IS〈インフィニット・ストラトス〉いつか此の手に月を【凍結】   作:生そば

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~第六話~《握手という名の》(4)

 

 本日最後の授業が終わり、これから一夏と放課後特訓をするつもりだ。

 だがそれと同時に……

 

「シャルル、今日の特訓で手伝ってほしいことがあるんだが」

 

「え、何?」

 

「実は零式に新しい機能を搭載したんで、シャルルにも見てもらいたいんだ」

 

「月夜は凄いね。自分のISを改造するなんて」

 

「ほとんど内面的な部分だけだがな」

 

 一応は機体その物も弄るが、そうするには機材や資金が必要になる。

 学園内でやれることと言ったら調整や新機能の開発ぐらいしかないのだ。

 ちなみに零式打鉄の場合は学園側から支給してもらったからできた。

 

「で、どんな機能なの?」

 

「それはな……」

 

「月夜、シャルル」

 

「「わあっ!?」」

 

「え、何だ?」

 

 突然一夏が話しかけてきたのに意味もなく驚いてしまった。

 見事な一緒ぶりに、一夏は目を丸くした。

 

「お前ら凄いな」

 

「で、なんだよ」

 

「ああ、今日も放課後特訓するから誘おうと思ったんだ。今日使えるのは、ええと──」

 

「第三アリーナだ」

 

「「「わあっ!?」」」

 

 廊下を歩いている途中、いきなり予想外の声が飛び込んできて俺たちは揃って声を上げた。

 案外この三人ならユニットを組めるかもしれない。

 

「……そんなに驚くほどのことか。失礼だぞ」

 

 いつの間にか並んでいた箒は眉をひそめる。

 

「お、おう。すまん」

 

「ごめんなさい。いきなりのことでびっくりしちゃって」

 

「俺もびっくりしただけだ。ごめん」

 

「あ、いや、別に責めているわけではないが……」

 

 三人全員に謝られてその気が削がれたのか、箒はごほんと話を逸らす咳払いをした。

 

「ともかく、だ。第三アリーナへと向かうぞ。今日は使用人数が少ないと聞いている。空間が空いていれば模擬戦もできるだろう」

 

 しかし俺たちがアリーナに向かっていると、そこに近づくにつれ何やら慌ただしい様子が伝わってきた。

 さっきから廊下を走っている生徒も多い。

 どうやら第三アリーナで、騒ぎが起こっているようだ。

 

「月夜、どうした?」

 

「空気がざらついているような、そんな感じがする」

 

 俺の答えに納得がいかない様子の一夏。

 そのやり取りを見たシャルルが観客席へのゲートを指す。

 

「何かあったのかな? こっちで先に様子を見ていく?」

 

 確かに普通にピットに入るよりも早く様子をみることができるので、俺はうなずいた。

 

「誰かが模擬戦をしてるみたいだね。でもそれにしては様子が──」

 

 ドゴォンッ!

 

「「「「!?」」」」

 

 突然の爆発に驚いて視線を向けると、その煙を切り裂くように影が飛び出してくる。

 

「鈴! セシリア!」

 

 そう一夏が叫ぶ。

 特殊なエネルギーシールドで隔離されたステージからこちらに及ぶことはないが、同時にこちら側からの声も聞こえない。

 

「シュヴァルツェア・レーゲン……ラウラか!」

 

 よく見れば二人のISはかなりのダメージを受けている。

 機体はところどころが損傷し、ISアーマーの一部は完全に失われている。ラウラも無傷とまではいかないがそれでも二人と比較してかなり軽微な損傷に見えた。

 

「何やってんだよ、あいつら──!」

 

 鈴音もセシリアさんも、代表候補生として十分な能力を持っている。

 普段は連携が取れないのがたまに傷だが、今は前よりも連携が取れていると言っていい。

 同レベルの相手ならいい勝負ができるだろう。

 しかし現状はどうか。鈴音&セシリアVSラウラという二対一の勝負にも関わらず、有利なはずの二人はラウラに追い込まれているではないか。

 すると、セシリアさんが半ば自殺行為ですらある接近戦でのミサイル攻撃をしかけた。

 その爆発は鈴とセシリアさんを巻き込み、二人は床へと叩きつけられる。

 勝負がついた。そんな顔をするが、それも長くは続かなかった。

 煙が晴れ、そこに佇んでいるのはラウラだった。

 至近距離の大爆発ですら、ダメージがほとんど無かったかのように宙に浮いている。

 

「まじかよ。どんな手品使ってんだ?」

 

 ラウラは瞬時加速で地上へと降下、鈴音を蹴り飛ばし、セシリアさんに至近距離からの砲撃を当てる。

 さらにワイヤーブレードが飛ばされ、二人の体を捕まえてラウラの元にたぐり寄せる。

 そこからはただただ一方的な暴虐が始まった。

 

「おい、嘘だろ?」

 

 そして二人のISのシールドエネルギーがあっという間に減り、機体維持警告域を越え、操縦者生命危険域へと到達したところで、普段と変わらないラウラの無表情が確かな愉悦に口元を歪めた。

 その瞬間、弾かれたように一夏が飛び出した。

 俺もそれに続く。

 

「おおおおおっ!」

 

 一夏は白式を展開すると同時に雪片を構築、零落白夜を発動して、アリーナを取り囲んでいるバリアーを切り裂く。

 それによって空いた穴から、修復される前に二人で飛び出す。

 

