「何で当たんないんだよーっ!?」
魔理沙に一度被弾させたものの、それからずっとレヴィの攻撃が魔理沙に当たらなくなっていた。それは魔理沙がレヴィの攻撃に慣れたという点が大きいだろう。レヴィのスピードとパワーはどちらも強力である。幻想郷でもトップクラスと言って良いだろう。反面、本人の性質を反映しているのか、その攻撃は単純かつパターンが限られている。即ち、レヴィの動きを読むことさえできれば、回避はそれほど難しくはない。無論、それは幻想郷最速と言われる鴉天狗にも勝るとも劣らないスピードを前にしてではあるが。
だが魔理沙はレヴィの動きを読み切っていた。それは幾度となく強敵と立ち向かい、多くの苦境と対峙した経験が彼女を支えていたからだ。視覚だけでなく、経験により磨かれた第六感によって、レヴィの動きをほぼ完全に知覚することが出来ていた。
「あー、もうっ!!」
そしてレヴィの最大の弱点が、集中力の途切れやすさである。レヴィはマテリアルの中でも高いパワーとスピードを有しており、それを活かした短期決戦を得意とする。反面、単純作業には向いておらず、持久戦に持ち込まれると、苛立ちから集中力が途切れ、攻撃が雑になっていく。その瞬間訪れる隙を魔理沙は逃さなかった。
「行けっ!!」
「げふっ!?」
レヴィの顔面に魔理沙が放った魔力弾が直撃する。あまりの痛みに鼻を抑えながら涙目となる。しかし、この一撃が彼女の本気を呼び覚ます。
「ぐぬぬっ、もう怒ったぞ!!」
そして構えるのは、レヴィの最後の切り札であるラストワード。杖を大剣に変形させて天高く掲げると、避雷針のごとくレヴィの下へ雷が落ちる。
そして魔理沙もまた、レヴィに対抗すべく、ミニ八卦炉を取り出す。無論放つのは、彼女の十八番である技の強化型。
「これで終わらせてやるっ!!」
「それはこっちの台詞だぜっ!!」
一方は青い電光を迸らせながら大剣を振りかぶり、一方は光を溜め込みながら敵に向かって狙いを定める。どちらも一撃必殺。少しでも威力が劣った方が負ける力のぶつかり合い。どこまでもシンプルな決着。だからこそ彼女達の勝負の幕引きに相応しかった。
「必殺『雷神滅殺極光斬』!!」
「魔砲『ファイナルスパーク』!!」
斬撃と砲撃。強大な技がぶつかり合い、廃村は光に包まれる。傍らで見ていた咲夜も、あまりの衝撃に目を開けることすら出来ない。朽ちていた家々は風圧で壁も屋根も剥がれ、吹き飛んでいく。それほどの威力の技が拮抗する。片や仲間のため、片や自分自身のため。どちらにも負けられない意地が有った。
「だあああああーっ!!」
だが徐々に形勢が傾いていく。レヴィが振り下ろした雷の大剣に罅が入り始めたのだ。その理由は単純明快。これまでの戦闘でレヴィは常に攻勢だった。ひたすら攻撃を行い、魔理沙を追い詰め続けた。それ故に、魔力の消費量と言う点では、レヴィの方が圧倒的に多かった。元々の魔力量で勝っていても、ペース配分を無視した攻撃だったために、最後の技のために残された魔力が少なく、逆に魔理沙はこの瞬間まで魔力を温存し続けていたため、威力が僅かに魔理沙の砲撃が上回る。
「そんな、バカなぁ~っ!?」
自らの力に自信を持っていたが故に、この事実が受け止めきれずレヴィは目を見開く。そして断末魔を残しながら、魔理沙が放った光の奔流の中へと消えていった。
「くっ、厄介ですね」
霊夢とシュテルの戦い。霊夢は相も変わらず、シュテルの周囲を飛行しながら弾幕を躱し続ける。だがシュテルの顔は苦境に歪んでいた。先程と変わらないようにも思える状況なのに、どうしてその違いが生まれたのか。それは偏に、周囲に浮かぶ闇の欠片が関係している。
