IS〈インフィニット・ストラトス〉いつか此の手に月を【凍結】 作:生そば
忙しくて執筆が滞っていたのです。
「遅い!」
第二グラウンドに無事到着──とはいかなかった。
いや、時間にはまだ二分あるのてすが。
「くだらんことを考えている暇があったらとっとと列に並べ!」
ばしーん! さっそく一夏が叩かれた。
「いいか、シャルル。くだらない事を考えてるとああいう目に会うんだ」
「あれは僕たちにも言えるの?」
さあ、どうだろうね。
少なくとも俺はあんな怒られ方をしたことはない。
「姉弟の間だけだろうな」
「お前も早く並ばんかっ」
ばしーん!
「はーい」
俺たちは一組整列の一番端に加わる。
「ずいぶんゆっくりでしたわね」
隣はなんとセシリアさんだ。
四月のクラス代表決定戦以降、仲直りをしたは良いもののやたらと構ってくる。
でも何か、怒ってる? なんでだろう。
「スーツを着るだけで、どうしてこんなに時間がかかるのかしら?」
ISのスーツってパッと見は水着のようにも見える。
ISは常時絶対防御でパイロットの安全を確保してあるため、肌が露出していても構わない。
むしろパイロットの方が動きやすい格好のほうがISを動かしやすいのだ。
だからってピッチリはどうかと思う。
眼福ではあるが。
ちなみに男子の、特に俺と一夏のスーツはというと露出しているのは顔と手足くらい。
まるでスキューバダイビングのスイムスーツのようだ。
「俺には男の事情があるんだよ」
「男の事情とは何ですの?」
「そりゃあ、女子のセシリアさんには言えないね~」
「わ、わたくしには言えないことって何ですの!?」
バシーンバシーン! 俺とセシリアさんの頭に衝撃。
振り向くと出席簿という名の金棒を掲げた鬼ヶ島のボスが。
おそらくこの鬼には桃太郎ですら叶わないだろう。
バシーン!
「お前の考えていることもわかるぞ?」
「すいませんでした」
「では、本日から格闘及び射撃を含む実践訓練を開始する」
「はい!」
一組と二組の合同実習なので人数はいつもの倍。
出てくる返事も妙に気合いが入っていた。
「くうっ……。何かというとすぐにポンポンと人の頭を……」
ズキズキと叩かれた場所が痛むのか、セシリアさんはちょっと涙目になりながら頭を押さえていた。
「これはポンポンって擬音で表していのか?」
「今日は戦闘を実演してもらおう。ちょうど活力が溢れんばかりの十代女子もいることだしな。──凰! オルコット!」
「あたしっ!?」「わたくしですの!?」
鈴音の方も後ろで一夏と話していて殴られたらしい。とばっちりだなぁ。二人とも。
「専用機持ちはすぐにはじめられるからだ。いいから前に出ろ」
「だからってどうしてわたくしが……」
「一夏のせいなのになんであたしが……」
一組の担任には誰にも逆らえない。
と、織斑先生が二人に小声で何かを告げた。
「やはりここはイギリス代表候補生、わたくしセシリア・オルコットの出番ですわね!」
「まあ、実力の違いを見せるいい機会よね! 専用機持ちの!」
何を言われたのか知らないが。そうだ。割りきってしまえ。
「それで、相手はどちらに? わたくしは鈴さんとの勝負でも構いませんが」
「ふふん。こっちの台詞。返り討ちよ」
「慌てるなバカども。対戦相手は──」
キィィィン……。
突然、空気を切り裂く音が聞こえた。
「ああああーっ! ど、どいてください~っ!」
「やべっ、避けろ!」
俺の声に反応して周りの女子たちが散る。
そう、女子たちだけ。
ドカーン!
