IS〈インフィニット・ストラトス〉いつか此の手に月を【凍結】   作:生そば

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~第七話~《その気持ち、その想い》(3)

 

「う、ぁ…………」

 

 ぼやっとした光が天井から降りてくるのを感じて、ラウラは目を覚ました。

 

「気がついたか」

 

 その声には聞き覚えがある。

 聞き覚えがある──どころではない。

 どこで聞こうと一瞬で判断できる。

 自らが敬愛してやまない教官こと織斑千冬だ。

 

「私……は……?」

 

「全身に無理な負荷がかかったことで筋肉疲労と打撲がある。しばらくは動けないだろう。無理をするな」

 

 千冬はそれとなくはぐらかしたつもりだったが、そこはさすがにかつての教え子。

 簡単には誘導されてはくれなかった。

 

「何が……起きたのですか……?」

 

「おい、ラウラ。無理するなって」

 

「い、十六夜月夜!?」

 

 無理をして上半身を起こしたラウラだったが、突然現れた月夜に目を丸くする。

 月夜は以前の『無人IS襲撃事件』の件から、ISの問題に関する事件に積極的に呼ばれている。

 今回のヴァルキリー・トレース・システム──通称、VTシステムについても少なからず知識はあったため、シュヴァルツェア・レーゲンの調査にも携わっていたのだ。

 

「何故、貴様がここに……?」

 

「ん? 見舞いだが?」

 

「────!?」

 

 当たり前だろ? とでも言いたげな月夜の顔と、彼の言葉にラウラは頬を赤くする。

 

「友達なんだから、それくらいしたっていいじゃねえか」

 

 そう言いながら月夜はラウラを再び横にさせる。

 

「…………ぁぅ」

 

「ラウラ?」

 

「いや、何でもない!」

 

 月夜は友達だと言った。

 しかしラウラは目の前の彼に惹かれ、惚れてしまったのだ。

 どうしたらいいのだろう。

 幼くとも軍属であるラウラには、友達にどう接していいのかすらわからなかった。

 

「で、何が起きたのですか?」

 

 ラウラは横になりながら問う。

 

「VTシステムは知っているな?」

 

「はい。ですがあれは」

 

「そう、IS条約で現在どの国家・組織・企業においても研究・開発・使用すべてが禁止されている。それがお前のISに搭載されていた」

 

「………………」

 

「巧妙に隠されていたがな。操縦者の精神状態、機体の蓄積ダメージ、そして何より操縦者の意志……いや、願望か。それらが揃うと発動するようになっていたらしい。現在学園はドイツ軍に問い合わせている。近く、委員会からの強制捜査が入るだろう」

 

 千冬の言葉を聞きながら、ラウラはぎゅぅっとシーツを握りしめた。

 その視線はいつの間にかうつむき、眼下の虚空をさまよっていた

 

「おい、ラウラ」

 

 コツンッ。とラウラは軽く頭を小突かれた。

 

「な、何をするのだ」

 

 小突いたのは勿論月夜。

 人指し指をポケットにしまいながら月夜は笑顔を見せる。

 

「お前がずっと『これから私はどうなるのだろう』敵な虚ろな目をしてたから」

 

「そ、そんなことはない!」

 

 ラウラはムキになって反発する。

 あながち間違ってもいなかったからだ。

 ドイツ軍のIS専門部隊や開発局に不正が見つかればただで済むはずがないのはわかっているからだ。

 

「安心しろ。今回の件はドイツ軍に何もないさ」

 

「どういうことだ? いや、なぜ分かる?」

 

「……ただの勘ですよ。先生」

 

 失言があったのか、月夜はそそくさと部屋を出ていった。

 何もないとはどういうことか。

 VTシステムが搭載されていたのはドイツの第三世代型ISのシュヴァルツェア・レーゲンだ。

 ドイツ側に問題があるのは明らかなはずなのに。

 千冬は首を傾げながら月夜が出ていった扉を眺めていた。

 

「『安心しろ』か……」

 

 ラウラと言えば、月夜のそんな言葉の辺りから頬が赤く染まっている。

 かつて『冷水』と呼ばれた彼女からは想像もつかない緩んだ顔だった。

 

「奴に惚れたか?」

 

「はい……、え?」

 

 無意識に肯定してしまって、ラウラは硬直した。

 その様子をニヤつきながら眺める千冬は続ける。

 

「私がドイツにいた頃はまだ月夜の事は知らなかったからな。なるほど、ボーデヴィッヒは不意打ちに弱いと見た」

 