闇の欠片は別にシュテルに操られている訳でなく、好き勝手に付近の相手へと攻撃を加えている。無論、シュテルに対しても攻撃を行っているが、彼女のバリアは硬く、結界内に居る闇の欠片の攻撃ではほとんど傷はつかない。これでは、闇の欠片の攻撃をシュテルに集中させるように誘導しても、大したダメージには繋がらないだろう。
そこで霊夢は、別の方法で利用することを考えた。わざと闇の欠片の付近を飛行することで自らに注意を向けさせ、シュテルが放った弾幕と、闇の欠片の弾幕がぶつかるように位置取りをしたのだ。これにより、シュテルが罠を仕掛けたルートでは無く、弾幕同士がぶつかることで新たに生まれたルートを用いることで、回避がしやすくなっていた。
それに加えてもう一つ、大きな要因がある。
「でやあっ!!」
背後からの斬撃を、誘導弾で防ぐシュテル。斬りかかって来たのは、闇の欠片の排除をしていた妖夢だ。当初は多数の欠片に苦戦していたものの、霊夢が欠片の注意を引いてくれたため、その隙に不意打ちで容易に倒すことが出来るようになり、今ではシュテルへ攻撃を加える余裕すらある。
持久戦になれば劣勢になることをシュテルは予測していた。そのために霊夢を早い段階で倒してしまいたかったが、霊夢の回避能力を甘く見ていた。霊夢の能力は『主に空を飛ぶ程度の能力』。単純な名前通りの空を飛ぶだけの力なら、幻想郷にはそれを有する者は沢山いる。だが彼女のみこの能力を関しているのは、その本質による部分が多い。この能力の本質は、霊夢が自由であることにある。物理的な重力や精神的な重圧など、様々な束縛から逃れるという概念とも近い。意識して発動するような能力ではないため、先程のように動きを封じられることも有る。だがこの能力を完全に発揮した霊夢は、自然体のままあらゆる攻撃をすり抜けていくかのように躱す。そんな彼女の姿は、まさに美しいの一言に尽きる。シュテルもまた、思わず霊夢の動きに見とれていた。
「はあっ!!」
だが、その隙を狙って再び妖夢が斬りかかる。さすがに不味いと判断したシュテルは、バリアを三重に張ることで防いだ。だが妖夢もまた、霊夢と肩を並べることが出来る人物の一人。
「この刀に切れない物は、ほとんど無い!!」
長刀楼観剣。一振りで幽霊十匹を殺傷する力を持つ刀である。それを振るう妖夢の斬撃は、確かにシュテルのバリアを両断し、僅かであるがその胸に攻撃を当てることに成功する。
「さすがと言っておきましょう。ですがっ!!」
シュテルは後ろに下がりながら弾幕を放つことで妖夢と距離を取る。だがこれにより、一瞬とはいえ霊夢から視線を外した。ほんの僅か。一秒にも満たない時間。されど、それが大きな隙となる。
「生憎だけど、もうそろそろあんたの相手も終わらせるわよ」
いつの間にかシュテルの周囲に多数の符が張り巡らされていた。それは彼女を逃さない檻であり、彼女を確実に倒すためのフィールドでもある。
「それならこちらもっ!!」
シュテルもまた霊夢が切り札を使うと理解し、足元に魔法陣を描いて杖を構える。周囲の魔力を吸収しながら、放つは全てを焼き尽くす灼熱の砲撃。
「霊符『夢想封印』!!」
「明星『ルシフェリオン・ブレイカー』!!」
霊夢が放った色とりどりの霊力弾と、シュテルが放った真紅のレーザーがぶつかり合う。余波によって僅かに残っていた闇の欠片達が消えていくほどの衝撃。だが優勢だったのは、明らかに霊夢だった。シュテルが放った砲撃は、収束魔法と呼ばれるもの。周囲の魔力を取り込み放つという性質故にチャージする時間が掛かるのだが、今回の場合、霊夢のスペルカードに合わせて放ったため、どうしてもチャージ時間が短かった。そのため、本来の威力を発揮できていなかったのだ。
徐々に押し込まれていく自身の魔法を見て、シュテルは敗北を悟る。
「見事です、博麗霊夢」
称賛の言葉と共に霊力弾が直撃し、シュテルは地面へと墜落していった。