IS〈インフィニット・ストラトス〉いつか此の手に月を【凍結】 作:生そば
「さて、もう部屋にいるかな?」
シャルルが部屋で着替えてる間、俺はラウラの部屋の前に来ていた。
理由は相変わらずだが、今回は部屋に押し掛けてみるといった手段だ。
まあ、どんな対応をされるかだいたい予想はできる。
「帰れ」
「そう言うと思ったよ。だが断る!」
「………………」
「ここじゃ話しにくいから、部屋に入れてくれよ」
「………………」
「沈黙は是なり、と受け取っていいのか?」
「………………」
寡黙のドイツ代表候補生。その名もラウラ。
尋問における黙秘のつもりだろうか。
いや、拷問なんてしないからな?
「おじゃましまーす」
ラウラは黙ったまま部屋の奥へ。
そして椅子に座り、机の引き出しを開ける。
「ナイフを握るんじゃないよ」
どんだけ信用されてないんだ俺?
「何の用だ」
「前回と同じ」
「………………」
心底うざったそうにされてもめげません。
なぜなら、俺はひとりでいる子を放っておけない性格だから。
俺の性分なんです。理解していただきたい、
「じゃあさ、同類だって言った理由聞きたくない?」
「────!?」
反応あり。やっぱり気になってたか。
デザインチャイルド。簡単に言うと『体を弄られた人間』ということ。
俺は束さんの助手をしていたと同時にボディガードをしていた。
育ててくれた方への恩義やら何やらのつもりだった。
体を鍛えたり、世界中の情報を極秘に入手したり。
その中で得た情報がドイツ軍の『ヴォーダン・オージェ』という技術。
IS適正を向上させるために開発された技術だが、当時のラウラ・ボーデヴィッヒは能力を御しきれず、出来損ないの烙印を押されていた。
しかし織斑千冬がドイツ軍の教官を務めた結果、ラウラ・ボーデヴィッヒは再び最強の座へと返り咲いた。
俺は束さんと一緒に千冬さんのことを心配して、見えないながらも見守っていたのだ。
その中で俺は急成長を遂げたラウラに興味を抱き、調べてみたら──ということ。
「まず、俺が日本人じゃないのは分かるよな?」
一番の特徴である髪を指して説明する。
銀髪にも見えなくもないが、ラウラと同じドイツ出身ではない。
ぶっちゃけ、俺はどこ出身なのかハッキリしていない。
物心付いた時には束さんのそばにいた──というより、束さんに会うまでの記憶が曖昧なのだが。
一番古い記憶というのが、手に持ったコンバットナイフ。
そして『──────』という言葉。
ここは思い出せない。なぜだかわからん。
束さんがポロっと言ったことには、俺は受精卵の時に改造を施された強化人間であるらしい。
一番古い記憶もあってか、あながち冗談ではないと思う。
「とまあ、こんなとこなんだが」
「………………」
ラウラが先程とは違う意味で押し黙る。
「さて、俺のことを話したんだから、ラウラの方も話してもらわないとな!」
「何だ」
「一夏に対する本心を聞きたい」
「────っ」
なぜ貴様に話さなくてはならないのだ? という顔をしている。
なぜ? 別に強制はしてないし、俺の興味の域を出ない問題だ。
ただ、俺がどうしても知りたいだけ。
ラウラが孤立するのを見ていられないだけ。
「さあ、さあ、さあさあさあさあ!」
「私はあいつを許さない。ただそれだけだ」
「いや、ラウラと一夏は初対面だろ。何を許さないんだよ」
「貴様に話しても分かるまい」
「一夏に教官を取られたとか思ってるのか?」
その言葉にラウラがピクッと反応した。
口には出さないけど、分かりやすいな。
「それは逆恨み──いや、逆恨みにもならないよな。一夏本人はラウラと千冬さんとの間に入ったわけじゃないんだから」
そうなると、ラウラが一夏を殴る理由はどこにあるのか。
この間のラウラと千冬さんの言い争いの内容からすると、ラウラは千冬さんを取り戻そうとしているようだったわけだし。
千冬さんのこの場所でのやることとは?
弟想いなあの人だ。一夏を一人前にしたいと思っているに違いない。
ああ、そうか。千冬さんは一夏に取られたんじゃなく、千冬さん自身が一夏の元へ行ったんだ。
「やはり貴様にはわかるはずもない」
「そうか? 俺はラウラが抱いている感情が少しだけわかったと思うんだが?」
「何だと?」
「ラウラ自身がそれを理解してないだけだ。俺から言えることは、憎しみとかそういう類いのものじゃない。ってこと」
ラウラは俺の言っていることがわからないようだ。
それを俺が教えるのはよくない。
納得できない答えを押し付けられても、反発するのが当然。
俺は孤立する子を放っておけないが、俺自身も孤立したくない。
皆で仲良く。それが一番。
「今日はこれくらいでいいや。じゃ、おやすみ」
「………………」
俺が出ていく時も、ラウラは考え込んでいた。
考えて考えて。それでも分からないなら教えてやる。
そうだな、学年別トーナメントまでというのはどうだろう。
うむ、それがいい。
「シャルル、ただいまー」
「え、月夜? ちょ、ちょっと待っ──きゃんっ!」
俺が部屋の扉を開けた直後、シャルルの悲鳴と共にどたっと何かが転がる音が響いた。
「シャルル!? 大丈夫……か?」
急いで奥に行くと、シャルルが床に転がっていた。
「いたた……。足がひっかかっちゃっ……え?」
俺はシャルルの格好を見て背を向けた。
シャルルはズボンを足に引っかけて床に転んでいた。
上は男装用コルセットだけを身につけ、下は膝下でひっかかったズボン以外は下着。
体勢を崩して転んだシャルルは、ちょうどお尻を突き出すような格好で四つん這いになっていた。
形のいいお尻にきゅっと食い込んだ淡いピンク色のパンツが脳裏から離れない。
「っ~~~~~~!!!!」
シャルルが声にならない声を上げている。
きっと顔を真っ赤にしているに違いない。
「月夜……、見た?」
布が擦れる音が聞こえ、シャルルが訪ねてくる。
見たというのはたぶんアレ。
「あ、淡い……ピンク?」
「月夜のバカぁ!」
うん、誤魔化すべきだっ──
しゃ、シャルルが顔を真っ赤にして殴ってきた。
それを反射的に避けようとしたのがまずかった。
シャルルはフランスの代表候補生。
通常の女の子よりも数段早い左フックが、運悪く顎にヒット……
「ご、ゴメン! …………って、朝?」
気がつくと早朝。
気を失っていたようだ。それだけシャルルの攻撃力が高かったということ。
侮りがたし、フランスの貴公子。
「んー、……ん?」
なんか寝てる間にされたような、されなかったような。
ほのかに甘い香りがする。
俺はなんとなくで額を擦っていた。
しかし、気のせいだろうと考えるのをやめた。
「…………、まだ眠いけど」
昨日、シャルルに殴られて気を失ったためシャワーを浴びていないことに気づく。
シャルルが起きる前に浴びてこよう。