IS〈インフィニット・ストラトス〉いつか此の手に月を【凍結】 作:生そば
時刻は一時丁度。
IS学園校門前でラウラとセシリアの二人と待ち合わせしていた俺は、寮から出てきたシャルロットを見つけた。
「シャルロットもどこか行くのか?」
「うん、ラウラが月夜とセシリアと服や水着を買いに行くからって誘ってもらったんだ」
第一の理由はラウラに服を選ばせるためだ。
制服以外は軍服しか持っていないというは女子として、色々と不味い。そう思ったからである。
まず第一にあんな姿で歩き回られたくない。
「服って言うのは、もしかしてラウラ……?」
「うん。今朝、俺の毛布の中に入ってビックリした」
「あぁ、もう。ラウラってば……」
「そう言えばラウラはどうしたんだ?」
シャルロットとラウラは同室だったはず。
一緒に来る方が自然だ。
「ラウラなら、織斑先生に何か用事があるとかで……でもすぐ終わるらしいから先に行ってくれって」
「そっか。実はセシリアもまだなんだ」
女というものは身支度が長い。
なぜなんだろう。
「…………」
「どうかしたのか、シャルロット?」
「いや、何でもないよ?」
何でもないと言うわりには顔が赤い気がする。
俺が顔を覗き込もうとすると、シャルロットは俺から顔を背ける。
あれ、俺って避けられてる?
「なぁ、シャル?」
「え、僕?」
「うん。さっきセシリアのことを『オルコットさん』から『セシリア』って呼び方に変えたんだけど。思えば五文字以上の名前って長いという個人的な意見があってだな……。シャルロットもあだ名という形で呼びたいんだが。嫌か?」
「それが、『シャル』?」
「う、うん」
「シャル……。うん、シャル! すごく良いよ!」
シャルで良いらしい。よし決定!
喜んでくれているようだし、これでいいだろう。
「シャルか……。ふふっ」
お、おう。顔が綻ぶほど嬉しいのか。
人の心ってよくわからん。
「お待たせしました、月夜さん。あら、シャルロットさんも?」
セシリアが合流。あとはラウラだけだ。
「うん、ラウラに誘われてね」
「セシリア、ラウラは見なかった?」
「ラウラさんでしたら、さきほど──」「待たせたな」
セシリアの言葉の途中でラウラが登場。
背が低いせいか、効果音に『ひょこっ』って付きそうだ。
「じゃあ皆集まった所で行くか」
「へぇ、結構色んな物があるな……」
ここの商店街はIS学園に近く、学園の生徒たちが何かを買うには丁度良い場所で『IS学園の生徒がよく来る場所』として有名だ。
「ねぇ、ちょっと。あれ……」
「うそ……ISの男子生徒じゃない」
周囲からそんな声が聞こえてきた。
有名なだけあってIS学園の制服ならひと目でわかるのだろう。
「はやく目的の所に行った方が良いみたいだね」
「そうですわね」
「人の嫁をジロジロと……」
だから、嫁ってなんだよ。
ドイツ軍のクラリッサ・ハルフォーフ。
一度話し合う必要があると見た。ラウラに間違った知識を教えないようにと。
「っていうか、男物がほとんどないな」
当然と言えば当然だった。
やはりここでもIS学園に近いという条件が絡んでくるのか、男よりも女の来客の方が圧倒的に多い。
需要の差が激しいのだ。
店に並ぶ商品はほとんどが女の子向けのもので、男物は店の隅っこにしか置いていない。
現在の社会の縮図を見ている気がする。
昔の日本は一家の当主、つまりお父さんが偉いとなっているように、今の世界は女尊男卑という状況になってしまっている。
束さんはこんなことの為にISを作ったわけではないのに。
「月夜、どうかした?」
「いや、何でもないけど?」
「もしかして、男物が少ないから困ってる?」
「まあ、若干な」
俺も水着を買おうかと思っていたのだが、選べるほど品揃えが良い訳ではない。
適当に選んで買うしかないか……。
「月夜さん、こんなのはどうですか?」
シャルは俺のことを心配してくれたのに、セシリアはさっそく水着を選んできたよ。
持ってきたのは、白地に水色の線が入ったビキニと、青のパレオ。
「俺としてはビキニの方が好きだけど、セシリアには青の方が似合うよな……(ブツブツ)」
「え、月夜さん?」
