紅魔館の地下図書館。そこでは銀髪のメイドと獰猛な吸血鬼の紛い物が睨み合っていた。
「咲夜、何でお前が!?」
突然姿を現した咲夜に魔理沙が声を掛けると咲夜は魔理沙に視線を向ける。
「お嬢様から、変な気配がすると言われて急いで来たのよ。まさかこんなことになってるなんて思ってなかったけどね」
一瞬、視線を逸らした隙を狙って偽レミリアが咲夜へと襲い掛かる。思わず「危ない!」と叫ぶ魔理沙。だが、咲夜は慌てない。
「遅いわね」
「なっ!?」
一瞬にして咲夜の姿が消え、代わりにレミリアに刃を向けた何十本ものナイフが現れる。反射的に影を使ってナイフを防ぐものの、気付くと背後からもナイフが襲う。
「くっ!」
さらに四方八方から襲い掛かる銀のナイフ。魔除けの力がある銀は吸血鬼の天敵。少しでも当たれば大打撃となる。時間を操ることが出来る咲夜だからこその戦術だ。
「その程度、全て見えてるのよっ!」
だがレミリアも攻撃を予測したかのように紙一重で攻撃を防ぎ、躱す。スペルカードルールが無い勝負において、この二人の能力がどれだけ厄介かを表すかの勝負。これを普通の人間が見ていれば、目で追うことすら不可能だろう。
だがその場に居た魔法使い達は、ただ見ているだけでは無かった。
「ちっ、魔法使い風情がっ!」
アリスは人形達を使役し、パチュリーは水を生み出すことで、偽レミリアの動きを封じる。
「今っ!」
そして足が止まった偽レミリアに咲夜が多数のナイフを投げつける。だがそれすらも読まれていたようで、レミリアは影の盾を使って防ぎきって見せる。
「所詮はこの程度……」
「レミィ、そうやって他人を見下して油断するのが、あなたの悪い所よ」
「何?」
パチュリーの言葉に機嫌を損ねた偽レミリアが振り向く。だがそこには思ってもみなかった者が、攻撃態勢を整えていた。
「これでも喰らいなっ!!」
今のレミリアであれば、その者の力を理解し、必ず対策していただろう。だが偽レミリアは彼女の存在を知らなかった。ただの人間とみなし、警戒すらしていなかった。それこそが彼女の過ちだった。
魔理沙が全力を込め、ミニ八卦炉を構える。それは彼女が最も得意とする最強の砲撃。
「マスタースパークっ!!」
放たれたレーザーが偽レミリアを襲う。避けようとしても、周囲のナイフ、人形、水によって動きが阻害されている以上、どうすることも出来ない。影で盾を作るが、あまりにも強力な一撃によってその盾ごと飲み込まれた。
「相変わらず、ふざけた威力よね……」
かつてその一撃を受けたパチュリーは、呆れたように呟く。何度もこの図書館で撃たれたために、破壊防止のために結界も強化せざるを得なかったのだ。
「まあこれで、MVPは私だな」
「MVPなら咲夜の方でしょうに……」
「魔理沙は止めを刺しただけよね」
そんな呆れを聞き流し、自慢げに胸を張る魔理沙に、アリスと咲夜が苦笑する。
「さて、散らかった本も片づけたいけど、それよりもまずはあれよね」
パチュリーがそう言うと、全員が本棚に背中を預けて倒れる偽レミリアに視線を向ける。
「そもそも、何であんなのが出て来たんだ?」
「分からないわね。性質としては妖精に近いかもしれないけど、何でレミィを模してるのか……」
「そもそも、能力までコピーしているなんて、妖精だったら有り得ないわね」
謎の偽レミリアについて意見を出し合う三人の魔法使い。その姿を眺めていた咲夜だが、ふと気配を感じ振り向く。だがそこには何もない。ただ紫色の本があるだけ。
「……?」
気のせいかと視線を偽レミリアに戻す。だが再び、今度は会話をしていた三人も気付くほど濃密な気配が発せられる。
