IS〈インフィニット・ストラトス〉いつか此の手に月を【凍結】   作:生そば

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第二章《新機能=TRANS-AM=》
~第五話~《三人目の男子》(1)


「よ、一夏。おそよー」

 

「月夜か。朝の食堂で見かけなかったからどうしたのかと思ったぞ?」

 

「いや、起きたのが午後の五時でな」

 

 日曜日。俺は半日以上を寝て過ごしてしまっていた。

 もちろん零式のことや無人ISのことで忙しかったのだ。

 日曜日の寮と言えば何かとイベント盛り沢山の筈なのに。俺の馬鹿ぁ!

 

「あんた、寝癖が凄いよ?」

 

「え? ああ、まあこれはわざとだ」

 

「わざと?」

 

 一夏が怪訝そうに首を傾けた。

 

「実はだな……俺は起床後、飯の時間までぶらぶら寮内を回っていようとしたんだ。すると女子の何人かが集まってヒソヒソ話してんだよ。で、その子たちに訪ねたら何でもないって誤魔化されたんだ。しかもそれは一団体だけじゃなかった」

 

「ちょ、月夜。それって──」

 

 鈴音の顔が青くなっていくのが見えた。

 

「そこで俺は思った。何かがあると」

 

「で、寝癖は何なんだ?」

 

「俺は手持ちにあるものを使って変装したんだ」

 

「変装?」

 

「そのヒソヒソ話を聞けるようなのだ」

 

 どんな変装かは問題ではない。

 どんな話だったかが問題なのだ。

 色々な所からの話をもとに辿っていくと、どうやら先日に箒が一夏に対して『トーナメントで優勝したら付き合え』と言っていたらしい。

 それを偶然目撃した女子が他の子に噂して、それが伝言ゲームのように変化してしまい、『トーナメントで優勝したら織斑一夏、十六夜月夜のどちらかと付き合える』というふうになってしまったのだ。

 いや、なんで俺が入ってるのかさっぱりわからないわ。

 

「で、それが──」

 

「月夜、もうすぐ夕食の時間だし、その話はまた後で聞こうじゃないの! ね!」

 

「え、ああ……そうか」

 

 織斑くんと十六夜くんには内緒って言ってたっけ。

 聞いちゃいましたが。

 

「絶対に一夏に言うんじゃないわよ?」

 

「はい、絶対に言いません」

 

 鈴音が耳打ちしてくる。

 秘密って何かくすぐったいな。

 ああ! すごく話したいなぁ!

 

「お前らって仲良くなったんだな」

 

 一夏がそう呟いた。

 それに対し、俺と鈴音はため息をつく。

 

「あんたねぇ……」

 

「まあ、今に始まったことじゃないが」

 

 一夏は鈴音のことをただの幼馴染みとしか見ていなく、彼女の気持ちにまったく気づかない。

 

「もう直接言わないとダメだろ」

 

「そんなこと言えるわけないじゃない!」

 

 照れるのはわかるけど、一夏の前に『あなたが好きです、付き合って下さい!』とストレートに言える女子が現れたらどうするんだ。

 どんな唐変木でも『あなたが好きです』の一言があれば理解できるだろ。

 

「だって鈴音の約束だって『毎日味噌汁を作ってくれ』って言ってるのと変わらないぞ?」

 

「は? 何よそれ」

 

「おーい、月夜」

 

「ん、なんだ?」

 

「俺たちはこれから夕飯に行くんだが、月夜もどうだ?」

 

 その言葉に、二度目のため息。

 

「な、なんだよ、二人揃って」

 

「いや、俺は後で行くよ。用事があるし」

 

 そんなのは嘘だ。

 一夏は唐変木だから困る。ほら、鈴音がウンウンと頷いているだろう。

 これは俺の選択が間違っていないことを指している。

 一人の俺はすぐさま退散するのだ。

 

「じゃあ後でな」

 

「おう」

 

