IS〈インフィニット・ストラトス〉いつか此の手に月を【凍結】   作:生そば

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~第七話~《その気持ち、その想い》(1)

 

 学年別トーナメント当日。

 辺りでは学食のタダ券目当ての女子たちが活気づいている。

 そんな中──

 

「月夜、大丈夫?」

 

「なんとか」

 

 俺は重い瞼が今にも落ちそうだ。

 実は新機能を試せる機会が無かった為、想定で調整をしていた。

 それを熱心にやっていたら、朝日が昇っていたのに気が付いたのだ。

 

「そのような体調で大丈夫なのか?」

 

 珍しく箒が心配してくれる。

 

「自信無い。でも頑張る」

 

「僕たちの試合が始まるまで休んでる?」

 

「そのような時間は無いようですわ」

 

 トーナメントの組み合わせを見に行ったセシリアさんと一夏が戻ってきた。

 

「月夜、大丈夫か?」

 

「あはあ、それより時間がないってのは……まさか」

 

「月夜さんとデュノアさんの出番は第一試合。しかもその相手は……」

 

 セシリアさんが言いにくそうにうつむいた。

 それを見かね、一夏が代弁する。

 

「ラウラだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「エネルギーバイパスよーし、武装チェックよーし、その他オールグリーン」

 

 ざっと零式の点検を終え、目覚ましに手で頬を叩く。

 バチンッ! という音がピットに響き、それに驚いたシャルルが駆け寄ってきた。

 

「月夜、今すごい音がしたけど……?」

 

「う、うん。大丈夫」

 

 嘘だ。頬がビリビリする。

 

「そ、そう? じゃあ、作戦内容の確認だけど……」

 

「シャルルがラウラの気を引く。俺はもう片方を撃破後すぐに合流して、二対一で。だな?」

 

 正直、この学園の生徒を有象無象にしか見ていないラウラが連携を取るとは思えない。

 シュヴァルツェア・レーゲンのAICというシステムは近接格闘型の俺には部が悪い。

 白式のように一撃必殺の攻撃があれば別だろう。

 という訳で、シャルルは中距離からラウラを牽制。

 俺は片方を一刻も早く撃破しないといけないわけだ。

 

「準備完了だ。シャルルは?」

 

「僕も終わったよ。頑張ろう、月夜」

 

「おう!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よっ、ラウラ」

 

「………………」

 

 アリーナに入り、戦闘開始の合図が鳴る前。

 ラウラは俺を見て気まずそうに黙り込む。

 

「月夜、ラウラと何かあったの?」

 

「特にこれと言ったことはないと思うけど」

 

「????」

 

 今は気まずそうにしていても、ラウラは軍人。

 戦闘開始と同時に気持ちを切り替えてくるだろう。

 

「あ、あの……ボーデヴィッヒさん」

 

「邪魔をするなよ?」

 

「う、うん。わかった……」

 

 あらら。コンビを組んだ子が可哀想だ。

 もうちょっと優しくしてあげなよ、ラウラ。

 

『これより学年別トーナメント第一回戦を始めます』

 

 アナウンスと同時に全員が真剣な顔をする。

 まだか、合図はまだかと神経を尖らせていく。

 

『それでは、試合を開始してください』

 

 アリーナ内全員のISがスラスターを吹かして前方へ飛び出す。

 俺とシャルルはともにラウラの方へ、

 

「集中攻撃か。面白い!」

 

「それはどうかな?」

 

 俺はラウラの数メートル手前で方向転換。

 ラウラのパートナーの方へ向かう。

 

「いくよ、ラウラ!」

 

 俺の代わりにシャルルがラウラの相手をする。

 ラウラが舌打ちしたのが見えた。

 

「こっちも行くぞ!」

 

「いっくよー、十六夜君!」

 

 打鉄が近接ブレードを構えて突っ込んでくる。

 武装は近接ブレードとアサルトライフル。

 俺の接近に合わせて武装を変えたのだろう。

 

「悪いが、こちとら長く付き合えそうもないな!」

 

 こちらも近接ブレード『葵』改二本を構えて突進。

 接触と同時に鍔迫り合いが始まる。

 

「負けないよ!」

 

「俺だってな!」

 

 左脚をクローモードにして、打鉄の脚部を掴む。

 

「しまった!」

 

「ぶっ飛べぇ!」

 

 掛け声とともに、回し蹴りの要領で打鉄をアリーナの壁に目掛けて投げ飛ばす。

 間髪入れず、砂埃にブレードを突き出して突進する。

 しかし、投げ飛ばされる時に受け身を取ったのか、予想よりも早く打鉄が現れる。

 向こうは俺がとどめに来るのを予想していたのか、煙の中からブレードで斬りかかってきた。

 

