IS〈インフィニット・ストラトス〉いつか此の手に月を【凍結】   作:生そば

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~第一話~《男女比は幾つ?》(2)

「それではこの時間は実践で使用する各種装備の特性について説明する」

 

 おうおう山田先生までノートを手に持っている。

 よっぽど大事な話に違いない。

 各種装備ということは、遠距離武器や近距離武器。

 またはビットなどのオールレンジ攻撃が可能な非固定武装。

 それは俺自身興味がある。

 束さんの元でビット兵器について、いろいろと研究したものだ。

 イギリスでは最近、フレキシブルというビームが曲がる技術を開発したと聞いた。

 ぜひ一度オルコットさんのISを見てみたい。

 

「ああ、その前に再来週行われるクラス対抗戦に出る代表者を決めないといけないな」

 

 ふと、織斑先生が思い出したように言う。

 

「クラス代表者とらそのまはまの意味だ。対抗戦だけでなく、生徒会の開く会議や委員会への出席……まあ、クラス長だな。ちなみにクラス対抗戦は、入学時点で各クラスの実力を測るものだ。今の時点でたいした差はないが、競争は向上心を生む。一度決まると一年間変更はないからそのつもりで」

 

 ざわざわと教室が色めき立つ。

 どうやら誰がクラス代表者になるか相談しているようだ。

 その声の中には一夏や俺の名前ばかりが出てくる。

 

「これは……まずいな」

 

 そう呟いた瞬間、その時は来た。

 

「はいっ。織斑くんを推薦します!」

 

「私は十六夜君を!」

 

 まあ、そうなるのはわかっていた。

 このクラスで代表者に選ばれそう、もしはなりそうなのは、一夏、俺、そしてオルコットさん。

 

「では候補者は織斑一夏と十六夜月夜……他にはいないか? 自薦他薦は問わないぞ」

 

「お、俺!?」

 

「織斑。席に着け、邪魔だ。さて、他にいないのか?」

 

「ちょっ、ちょっと待った! 俺はそんなのやらな──」

 

「自薦他薦は問わないと言った。他薦されたものに拒否権などない。選ばれた以上は覚悟をしろ」

 

「い、いやでも──」

 

 すると突然、甲高い声が上がる。

 

「待ってください! 納得がいきませんわ!」

 

 ほら、やはりオルコットさんが突っかかってきた。

 っていうかさっさと立候補すればよかったのに。

 他薦されるとでも思っていたのだろうか。

 

「そのような選出は認められません! 大体、男がクラス代表だなんていい恥さらしですわ! わたくしに、このセシリア・オルコットにそのような屈辱を一年間味わえとおっしゃるのですか!?」

 

 またもや男を馬鹿するような態度だ。

 

「実力から行けばわたくしがクラス代表になるのは必然。それを、物珍しいからという理由で極東の猿にされては困ります! わたくしはこのような島国までIS技術の修練に来ているのであって、サーカスをする気は毛頭ございませんわ!」

 

 どこから突っ込んでいいのやら。

 とりあえずここまで来たら男を馬鹿にされただけでは済まないよな。

 

「いいですか!? クラス代表は実力トップがなるべき、そしてそれはわたくしですわ!」

 

 ますますエンジンが暖まってきたオルコットさんは怒濤の剣幕で言葉を荒げる。

 

「大体、文化としても後天的な国で暮らさなくてはいけないこと自体、わたくしにとっては耐え難い苦痛で──」

 

「イギリスだって大してお国自慢ないだろ。世界一まずい料理で何年覇者だよ」

 

「なっ……!?」

 

 俺よりも先に一夏が立ち上がった。

 

「あっ、あっ、あなたねえ! わたくしの祖国を侮辱しますの!?」

 

「侮辱したのはそっちが先だし、そこまで言われて黙ってるはずもないだろ。なぁ、一夏?」

 

「おう、その通りだ」

 

「耐え難い苦痛なら、さっさと帰ればいいだろ。ISの修練ならご自慢のお国でもできるだろ」

 

「なっ、……っ!」

 

 言い返せないのかオルコットさんは顔を真っ赤にして言葉を続けない。

 

「決闘ですわ!」

 

「上等だ。あんたが馬鹿にする極東の島国には、こんなISがあるってことを思い知らせてやる。俺の零式参型(ぜろしきさんがた)でな!」

 

 右腕に着けているブレスレットを突き出す。

 すると、回りから感嘆の声が漏れた。

 

「零式参型? 聞いたことない名前ね」

「日本の最新型かしら?」

「すごーい、ツッキーは専用機持ちなんだぁ」

 

「言っておきますけど、わざと負けたりしたらわたくしの小間使い──いえ、奴隷にしますわよ」

 

「安心しな。決闘と口にしたからには手を抜くつもりはない」

 

「そう? 何にせよちょうどいいですわ。イギリス代表候補生のこのわたくし、セシリア・オルコットの実力を示すまたとない機会ですわね!」

 

 オルコットさんって、構ってちゃんなのか?