「そ、そんなことはありません!」

 

 顔を真っ赤にして否定するが、端から丸分かりである。

 それをわかっていてか、ラウラはそれ以上を言わなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、おーい。月夜ー!」

 

「ん、なんだ? どうした?」

 

 夕食を食いに学食に来たのだが、学食中の生徒達の目がテレビに釘付けにされていた。

 

『トーナメントは事故により中止となりました。ただし、今後の個人データ指標と関係するため、すべての一回戦は行います。場所と日時の変更は各自個人端末で確認の上──』

 

 ピ、と誰かがテレビを消す。

 ふむ、なるほど。

 

「シャルルの予想通りになったな」

 

「そうだね。あ、一夏。七味とって」

 

「あいよ。まあ仕方ないよな」

 

「お前ら、なんか自然だな……」

 

 自然で悪いということではない。

 しかし、回りを見てごらんなさい。

 今回の優勝賞品であった『織斑一夏or十六夜月夜orシャルル・デュノアと交際できる権利』が無くなって、女子達は泣いておられます。

 いや、だからなんで俺とシャルルが入ってるんだよ。

 元々あれは箒が一夏に個人的に挑戦したことなのに。

 

「ねえ、箒。なんでかなあ?」

 

「し、知らんっ」

 

 泣くなよ。まだチャンスはあるんだから。

 ぽんぽんっと肩を優しく叩いてやる。

 

「優勝……チャンス……消え……」

 

「交際……無効……」

 

「……うわああああんっ!」

 

 バタバタバターっと数十名が泣きながら走り去っていった。

 

「なんなんだ?」

 

「さあ、どうしたんだろうね」

 

 一夏の唐変木は今日も全開である。

 

「箒……」

 

「な、なんだ」

 

「泣いていいんだぞ?」

 

「泣いてなどいない!」

 

「いや、泣いてるとは言ってない」

 

 箒の目尻には少しだけ水滴が滲んでいる。誤魔化せません。

 

「あ、そうだ。箒」

 

「……なんだ」

 

「先月の約束だが。付き合ってもいいぞ」

 

 …………、……………………。

 ……………………はっ?

 

「すまない月夜。頬をつねってくれ」

 

「シャルル、俺の頬をつねってくれ」

 

「え、ええっ!?」

 

 箒の頬を俺がつねり、俺の頬をシャルルがつねる。

 すると一夏が何事かと思ったのか、シャルルの頬を一夏がつねった。

 さらに箒が一夏の頬をつねる。

 なんだこれ。

 

「何してんのよ、あんたら」

 

「何かの儀式ですの?」

 

 鈴音とセシリアさんだ。

 なんと間の悪い所に。

 

「ふん、よく聞け鈴音。一夏は私と付き合うと宣言したぞ」

 

 箒は自慢気に胸を張る。

 姉妹だからだろうか、束の仕草とよく似ている。

 

「な、なんですって!?」

 

 それを聞いて、鈴音はこの世の終わりのように驚く。

 

「ど、どどど、どういうことよ。一夏ぁぁぁ!!」

 

 ユサユサ……。と鈴音は一夏の肩を揺らして問い詰める。

 

「お、落ち着けよ。鈴! どうしたんだよ!」

 

「諦めろ、鈴音。一夏が言ったことだ」

 

「う、う、うぅぅぅ……!」

 

「それより、一夏。ほ、本当なのだな?」

 

「お、おう」

 

「な、なぜだ? り、理由を聞こうではないか……」

 

 そうだな。理由を聞かないとな。

 あの一夏が『付き合ってもいい』と言うなど、裏に何かあってもおかしくない。

 

「そりゃ幼馴染みの頼みだからな、付き合うさ」

 

「そ、そうか!」

 

 よかったなあ、箒。

 やっと一夏が振り向いてくれ──

 

「買い物くらい」

 

 バコンッ! おっと、つい手が一夏の頭を直撃してしまった。

 

「ってぇ……。何すんだよ、月夜!」

 

「我が妹分の心を弄んだ罰である」

 

「はあ? 意味がわからんぞ」

 

「…………だろうと」

 

 ほら見ろ。箒自身がご立腹だ。

 

「ほ、箒?」

 

「そんなことだろうと思ったわ!」

 

 どげしっ!!! 箒のひねりを加えた正拳突きが一夏の鳩尾にクリーンヒット。

 一夏がしゃがみ込む。

 さらにそこへ蹴りが入る。

 箒のKO勝ちだ。

 