「もらったぁ!」

 

「────っ!」

 

 反射的に体の軸をずらし、直撃を避ける。

 相手のブレードはシールドをかすりながら軌道を変えていく。

 

「うそっ!?」

 

 まさかの緊急回避に驚いた表情を、零式のハイパーセンサーは瞬きのひとつすら認識する。

 

「長く付き合えそうもないと言ったろ?」

 

 零式のブレードが相手の腹部でシールドエネルギーを削る。

 そして間も無く相手は動かなくなった。

 

「じゃな。まだ試合中だから」

 

 相手のシールドエネルギーがゼロになったのを確認し、脱兎のごとく地面を蹴る。

 

「シャルル!」

 

「月夜!?」

 

「ふん、遅かったな」

 

「言ってろ。これでも急いだんだ」

 

 シャルルと合流し、ブレードをライフルモードにしてラウラを牽制する。

 

「大丈夫だったか?」

 

「問題ないよ。じゃ、フェイズⅡに移行だね!」

 

 フェイズⅠは今までの流れ。

 そしてフェイズⅡは俺とシャルルで様々なフォーメーションを使っての、ラウラ撃破だ。

 

「フォーメーション、S32」

 

「了解」

 

 俺の声に、シャルルが即座に返答する。

 シャルルは俺が背中に張り付いたのを確認してからアサルトライフルでラウラに向かって突進。

 リヴァイヴと零式の二つのスラスターで加速して一気にラウラに接近する。

 そして接触間際、俺はシャルルの背後から躍り出てラウラに斬りかかる。

 かろうじてブレードの切っ先をラウラがかわし、隙だらけになった俺の背中に向けてラウラか手刀を振り下ろす。

 だが、そう来るのは俺たちの計算通り。

 俺は滑らかに体を退避させ、空振ったラウラの上方から、シャルルが弾丸の雨を降らせた。

 

「くっ、この……。なめるなぁ!」

 

 シールドエネルギーを幾ばかりか削られたラウラが、弾丸の雨によって巻き上がった砂埃から出てくる。

 

「シャルル、行けるぞ!」

 

「月夜。フォーメーション、D07」

 

「了解!」

 

 このまま、つけいる隙を与えずラウラを倒してやる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何だというのだ。

 シャルルは代表候補生だからまだいいが、月夜まで。

 この間の戦闘ではこのような連携など取れるレベルではなかったというのに。

 あの時の戦闘は本気ではなかったということか!?

 

「フォーメーション、F52!」

 

「了解!」

 

 月夜の、あるいはシャルルの声に合わせて、私を翻弄するフォーメーションを組んでくる。

 この私が押されている?

 そんな筈はない。

 私は教官の厳しい訓練によって、出来損ないから最強の位へと登り詰めたのだ。

 たとえ代表候補生であろうと、軍人でもない貴様等に私が負けるなど有り得ない!

 

「やっと間合いに入れた」

 

 不覚にも体勢を崩されてしまった私の懐で、シャルルが不敵に笑った。

 

「それがどうした! 第二世代型の攻撃力では、このシュヴァルツェア・レーゲンを墜とすことなど──」

 

 そこまで言って私はハッとした。

 そう、単純な攻撃力だけなら第二世代型最強と謳われた装備があることに気が付いたのだ。

 

「この距離なら、外さない」

 

 盾の装甲がはじけ飛び、中からリボルバーと杭が融合した装備が露出する。

 六九口径パイルバンカー《灰色の鱗殻》。通称──

 

「『盾殺し』……!」

 

 シャルルは左拳をきつく握りしめ、叩き込むように突き出す。

 AICによる全身停止は間に合わない。

 近距離から突き出される杭をピンポイントで止めなければ、直撃だ。

 

「!!!」

 

 そして私は狙いを外してしまった。

 一瞬、ほんの一瞬だけシャルルの顔が笑みを浮かべる。

 それはさながら死を宣告する天使の様相であった。

 眩いほどに、罪深い、その笑み。

 

 ズガンッ!!!

 

「ぐううっ……!」

 

 私の腹部に、パイルバンカーの一撃が叩き込まれる。

 レーゲンのシールドエネルギーが集中して絶対防御を発動して防ぐものの、そのエネルギー残量をごっそりと奪われる。

 しかも相殺しきれなかった衝撃が深く体を貫き、私は苦悶に表情を歪めた。

 さかし、これで終わりではない。

 《灰色の鱗殻》はリボルバー機構により高速で次弾炸薬を装填する。──つまり、連射が可能なのだ。

 

 ズガンッ! ズガンッ! ズガンッ!

