IS〈インフィニット・ストラトス〉いつか此の手に月を【凍結】   作:生そば

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~第九話~《青い空、白い雲》(3)

 

 時間が流れるのは早いもので、現在は既に七時半。

 大広間を三つ繋げた大宴会場で、俺たちは夕食を取っていた。

 

「昼も夜も刺身が出るなんて豪勢だよな、IS学園って」

 

「そうだね。ほんと、IS学園って羽振りがいいよ」

 

 そう言ってうなずいたのは俺の右隣に座っているシャル。

 今は全員がそうであるように、シャルも浴衣姿だ。

 旅館の決まりで『お食事中は浴衣着用』だそうだが、普通は逆なんじゃないだろうか。

 ずらりと並んだ1学年の生徒は座敷なので当然正座で、そして一人一人に膳が置かれている。

 メニューは刺身と小鍋、それに山菜の和え物が二種類。

 さらに赤だし味噌汁とお新香。

 これだけ書くと普通だが、なんと刺身がカワハギな上にキモつき。

 噛むと独特の歯応えと、クセのない味がなんとも言えず舌を楽しませる。

 キモも、臭みや苦味などはなく深い味わいがある。

 

「あー、うまい。しかもこのわさび、本わさじゃないか。すげえな、おい。高校生のメシじゃねえぞ」

 

 向かいの席には一夏が座っている。

 さっきからパクパクとメシを口の中に放り込んでいっている。

 一夏の言う通り、高校生のメシと言ったらコンビニで買ったパンやお握り、学食のメニューだろう。

 

「一夏。本わさって何?」

 

「ああ、シャルロットは知らないのか。本物のわさびをおろしたやつを本わさって言って、学園の刺身定食でついてるのが練りわさって言うんだ。たしかワサビダイコンとかセイヨウワサビとかを使って着色したり合成したりして見た目と色を似せてある奴だ」

 

「ふぅん。じゃあこれが本物のわさびなんだ?」

 

「そう。でも練りわさでも最近はおいしいのが多いぞ。店によっては本わさと練りわさを混ぜて出したりもするから」

 

「そうなんだ。はむ」

 

「ちょっ、シャル。山のまま──」

 

 俺が注意したときには、シャルはわさびの山を口に入れていた。

 

「っ~~~~~~!!」

 

 案の定、鼻を押さえて涙目になるシャル。

 

「だ、大丈夫か?」

 

「ら、らいひょうぶ……」

 

 鼻声で返事をしながら、にこりと笑顔を浮かべようとするシャルだったが、その笑顔は涙目に崩れていまいち決まっていなかった。

 

「ふ、風味があって、いいね……。お、おいしい……よ?」

 

「どこまで優等生なんだよ、お前は。ほら水飲め、水」

 

 少しでも和らいでくれればいいが。

 

「っ……ぅ……」

 

 ちなみに俺の左隣ではセシリアがさっきからずっとこんな感じでうめいている。

 どつも正座が苦手らしく、いっこうに食事が進んでいない。

 

「大丈夫か? セシリア。顔色が悪いぞ」

 

「だ……ぃ……ょう、ぶ……ですわ……」

 

「うん、すっごく無理してるな」

 

 次第にプルプルと震えだしたセシリアは、しかし英国人としてのプライドなのかなるべく平静を装って箸を手にした。

 

「い、ぃただき……ます……」

 

 ず、ず……と、味噌汁を飲むのにも難儀している。

 

「お、おいしぃ……ですわ、ね……」

 

 に、ニコリ……。

 ここにも優等生(?)がいます。

 

「セシリア、正座が無理ならテーブル席の方に移動したらどうだ? えちのクラスでも何人か行ってるし、別に恥ずかしくないだろ」

 

 IS学園は世界中かは入学希望者がやって来るため、生徒・教師ともにかなり多国籍だ。

 この多国籍や多民族・多宗教というのを考慮して、正座ができない生徒はトなりの部屋にあるテーブル席が利用できる。

 膳もお盆と台が分離できるタイプになっているので、テーブル利用者は自分の文の食事を運ぶだけでいい。

 

「へ、平気ですわ……。この席を獲得するのにかかった労力に比べれば、このくらい……」

 

 獲得ってなんのことだ?

 夕食の席は入ってきた順に座っただけなのに。

 

「一夏、女の子には色々あるんだよ」

 

 色々……。うーん、確かに正座が苦手ってだけにしては辛そうにしているか……。

 

「もしかして、いや。なんでもないや」

 

「?」

 

 食事中なので表現は控えておくことにしよう。

 

「う、ぐ……、くぅ……」

 

 それよりセシリアよ。

 やっぱり正座が辛いなら移動した方がいいんじゃないか?

