IS〈インフィニット・ストラトス〉いつか此の手に月を【凍結】   作:生そば

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初めまして『生そば』です。
今回初めて二次創作を書きました。
あらすじの最後に書いた通り鈍ガメ投稿ですが、どうぞよろしくお願いします。


第一章《零式=Type-0=》
~第一話~《男女比は幾つ?》(1)


 俺はこの扉の向こうに行っても良いのだろうか。

 パアンッ! という二度に渡る乾いた音は、先程教室に入った先生の物だろう。

 持っていた物からして、恐らく通信簿。

 そしてすぐ後に響く、大勢の女子の歓声。

 この扉を開けたら最後、俺は──

 

「さっさと入って来い、馬鹿者が」

 

 パアンッ! と叩かれた。すげぇ痛い。

 

「あぁ……脳が二つに割れたぁ」

 

「良かったな。これからは同時に二つの事が考えられるぞ」

 

 冷たい声に顔をあげると、黒のスーツにタイトスカート、すらりとした長身、よく鍛えられているがけして過肉厚でないボディライン。組んだ腕。狼を思わせる鋭い吊り目。

 

「えっと、お疲れ様です。姉御」

 

 パアンッ!──二度目の直撃。きっと脳が三つになったに違いない。

 

織斑(おりむら)先生と呼べ。私はどこぞのヤクザではないぞ」

 

 だってそんな風に見えたんだもの。

 

「はい、織斑先生」

 

「さっさと自己紹介をして席に着け」

 

 織斑先生に言われて慌てて教卓の前に出る。

 教室中の女子の視線が俺に向く。

 なにこれ、凄く気まずいだが。

 男女比幾つだよ、これ。

 

「えっと……、十六夜(いざよい)月夜(つくよ)です。よろしくお願いします」

 

「十六夜月夜って、あの?」

「男? 女? どっち?」

「綺麗だなぁ」

 

 まぁ初対面だから仕方がないよな。

 今の俺は寛大な『男』だ。

 昔から見た目が女の子のようだから『女男』なんて弄られた物だが、今となってはもう慣れたものだ。

 

「…………(じー)」

 

 なんだよその『もっと聞きたいなぁ!』とでも言いたげな期待に満ちた眼差しは。

 何か他に喋れと? なんて無茶振りをしやがる。

 

「……あっ」

 

 そういえば目の前にいるこの生徒、男だ。

 あぁ、そうか。こいつが織斑一夏(いちか)だな。

 世界で初めてISを動かした少年。そしてこの俺十六夜月夜は二人目。

 当時は随分とニュースに取り上げられた物だ。

 ん、思い付いたぞ。次の台詞が!

 

「ISを動かせるって以外はただの日本男児なので、遠慮無く話しかけてください。以上です」

 

 言い終えて堂々と席に着く。

 一夏の真後ろの席だ。

 

「よろしく、織斑」

 

「あぁ、よろしく。一夏でいいぜ」

 

「んじゃ、俺も月夜でな」

 

 この場所で自分以外の唯一の男子として、互いに握手を交わした。

 するとその瞬間、女子達がまた騒ぎ出す。

 

「二人の男子よ。二人も!」

「A組になってよかった!」

「私、今年はツイてるわ!」

「遠慮無く話しかけてくださいって言ってたよね!?」

 

 盛り上がる女子たちを、織斑先生が手を叩いて沈める。

 鶴の一声とはこの事か。見事だ。

 

「……毎年、よくもこれだけ馬鹿者が集まるものだ。感心させられる。それとも何か? 私のクラスにだけ馬鹿者を集中させてるのか?」

 

 本気でうっとうしがっているように見える。

 クラスメイトが元気で何よりだ。

 

「で? 挨拶も満足にできんのか、お前は」

 

「いや、千冬(ちふゆ)姉、俺は──」

 

 パアンッ! お気の毒にも、一夏は本日三度目の通信簿アタックのようだ。

 いつか記憶が飛ぶんじゃないか?

