IS〈インフィニット・ストラトス〉いつか此の手に月を【凍結】   作:生そば

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~第六話~《握手という名の》(5)

 

「………………」

 

「………………」

 

 場所は保健室。

 時間は第三アリーナの一件から一時間が経過していた。

 ベッドでは打撲の治療を受けて包帯を巻かれた鈴音とセシリアさんがむっすーとした顔で視線をあらぬ方向へと向けていた。

 

「別に助けてくれなくてよかったのに」

 

「あのまま続けていれば勝っていましたわ」

 

 元気そうでなによりだ。

 見てのとおり二人は怪我人にも関わらず、まだ強気な態度を取っている。

 

「お前らなあ……。はぁ、でもまあ、怪我がたいしたことなくて安心したぜ」

 

 一夏の言葉に同感。

 ISのお陰もあるのだろうが、大変なことになる前に助けられてよかった。

 

「こんなの怪我のうちに入らな──いたたたっ!」

 

「そもそもこうやって横になっていること自体無意味──つううっ!」

 

「ほら、二人とも動くなって」

 

 ムキになる二人を横にさせる。

 

「一夏、今バカだなって思ったでしょ」

 

「いや、そんなことはない」

 

 一夏はまた何か失礼なことを考えていたらしい。

 幼馴染みの二人の一夏に対する読心術はすごい。

 

「好きな人に格好悪いところを見られたから、恥ずかしいんだよ」

 

「ん?」

 

 シャルルが飲み物を買って戻ってきた。

 すると、シャルルの言葉に鈴音とセシリアさんは、かぁぁっと顔を真っ赤にして怒りはじめた。

 

「なななな何を言ってるのか、全っ然っわかんないわね! こここここれだから欧州人って困るのよねえっ!」

 

「べべっ、別にわたくしはっ! そ、そういう邪推を、されるといささか気分を害しますわねっ!」

 

 ふたりともまくし立てながらさらに顔が赤くなっている。

 

「シャルル、一夏の前で言っても意味が無いんだぜ?」

 

「いや、月夜のことも入ってるんだけど……?」

 

「はっ?」

 

「……まあいいや。はい、ウーロン茶と紅茶。とりあえず飲んで落ち着いて、ね?」

 

「ふ、ふんっ!」

 

「不本意ですがいただきましょうっ!」

 

 鈴音とセシリアさんは渡された飲み物をひったくるように受け取って、ペットボトルの口を開けるなりごくごくと飲み干す。

 

「ま、先生も落ち着いたら帰っていいって言ってるし、しばらく休んだら──」

 

 ドドドドドドドッ……!

 

「な、なんだ? 何の音だ?」

 

 地鳴りのようにも聞こえるそれは、どうやら大勢の人が廊下を走って鳴らしているもののようだ。

 ドカーン! と保健室のドアが文字通り吹き飛ぶ。

 

「織斑君!」

 

「十六夜君!」

 

「デュノア君!」

 

 雪崩れ込んできた。そう、雪崩れ込んできたのだ。

 数十名の女子が。

 ベッドが五つもある広い保健室があっという間に人で埋め尽くされた。

 さらに俺や一夏、シャルルを見つけるなり一斉に取り囲み、バーゲンセールのように手を伸ばしてくる。

 ちょ、怖いわ。どんなホラーだよ。

 

「な、な、なんだなんだ!?」

 

「ど、どうしたの、みんな……ちょ、ちょっと落ち着いて」

 

「「「「これ!」」」」

 

 状況が飲み込めない俺たちに、バン! と女子生徒一同が出してきたのは学内の緊急告知文が書かれた申込書だった。

 

「な、なになに……?」

 

「『今月開催する学年別トーナメントでは、より実践的な模擬戦闘を行うため、ふたり組での参かを必須とする。なお、ペアが出来なかった者は抽選により選ばれた生徒同士で組むものとする。締め切りは』──」

 

「ああ、そこまででいいから! とにかくっ!」

 

