IS〈インフィニット・ストラトス〉いつか此の手に月を【凍結】   作:生そば

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~第五話~《三人目の男子》(3)

「よし、じゃあ右足から歩こう」

 

 一人目の装着、起動、歩行は問題なく進み、やがて二人目に。

 

「出席番号9番、木下榛名! バド部! 趣味はそのままバドミントン!」

 

 その改めての自己紹介は必須事項なのか?

 

「じゃ、さっそく乗り込んでくれる?」

 

「あ、いや。その……コックピットに届かないんだけど……」

 

「え? あ、そっか……」

 

 俺自身が今まで同じISを他人と回して乗ってなんてしたことがなかったから。

 立ったままISの装着解除をすると、ISの高さ故に次に乗るときに届かなくなってしまうわけであって……。

 

「どうしよっか……」

 

 助けを求めようと辺りを見回すと、一夏の班から女子達の「いいなぁ!」という声が聞こえた。

 目を向けると、一夏の班でも同様の問題が起こっていたらしく、一夏の班の打鉄が立ったまま装着解除されていた。

 そしてその様子を見ていると、一夏が白式を展開して女子をだっこしてISに乗せてあげているのを目撃する。

 なるほど、その手があったか。

 ……でも、だっこだろ?

 

「えっと?」

 

「や、優しくしてね?」

 

 木下さんは準備万端で待っていた。

 別に何をする訳でもないのに頬を赤らめないでほしい。

 

「じゃ、失礼するよっと」

 

 俺も一夏のようにISを展開して、木下さんをだっこしてやる。

 

「ひゃっ」

 

「しっかり捕まって。ああそうそう。俺の肩に手を掛けて……大丈夫?」

 

「う、うん。大丈夫」

 

 木下さんの顔が赤い。

 抱え方に問題があるのだろうか。

 

「いいなぁ」

 

「わたしもやってもらいたい!」

 

「くっ……なんで私が最初だったのかしら!」

 

 川井さん、なんで苛立ってるのか知らないが落ち着け。

 やっぱりだっこはまずかったのかな。せめて高い高いとか?

 いや、もっとダメだよな。

 

「さ、早く始めよっか」

 

 そんなこんなで、実習は進んでいった。

 しかしその後の女子達はみんなISをしゃがんで降りることはなく、俺がいちいち運んで乗せてやる羽目になってしまった。

 

「だから立ったまま降りないでって。まったく……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 昼休み、一夏に誘われ屋上へ。

 箒、鈴音、一夏、シャルル、俺、セシリアさんの六人で昼食を取ることになっていた。

 皆には言わないが、ここにラウラがいれば良かったなと思う。

 それには一夏とラウラの仲をどうにかしないといけないのだが、あれはラウラが一方的に嫌っているのだからラウラの一夏への態度を変えさせればいいわけだ。

 いったい何があったというのだろう。

 

「むぅ、一夏と二人だと思っていたのに……」

 

「一夏だから仕方がないさ、箒。一応予想はしてたけど」

 

「なら断れば良いだろう!」

 

「俺は仲間はずれにされると、寂しさで死んじゃうんだ」

 

「ウサギかよ、月夜は」

 

「月夜さん、わたくしは仲間はずれになどしませんわよ?」

 

「ほら、一夏。酢豚よ。食べた言ってたでしょ?」

 

「おう、サンキュー。鈴」

 

「あはは、本当に僕が同席してもよかったのかな……」

 

 シャルルが会話に入れずに戸惑っている。

 

「一夏もさっき言ってた通り、食事は大人数で食べるから旨いんだ。シャルルも遠慮せずに話せばいいのに」

 

「そんなこと言われても……」

 

 確かに、箒と鈴音の勢いにはたまに引くことがあるよな。

 それも含めての楽しい学園ライフなのだが。

 

「月夜さん。わたくし、今日も料理を作ってきましたの。今度の出来栄えはどうですか?」

 