「英国貴族としてそれでいいのか? ……(ブツブツ)」
「そんな真剣に考えられると逆に恥ずかしいのですが……」
「えっ? あぁ、ごめん。セシリアのだからいい加減にはできないと思って」
いけない、いけない。
深く考え込む癖がでてしまった。
「わ、わたくしのだから……?」
「セシリアなら、青い方が似合うと思う。うん」
理由。ブルーティアーズが青だから。
接近戦が苦手らしいセシリアに合った戦闘スタイルのISだ。
色も合ってるし。決していい加減に選んだわけではない。
「ではこちらにしようと思います!」
「え、俺の意見だけでいいのか?」
「はい、もちろん!」
そ、そうなのかー。
「あれ、シャル。ラウラどうした?」
「そういえばどこに行ったんだろう?」
一緒に買い物に来ているのだから、黙って離れてしまうとは考えにくい。
などと考えながら周囲を見回していると、とある水着の前で見つけた。
「え、なに? 競泳水着?」
「まさかラウラ、機能的に優れているからなんて言わないよね?」
「ふむ、水の抵抗を受けにくいデザインだ」
「「やっぱり!」」
俺とシャルの声に反応したラウラが自慢気に競泳水着を持ってくる。
「どうだ。見事なデザインだろう」
「ら、ラウラ……。俺たちは競争をしに行く訳じゃないんだし。月夜はやっぱり可愛いほうが良いと思うよね?」
「あぁ、そうだな」
「む、そうなのか? ……これではダメなのか。では(ぼそっ)」
どうやら諦めてくれたら──
「ではこれならどうだ?」
すかさずラウラが出してきた水着は、なんとスクール水着だった。しかも旧。
「「どこにあったの、それ!?」」
旧スク。しかも胸に名前が書けるようになっていて。
あ、でもラウラの背丈なら似合わなくは──いや、やっぱダメだろ!
「それも返しておいで、ラウラちゃん」
「もっと可愛いのにしようか。ラウラちゃん」
「なんだ、ふたりして?」
ラウラがいくら「ダメなのか?」と言って上目使いをしても認められない。
マニア受けを狙っているのか?
誰にも見せるものか。ラウラの身が危ない。
「シャルも何か選んでこいよ。俺も自分の自分の買い物するから」
「うん。じゃあ後でね」
シャルの後ろ姿を見ながら、シャルに似合う色を思い浮かべてみる。
やっぱり黄系統の色……、あとは空色なんかが似合いそうだ。
「臨海学校が楽しみだな……」
さて、俺も買い物買い物──っと。あれは……
「そこのあなた」
「ん?」
キョロキョロと回りを見るが、ここには俺しかいない。
「男のあなたに言ってるのよ。そこの水着、片付けておいて」
と、名前も知らない相手からいきなり言われる。
ISが普及した十年で女尊男卑の風潮はあっという間に浸透した。
どの国でも女性優遇制度が設けられ、男はこうして町を歩いてるだけでも見ず知らずの相手から命令される始末である。
けれど、俺『織斑一夏』は──
「なんでだよ。自分でやれよ。人にあれこれやらせるクセがつくと人間バカになるぞ」
そういうのが大嫌いだ。
関係性のある仲ならともかく、見ず知らずの相手にそんなことを言われる覚えはない。
そして、従いたくもない。
「ふうん、そういうこと言うの。自分の立場がわかってないみたいね」
そう言って女性客は警備員を呼ぶ。
ただでさえ女尊男卑の社会なのだ。
これで『いきなり暴力を振るわれた』などと言われようものなら、問答無用で有罪確定。なんつう世の中だ。
「どうしましたか?」
俺は逃げることもできずに、警備員が来てしまう。
やべっ。どうしよう。
「この人がいきなり──」「いきなり?」
と、見覚えのある声が聞こえてきた。
「『いきなり』何ですか? 彼、何もしてませんよね?」
「月夜、……なのか?」
月夜だ。確かに月夜だ。
特徴的な髪の色に、IS学園の男子生徒用の制服。
だが、月夜の髪にピンクのリボンがつけられていて……
なんか、こう……女の子っぽい。
「何よ、あなた?」
「こっちこそ聞きたいですね。彼、私の連れなんですけど……」
「何やってんだ、お前?」
「一夏は黙ってて」
何だと言うのか。
急に女子みたいに振る舞って……。
まさか月夜も実は女だった、なんてことはないよな?