 

 続けざまに三発を撃ち込まれ、機体に紫電が走り、IS強制解除の兆候を見せ始める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 こんな……こんなところで負けるのか、私は……!

 確かに相手の力量を見誤った。

 それは間違えようのないミスだ。

 しかし、それでも私は負けられない。負けるわけにはいかない!

 ラウラ・ボーデヴィッヒ。それが私の名前。識別上の記号。

 一番最初につけられた記号は──遺伝子強化試験体C-0037。

 人工合成された遺伝子から作られ、鉄の子宮から生まれた。

 ──暗い。暗い闇のなかに私はいた。

 ただ戦いのために作られ、生まれ、育てられ、鍛えられた。

 戦いにおけるあらゆる技術と知識を会得し、私は最高レベルの成績を出し続けた。

 それがある時、世界最強の兵器──ISが現れたことで世界は一変した。

 その適合性向上のために行われた処置、疑似ハイパーセンサー『ヴォーダン・オージェ』によって異変が生まれたのだ。

 危険性はまったくない。理論上では不適合も起きない──はず、だった。

 しかし、この処置によって私の左目は金色へと変質し、常に稼働状態のままカットできない制御不能へと陥った。

 この『事故』により私は部隊の中でもIS訓練において後れを取ることになり、『出来損ない』の烙印を押された。

 世界は一変した。──私は闇からより深い闇へと、止まることなく転げ落ちていった。

 そんな私が、初めて目にした光。

 それが教官との……織斑千冬との出会いだった。

 あの人は強かった。凛々しかった。堂々としていた。

『ここ最近の成績は振るわないようだが、なに心配するな。一ヶ月で部隊内最強の地位へと戻れるだろう。なにせ、私が教えるのだからな』

 その言葉に偽りはなく、特別私だけに訓練を課したというこもはなかったが、あの人の教えを忠実に実行するだけで、私はIS専門へと変わった部屋の中で再び最強の座に君臨した。

 そして、私はあの人に強烈に、深く、憧れた。

 ──ああ、こうなりたい。この人のようになりたい。

 そう思ってからの私は、教官が帰国するまでの半年間に時間を見つけては話にいった。

 その中のとある日、私は教官に訪ねた。

 

「どうしてそこまで強いのですか? どうすれば強くなれますか?」

 

 その時──ああ、その時だ。あの人が、鬼のような厳しさを持つ教官が、わずかに優しい笑みを浮かべた。

 私は、その表情になぜだか心がちくりとしたのを覚えている。

 

「私には弟がいる」

 

「弟……ですか」

 

「あいつを見ていると、わかるときかある。強さとはどういうものなのか、その先に何があるのかをな」

 

「……よくわかりません」

 

「今はそれでいいさ。そうだな。いつか日本に来ることがあるなら会ってみるといい。……ああ、だが一つ忠告しておくぞ。あいつに──」

 

 優しい笑み、どこか気恥ずかしそうな表情。

 それは、違う。私が憧れるあなたではない。

 あなたは強く、りりしく、堂々としているのがあなたなのに。

 だから許せない。教官にそんな表情をさせる存在が。

 

 

 ──なぜ?

 

 

 そんな風に教官を変えてしまう弟、それを認められない。

 認めるわけにはいかない。

 

 

 ──変わるのはいけないことなの?

 

 

 黙れ。貴様には関係ない。

 敗北させると決めたのだ。あれを、あの男を、私の力で、完膚なきまでに叩き伏せると!

 

 

 ──それは只の逆恨みじゃない。

 

 ──何にせよ、まずは壁を越えなきゃならないわ。

 

 

 そうだ。私はこんなところで負けるわけにはいかない。

 あの男を叩き伏せるには、目の前の障壁を越えなければならない。

 貴様もそうだ。

 知ったような口ぶりで人の中に入ってこようとする。

 目障りだ。

 徹底的に壊す。そうだ。そのためには

 

 

 力が、欲しい。

 

 

 ドクン……と、私の奥底で何かがうごめく。

 そして、そいつは言った。

 

『──願うか……? 汝、自らの変革を望むか……? より強い力を欲するか……?』

 

 言うまでもない。力があるのなら、それを得られるのなら、私など──空っぽの私など、何から何までくれてやる!

 だから、力を……比類無き最強を、唯一無二の絶対を──私によこせ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 Damage Level ── D.

 Mind Condition──Uplift.

 Certification──Clear.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《Valkyrie Trace System》──boot.

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