IS〈インフィニット・ストラトス〉いつか此の手に月を【凍結】 作:生そば
「あ、月夜!」
一夏と別れ、さて何を買うかと選ぼうとした時、シャルに呼び止められた。
「おう、シャル。どうした?」
「えっと、……水着を見てほしくて」
「いいけど、どんな──って!?」
俺が返事をするや否やシャルが引っ張る。
はてなと思っていると、俺はそのままシャルと一緒に試着室に入ることになった。
「ほ、ほら、水着って実際に着てみないとわかんないし、ね?」
ね?って言われても困るんだが……。
いや、それよりもこの状況を説明してほしい。
試着室は元々ひとりが入ることを前提にして設置されているのは周知の事実。
そこに二人で入るとどうなるか。もちろん狭い。
「す、すぐ着替えるから待っててっ」
「じゃあ外で待ってた方が──」
「だ、ダメ!」
な、何がダメなんだ?
「だ、大丈夫。時間はかからないから」
言うなり、いきなり上着を脱ぎ出すシャル。
俺は慌ててシャルに背を向けた。
背中ごしに聞こえる衣擦れの音が否応なく胸の鼓動を早めていく。
くわえて、狭いゆえにすぐ感じられる女子特有のあの甘い匂い。
「しゃ、シャル……あのな?」
「な、なに?」
「んっと……何でもない」
なんでこんなことひなっているのかを訊きたかったんだが、そう直接言うのもためらわれて、俺は言葉を持てあます。
「ん……」
ぱさり、と衣服の上に何か軽いものが置かれたような音が聞こえる。
もしかしなくても、今のは下着を脱いだ音だろう。
なぜ分かるのか? いまさっきシャルが少し屈んだからさ。
こう言うときどうするんだっけ?
円周率? お経? 心頭滅却?
3.14南無妙法蓮華経……
「お、終わったよ」
「はっ?」
恐る恐る振り返ってみる。
するとそこにはセパレートとワンピースの中間のような水着を着たシャルがいた。
上下に別れている空を背中でクロスして繋げるという構造になっており、色は夏を意識した鮮やかなイエロー、正面のデザインはバランスよく膨らんだ胸のその谷間を強調するようにできている。
「あ、あの、一応もうひとつあって──」
「いや、いい! 凄く似合ってる。それがいい!」
突然また着替えがじまってしまうかと警戒した俺は、つい反射的にそんな事を言ってしまった。
嘘をついたつもりはないし、異性を傷つける言葉ではないはずだ。
「じゃ、じゃあ、これにするねっ」
「お、おう。それじゃあ俺は出てるよ」
今度は引き留められるものかと試着室のドアを開ける。
「え?」
「えっ?」
「ええっ?」
なんと、ドアを開けた場所に立っていたのは一組の副担任の山田真耶先生その人だった。
そして後ろでは状況に気がついた織斑先生かま頭を押さえる。
「何をしている、バカ者が……」
次の瞬間、軽いパニックに陥った山田先生の悲鳴がこだましたのだった
「「すみませんでした」」
制服に着替えたシャルと一緒に謝る。
目の前には織斑先生、山田先生、セシリア、ラウラ。
「水着を買いに来るのはいいですけど、試着室にふたりで入るのは感心しませんよ。教育的にもダメです」
「何を考えていますの、お二人は」
「不埒者め」
「別にわざとやったわけでは──」
「「はい?」」
「なんでもないです」
シャルが着替え始める前に、俺がさっさと試着室から出るべきだった。うん、そうだ。
「ところで山田先生と織斑先生はどうしてここに? まさか補導!?」
「いえ、私たちも水着を買いに来たんですよ」
よかった。補導じゃなくて。
「それよりも月夜さん! 今度はわたくしと水着を──」
「それなら私が先だ!」
二人が山田先生を押し退けて迫ってきた。
いや、水着って言っても……
「二人が持ってるのって、水着だろ?」
「「あ」」
忘れてた、と言わんばかりに自分達の持っている袋を見ている。
水着が二つあってもどちらかは着ないだろうに。
「こら、バカども」
ぺしっぺしっぺしっ、と頭を叩かれた。
ラウラ、セシリア、俺の順に。なぜ俺まで?
「公衆の面前だということを考えろ」
「人の目を気にして早く去りたいですね」
「そういうことを言っているわけではないっ」
バシンッ、と先程よりも強く叩かれた。
ちょっとしたオチャメじゃないですか。という冗談も通じないのだろう。