「何、この気配……?」
「あれを見て!」
アリスが指さすと、そこにはアリスが拾った魔導書が光を発しながら脈動している光景が有った。
「何が起こってるんだよ?」
その本はゆっくりと浮かび上がると、一直線に四人の下へと飛んでくる。
「伏せてっ!」
パチュリーの言葉に従い、全員がその場にしゃがむ。すると本は四人の頭上を越え、倒れ伏す偽レミリアの下へと向かう。
「何が起きているの?」
その本が何なのかも知らない咲夜はただ茫然として呟く。
本はひとりでにそのページを開くと、中から紫色の光が現れ、煙のように偽レミリアを包み込む。その光景をただ見ていることしか出来ない四人。
「ふふふっ、はーはっはっはっ!!」
突然、煙の中から高笑いが聞こえる。その声はレミリアのものと全く一緒だが、発している気配が異なる。
「やっと……やっと蘇った。この我がっ!!」
「……誰?」
パチュリーが呟く。煙の中から現れたのは、レミリアと全く同じ姿。しかし髪は白く染まり、ピンク色だったはずの服装も紫色へと変色している。そして傍らには、あの紫色の魔導書が浮遊していた。
「ふん、下郎共が。貴様らに名乗る名など無いわっ!!」
全く異なる姿と口調へと変化した偽レミリア。その敵意は間違いなく四人へと向けられた。
「見知らぬ女の子ねえ……」
永遠亭。迷いの竹林の奥にある屋敷で、妹紅は一人の少女と対面していた。
「またなんか、お前が恨みでも買うようなことをしたんじゃないのか、輝夜?」
「あら。私が恨みを買ってる相手なんて、あなたしか思いつかないわよ妹紅」
どこか妹紅と刺々しい態度を取り合う彼女。その正体は永遠亭の主であり、妹紅とは何百年以上も対立しあう関係である人物『蓬莱山輝夜』だ。彼女も妹紅同様に不老不死の身であり、殺し合いというのもじゃれあいに近い。
妹紅は鈴仙を送り届けるついでに、襲撃者について何か知らないか、輝夜に話を聞きに来たのだ。
「正直なところ、私も知らないのよ。全身赤づくめの女の子なんて、紅魔館のあの子くらいしか思い当たらないし……」
レミリアの妹である吸血鬼の姿を思い出すが、妹紅が見た人物とは異なるらしい。そうであるなら、輝夜は知らない人物だ。
「ただ、思い当たらない節が無いわけでは無いわ」
「本当か?」
先程手に入れたあるもの。輝夜の見立てでは、間違いなくその少女と関係あるであろう情報を輝夜は握っていた。それを聞き体を前のめりにした妹紅に、輝夜は意地の悪い笑顔を見せる。
「聞きたい?」
「……」
妹紅は理解している。輝夜がこの笑みを浮かべたときは、大抵ろくなことを考えていない。その推理は当たっていた。
「もしも知りたいなら……そこに這いつくばって、「卑しい私にお恵みをくださいませ輝夜様」って言ってみて?」
「よし、表に出ろ」
輝夜のあからさまな挑発に、妹紅は青筋を浮かべながら拳を握りしめる。良い反応を見せる妹紅に、輝夜は笑いを堪えきれない様子だった。
「姫様、話が進みませんから、それくらいで……」
そんな彼女を戒める声。それは輝夜の従者、そしてかつての教育係でもある『八意永琳』のものだ。
「ふふふっ、このままいつものようにしても良かったけど、まあ良いわ。永琳、あれを」
輝夜の指示に従い永琳があるものを取り出す。それは一つの新聞。
「これ、さっき鴉天狗が配ってたのよ」
妹紅は差し出された新聞をひったくるように手に取る。
『新たな異変? 博麗の巫女が語る謎の存在!!』
それと共に、仏頂面の博麗霊夢の写真が載っている。
「あなたが見た女の子とやらも、これと関係あるかもね?」
妹紅はその新聞に書かれた内容を読み進めるのだった。