「はあ? 妖夢はずっとここに居た?」
「ええ。今日はまだ、一度も外出してないわ」
白玉楼の一室。そこで霊夢は幽々子から驚愕の事実を聞く。
「嘘を言っている……、感じじゃないわね」
「信じてくれてありがとう」
「幽々子様、それをもっと早く言ってくれれば……」
部屋の隅で疲れた表情を浮かべる妖夢。
弾幕勝負は霊夢の勝利で終わったのだが、いざ妖夢に詰め寄ろうとした時、幽々子が現れ霊夢を屋敷の中へと案内した。どうやらずっと二人の会話を聞いていたようで、すんなりと霊夢が聞きたかった質問を答えてくれたのだ。
「それじゃあ、私が見た妖夢は……」
「偽物ってところかしらね」
「そんなっ!」
幽々子の言葉に妖夢は憤りの表情を浮かべる。
「このような他人に罪を着せる卑怯な行為、絶対に許されませんっ!!」
「まあ、少し落ち着きなさい?」
興奮する妖夢に幽々子は饅頭を食べながら優しく戒める。だが、それでも妖夢の怒りは収まらない。
「ですが、その何者かのせいで誤解を受けたのですよ! 魔理沙も襲撃に来ましたし、今後も似たような者がやって来るかもしれません!!」
「ん?」
霊夢は妖夢の言葉から一つ気になった点が有り、眉を顰める。
「今、魔理沙がここに来たと言ったわよね?」
「ええ。今朝、いきなり現れたかと思ったら、突然弾幕勝負を仕掛けて来たんですが、それが何か?」
妖夢はそれの何がおかしいのかと霊夢を訝し気に見つめる。
「確か魔理沙は今日、紅魔館に行くと言ってたはずなんだけど……」
「え?」
妖夢はその言葉が信じられないと目を見開く。
それは今朝のこと。昨夜の出来事が人里では妖怪の仕業になっていると、わざわざ霊夢に教えに来た少女が居た。それが『霧雨魔理沙』。普通の魔法使いを自称する彼女は日夜、魔女を目指して様々な努力をしている。
そんな彼女が今回目を付けたのが、幻想郷に落ちて来た光だった。当人曰く、魔法に似た気配を感じたとのことで、朝まで周囲を見て回ったが、すぐに消えてしまったのかめぼしい物を見つけることは出来なかった。そこで何か知っていることは無いかと、同じ魔法の森に住んでいるアリスの家に向かったが留守。それならばと別の魔女であるパチュリーから話を聞くべく、紅魔館へと向かう予定なのだ、と言っていたことを霊夢は覚えていた。
「あんたが魔理沙と戦ったのが朝って言ってたけど、私が魔理沙と会ったのは今から数刻前。冥界に来て、すぐにうちに来るのは、さすがに無理じゃない?」
「え、でも確かに魔理沙さんと戦ったんですよ?」
妖夢も自分が体験したことを主張する。お互いの話している内容が真実だとするなら矛盾が起きる。そこで霊夢も一つの可能性に辿り着く。
「もしかして、その魔理沙も偽物なんじゃないの?」
「まさかっ!? でもあの魔理沙さんの弾幕は、間違いなく本物でしたよ?」
妖夢は何度も魔理沙と勝負をしたことがある。その感覚が霊夢の辿り着いた答えを否定する。だが霊夢は真相を確かめるべく、妖夢に問い詰める。
「ねえ、あんた何か違和感とか感じなかったの?」
「違和感……、確かにちょっと」
妖夢は今朝の勝負を思い返す。魔理沙は常日頃から努力を欠かさない。それは弾幕勝負でもだ。負ければ敗因を整理し、その弱点を解消する。そして新たなスペルカードの制作にも注力している。勝負の度に新しいスペルを実験と称して使用し、こちらを驚かせる。
だが今日の魔理沙にはそれは無かった。どこか見たことがあるようなパターンで動き、スペルカードも見知ったものばかり。そして話す内容。
『お前が幻想郷の春を奪ったのか?』
それは以前、幽々子が起こした異変で、魔理沙と戦った時に投げかけられた言葉。何故、今になってそんなことを言うのか理解できなかったが、もし偽物だとするなら納得がいく。
「ねえ、その偽魔理沙はどこに行ったの?」
