「おらあっ!!」
「でやあっ!!」
廃村で激突する魔理沙とレヴィ。星型の魔力弾が空を流れ、青い雷撃が風を切り裂く。どちらも圧巻のパワーを持つが、形勢が不利だったのは魔理沙だった。魔理沙は高いパワーを存分に押し出した弾幕を放つが、レヴィの弾幕も同様にパワー型。しかも魔理沙よりわずかに上回っている。それに加え、残像を残すほどのスピードで飛び回るため狙いが付けにくい。
(これならどうだっ?)
昨日のように弾幕を周囲へと張り巡らせることで、レヴィのスピードを封殺しようとする。だが、同じ戦法が通じるほど、レヴィは愚鈍では無い。
「そんなもの、効くかーっ!!」
レヴィは青い魔力弾を雨のように放ち、魔理沙の魔力弾を撃ち落としていく。魔理沙ですら目を疑うゴリ押しの戦術だが、桁外れのパワーとスピードを持つレヴィだからこそ成立している。次々と消える自身の弾幕を目に、魔理沙は焦りを感じ急いでその場から離脱する。その数秒後には浮かんでいた弾幕が全て撃ち落とされていった。もし判断が遅れていれば、自分が蜂の巣になっていただろう。だが、レヴィの攻撃は続いている。魔理沙の後を追う様に、魔力弾が雨あられのように降り注ぐ。その激しさに、魔理沙は攻撃することは出来ない。それでも、魔理沙は機を伺っていた。レヴィのパワーとスピードは確かに並外れている。しかし、隙が無いわけでは無い。
それは一瞬だった。レヴィの集中が途切れ、弾幕に穴が生まれたのだ。その瞬間を魔理沙は逃さない。
「いけっ!!」
「あだぁっ!?」
全力を込めて放たれた魔力弾は、弾幕の雨をすり抜け目標であるレヴィに見事命中する。これで魔理沙が一歩有利となる。
「くっそー、よくもやったな!!」
被弾したレヴィは悔しさに表情を歪ませると、武器である鎌を斧のような形状の杖へと変形させる。そして新たなスペルカードを取り出した。
「今度はこれだっ!!」
その言葉と共にレヴィの足元に青い魔法陣が描かれる。この光景を見て魔理沙はチャンスと捉える。相手が何をしようと考えているのかは不明だが、持ち味の足が止まっているのだ。さらに追撃を放とうと、魔力弾を準備する。だが視点がレヴィへと向いていた魔理沙は、上空に怪しい雲が浮かんでいることに気付かなかった。
「襲符!」
頭上の黒雲から雷が降り注ぐ。だがそれは魔理沙に直撃せず、まるで囲むかのように配置されていた。これは絶対的な一撃を叩きこむための布石。それを魔理沙が理解するのに、そう時間は掛からなかった。
「『天破・雷神槌』!!」
頭上より放たれるは青い巨大な雷光。魔理沙は鳥肌を感じ、今すぐ回避しようとするが、その選択をするのが遅すぎた。周囲の雷が魔理沙の逃げ道を塞ぐかのように立ちはだかる。そして数舜の後、魔理沙の姿は雷の柱に叩き潰されていった。
場所は変わり玄武の沢。ここに張られた結界の中では、霊夢とシュテルが互いを撃ち落とさんと弾幕が飛び交っていた。
何度か撃ち合って、火力ではシュテルが勝ると判断し、霊夢はあちらこちらに飛び回りながら撹乱し、シュテルの防御を崩さんとするが、シュテルは自身の周囲に強固なバリアを張り霊夢の攻撃を防ぐ。スピードとパワーが並外れたレヴィとは対照的に、シュテルは積極的に動くことはせず、代わりに大量の弾幕を的確に操作し霊夢を追いつめる。少しでもその動きが止まれば、容赦なく熱線が放たれ、霊夢の体を焼くだろう。
それに加え、周囲で暴れまわっている闇の欠片も厄介であった。突然、予想外の方向から放たれる攻撃にまで気を回さなくてはならない。妖夢が少しずつ倒しているものの、未だに過半数が健在である。無論、シュテルにもその攻撃は向かっているが、木端妖怪を模した欠片の攻撃程度でシュテルのバリアは砕けない。