シャルロットがその例なんだが。いや~、あれは驚いた。
「人の連れをナンパしてる人がいると思って見ていたら、自分の命令を聞かないだけで警備員を呼びます? 何様のつもりですか?」
「何様って、男が女の言うことに従うのは当然でしょ?」
「何故?」
「何故って、ISを使えるからよ」
「確かにISは女にしか使えない。でもだからって男が女に従わなくてはならない理由にはなりませんよね?」
月夜(?)の気迫に女性客が圧されている。
すごい。すごいけど、何でリボン着けてるんだ?
「えっと、いったい何が?」
警備員さんが二人のやり取りに恐る恐る入ってくる。
すると月夜(?)が笑顔を浮かべ、
「ただの誤解です。戻ってもらって結構ですよ」
と、営業スマイル。完璧だ。
「あ、ちょっと待ちなさいよ!」
女性客が呼び止めようとするが、警備員はそそくさと立ち去っていった。
「待つのは貴女ですよ?」
「っ!?」
「貴女のような考えを持つ人たちが、社会を腐らせていくんです。最近の女性は男性を対等の立場として見ている方が多いというのに。」
「な、何よっ!」
「もういいでしょう。今回は私も忘れることにしますので、どうぞお引き取りお願いできますか? これ以上は貴女の立場を保証できませんよ?」
「あなた、何を言って──っ!?」
そこまで言って女性客は、俺たちを見て何かに驚く。
何に驚いたのか。それはもちろん俺たちの服装だ。
彼女は俺たちがIS学園の生徒だということに気付いたらしい。
「ふ、ふんっ! 何よ、子供のくせに」
ブツブツと呟きながら女性客は逃げるように去っていった。
「まったく、本当に専用機持ちは世話が焼けるな」
リボンを無造作にほどいた月夜が、ため息混じりに呟いた。
俺のほうへ振り返ったこいつは、やっぱり月夜だった。
「助かったぜ、月夜」
「ああいう女って本当にいるんだな。初めて見たわ」
「っていうか、月夜。そのリボンは?」
「あぁ、たいぶ雰囲気変わるだろ?」
ニカッと笑いながらリボンを頭の上に掲げる。
リボンがあるだけで、男でもこんなに変われるのか?
いや、月夜みたいな奴だけだよな。
「そこらで売ってたのを大急ぎで買ったんだ。お前を助けるために」
「そこまでしてくれたのか。なんか悪いな」
「別にいいって。どうせこう言うのも買う予定だったし」
「誰かにプレゼントか?」
いや、自分が使ったのをあげるわけないか。
「あぁ、……まぁ……」
歯切れが悪い。何か言いにくいことがあるのだろうか。
「それは追々話すわ。それより、お前一人か?」
「いや、箒と鈴も来てるんだ。俺も自分の水着を買おうと思って」
「そっか。じゃあさっきみたいのに絡まれる前に、二人と合流することだな」
「おう、そうするよ」
月夜が手を振りながら去っていく。
片手にはピンクのリボンが握られている。
あ、そう言えば箒の誕生日ってもうすぐじゃないか。