 さっきから二回も刺身を取り損なってるぞ。

 

「セシリア」

 

「移動は、しませんわ」

 

「でも、食事が進まないだろ」

 

「それでも……、だとしてもですわ」

 

「じゃあ食べさせてやろうか? 前にシャルに──」

 

「つ、月夜っ!」

 

「あ、すまん」

 

 つい口が滑ってしまった。

 シャルからすれば、橋が使えなくて食べさせてもらったなんて、恥ずかしいよな。

 

「つ、月夜さん、今のは本当ですの!?」

 

「あのときはシャルの体調が──」

 

「シャルロットさんのことはいいんです!」

 

 よかったのか。ほっ。

 

「そ、その! 食事を、食べさせてくれるというのは……!」

 

「う、うん? 別に。足のしびれがとれるの待ってたら、料理が冷めるだろ?」

 

「そ、そうですわね! ええ、ええ! せっかくの料理が傷んでは、シェフに申し訳ありませんものね!」

 

 シェフ……? まあ、シェフか。

 

「で、では。お願いしますわ」

 

 そう言って俺に箸を預けてくるセシリア。

 それを受け取って、俺はさっそく刺身を一切れつまむ。

 

「セシリア、わさびは平気?」

 

「わ、わさびは、少量で……」

 

「わかった。じゃあ、あーん」

 

「は、はい。あー……」

 

 ん、と言おうとしたところで問題が起きた。

 

「あああーっ! セシリアずるい! 何してるのよ!」

 

「十六夜君に食べさせてもらってる! 卑怯者!」

 

「ズルイ! インチキ! イカサマ!」

 

 他の女子に見つかってしまった。

 というか、インチキってなんだよ。イカサマとか。

 

「ず、ずるくありませんわ。席が隣の特権です」

 

「それがずるいって言ってんの!」

 

「十六夜君、私も私も!」

 

 これ幸いとばかりに自分も食べさせてほしいと女子が押し寄せる。

 

「早く早く!」

 

「あーん!」

 

 一様に口を開く女子の群れ。

 ええい、お前らはひな鳥か!

 

「お前たちは静かに食事することができんのか!」

 

 その声に場の全員が凍り付く。

 

「お、織斑先生……」

 

「どうにも、体力があり余っているようだな。よかろう。それでは今から砂浜をランニングしてこい。距離は……そうだな。五〇キロもあれば十分だろう」

 

「いえいえいえ! とんでもないです! 大人しく食事をします!」

 

 そう言って各自の席に戻っていく。

 それを確認してから、千冬さんは俺の方を見た。

 

「十六夜、あまり騒動を起こすな。鎮めるのが面倒だ」

 

「は、はい」

 

 そして千冬さんは去っていった。

 ふう、怖かったぁ……。

 

「つーわけでセシリア、悪いけど自分で──」

 

「………………」

 

 すごい膨れっ面だ。ぷく~、って感じ。

 

「ええ、ええ、わかってます。織斑先生は怖いですからね」

 

「拗ねんなよ。ほら、代わりにと言ってはなんだけど、後で部屋に来てくれよ」

 

 小声でそう言うと、セシリアは二度ぱちくりとまばたきをした。

 

「後で部屋に……? それは──」

 

 がばっ! と、いきなり俺の手を握ったセシリアは熱の入った小声で答える。

 

「はい! わかりました! じゅ、準備がありますので少々お時間をいただきますが、必ず!」

 

 そしてセシリアは一転して生き生きと食事を再開した。

 正座のしびれにも慣れたんだろうか。

 

「ああ、何を食べても美味しいですわ!」

 

 嬉しそうで何よりだ。

 

(それにしても、なんだろうな。この感じ……誰かに見られているような)

 

 キョロキョロと辺りを見回してみる。

 俺の勘って結構当たるんだが、今回の感じは何か良いことと悪いことが起きるような。そんな感じがする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 月夜の勘は本当に当たっていた。

 旅館から十数キロほどの地点に彼女はいた。

 

「ふっふ~ん。つっくん、感じてるね。この私の存在を」

 

 不思議の国のアリスでそのアリスが着ているような青と白のワンピース、そして頭部にウサミミを付けた彼女はレンズに目を付けながらニヤリと笑う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ちなみに、後にセシリアが月夜の部屋を訪ねた所、その部屋にはシャルとラウラもいたという。

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