 

「織斑先生と呼べ」

 

「……はい、織斑先生」

 

 ん、そうか。名字が同じだからもしやとは思ったが。

 この二人は姉弟だったのか。

 

「え……? 織斑くんって、あの千冬様の弟……?」

「それじゃあ、男で『IS』を使えるっていうのも、それが関係して……」

「あぁっ、いいなぁっ。代わってほしいなぁっ」

 

 最後のは同感できんな。

 こんなビシバシ叩かれてたら、日常的にヘルメットを被りたくなる。

 そして、一応言っておこうか。

 肉親がISを使えるからと男でもISが使えるなんて事があるわけがない。

 俺と一夏は世界で二人だけの『IS』を使える男としてここ、公立IS学園にいる。

 ISとは正式名称を『インフィニット・ストラトス』といい、女にしか動かせない飛行パワードスーツだ。

 本来は宇宙空間での活動を想定して作られたマルチフォーム・スーツだが、宇宙進出は一向に進まず兵器に変わり、その後は各国の思惑からスポーツにと落ち着いたのだ。

 しかし、女以外には反応しないはずのISを動かした男が二人だけいる。

 それが俺こと十六夜月夜と、織斑一夏だ。

 そしてIS学園とはISパイロットを養成するための機関なのだ。

 

「さあ、SHRは終わりだ。諸君らにはこれからISの基礎知識を半月で覚えてもらう。その後実習だが、基本動作は半月で体に染み込ませろ。いいか、いいなら返事をしろ。よくなくても返事をしろ、私の言葉には返事をしろ」

 

 なんという鬼教官だろう。

 そう言えば織斑千冬は第一世代のIS操縦者の元日本代表で、戦歴無敗の『ブリュンヒルデ』と呼ばれていた。

 ある日突然引退してしまったが、まさか学園の教師をしていたとは。

 まぁ、元日本代表が学園で生徒の指導をするのは学園側としては断る意味は無いだろう。

 この学園内でもかなり恵まれた環境にいるのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぁ~……、眠い」

 

 大きく欠伸をして呟く。

 しかしいくら眠くても寝れる筈がない。

 廊下には二、三年の生徒達が噂の二人の男性IS操縦者を見物に来ているのだ。

 ここで、俺の容姿が役に立つ。

 机に座っていればスカートかズボンか分かりにくいので、必然的に視線は一夏へと多く向く。

 その一夏は先程、ポニーテールの女子と何処かに行ってしまった。

 

「ねぇねぇ、ツッキー」

 

 突然肩をつつかれた。

 布仏本音。袖口が異様に長く、どこかのほほんとした雰囲気を持つ女子。

 『のほとけほんね』、略して『のほほん』さんでいいか。

 

「ツッキーって、俺の事?」

 

「うん、『月夜』だから『ツッキー』だよぉ」

 

 まぁ悪くない。

 硬い態度を取られても、そっちの方が気まずい。

 

「何かな、のほほんさん?」

 

「えっとね、ツッキーの髪って綺麗だよねぇ」

 

 俺の髪は白と言うには濃く、グレーと言うには薄い、ムーングレーという色をしている。

 これは生まれつきの物で、別に脱色したということはないのだ。

 

「生まれつきなんだ。綺麗……か?」

 

「うん、女子として羨ましい程だよぉ」

 

 男として複雑です。

 

「十六夜君ってどこの学校にいたの?」

「その美貌の秘訣を!」

「好きな人とか!」

「趣味って何?」

 

 と、のほほんさんに続いてクラスの女子達が押し寄せてきた。

 女子らしい黄色い話題や、そんな物答えられるかと言う程の質問まで。

 

「……なぁ。あの子って誰?」

 

 クラス中の女子が立ち上がっている中で、唯一席についている女子がいた。

 長い金髪で、ドリルのようにクルクルした髪の女子。

 IS学園は国籍に関わらず入学できる。

 よって外国人なんて珍しくないのだが、この1組の中では目立っていた。

 

「セシリーのこと?」

 

「セシリー……、ん?」

 

 どこかで聞いたことがあるような、ないような。

 芸能人か? いや、それならさすがにわかるか。

 

「セシリア・オルコット。イギリスの代表候補生だよ」

 

 うん、やっぱり分からないや。

 とは言え、代表候補生ならばISの操縦に関してはかなりの腕のはず。

 仲良くしておいた方が良いだろう。

 試しに話しかけてみよう。

 

「えっと……」

 

 何と話しかけようか。

 こういうのは第一印象が大切だ。

 