 一夏は鈴音と何やら話しながら去っていった。

 さて、用事があるのが嘘である上に、後で行くというのも嘘である俺はどうすべきか。

 正直腹が減っているんだが、この際だ。自分で作ってみよう。

 

「あれ、今孤独を感じた……」

 

 なんだろう、この寂しさ。

 

「はあ……、一夏以外の話し相手も欲しいな」

 

 一夏には常に女の子が集まるから気を使ってしょうがない。

 

「俺の他に三人目の男子とか──」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──来た……?」

 

 入学から大体二ヶ月たった頃の月曜の朝。

 ホームルームの時間にまさかの事態に巡り会う。

 それは転校生という、学園アニメならばメジャーなイベントなのだが……

 

「失礼します」

 

「……………」

 

 クラスに入ってきた二人の転校生。

 その内の一人は、輝くような銀髪。ともすれば白に近いそれを、腰近くまで長くおろしている。

 きれいではあるが整えている風はなく、ただ伸ばしっぱなしという印象のそれ。

 そして左目には黒い眼帯を着けている。

 そして開いている方の右手は赤色を宿しているが、その温度はかぎりなくゼロに近い。

 身長は低いが、その全身から放つ冷たく鋭い気配はこちらを圧倒してくるようだ。

 そして問題はもう一人。

 人なつっこそうな顔。礼儀正しいたち居振る舞いと中性的に整った顔立ち。

 髪は濃い金髪。黄金色のそれを首の後ろで丁寧に束ねている。

 体はともすれば華奢に思えるくらいスマートで、しゅっと伸びた脚が格好いい。

 銀髪のほうは『軍人』というイメージで、金髪のほうは『貴公子』というイメージだ。

 

「シャルル・デュノアです、フランスから来ました。この国では不慣れなことも多いかと思いますが、みなさんよろしくお願いします」

 

 シャルルはにこやかな顔でそう告げて一礼する。

 

「お、男……?」

 

 クラス中があっけにとられている中、誰かがそう呟いた。

 

「はい。こちらに僕と同じ境遇の方がいると聞いて本国より転入を──」

 

「きゃ……」

 

「はい?」

 

「きゃああああああ───っ!」

 

 クラスの中心を起点にその歓喜の叫びはあっという間に伝播する。

 

「男子! 三人目の男子!」

 

「しかもうちのクラス!」

 

「美形! 守ってあげたくなる系の!」

 

「地球に生まれてよかった!」

 

 A組の女子は今日も元気。

 

「あー、騒ぐな。静かにしろ」

 

 織斑先生が面倒くさそうにぼやいた。

 仕事がというより、こういう女子の反応が鬱陶しいんだろう。そんな感じがした。

 

「み、皆さんお静かに。まだ自己紹介が終わってませんから~!」

 

「…………………」

 

 もう一人の転校生は未だに口を開かず、腕組みをした状態で教室の女子達を下らなそうに見ている。

 しかしそれもわずかのことで、今はもう視線をある一点に向いていた。

 

「……挨拶をしろ、ラウラ」

 

「はい、教官」

 

 いきなり佇まいを直して素直に返事をする転校生──ラウラに、クラス一同がぽかんとする。

 対して異国の敬礼を向けられた織斑先生はさっきとはまた違った面倒くさそうな顔をした。

 

「ここではそう呼ぶな。もう私は教官ではないし。ここではお前も一般生徒だ。私のことは織斑先生と呼べ」

 

「了解しました」

 

 そう答えるラウラはぴっと伸ばした手を体の真横につけ、足をかかとで合わせて背筋を伸ばしている。

 どう見ても軍人の振る舞いだ。

 ミリタリー好きな奴でもあそこまで完璧に振る舞えるとは思えない。

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒだ」

 

「………………」

 

 クラスメイトたちの沈黙。続く言葉を待っているのだが、名前を口にしたらまた貝のように口を閉ざしてしまった。

 

「あ、あの、以上……ですか?」

 

「以上だ」

 

 空気にいたたまれなくなった山田先生ができる限りの笑顔てラウラに訊くが、返ってきたのは無慈悲な即答だけだった。

 あまり山田先生をいじめるんじゃない。いじるのは面白いが。

 

「! 貴様が──」

 

 と、ラウラはつかつかと一夏の方に向かって行き、

 

 

 

 バシンッ!