「二人は任せろ!」

 

「その手を離せ!!!」

 

 俺の声は果たして聞こえただろうか。

 一夏は瞬時加速でラウラに向かっていく。

 

「ふん……。感情的で直線的、絵に描いたような愚図だな」

 

 零落白夜のエネルギー刃が届くその寸前で、ピタッと一夏の体が止まった。

 

「な、なんだ!? くそっ、体がっ……!」

 

 一夏は腕を振り上げたまま下ろさず、零落白夜のエネルギー刃が次第に小さく消えていく。

 

「やはり敵ではないな。この私とシュヴァルツェア・レーゲンの前では、貴様も有象無象の一つでしかない。──消えろ」

 

 レーゲンの肩の大型カノンが接続部から回転し、ぐるんと一夏へと砲口を向ける。

 

「させるかぁ!」

 

「ちっ……。雑魚が……」

 

 一夏にしか視線を向けていなかったラウラに、俺が左から奇襲をかける。

 俺に気付いたラウラは鈴音とセシリアさんを放し、一夏の見えない拘束を解いて距離を取る。

 

「一夏、二人を!」

 

「お、おう!」

 

 一夏が倒れた二人を抱えて瞬時加速で離れたのを確認すると、それを追おうとしたラウラに向かってアサルトライフルを撃つ。

 

「どこ見てんだよ、コラッ!」

 

 左にブレードを構え、ラウラに突進する。

 

「調子に乗るなっ!」

 

 ラウラが手のひらをこちらに向ける。

 俺は弾がまだ残っているにも関わらずアサルトライフルを投げつけ、地面を蹴りあげる。

 アサルトライフルはラウラの目の前で静止している。

 どうやら相手の動きを止める能力のようだ。

 

「ラウラぁ!」

 

 地面を蹴ったことによって巻き上がった土埃の中からラウラに向かって切りかかる。

 

「────!」

 

 ラウラは手刀で応戦するが、俺は攻撃を弾かれれば反対の手を、それを弾かれれば前に弾かれた手を使う。

 

「貴様、何者だ」

 

「うるさいっ!」

 

 気付けば俺は昔のような戦い方をしていた。

 護身よりも殲滅を主に置いた戦い方を。

 その動きを感じ取ったのか、ラウラの表情が強ばったものになっていった。

 

「なぜ、こんなことを!」

 

「貴様に答える義務は無い!」

 

 先程のように手のひらを見せてこないというのは、出来ないのか、弾数に制限があるのか。

 この状況をラウラが打破するには、鈴音とセシリアさんを捕まえていたワイヤーブレードを放つことだろう。

 と、それを考えたところで、ラウラがワイヤーブレードを放つ。

 四ヶ所から放たれたブレードは俺の背中を捉えていた。

 

「月夜、離れて!」

 

 シャルルの声が聞こえ、次の瞬間に弾丸の雨がワイヤーブレードを弾く。

 直後俺はラウラから離れ、代わりにシャルルがアサルトライフルを撃つ。

 ラウラは弾丸の雨を手のひらの前で止める。

 

「月夜、一夏。二人は?」

 

「大丈夫だ」

 

 一夏が鈴音とセシリアさんをアリーナの隅に置いてきたようだ。

 見ればISを纏わずに気を失っている。

 

「よかった」

 

 わずかに安堵した声で答えるシャルルだが、その手は一切休まることがない。

 マガジンが空になればすぐに別の武器に持ち変えて、ラウラへと撃ち続ける。

 

「面白い。世代差というものを見せつけてやろう」

 

 いくら実力があっても俺たち三人を相手にするのは骨が折れるだろう。

 勝機が見えたと心の中で思った──しかし直後、アリーナに入ってきた人影を見て、俺は剣を下ろした。

 

「行くぞ……!」

 

「くっ!」

 

 ラウラがまさに飛び出そうとしたその瞬間、その人影が俺たちの間に割り入ってきた。

 

 ガギンッ!

 

 金属同士が激しくぶつかり合う音が響いて、ラウラはその影に加速を中断させられる。

 

「……やれや)、これだからガキの相手は疲れる」

 

「千冬姉!?」

 

 人影は織斑先生だった。

 しかしその姿は普段と同じスーツ姿で、ISどころかISスーツさえ装着していない。

 けれどその手に持っているのはIS用近接ブレードでたり、一七〇センチはある長大なそれをISの補佐なしで軽々と扱っている。

 その上での今の横やりなのだから、つくづく常人離れしている。

 

「模擬戦をやるのは構わん。──が、アリーナのバリアーまで破壊する事態になられては教師として黙認しかねる。この戦いの決着は学年別トーナメントでつけてもらおうか」

 

「教官がそう仰るなら」

 

 素直に頷いて、ラウラはISの装着状態を解除する。

 アーマーが光の粒子へと変換され、弾けて消えた。

 

「織斑、デュノア、十六夜、お前たちもそれでいいな?」

 

「あ、ああ……」

 

 一夏が素で答えた。

 

「教師には『はい』と答えろ。馬鹿者」

 

「は、はい!」

 

「僕もそれで構いません」

 

「右に同じく」

 

 俺たち三人の言葉を聞いて、織斑先生は改めてアリーナ内すべての生徒に向けて言った。

 

「では、学年別トーナメントまで私闘の一切を禁止する。解散!」

 

 パンッ! と織斑先生が強く手を叩く。

 それはまるで銃声のように鋭く響いた。

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