「ちょっといいかな?」

 

「何かしら」

 

 無難に話しかけたところ、セシリアは俺を一瞥しただけだった。

 ISが開発されてから10年。

 ISが女性しか扱えないことから、女尊男卑が当たり前の社会になってしまった。

 クラスの中では、セシリア以外の女子はそんなことは気にしていないようだが、セシリアは女尊男卑を気にするタイプの人なのだろう。

 

「十六夜月夜だ。よろしく、オルコットさん」

 

「よろしくですわ。で、何かしら?」

 

「えっ、とぉ……。一年間同じクラスなんだし、ISの操縦でアドバイスしてくれたら嬉しいなぁ……って」

 

「よろしくてよ」

 

 そう言ってセシリアは会話を切った。

 これは難儀な相手のようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「一夏、さっきの誰だよ」

 

「箒のことか?」

 

 二時限目が終了し、俺は一夏と駄弁っていた。

 

「ポニーテールの女子な」

 

「篠ノ之箒って言って、俺の幼馴染みだ」

 

「篠ノ之って、もしかして束さんの妹か?」

 

「あぁ、そうだぞ?」

 

 確かにつり目な所は似てるな。

 とは言っても、束さんのつり目は寝不足による物だが。

 束さんには妹がいたけど、あの子か。

 

「月夜は束さんを知ってるのか?」

 

「知ってるも何も、束さんは俺の師匠だ」

 

 俺はIS学園に来る前に、束さんの元で助手のようなことをしていた。

 そのためISの事はある程度知っているが、操縦の方はまったく練習していない。

 自分がISを使える事に気が付いたのは一夏と同じ時期。

 

「マジか!? じゃあ、月夜はISの操縦上手いんだろうなぁ」

 

「いや、そんなに変わらないはずだ。遊び半分で打鉄を動かしただけだからな」

 

 あの時の俺はバカだった。

 ISかなぜ女にしか反応しないのかを研究し、結局わからずに乗ってみただけ。

 実際は、俺自身がISを操縦して空を飛んでみたかっただけだ。

 

「でもISには詳しいんだろ? 俺はまったくでさ」

 

 と、そこでセシリアが立ち上がり、こっちに来るのが見えた。

 

「ちょっとよろしくて?」

 

「へ?」

 

 セシリアは先程と同じようにつり上がった目で、一夏の事を見ていた。

 

「オルコットさん?」

 

「先程はどうも……で、貴方は?」

 

 どうやらセシリアは一夏をご指名のようだ。

 一夏もすみに開けない奴だ。

 

「訊いてます? お返事は?」

 

「あ、ああ。訊いてるけど……どういう用件だ?」

 

 するとセシリアは随分とわざとらしく声をあげる。

 

「まぁ! なんですの、そのお返事。わたくしに話しかけられるだけでも光栄なのですから、それ相応の態度というものがあるんではないかしら?」

 

「悪いな。俺、君が誰か知らないし」

 

 一夏め。セシリアの自己紹介を聞いていなかったのか?

 

「わたくしを知らない? このセシリア・オルコットを? イギリスの代表候補生にして、入試首席のこのわたくしを!?」

 

 へぇ、入試首席なのか。

 やっぱり代表候補生は凄い。

 

「あ、質問いいか?」

 

「ふん。下々のものの要求に応えるのも貴族の務めですわ。よろしくてよ」

 

「代表候補生って、何?」

 

 がたたっ。聞き耳を立てていたクラスの女子数名がずっこけた。

 そして俺もだが。

 

「あ、あ、あ……」

 

「「『あ』?」」

 

「あなたっ、本気でおっしゃってますの!?」

 

 凄い剣幕だ。

 代表候補生として有名であるプライドがあるのか。

 セシリアは確かに貴族と言っても差し支えない。

 

「おう。知らん」

 

「………………」

 

 セシリアは怒りが一周して逆に冷静になったのか、頭が痛そうにこめかみを人差し指で押さえながらぶつぶつ言い出した。

 

「信じられない。信じられませんわ。極東の島国というのは、こうまで未開の地なのかしら。常識ですわよ。常識。テレビがないのかしら……」

 

 おそらく日本のニュースで登場する代表候補生は、日本の代表候補生だと思う。

 

「で、代表候補生って?」

 