 

 

 

「……………」

 

「う?」

 

 いきなり殴った。無駄のない平手打ちだった。

 

「私は認めない。貴様があの人の弟であるなど、認めるものか」

 

 いや、意味不明なんだが。

 誰ですか、あの人って。

 一夏が『あの人の弟』ってことは、織斑先生のことか。

 これは一夏とラウラの間に何があったのではなく、織斑先生とラウラの間に何か関係があるのだろう。

 

「いきなり何しやがる!」

 

「ふん……」

 

 来たとき同様すたすたと一夏の前から立ち去っていった。

 事情がほとんど掴めないまま終わってしまった。

 いや、終わってないか。

 

「あー……ゴホンゴホン! ではHRを終わる。各人はすぐに着替えて第二グラウンドに集合。今日は二組と合同でIS模擬戦闘を行う。解散!」

 

 ぱんぱんと手を叩いて織斑先生が行動を促す。

 さて、さっさと移動しよう。今日は第二アリーナ更衣室が空いてるはずだ。

 

「おい織斑、十六夜。デュノアの面倒を見てやれ。同じ男子だろう」

 

「君が織斑君? 初めまして。僕は──」

 

「一夏、急ぐぞ。もう第一波が来る!」

 

「ごめんシャルル。とにかく移動が先だ」

 

 一夏がシャルルの手を取り、俺たちはそのまはま教室を出た。

 

「とりあえず男子は空いているアリーナ更衣室で着替え。これから実習のたびにこの移動だから、早めに慣れてくれ」

 

「う、うん……」

 

「おい一夏。シャルルが照れてるぞ。早くしないとバラが咲き乱れる」

 

 見ると、シャルルはさっきまでとは違って妙に落ち着きがなかった。

 

「俺はそんつもりは──!」

 

「中性的な見た目なら俺もいるだろ?」

 

「上目遣いをするな気持ち悪い」

 

「それより、来たぞ」

 

 とりあえず階段を下って一階へ来た。

 

「ああっ! 転校生発見!」

 

「しかも三人とも揃ってる!」

 

 HRが終わり、早速各学年各クラスから情報先取のための尖兵が駆け出してきている。

 波にのまれたら最後、質問攻めのあげく授業に遅刻、鬼教官の特別カリキュラムが待っている。

 それだけはなんとしても避けたい。

 

「いたっ! こっちよ!」

 

「者ども出会え出会えい!」

 

「織斑君の黒髪も十六夜君の月色の髪もいいけど、金髪っていうのもいいわね」

 

「しかも瞳はアメジスト!」

 

「きゃああっ! 見て見て! ふたり! 手! 手繋いでる!」

 

「日本に生まれて良かった! ありがとうお母さん 今年の母の日は河原の花以外のをあげるね!」

 

 毎年そのお母さんどんな顔して花を受け取ってるんだよ。

 と、そんなことよりだ。

 

「予想より四秒早い。一夏、ルートをEに変更するぞ!」

 

「わかった。シャルル、こっちだ」

 

「な、なに? 何でみんな騒いでるの?」

 

 状況が飲み込めないのか、シャルルは困惑顔で訊いてくる。

 

「彼女たちはいわば新聞記者。特ダネを求めて日々現場に駆けてく尖兵達だ」

 

「え、どういうこと?」

 

「えっとな。ISを操縦できる男子が珍しいからだ。今のところ俺たちだけだからな」

 

「あっ!──ああ、うん。そうだね」

 

「それとアレだ。この学園の女子って男子と極端に接触が少ないから、ウーパールーパー状態なんだよ」

 

「ウー……何?」

 

「二〇世紀の珍獣。昔日本で流行ったんだと」

 

「ふうん」

 

 ウーパールーパーはどうでもいい上に、もっとむしろ分かりづらいと思うのは俺だけか?