だがシュテルもまた、攻めあぐねていた。まるで宙を自在に動くかのような霊夢の挙動。何物にも縛られないかのような動きによって、放った弾幕はいずれも回避されている。高スピードのものや、追尾性のものなどあらゆる魔力弾を試しているが、それでも霊夢はギリギリのところで躱して見せている。これが博麗の巫女の実力かとシュテルは思わず笑みを深める。
「何がおかしいのよ?」
そんなシュテルに霊夢は訝し気な表情を浮かべる。
「いえ、純粋に嬉しいのです。これほどの難敵を相手に出来るという事実に、心が高ぶっています」
自分が全力を出して戦える相手と出会うことが出来た。自分の技を思う存分振るうことが出来る。それが何よりもシュテルは嬉しかった。だが、その感覚を霊夢は理解できなかったようで、眉間に皺が出来る。
「あんた、意味分かんないわよ……」
「それは残念です」
この喜びを分かち合えないことに心底ガッカリしたように眉を下げるが、それでもなおシュテルから発せられる好戦的な雰囲気は消えない。一枚のスペルカードを取り出し、新たな技を宣言するシュテルに、霊夢は警戒心を強くする。
再度シュテルは濃密な魔力弾を霊夢に向かって浴びせる。どれも複雑な軌道を描きながら霊夢へと迫るが、霊夢はそれの全てを躱す。だが霊夢は違和感を感じた。先程までの弾幕はもっと霊夢を積極的に狙っていたはず。だが今の弾幕の狙いは少し甘い。どちらかと言うと、わざと逃げ道を残したような……。
「捕まえました」
その理由はすぐに分かった。ガチリと霊夢の動きが止まる。いつの間にか手足に光の枷のようなものが付いているのである。これこそがシュテルの甘い弾幕の意図。わざと逃げ道を作り、そこに拘束魔法を準備していたのだ。動きが止まった霊夢はまさにまな板の上の鯉。完全な的と化した霊夢に向かって、シュテルが杖を指す。
「殲符『ディザスターヒート』っ!!」
三連発の灼熱の光。それが身動きの取れない霊夢目掛けて無慈悲に放たれる。一瞬にして霊夢は飲み込まれた。
「あらあら」
スキマから霊夢と魔理沙の戦いを見物していた紫は、マテリアル達のスペルによって倒された二人を見て、少し驚いた表情を浮かべる。思いのほか、あのマテリアル達の実力は高いようだ。すぐにスペルカードルールに適応し、霊夢達を圧倒している。
主の隣に立ちながら見ていた藍も、この状況は予想外だったようで目を見開いていた。
「まさか、霊夢がこれほど追い詰められるとは……」
これまでの異変において、霊夢を追い詰めたのは、レミリアや西行寺幽々子、伊吹萃香などいずれも幻想郷で名の通った大物ばかり。それ以外の妖怪達は、あくまでスペルカードルールの範囲内の戦闘と言えど霊夢の敵では無かった。その霊夢がまさかの被弾。マテリアルの力を甘く見ていたと藍は感じる。
だが焦りを感じる式神に対し、紫はいたって平静である。
「安心しなさい。霊夢達はまだ負けたわけじゃないのよ」
単純に紫は霊夢達のことを全く心配していなかった。長い間見守り続けた霊夢の才能も、そんな霊夢に何度も立ち向かった魔理沙の努力も、彼女は知っている。何度も彼女達は苦境に陥ってきたが、それで挫けることは無かった。
『おい、その程度かよ?』
『ふん、これくらいしてもらわないとね』
服の一部を焦がしながら、立ち上がった二人の人間。その姿を見て紫は微笑む。
「あの子たちの実力はこの程度じゃないわよ?」
この様子なら霊夢達は大丈夫だろう。紫は二人の戦いを写すスキマから視線を外し、新たなスキマを作った。繋がったのは、霧の湖。その上空には、一人の少女の姿がある。
「さて、何をする気なのかしら?」
ちょっとした興味。シュテルが語った彼女らの目的である『砕け得ぬ闇』。それは一体どのような物か、いつも通り見物させてもらおう。そんな軽い気持ちだった。
「っ!?」
そんな紫の背筋に寒気が走る。何かが有ったわけでは無い。いうなれば虫の知らせのようなものだろうか。それが何を意味するのか、紫はすぐに思い知るのだった。
マテリアル達のスペルカードは、いずれもゲームで実際に使われた技を基にしています。