霊夢が妖夢に顔を近づけると、妖夢は目線を逸らしながら口を開いた。
「分からない」
「え?」
「分からないの。弾幕勝負で倒したら、突然光の霧みたいになって消えたから……。最初は魔理沙の新しい魔法かと思ったけど……」
妖夢の言葉に霊夢は溜息を吐いて腰を下ろす。偽魔理沙が消えたというのが、文字通り消滅したのか、あるいはどこかへ転移したのか、それすらも分からない。
「もしかしたら、妖夢達だけじゃないかもしれないわね」
ぽつりと呟いた幽々子に、霊夢と妖夢は視線を向けた。口元を扇子で隠した彼女の表情からは感情が読み取れない。
「考えても見なさい? 今、私達が知っている偽物は二人だけだけど、もしかしたら他の偽物も沢山いるかもしれないのよ?」
その言葉に霊夢はハッとする。あの偽物達は揃いも揃って好戦的なようだった。もしそんなものが幻想郷中に溢れたとするなら……。
霊夢は急いで立ち上がり、挨拶も言わずに白玉楼から飛び出す。
「妖夢、あなたも行ってきなさい。もしかしたら厄介なことになるかもしれないし」
「わ、分かりましたっ!!」
後を追うように妖夢も外へと走り出す。そして一人だけとなった屋敷の中で幽々子は静かに茶を啜る。
「私も動かないといけないかもしれないわね……」
その言葉は屋敷を包み込む静寂の中へと消えていった。
「一体、何なのよっ!?」
迷いの竹林。常に深い霧が漂うこの竹林では、方向感覚が狂い、一度でも踏み入れたら二度と出ることは出来ないとも言われる場所である。だがこの竹林に屋敷を構え、生活を行う一派が有った。
その一派の一人である月の兎『鈴仙・優曇華院・イナバ』は今、ある人物と戦闘の真っ最中であった。
「おらあっ!!」
その人物は、見た目は真っ赤なドレスを纏った子供。しかし腕には鉄槌を携え、その一撃は岩ですら簡単に砕くほどの膂力を持っている。
「殺しはしねえ。ただお前から魔力を頂くだけだっ!!」
鈴仙は日課である薬の訪問販売をするべく、人里へ降りようとした際に、突然現れたこの少女に襲撃された。突然の襲撃に加え、スペルカードも使わずに攻撃を仕掛けてくる無法者相手に鈴仙も対抗するが、少女の実力も高く、中々痛打を与えることが出来ない。
「アイゼンっ!!」
〈
少女は生成した鉄球を、槌で弾き飛ばす。ただの鉄球では無いようで、まるで鈴仙の後を追うように、自在に軌道を変え迫る。
「くっ!」
鈴仙もその身のこなしで躱すが、放たれた鉄球は周囲の竹を砕きながら、確実に鈴仙を追いつめる。
「隙だらけなんだよっ!!」
だが鉄球に集中していたがために、つい目の前の少女から視線を外してしまっていた。気が付くと、冷戦の背後には鉄槌が鈴仙の後頭部へと迫ろうとする。
「あっ!?」
反射的に左腕でガードするが、勢いよく振り抜かれた鉄槌を受けたがために、鈍い音を立てて鈴仙は吹き飛ばされる。
何とか立ち上がるだけの余力はあるものの、左腕は砕け捻じ曲がっている。
「ったく。大人しくしてればそんな怪我を負わずに済んだのによ……」
どこか呆れたような、あるいはやるせなさを感じさせる溜息を吐きながら少女は鈴仙へと近づく。鈴仙はまだ抵抗しようと左腕を抑えながら立ち上がるが、もはやまともな勝負にはならないだろう。
そして少女が鈴仙の胸へと手を伸ばそうとした、その時だった。
「何をやってんだ、お前?」
鈴仙と少女の間を遮るように放たれる一筋の火炎。鈴仙にはその炎に見覚えがあった。すぐさまその炎が放たれた方向へと視線を向ける。また少女も、自分の邪魔をした存在を見るべく、鈴仙に続いて顔を向けた。
「パトロールしていたら、まさかこんな変な状況に遭うなんてな」
そこに居たのは、白い長髪に赤いもんぺが特徴的な女性。その手からは彼女の敵意を表すかのように炎が噴き出した。
リリカルなのは本編のキャラが本話から登場。
なお、一部を除いて、リリカルなのはのキャラは名前が出ません。