 

「ま、何にしてもこれからよろしくな。俺は織斑一夏。一夏って呼んでくれ」

 

「うん。よろしく一夏。僕のこともシャルルていいよ。……で、君は」

 

「十六夜月夜。俺も月夜でいいよ。よろしく」

 

「わかったよ、月夜」

 

 さて、どうにか群衆に捕まる前に校舎を出ることができた。

 いつも通り圧縮空気が抜ける音を響かせ、ドアが斜めにスライドして開く。

 第二アリーナ更衣室に到着だ。

 

「うわ! 時間ヤバイな! すぐに着替えちまおうぜ」

 

 俺と一夏は急いでいたので、制服のボタンを一気に外す。

 それをベンチに投げて一呼吸でTシャツも脱ぎ捨てた。

 

「わあっ!?」

 

「「?」」

 

 突然、シャルルが声を上げた。

 

「荷物でも忘れたのか? って、はやく着替えないと遅れるぞ?。シャルルは知らないかもしれないが、うちの担任はそりゃあ時間にうるさい人で──」

 

「う、うんっ? き、着替えるよ? でも、その、あっち向いてて……ね?」

 

「なぜだろう、一夏とシャルルの間にバラが見えるのは」

 

「だから違うっての」

 

 冗談ではある。別に俺は同性愛には興味があるわけではない。

 しかし、シャルルは自己紹介のときのような落ち着きが見られない。

 そしてシャルルにシンパシーのようなものを感じる。

 

「まあ、本当に急げよ。初日から遅刻とかシャレにならない──というか、あの人はシャレにしてくれんぞ」

 

「織斑先生にはもう少し広い心を持ってほしいよな」

 

「確かに」

 

 急いで着替える。気付くとシャルルは既に着替え終わっていて、あと残っているのは一夏だけだ。

 

「うわ、着替えるの超早いな。なんかコツでもあんのか?」

 

 一夏はズボンと下着を脱いでISスーツを腰まで通したところで止まっている。

 

「い、いや、別に……って一夏まだ着てないの?」

 

「こ!、着るときに裸っていうのがなんか着づらいんだよなぁ。引っかかって」

 

「ひ、引っかかって?」

 

「おう」

 

「……………」

 

 シャルルが顔を赤くした。不思議なやつだ。

 まさかシャルルにそんな気があるとは思えないのだが。

 

「よっ、と。──よし、行こうぜ」

 

「う、うん」

 

 全員着替え終わって更衣室を出る。

 

「そういえば、シャルルのスーツって格好いいな」

 

 グラウンドに向かう途中で改めてシャルルを見た。

 

「着やすそうだな。どこのやつ?」

 

「あ、うん。デュノア社製のオリジナルだよ。ベースはファランクスだけど、ほとんどフルオーダー品」

 

「デュノア? デュノアってどこかで聞いたような……」

 

「うん。僕の家だよ。父がね、社長をしてるんだ。一応フランスで一番大きいIS関係の企業だと思う」

 

 フランスのデュノア社……。あれ、何だったかな。

 前に何かの情報を見た気がするんだが。

 

「へえ! じゃあシャルルって社長の息子なのか。道理でなあ」

 

「うん? 道理でって?」

 

「いや、なんつうか気品っていうか、いいところの育ち!って感じがするじゃん。納得したわ」

 

「俺からしたら織斑先生の弟ってのも凄いと思うけどな」

 

「そんな事言ったら月夜もだろ? 束さんの助手だったんだから」

 

「紛いだけどな」

 

「いいところ……ね」

 

 ふとシャルルが視線を逸らした。

 何か触れられたくないところだったんじゃないか?

 複雑な表情を浮かべている。

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