一夏が飛行物体──山田先生の突進を受けて数メートル吹っ飛ばされた後ゴロゴロと地面を転がった。
「ふう……。白式の展開がギリギリ間に合ったな。しかし一体何事──」
起き上がろうとした一夏が手をついた。柔らかいものに。
二つある物のうち、片方を。むにゅっと。
「う?」
「あ、あのう、織斑くん……ひゃんっ!」
俺はため息混じりに頭を抱える。
このラッキースケベめ。……羨ましい。
「そ、その、ですね。困ります……こんな場所で……。いえ! 場所だけじゃなくてですね! 私と織斑君は仮にも教師と生徒でですね!」
仮じゃなくて、本当に教師と生徒です。山田先生。
「……ああでも、このまま行けば織斑先生が義姉さんってことで、それはとても魅力的な──」
何を言っているんだ、この妄想教師め。
というか、いい加減に放せよ一夏。
「零式打鉄、リニアスピア……」
バスンッ! リニアスピアが火を吹く。
ギリギリで反応した一夏がそれを避ける。
「ちっ!」
「おい、月夜! 殺す気か!」
「反省はしていない。後悔もしていない」
「まるで気にしてない!?」
「それより、俺だけを気にしてていいのか?」
「は?」
ガシーンと何かが組み合わさる音が聞こえた。
鈴音の武器《双天牙月》を連結した音だ。
鈴音は振りかぶり、それを投げる!
「うおおおっ!?」
ためらいなく首を狙ってやがる。
と、間一髪で避けた一夏だったが、そのまま勢い余って仰向けに倒れてしまう。
そして、《双天牙月》はブーメランのように返ってくる。
まず避けられない。ま、白式を展開してる訳だし死にはしないか。
「はっ!」
ドンッドンッ!
短く二発、火薬銃の音が響く。
弾丸は的確に《双天牙月》の両端を叩き、その軌道を変える。
その銃を撃ったのは、なんと山田先生だった。
「おお、すげぇ」
「………………」
どうも驚いたのは俺だけでなく、セシリアさんや鈴音はもちろん、他の女子も唖然としたままだった。
この場で驚いていないのは撃った本人と織斑先生だけだ。
「山田先生はああ見えて元代表候補生だからな。今くらいの射撃は造作もない」
「む、昔のことですよ。それに候補生止まりでしたし……」
ぱっと雰囲気がいつもの山田先生に戻った。
普段はおっちょこちょいだけど、一度集中するとスゴいんだなぁ。
「さて小娘どもいっで惚けている。さっさとはじめるぞ」
「え? あの、二対一で……?」
「いや、さすがにそれは……」
「安心しろ。今のお前たちならすぐ負ける」
負ける、と言われたのが気に障ったのか、セシリアさんと鈴音は再びその瞳に闘志をたぎらせている。
「では、はじめ!」
号令と同時にセシリアさんと鈴音が飛翔する。
それを一度確認してから、山田先生も空中へと躍り出た。
「手加減はしませんわ!」
「さっきのは本気じゃなかったしね!」
「い、行きます!」
言葉はいつもの山田先生だったが、目は鋭く冷静なものへと変わった。
「お前はいつまでISを展開している? さっさと戻れ」
「は、はい!」
急いで零式を戻す。
それはそうとして、山田先生の使ってるのはラファールリヴァイヴじゃないか。
たしか入試の相手も同じだった気がしたが、まさか山田先生だったり?
もしかしたらあるかもしれない。
一夏の相手は壁に突っ込んだらしいし、山田先生ならやりかねない。
それにしてもIS学園教員仕様のラファールリヴァイヴ……改造したい。
どうせならリヴァイヴを零式シリーズに加えたかった。
打鉄でもいいんだけどね?