 そう言ってセシリアさんが弁当箱を開く。

 その中身を見た全員が「うわぁ」と言った。

 当たり前だ。何せセシリアさんは料理が下手。

 以前訪ねてみたところ、「本と一緒になれば良いのではなくて?」だと言う。

 セシリアさんが見てるのは写真だけだと信じたい俺だ。

 

「アンタ、それ食べるの?」

 

「う、うん。食べるよ?」

 

 鈴音に言われながらも恐る恐る、その綺麗な見た目の『サンドイッチ』を口にする。

 すると口の中に火が灯ったかのような刺激が弾ける。

 甘めのはずのこの具が辛いのだ。

 恐らくマスタードが入っていると思われる。

 確かに色合いは似てるが、味はまったくの別物だ。

 

「どうですの?」

 

 目をキラキラさせているセシリアさん。

 そんな顔をされたら、不味いなんて言えないじゃないか。

 だから俺は今日も誤魔化すのである。

 

「ちょ、ちょっと辛いかな?」

 

 このタマゴサンド。

 

「そうですの? 最後に入れたアレが要らなかったのかしら?」

 

 マスタードと言わず、アレと言った。

 いったい何を入れたのか……、聞くのが怖い。

 とはいえ、こうして少しずつセシリアの料理下手を直していく魂胆である。

 いつかセシリアさんの『美味しい』料理をご馳走してもらえると嬉しい。

 もう一度言う。

 『美味しい』料理をご馳走してもらえると嬉しい。

 

(大変そうだね、月夜)と、シャルル。

 

(同情するなら代わりに食ってくれ)

 

(うん、止めとくよ)

 

 そうだな。それが正解だ。

 

「どうやったらタマゴサンドが辛くなるのだ?」

 

「あたしに聞かないでよ」

 

「月夜、南無」

 

 同情するなら代わりに食べてくれ。そんな念を送ると、三人とも目をそらした。

 今日も俺の味覚は刺激される。

 

「ふと思ったんだが、シャルルの部屋ってどこになるんだ?」

 

「そう言えば一夏の部屋は今は一人なんだよな。でも俺も一人だからな……」

 

 先日のこと、一夏の部屋から箒が別の部屋に移った。

 そのため俺が一夏と同じ部屋になると思っていたのだが、その後何の話もなくシャルルが来た。

 

「まだ部屋割りが決まってませんの?」

 

「たぶんどっちかの部屋に来ると思うけどね」

 

「ま、男子同士仲良くしようぜ。色々不便もあるだろうが、わからないことがあったら何でも聞いてくれ。──ISのことは月夜にな」

 

「アンタはもうちょっと勉強しなさいよ」

 

「してるって。多すぎるんだよ、覚えることが。お前らは入学前から予習してるからわかるだけだろ」

 

「ええまあ、適性検査を受けた時期にもよりますが、遅くてもみんなジュニアスクールのうちに専門の学習をはじめますわね」

 

 シャルルはどうなのだろう。

 少なくとも一夏に劣るとは思えないが。

 一夏が世界で初めてISを動かした男で、俺が二人目。

 そしてシャルルが三人目になるわけだから、ISのことを勉強し始めたのは……って、シャルルはデュノア社の社長の息子だったか。

 それならISに関して詳しくても納得がいく。

 

「ありがとう。一夏って優しいね」

 

「い、いや、まあ、数少ない男同士だし。当然だ」

 

 シャルルの無防備な笑顔に、一夏がおかしな反応をした。

 一夏よ。そいつは男だ。

 

「一夏は誰にでも優しい。だから好かれる。だけど超鈍感」

 

「え、そうなの?」

 

「冗談言うなよ。月夜」

 

「ほらな?」

 

「うん、そうだね……」

 

 一夏がそう言うことによって、二人がため息をついた理由について気づいてやれよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おやすみ。一夏」

 

「おう、おやすみ。月夜もな」

 

「おやすみー」

 

 夜。夕食を食べ終えた俺たちに山田先生が部屋割りの件で話をしにきた。

 シャルルは俺と同じ部屋になるのだそうだ。

 

「改めてよろしくな。シャルル」

 

「うん。よろしく、月夜」

 