 そしてまた一斉に伸びてくる手。

 いや、止めてくれないか。軽くトラウマになりそうだ。

 

「私と組もう、織斑君!」

 

「私と組んで、デュノア君!」

 

「私とおねがい、十六夜君!」

 

 学園内で三人しかいない男子ととにかく組もうと、先手必勝とばかりに勇みきっているようだ。 

 学年別でよかったと思う。二、三年まできたらどうしたことか。

 

「え、えっと……」

 

 シャルルが困り果てた顔で俺の方を見る。

 そう。シャルルは本当は女で、知らない奴とふたりきりにさせるのはまずい。

 いつ正体がバレてしまうかわかったものではない。

 

「あー、ちょっと悪いんだけど!」

 

 わあわあと騒ぐ女子全員に聞こえるようにきっぱりと大きな声で宣言した。

 

「俺とシャルルは一緒に出ることにしてるんだ」

 

 シャルルに向かってニカッと笑う。

 

「まあ、そういうことなら……」

 

「他の女子と組まれるよりはいいし……」

 

「男同士っていうのも絵になるし……ごほんごほん」

 

「さ、あとフリーなのは一夏だぞ!」

 

「え、ちょ、月夜!?」

 

 悪いな、一夏。これもシャルルのためなんだ。

 お前も少しは女子との接し方を改めろ。そのためにもまず目の前の女子たちをさばいてみろ。

 

「あ、あたしと組みなさいよ、一夏! 幼馴染みでしょうが!」

 

「月夜さん。デュノアさんではなく、わたくしと組んでください!」

 

「ダメですよ」

 

 鈴音とセシリアさんがベッドから起き上がろうとした時、それを保健室に入ってきた山田先生が制止する。

 

「お二人のISの状態をさっき確認しましたけど、ダメージレベルがCを超えています。当分は修理に専念しないと、後々重大な欠陥を生じさせますよ。ISを休ませる意味でも、トーナメント参加は許可できません」

 

 休ませずに無理にISを動かせばどんな欠陥が生じてもおかしくはない。

 重なった負荷が、人間で言うところの『過労』状態にするのだ。

 それに対応して進化するのがISなのだから、過労状態を通常として変なエネルギーバイパスを構築なんてしたら、悪影響が出るのは当たり前だ。

 それは代表候補生である二人もわかっているはず。

 

「うっ、ぐっ……! わ、わかりました……」

 

「不本意ですが……非常に、非常にっ! 不本意ですが! トーナメント参加は辞退します……」

 

 うむ。物分かりのいい奴は好きだ。

 

「わかってくれて先生嬉しいです。ISに無理をさせるとそのツケはいつか自分が支払うことになりますからね。肝心なところでチャンスを失うのは、とても残念なことです。あなたたちにはそうなってほしくありません」

 

「はい……」

 

「わかっていますわ……」

 

 今の口振りだと、山田先生にはそんな経験があったということだろうか。

 だから候補生止まりになったのかもしれない。

 うーん、勿体無い。

 

「しかし、何だってラウラとバトルすることになったんだ?」

 

「え、いや、それは……」

 

「ま、まあ、なんと言いますか……女のプライドを侮辱されたから、ですわね」

 

「? ふうん?」

 

 鈴音は挑発に乗り安そうだし、セシリアさんはプライドが高いし。

 まあ、これに懲りて少しは自重するだろう。

 

「ああ。もしかして一夏のことを──」

 

「あああっ! デュノアは一言多いわねえ!」

 

「そ、そうですわ! まったくです! おほほほほ!」

 

 何かピンとひらめいたらしいシャルルを、二人が超特急の勢いで取り押さえた。

 二人から口を覆われて、シャルルは苦しそうにもがく。

 

「こらこら、やめろって。シャルルが困ってるだろうが。それにさっきからケガ人のくせに体を動かしすぎたぞ。ホレ」

 

 ちょっと一回冷静になれよとばかりに一夏が鈴音とセシリアさんの肩を指でつつく。

 ああ、バカめ。

 

