「だーかーら、ちょっと見せてくれれば良いんだって!」
「だから、駄目だと言っているでしょう!」
お互いの主張をぶつけ合い、水掛け論となる魔理沙とアリス。普段なら許可も取らずに盗んでいくが、それをさせまいとアリスとパチュリーが目を光らせている。だが、この程度で諦める魔理沙ではない。
アリス達としても、早く解読を進めたいところなのだが、魔理沙が居るとそうもいかない。隙を見せたらすぐに盗られるに決まっている。それ故に落としどころも見つけられない。
「ぐぬぬっ!!」
結果として遅々と進まない言い争いが続く。だがそんな場に、また新たな人物が加わる。
「あら、これはどういうことかしら?」
「っ!?」
その声がした方向に三人が一斉に視線を向けると、そこに居たのは薄いピンク色のドレスとナイトキャップを身に纏った青紫色の髪を持つ少女。しかしその背中からは一対の羽が生え、それが人間では無いことを表している。
「何だよ、レミリアか」
吸血鬼『レミリア・スカーレット』。この紅魔館の主であり、幻想郷有数の実力者である。魔理沙もかつて異変を通して彼女と出会い、現在は良い関係を築いている。それ故にその姿を見て、警戒を解いたが、アリスとパチュリーの表情は固い。
「おい、どうしたんだ二人とも?」
魔理沙が声を掛けると、レミリアとは長い付き合いであるパチュリーが重々しく口を開く。
「魔理沙、あれはレミィじゃないわ」
「え?」
パチュリーの言葉に思わず目を見開く。魔理沙の目には、どこをどう見ても目の前の相手がレミリアにしか見えない。だが、長い年月を研鑽に費やした二人の魔法使いには、その正体が見えた。
「全く、私の屋敷にネズミが入り込んだと思ったら、私の名前を知っていたり、今度は偽物扱いしたり……本当に腹立たしいわね」
どこか愉快そうに笑みを浮かべるレミリアだが、その目には氷のような冷たさが感じ取れる。
「なあ、あいつが本物のレミリアじゃないってどういうことだよ」
「説明は後でするから、構えなさい!」
「全く、私を無視しないで欲しいわね」
混乱する魔理沙にアリスが怒鳴る。それと同時にレミリアが動き出した。
まず素早く魔理沙の下へと跳躍すると、その鋭い爪で首を掻き切ろうとする。
「魔理沙、しゃがみなさいっ!」
だが魔理沙がパチュリーの呼びかけに反射的に動いたため、その一撃は躱される。そこへアリスが槍を持った人形で仕掛ける。
「その程度の攻撃が私に通じるとでも?」
レミリアは眷属たるコウモリを呼び出し対抗する。その隙にパチュリーが、死角から吸血鬼の弱点である水を呼び出し、押し流そうとする。だが、
「その運命は既に見えてるわ」
あらかじめその攻撃を予見していたかのように悠々と空中へと逃れる。
「何だよあいつ、スペルカードルールを無視するとか、どういうつもりなんだ!?」
「だから言ったでしょ、あれはレミィじゃないって!」
未だに状況が呑み込めない魔理沙に仕方なくパチュリーが応戦しながら説明を始める。
「あれはレミィじゃなくて、それを模した魔力の塊よ。でもまさか、能力までコピーしてるなんて……」
レミリアが持つ『運命を操る程度の能力』。詳細は不明だが、彼女は未来に起こることを予見したり、誰かの辿る運命に変化を与えたりすることが可能らしい。無論、完全無欠というわけでも無いそうだが、詳細が不明な以上、明確な弱点も分からない。
「でも、どうするんだよこれ!?」
その能力に加えて、本物とほぼ同等の身体能力。中々攻撃が当たらず、目に見えるダメージも無い。広範囲へ影響を与える魔法で攻撃すれば避け切れないかもしれないが、それでは仲間にも攻撃が当たってしまうかもしれない。
「そうだ、マスタースパークで天井をぶち抜いて……」
魔理沙は吸血鬼の最大の弱点である日光を浴びせようと、天井を破壊することを思いつくが、それをパチュリーが止める。
「無駄よ。この間、結界を張り直したから、あなたの攻撃でもほとんど傷つかないわ」
「何でそんなことしてるんだよ?」
「あなたがいつも壁とか壊していくからでしょうがっ!!」
パチュリーと魔理沙が言い争いをしている中、アリスは十数体の人形を自在に操り、偽レミリアの行動を封じようとする。だが、偽レミリアのスピードに追い付くことが出来ない。時に霧に姿を変え、時に影へと入り込み、悠々と翻弄する。
「つ・か・ま・え・た・あ」
「っ!?」
いつの間にか偽レミリアがアリスの眼前にまで急接近し、手を首に回す。そして口を開くその光景がアリスにはとてもゆっくりに見えた。
「喰らいやがれっ!」
「離れなさいっ!」
それを止めようと、魔理沙とパチュリーが魔力弾を放つが、偽レミリアが呼び出したコウモリが壁となって遮る。
そしてその牙がアリスへと掛かろうとする。
「ぐっ、がああっ!?」
だが悲鳴を上げたのはアリスではなく偽レミリアだった。突然自身を襲った痛みに苦しみ、アリスを突き放す。
