首を傾げる。妖夢も良く理解出来ていないのか、きょとんとした表情を浮かべていた。だが霊夢はその違和感に気付く。徐々に近づいているはずの廃村。だがどれだけ飛んでも、一向に距離が詰まらないのだ。まるで近づいた分だけ離れているようにも思える。
「……これは結界かしらね」
恐らく侵入者の対策として周囲に結界が張られているのだろう。ご丁寧に認識を歪める効果付きで。魔理沙や妖夢にはその効果が作用しているようだが、空間に密接に結びつく能力の咲夜や、博麗の巫女として結界に明るい霊夢はその異常に気付くことが出来た。
「ちょっとあんたたち、少し離れてなさい」
だが、結界であるなら霊夢の十八番でもある。例えどのような原理の結界であろうと、時間さえあれば破ることは可能。だが今回は、わざわざ時間を掛けてまで丁寧にやるつもりなど無い。指で印を描き、怪しげな呪文を唱える。
「あ、それって……」
魔理沙は一度見たことがある。かつてパチュリーが作った結界を破った術。術式を解析するのではなく、その術が張られた土台ごと崩す力技。人間が巻き込まれればただでは済まない。それを何の躊躇も無く霊夢は使用した。
鈍い音と共に空間が揺れるような感覚に包まれる。徐々に視界が歪むと、霧が晴れたかのように彼女達のすぐ前方に隠されていた廃村が姿を現した。
「……ねえ、あれを見て」
咲夜が指を差した方向へ三人も視線を向ける。咲夜の指し示した先に有ったのは、村の中心に立つ枯れた井戸。そこに青髪の少女の姿が見える。だが、その彼女の姿に目を疑う。
「ん、むぅ……」
「あれって、寝てるよな?」
井戸に背中を預け、間抜けな顔を晒して眠るその姿に、思わず拍子抜けし、その場に居た者は皆固まる。
「ん……あれ?」
だが四人が近づいたことで気配に気づいたようで、レヴィはゆっくりとその瞼を開く。そして大きな欠伸を一つ。
「ふあ、おはよ~……って、あれ?」
寝ぼけた目で霊夢達を捉え、数秒の間動きが止まる。そして自分の状況をやっと思い出したらしく、慌てて杖を構え、目の前の敵を睨んだ。
「お、お前達、いつの間にここに来たんだっ!!」
「いや、お前寝てただろ……」
いくら強がっても、先程まで涎を垂らしながら寝ていた姿を見ていたため、いまいち迫力を感じない。
「というかお前、最初に会った時と雰囲気違うくないか?」
魔理沙が昨日会った時、彼女はもっと周囲に対して怒りや憎しみ、激しい敵意を持った視線を向けていた。だが、今のレヴィからは、そのような感情は感じられない。どちらかと言うと、幼い子供や妖精のような無邪気さを感じさせる。
「あー、あの時は寝惚けてたから」
そんなアンバランスさに疑問を浮かべる魔理沙に、レヴィが説明をする。
「寝惚けてた?」
「うん。何というか、あの時は目覚めたばかりで、自分が何なのかもよく覚えてなかったし。なんとなく、自分の中にあったモヤモヤとかに任せて動いてたーって感じかな?」
その言葉に魔理沙は冷や汗を掻く。昨日戦った時点で、レヴィがかなりの実力を持っていることを感じている。それが寝惚けていた時の物と言っているのだ。今の状態でどれほどの実力があるのか分からない。
「まあ、あんたが寝惚けてたとか、そんなことはどうでもいいわ」
話を遮るように霊夢が一歩前に出る。
「あんたの仲間はどこに行ったの?」
この場所に来てからずっと、レヴィの仲間である他の二人の姿が見当たらない。レヴィを囮にして逃げるにしても、援護に来るにしても、その動きがあるはずなのに、それすらも見えなかった。
そんな霊夢に対し、レヴィは自慢げに言う。
「残念だけど、王様達はここには居ないよ。もう既に『砕け得ぬ闇』の」回収に向かっていったもんね!」
「何ですって!?」
自分達が後手に回っているという状況に悔しさを感じる。だが、ただ黙っているわけには行かない。
「それならあんたを倒して、あいつらの居場所を吐いてもらうわ」
「ふーん、それって弾幕勝負するってことだよね?」
レヴィが魔力を込めると、その手に三枚の紙片が生まれる。それは弾幕勝負を行うという意思表示。
「ここじゃあ、これを使って勝負をしなくちゃいけないんでしょ?」
「へえ、最低限のルールは覚えて来たようね」
昨日のようにルールを無視した戦闘では無く、弾幕勝負という方法を選択したということは、少なくともこの幻想郷の理を守るという意思はあるのだろう。それならこちらも応じるしかない。
「良いわ。私が相手を……」
さっさと片を付けるべく霊夢がスペルカードを取り出そうとするが、それを魔理沙が制する。
「まあ待てよ。こいつは私の相手だ」
魔理沙は昨日、レヴィと戦闘している。スペルカードは不明だが、霊夢と比べれば相手の情報を持っているという点で有利だろう。それにレヴィから宣戦布告を受けている身として、ここで逃げるという選択肢は浮かばなかった。
「分かったわ」
霊夢はそう言うと、魔理沙に背を向ける。弾幕勝負を見ないのかと妖夢が口を開くが、霊夢はその言葉に頷く。
「ここで無駄に時間を使うよりも、別行動して残りの連中を探した方が有意義よ」
「おいおい、随分な言い草だな」
霊夢の言葉に魔理沙は苦笑いする。霊夢の言葉は確かに本心だ。ここでただ観戦して時間を浪費するより、まだ遠くまで離れていないだろう他の二人を探した方が効率的だ。だがレヴィは現状では唯一の手掛かりである。もし魔理沙が破れれば、その情報が失われるにもかかわらず、この場から離れる選択をした。それは暗に、魔理沙が負けると思っていないという信頼の表れでもあった。
「……分かったわ。それなら私はここに居るから、あなた達は探してきて」
咲夜だけが残ることを宣言し、妖夢は霊夢の後を追う。背筋を伸ばした状態で宙を見上げる咲夜に、魔理沙は箒に乗りながら声を掛けた。
「おいおい、どうしたんだ。お前も行って来れば良かったじゃないか?」
「別にあなたが負けるとは思ってないけど、もし情報を持ち逃げされたら困るからよ」
「信用がねえなあ……」
冗談めかして肩を竦める魔理沙に微笑する咲夜。だが一向に勝負が始まらないことに、レヴィが痺れを切らした。
「おい、さっさと始めようよ! ボクだって暇じゃないんだぞーっ!」
「悪い悪い。それじゃあ、行くぜっ!!」
昨日出会ったばかりだというのに、何故か因縁の相手のように感じる。そんな不思議な感覚を胸に秘めながら、魔理沙は箒で空を駆ける。
「それじゃあ、いきなり行くぞーっ! 刃符『光翼斬』!!」
雷を纏った鎌を構えたレヴィに、魔理沙はミニ八卦炉を構え打ち合いを始めるのだった。
やっとまともな弾幕勝負が始まった……。