「国家代表IS操縦者の候補生として選出される、その国のIS操縦者の中のエリートさんだな」

 

「なるほど。ありがとう、月夜」

 

「そう! エリートなのですわ!」

 

 びしっと一夏に向けたセシリアの人差し指が、鼻に当たりそうなくらい近かった。

 

「本来ならわたくしのよあな選ばれた人間とは、クラスを同じくすることだけでも奇跡……幸運なのよ。その現実をもう少し理解していただける?」

 

 いや、それほど奇跡ではないと思う。

 

「そうか。それはラッキーだ」

 

「……馬鹿にしてますの?」

 

「オルコットさんが言ったんじゃないか」

 

「あなたには関係無いでしょう!」

 

「関係無い訳ないだろ。男を馬鹿にするその態度、あぁ気に入らねぇ!」

 

「へっ?」

 

 突然、セシリアが素っ頓狂な声を出した。

 

「な、何だよ」

 

「あなた、男ですの?」

 

「あぁ、そうだよ」

 

 制服を見れば男であることは明白。

 第一、自己紹介の時言っただろう。

 いったい何を聞いていたんだが。

 

「男ならば男らしく振る舞うべきではなくて?」

 

「なんだと? 俺のどこが男らしくないって言うんだ!」

 

『見た目』

 

「なぁっ!?」

 

 セシリアや一夏だけでなく、回りの女子までもが声を揃えて同じことを言いやがった。

 

「俺だって好きでこんな見た目になった訳じゃないのに……」

 

「気を落とすなよ、月夜」

 

「ありがとう、一夏」

 

 この中で慰めてくれたのはお前だけだ。

 やっぱり一夏は他の誰かとは違うものを持っているよ。

 

「言い過ぎだぞ、セシリア」

 

「本当のことを言ったまでですわ」

 

 現実という鋭い槍が、人の心の傷を抉るのだよ。

 

「大体、あなたISについて何も知らないくせに、よくこの学園に入れましたわね。唯一男でISを操縦できると聞いていましたから、すこし暗い知的さを感じさせるかと思っていましたけど、期待はずれですわね」

 

「俺に何かを期待されても困るんだが」

 

「ふん。まあでも? わたくしは優秀ですから、あなたのような人間にも優しくしてあげますわよ」

 

 人の心を抉るのがセシリアの優しさか。

 お前の優しさは歪んでいるぞ。

 

「ISのことでわからないことがあれば、まあ……泣いて頼まれたら教えて差し上げてもよくってよ。何せわたくし、入試で唯一教官を倒したエリート中のエリートですから」

 

「入試って、あれか? ISを動かして戦うってやつ?」

 

「それ以外に入試などありませんわ」

 

「あれ? 俺も倒したぞ、教官」

 

「は……?」

 

 セシリアは一夏が言ったことが相当ショックだったのか、目を驚きに見開いている。

 

「わ、わたくしだけと聞きましたが?」

 

「女子ではってオチじゃないのか?」

 

 ピシッ。今、踏んではいけないものの音がした。

 

「まさか、あなたも?」

 

「もちろん。ちなみに入試首席も男子で一位な」

 

 教官の使ってきた気体は第二世代のラファール・リヴァイヴだった。

 バランスが良く改造しやすい機体だが、俺の前では敵ではない。

 

「しゅ、首席?」

 

「そもそもISはスポーツだろ。男女を一緒にする事そのものが間違ってる」

 

 女尊男卑のこの社会では、まったく逆の意味でだろうが。

 

「つ、つまり、わたくしだけではないと……?」

 

「そうだな」

 

「あなた! あなたも教官を倒したって言うの?」

 

「うん、まあ。たぶん」

 

 声が大きい。一夏が耳を塞ごうかと迷っているぞ。

 

「たぶん!? たぶんってどういう意味かしら!?」

 

「えーと、落ち着けよ。な?」

 

「こ、これが落ち着いていられ──」

 

 キーンコーンカーンコーン。

 話に割って入ったのは三時間目開始のチャイムだった。

 

「っ……! またあとで来ますわ! 逃げないことね! よくって!?」

 

 断れずに俺も一夏もうなずいておいた。




本作の主人公は
十六夜(いざよい)
月夜(つくよ)
という読み方です。
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