どうせならリヴァイヴの方が安定した性能が引き出せるじゃないか。
いや、実態剣の零式仕様は楽しかったです、はい。
「────で、参加サードパーティーが多いことでも知られています」
「ああ、いったんそこまででいい。……終わるぞ」
何かシャルルが説明していたようだ。
しまった、何も聞いていなかった。
山田先生の射撃がセシリアさんを誘導、鈴音とぶつかったところでグレネードを投擲。
爆発が起こって、煙の中からふたつの影が地面に落下した。
「くっ、うう……。まさかこのわたくしが……」
「あ、アンタねえ……何面白いように回避先読まれてんのよ……」
「り、鈴さんこそ! 無駄にばかすかと衝撃砲を撃つからいけないのですわ!」
「こっちの台詞よ! なんですぐにビットを出すのよ! しかもエネルギー切れるの早いし!」
「ぐぐぐぐっ……!」
「ぎぎぎぎっ……!」
確かにどちらの言ってることは間違っていない。
鈴音は衝撃砲を多用しすぎるし、ブルーティアーズのエネルギー貯蔵量は設計の見直しが必要か……。
俺が二人いるとしたら、あの場合はビットとライフルで牽制し相手の動きを制限しながら衝撃砲を撃つとか。
鈴音とセシリアさんの連携がとれていないのは、どちらも直撃コースで攻撃しているからと、代表候補生として訓練を受けているため、狙いやタイミングは悪くないのに互いにサポートをしないからお互いの隙を埋められない。
個人戦では100%の力を発揮できても、チーム戦となるとそうもいかないらしい。
鈴音&一夏の組み合わせの時は悪くなかったのにな……。
「さて、これで諸君にもIS学園教員の実力は理解できただろう。以後は敬意を持って接するように」
ぱんぱんと手を叩いて織斑先生が皆の意識を切り替えた。
「専用機持ちは織斑、十六夜、オルコット、デュノア、ボーデヴィッヒ、凰だな。七人と八人のグループになって実習を行う。各グループリーダーは専用機持ちがやること。いいな? では分かれろ」
織斑先生が言い終わるや否や、俺、一夏、シャルルに一気に二クラス分の女子が詰め寄ってくる。
「織斑君、一緒にがんばろう!」
「十六夜君、わかんないところ教えて~」
「デュノア君の操縦技術を見たいなぁ」
男子に群がってくるのは予想していたさ。
でもな? そんなに詰め寄られても困ってしまう。
それにあまり遅くしてると、ほら……
「この馬鹿者どもが……。出席番号順に一人ずつ各グループに入れ! 順番はさっき言った通り。次にもたつくようなら今日はISを背負ってグラウンド百周させるからな!」
織斑先生の鶴の一声で、それまでわらわらとアリのように群がっていた女子達が蜘蛛の子を散らすように移動していき、二分とかからずにグループが出来上がった。
「最初からそうしろ。馬鹿者どもが」
ふうっとため息を漏らす織斑先生にバレないように各班の女子はぼそぼそとおしゃべりをしていた。
「……やったぁ。織斑君と同じ班っ。名字のおかげねっ……」
「……十六夜君と同じ班だぁ。先祖に感謝するわ……」
「……うー、セシリアかぁ……。さっきボロ負けしてたし。はぁ……」
「……凰さん、よろしくね。あとで織斑君のお話聞かせてよっ……」
「……デュノア君! わからないことがあったら何でも聞いてね! ちなみに私はフリーだよ!……」
「…………………………」
大変嬉しそうにする女子や、がっくりと肩を落とす女子もいる。
そして唯一おしゃべりのないのが例のドイツ転校生ラウラ・ボーデヴィッヒの班だ。
張り詰めた雰囲気。人とのコミュニケーションを拒むオーラ。
生徒たちへの軽視を込めた冷たい眼差し。さっきから一度も開くことのない口。
あそこだけどんよりと暗いオーラが見えるんだが。
……南無。
「ええと、いいですかーみなさん。これから訓練機を一班一体取りに来てください。数は『打鉄』が四機、『リヴァイヴ』が二機です。好きな方を班で決めてくださいね。あ、早い者勝ちですよー」
うわぁ、山田先生が頼もしく見える。
初めて会った時のような弱気な雰囲気はどこへやら。
きっとあれだ。自分もまだ最近の代表候補生に負けないと自信が付いたのだろう。
「じゃあ取り合えず出席番号順に始めていこうか。最初は誰かな?」
「はいっ、出席番号8番、川井典子! テニス部! 最近は読書にハマっています!」
「なんで自己紹介を? まあいいか。ちゃっちゃと起動しちゃおう──」
「「「お願いしますっ!」」」
一夏の班、そしてシャルルの班からも同じような声が聞こえて振り返る。
何をやってるんだ、あいつらは……。
「って……、まさか?」
視線を戻すと、俺の班の女子達が同じようにお辞儀をして頭を下げたまま右手を突き出していた。
「「「お願いしますっ!!」」」
一際大きな声でお願いされてしまった。
「はいはい、順番ねー」
「「「ぶー……」」」
コンビネーション良いっすね、君ら。
きっといいチームを組めるよ、ほんと。