「一夏って、わざとやってるんじゃないかって思うときがあるよね」

 

「な、なに? どういう意味だ、それは」

 

「さあね」

 

「反省しろってことだ」

 

 一夏はまるでわからないという顔をして、きっかり一五分後に復活した。

 

「ほら一夏、大丈夫か?」

 

 皆と別れ、部屋に戻ろうという時。

 一夏はまだ痛むのか、お腹をさすっている。

 

「頭をぶん殴っておいて何を言うか」

 

「すまんすまん。物の弾みで」

 

「どんな弾みだよ。まったく」

 

 一夏はやはり唐変木だった。

 それはいつどんなときも変わらない。

 きっと面と向かって『好きだ』と言われても、友達としてという風に取ってしまうのだろう。

 

「あ、織斑君に十六夜君にデュノア君。ここにいましたか。さっきはお疲れさまでした」

 

「山田先生こそ。ずっと手記で疲れなかったですか?」

 

「いえいえ、私は昔からああいった地味な活動が得意なんです。心配には及びませんよ。なにせ先生ですから」

 

 えへん、と胸を張る山田先生。

 またあの大きな膨らみが重たげにゆさっと揺れた。

 IS学園においてトップレベルに君臨する山脈。トップだけに。

 

「二人のスケベ」

 

 ぼそっとしたつぶやきだったが、俺達には確かに聞こえた。

 

「な、なにっ? ちょっと待てシャルル! それは誤解だ!」

 

「一夏よ。もっと素直になれ。そして目をそらさずに目蓋の裏にしっかりと焼き付けろ」

 

「月夜はもっと自重しろよ!?」

 

 何を自重しろというのか。

 第一、俺は山田先生の顔を見ている。

 たまに下の方へ視線が下るだけで、あくまでも顔を見ているのだ。

 

「? どうかしました?」

 

「い、いえいえ。なんでもないです」

 

「そうですか。それよりも朗報です!」

 

 グッと山田先生が両手拳を握りしめてのガッツポーズ。

 またしても胸の膨らみが揺れる。眼福。眼福。

 

「なんとですね! ついについに今日から男子の大浴場使用が解禁です!」

 

「「────!?」」

 

「おお! そうなんですか!? てっきりもう来月からになるものとばかり」

 

「それがですねー。今日は大浴場のボイラー点検があったので、もともと生徒たちが使えない日なんです。ても点検自体はもう終わったので、それなら男子の三人に使ってもらおうって計らいなんですよー」

 

 まずい。非常にまずいことになった。

 大浴場ってことは皆で裸になるってことな訳で。

 その皆ってのは、一夏、俺、シャルルになる訳で。

 まずいっ! 本当にまずいっ!

 一夏にシャルルが女だということがバレてしまう!

 

「ありがとうございます、山田先生!」

 

 一夏は喜びのあまり山田先生の手を握りしめる始末。

 確かに今までは部屋のシャワールームしか使えなかったのだから喜ぶ気持ちはわかる。

 だが、こっちにはこっちの事情というものがあってな。

 

「では三人はさっそくお風呂にどうぞ。早く部屋から着替えを持ってきてください。鍵は私が持っていますから。脱衣所の前で待っていますね」

 

「あ、あの……山田先生」

 

「十六夜君、どうかしたしたか?」

 

「俺とシャルルは、これから用事があるんですよ。ですから風呂に入るのは遅くなると思うんで、鍵は一夏に渡してもらえるとこっちも助かるんですけど」

 

「用事ですか?」

 

 俺は一夏やシャルルに聞こえないよう、山田先生に耳打ちで話す。

 

「今回の戦闘で無茶をさせた零式の点検ですよ。シャルルのリヴァイヴの方も一応俺が見る約束になってまして」

 

「ああ、そうですか。じゃあ仕方がありませんね」

 

 よかった。納得してもらえて。

 半分は本当で、半分は嘘だ。

 実際、ぶっつけ本番でトランザムを使って零式に何か異常が起きていないか検査をするつもりだった。

 リヴァイヴの方は完全に嘘。

 リヴァイヴは戦闘中に異常を来すほどのダメージを受けていなかったから検査の必要はない。

 

「では織斑君、使用後はお二人に渡してくださいね」

 

「じゃあ俺は二人が終わるまで待ってるよ」

 

「「いや、いいから!」」

 

「う、うん?」

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