「「ぴぐっ!」」

 

 案の定痛みが走ったらしい二人はおかしな言葉かつ甲高い声を上げて、その場で凍りついた。

 

「……………」

 

「……………」

 

「あ……すまん。そんなに痛いとは思わなかった。悪い」

 

 二人の沈黙具合と恨みがましい目を見れば、それがどれくらいの痛みだったかおおよその程度が伝わってくる。

 さすがにやりすぎたと思ったのか、一夏はすぐさま謝った。

 

「い、い、いちかぁ……あんたねぇ……」

 

「あ、あと、で……おぼえてらっしゃい……」

 

 これは後で一夏がどんな目に合うか見ものだ。

 フルコースのデザート付き。しかもドリンクバーもついてくる。

 当然の報いである。

 

 

 

 

 

「あ、あのね、月夜っ」

 

「ん?」

 

 夕食後、部屋に連れ立って戻るなり、シャルルが口を開いた。

 心なしかその語調には勢いがある。

 

「あの、遅くなっちゃったけど……助けてくれてありがとう」

 

「ん、助けた? 俺が?」

 

「保健室でね。トーナメントのペアを言い出してくれたの、すごく嬉しかった」

 

「うーん、べつに助けたってつもりはなかったんだがな」

 

 俺は別段特別なことでもないと思っていたのだが、どうもシャルルにとっては違ったらしい。

 熱心に俺への感謝の意を示そうとしてくる。

 

「そんなことないよ。それが自然と出るのは、月夜が優しいからだよ。誰かのために自分から名乗り出られるなんて、すごく素敵なことだと思う。僕はすごく嬉しかったよ」

 

 さすがはブロンドの貴公子。

 選ぶ言葉の一つ一つにも品があって、妙に照れてしまう。

 

「え、えっと……あ、そだ。俺たちふたりだけの時くらいは無理に男口調にしなくてもいいんだぞ?」

 

「う、うん。僕──私もそう思うんだけど、ここに来る前に『正体がバレないように』って、徹底的に男子の仕草や言葉遣いを覚えさせられたから、すぐには直らないかも」

 

 なるほど、なるほど。

 シャルルの僕っ娘は素なわけだ。

 

「で、でも、その……やっぱり女の子っぽくない、かな? そうだったら月夜とふたりきりの時だけでも普通に話せるようにがんばるけど……」

 

「いや、いい。むしろシャルルの一人称は『僕』のほうがしっくり来る。なあ、シャルル……『僕っ娘』って知ってるか?」

 

「え、月夜?」

 

 どうもシャルルは『僕』という一人称が女の子っぽくないなんて思っているらしい。

 だがそれは違う。

 一般的に『僕』は男性が用いる一人称だが、『僕』を用いる女性はシャルル以外にも存在するし、それは萌え要素の一つになっている。

 

「──ちなみに明治初期の女学生は、それまで男性のものであった教育に対等に参加するという意味合いから一人称として『僕』を使用していたという。つまり『僕っ娘』は萌なんだよ。わかったか?」

 

「う、うん……たぶん……」

 

「そのままでシャルルは可愛い。そういうことだ」

 

「か、可愛い……? 僕が? ほ、本当に? ウソついてない?」

 

「ついてない。俺を信じろ」

 

「そ、そう……なんだ。──うん、じゃあ、別にいいかな」

 

 萌えであり個性でもある要素をあえて捨てる意味はない。

 シャルルはの僕っ娘は守られた。

 

「そういえば色々あってお互いまだ制服着たまんまだったな。俺は外出てくるから先に着替えろよ」

 

「えっ? どうして?」

 

「俺がいたら着替えにくいだろ。だから俺は少し用事を済ませてくる」

 

「そう……なんだ。じゃあ仕方ないね」

 

 そう言ってシャルルは少しがっかりしたような顔をした。

 いや、なんでなのかさっぱり分からないんだが。

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