何が起こったのか、その場に居た者たちは皆状況が呑み込めない。だが偽レミリアの背中に突き刺さった銀のナイフを見て、誰の仕業かを理解した。
「お嬢様の姿でそれ以上の蛮行は止めなさい」
「ちっ、誰だ貴様はっ!」
痛みにのたうつ偽レミリアに対し、純粋な殺意を向ける一人の少女。真のレミリアの忠臣であるメイドが名乗りを上げる。
「十六夜咲夜。ただのメイドよ」
そう言い放つと咲夜は偽レミリアを倒すべく、ナイフを構えた。
「ううん、ここらへんだと思ったんだけどな……」
霧の湖へと流れる川を遡った奥地にある玄武の沢。妖怪の山の一角であるここには、多くの河童が済む。そんな河童の一人であるエンジニア『河城にとり』は、自らが開発したレーダーを首に掛け彷徨っていた。
彼女の目的もまた、昨日落ちて来た光の回収である。あの光の一つ一つに多大な情報が込められていることを知った彼女は、新たな道具を開発するための材料とすべく、それを狙っていた。
しかし、朝から探し回っているのに全く見つからない。夏の暑さも相まって、体の水分が抜ける苦痛を感じるものの、探し物の影すら無く、諦めたい気持ちが徐々に心を蝕む。
「うわっ!?」
だが突然、彼女が持っていたレーダーがけたたましい音を鳴らし始める。それは近くに、あの光と同じものがあるということ。それを理解し、先程まで暗かった顔が急に笑顔に変わる。
「さーて、どこだ?」
レーダーの画面を見ると、北西の方向から反応がある。急いでその反応がある方向へ向かおうとしたが、すぐに止まる。何故ならそれは、にとりから近づくまでもなく、向こうから接近しているのだから。それが近づくにつれ、レーダーの反応の強くなる。
「何だこれは……?」
これほど早く動けるものなんて、それこそ数えるくらいしかないはずなのだが。にとりは緊張で唾を飲みこむ。
そしてにとりの耳にも聞こえ始める、何かが空気を切る音。その正体は、数秒とまたずその姿を露にした。
「何だ……?」
「女の子……?」
にとりとそれは互いの姿を視認し、動きが止まる。現れたのは、黒いボディスーツとマントを身に纏い、手には漆黒の杖を持った金髪の少女。にとりのレーダーの反応は間違いなく彼女を示していた。
にとりは少女から話を聞こうと口を開こうとするが、その前に少女の方からにとりへ話しかけて来た。
「あなた、ジュエルシードを持ってる?」
どこか虚ろな表情で杖を構える少女。だがにとりには『ジュエルシード』というものに聞き覚えが無い。
「なあ、あんた一体なんなのさ?」
「母さんのために、それが必要なの……だからっ」
「いや、ちょっと待てって!」
制止も聞かず、少女は杖を変形させた鎌を振るう。にとりも状況を飲み込めていないが、やられっぱなしになるのではなく、妖気を弾に変えて牽制する。
「ジュエルシードってあの光の事か。何でそんなものを集めてるんだよ?」
「……答える必要は無いよ」
「少しは話し合いとか考えなっ!」
接近されまいとにとりは妖力弾をばらまくが、少女のスピードは速く中々当たらない。徐々にその距離を詰めてくる。もしあの鎌に当たればただでは済まないだろう。
「ここはっ!」
にとりは隙を見て、川の中へと飛び込む。河童である彼女にとって水中はホームグラウンドそのもの。ここならあの少女も易々と攻撃を仕掛けることは出来ないだろう。
だがその考えは甘かったと言わざるを得ない。
「はあっ!」
少女は宙に浮かび上がると、金色の球体を川の中へと打ち込む。攻撃のためではない。逃げたにとりの場所を確実に見つけるための索敵魔法だ。
「くっ、何だこれ?」
だが、にとりはそれを知らず、川の中へと現れた球体を攻撃と考え、その場から離脱しようと川上へと泳ぐ。球体もその後を同じ速度で追う。
その間に少女は足元に巨大な金色の魔法陣を描く。すると、少女の頭上に積乱雲が生まれ、閃光が弾ける。狙うは水中のにとりだ。
「サンダー……」
「がっ!?」
魔法陣から放たれる雷光が水中のにとり目掛けて放たれる。ロックオンされていたことを知らなかったにとりは、急に放たれた雷撃によって動きを封じられる。だが本命はここからだ。
「レイジ―っ!!」
そして少女の掛け声とともに放たれる一筋の落雷。それは周囲に影響を与えることなく、にとりだけをピンポイントに撃ち抜く。
「ぐあああっ!?」
にとりの体を駆け巡る電流。いくら妖怪と言えど、自然界の力である雷を受けただで済むものはほとんどいない。まともに受けたにとりは意識を失い、水上へと浮かび上がる。
そんな死体のようにも見えるにとりへ、高度を下げて近づく少女。
「これで母さんも……」
どこかほっとしたような表情。
だがにとりが首に掛けていたレーダーは有る反応を捉えていた。
「おっと、良い物見っけ」
少女の背後から聞こえた何者かの声。それはどこか嬉しそうな笑みを浮かべ、少女へと襲い掛かった。