 一夏と部屋の前で別れ、俺たちの部屋に入ると既にシャルルの荷物が運び込まれていた。

 

「何か飲むか? コーヒー、紅茶、日本茶。色々あるぞ?」

 

「じゃあ日本茶を貰おうかな」

 

「注文承りました~。日本茶二つ~」

 

「なんだか、ご機嫌だね」

 

「今までルームメイトなんて居なかったからな。一夏は箒と一緒でさ」

 

「そ、そうだったんだ」

 

 今日からは俺が二人で、一夏が一人。

 男同士だし、女子と一緒っていうよりは気を使わないし。

 一夏のやつ、気になってるのだろうか。

 ずいぶんとシャルルを気にしてた──(ゲフンゲフン)

 

「はい、どうぞ」

 

「え、早いね」

 

「人の三倍は早く動けるんだ」

 

「そ、そういう問題なのかな……」

 

 首を傾げながらもコップを受けとる。

 俺の部屋には自分で使う用のコップと来客ようのコップしかない。

 日本茶だからと渋いアレなどないのだ。

 シャルルは香りを楽しみながら、暑そうにフーフーしてゆっくりと傾ける。

 

「あちち……」

 

「舌を火傷しないように気を付けろよ?」

 

 俺や一夏は日本茶は熱い方が好きだからな。

 いつもの感覚で淹れてしまった。

 シャルルと一緒の時は気を付けよう。

 そう言えば、セシリアさんは日本茶が苦手なんだそうだ。

 日本茶の緑がどうも引っ掛かるらしい。

 外国の人からしたら緑色の飲み物は奇妙なのだろう。

 

「紅茶とはずいぶん違うんだね。不思議な感じ。でもおいしいよ」

 

「気に入ってもらえたようで何よりだ。そういえぱ駅前に抹茶カフェがあったな。機械があったら一夏も誘って行かないか?」

 

「抹茶ってあの畳の上で飲むやつだよね? 特別な技能がいるって聞いたことがあるけど、月夜は入れられるの?」

 

「いや、略式のしか飲んだことないな」

 

「ふうん。そうなんだ。僕も一度飲んで見たかったからその誘いは嬉しいよ」

 

「ついでだし、案内しするよ」

 

「ほんと? ありがとう、月夜」

 

 柔らかな笑みを浮かべるシャルルに、中性的な印象のせいか一瞬ドキッとしてしまう。

 

「シャルルはあれだな。俺と同じような雰囲気がある」

 

「え?」

 

 俺が初めてIS学園に来たときのような。

 シャルルは男なはずなのに、時折見せる笑みは同じ男である俺や一夏を惹き付ける。

 ものすごくシンパシーを感じるんだよなぁ。

 

「笑った顔とか可愛いし、……本当に男か?」

 

「あ、当たり前でしょ? そんなことを言うなら月夜だって可愛いと思うし」

 

「そ、そうか……」

 

 俺はいつも男らしく振る舞っているつもりなんだが。

 

「いや、いいんだ。俺は前から女に間違われることが多かったから、シャルルもそうかなって思ってさ」

 

「ほ、僕はそんなことはなかったよ」

 

 シャルルは男っていうより紳士って感じだと思います。はい。

 今度礼儀作法について教えてもらうのも悪くないか?

 

「そういえば月夜たちはいつも放課後にISの特訓してるって聞いたけど、そうなの?」

 

「うん。特に一夏は他のみんなよりも遅れてるから、地道に訓練時間を重ねるしかないんだ」

 

 今日はシャルルの引っ越しがあったからやらなかったが、今月は学年別トーナメントがあるから明日から再開だ。

 

「僕も加わっていいかな? 何かお礼がしたいし、専用機もあるから少しくらいは役に立てると思うんだ」

 

「そりゃありがたい。ぜひ頼むよ」

 

「うん。任せて」

 

 明日からはシャルルも含めて特訓開始だ。

 ん、シャルルのISってリヴァイヴだよな?

 ってことは射撃戦の訓練ができるな。

 セシリアさんと二人の先頭スタイルの違いを説きながら教えるのも悪くないな。

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