 もしかしたらクラスの注意が一夏や俺に向いているのが気に食わないのかもしれない。

 

「やるぞ、一夏!」

 

「おう!」

 

 一夏もやる気だ。

 そう言えば、一夏には専用器があるのだろうか。

 いくらなんでも訓練機で勝てるほど実力差があるとは思えない。

 

「ハンデはどのくらいつける?」

 

 一夏め、ハンデをつけるなんてつけられた側に失礼だぞ。

 

「あら、早速お願いかしら?」

 

「いや、俺がどのくらいハンデつけたらいいのかなーと」

 

 と、そこでクラスからドッと爆笑が巻き起こった。

 

「お、織斑くん、それ本気で言ってるの?」

「男が女より強かったのって、大昔の話だよ?」

「織斑くんは、それは確かにISを使えるかもしれないけど、それは言い過ぎよ」

 

 みんな本気で笑っている。

 それもそのはず。

 今世界の男女間で戦争が起きても、男勢はまったく歯が立たないだろう。

 ISは戦闘機、戦車、戦艦などを遥かに凌ぐ超兵器だ。

 その中でISを使えるのは俺と一夏だけで、IS二機が出撃できたとしても、その何倍ものISを相手にするのだ。

 腕力などなんの役にもたたない。

 

「……じゃあ、ハンデはいい」

 

「ええ、そうでしょうそうでしょう。むしろわたくしがハンデを付けなくていいのか迷うくらいですわ。ふふむ、男が女より強いだなんて、日本の男子はジョークセンスがあるのね」

 

 さっきまでの激昂はどこへ行ったのか、セシリアは明らかな嘲笑を浮かべている。

 ハンデなんて絶対にいらないし、付けるつもりもない。

 

「ねー、織斑くん、十六夜くん。今からでも遅くないよ? セシリアに言ってハンデ付けてもらったら?」

 

「男が一度言い出したことを覆せるか。ハンデはなくていい」

 

「言ったろ? 決闘と口にしたからには手を抜くつもりはない」

 

「えー? それは代表候補生を舐めすぎだよ。それとも、知らないの?」

 

 舐めてなんかいない。

 ましてや過信しているわけでもない。

 それに、勝てる見込みが無くとも国や男を侮辱されて『はいそうですか』と引き下がれない。

 

「さて、話はまとまったな。それでは勝負は一週間後の月曜。放課後、第三アリーナで行う。三人ともそれぞれ用意をしておくように。それでは授業を始める」

 

 ぱんっと手を打って織斑先生が話を締める。

 俺は心配ごとを抱えながら席に着く。

 俺はいいとして一夏が一週間で基礎をマスターできるかどうかだ。

 本気の勝負ともなれば簡単なことではない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うう…………」

 

 放課後、一夏は机の上でぐったりとうなだれていた。

 

「い、意味がわからん……。なんでこんなにややこしいんだ……?」

 

 だめだ、早くなんとかしないと。

 この際だ。ISでの戦い方くらいは慣れておかないと本番であっという間にやられてしまう。

 

「こればっかりはなんともし難いな」

 

「そんなぁ…………」

 

 せめて入学前の参考書を読むだけでもかなり違ってくるというのに、一夏は古い電話帳と間違えて捨てたと抜かしやがった。

 

「取りあえずは要点だけでも掴まなきゃ話にならないし、基礎だけなら俺も教えられるぞ」

 

「本当か!? 助かるぜ!」

 

 伊達に束さんの助手をやってた訳じゃないからな。

 

「ああ、織斑くんに十六夜くん。まだ教室にいたんですね。よかったです」

 

「「はい?」」

 

 副担任の山田先生が書類を片手にやってきた。

 何か持っているが、……鍵?

 

「えっとですね、寮の部屋が決まりました」

 

 部屋番号の書かれた紙とキーをよこす山田先生。

 

「なんか、少し疲れてませんか?」

 

「大丈夫ですよ、十六夜くん。事情が事情なので一時的な処置として部屋割りを無理矢理変更したらしいです。……その辺りのことって政府から聞いてます?」

 

 正直、まったく聞かされていない。

 そもそも聞く気が無い。

 俺は束さんの助手をしていたこともあり、国ひとつが所有するには重すぎる存在だ。

 そのことで少し問題は起こりそうになったが、俺はあくまで束さんの側で雑用を任されていたため、ISに関しては一夏と同じで素人だということで回避したのだ。

 

「そう言うわけで、政府特命もあって、とにかく寮に入れるのを優先したみたいです。一ヶ月もすれば個室の方が用意できますから、しばらくは相部屋で我慢してください」

 

「相部屋って、俺と一夏じゃ部屋の番号が違うんですね」

 

 一夏は1025号室で、俺は1026号室。

 お隣さんだな。

 

「何せ無理矢理変更したので。すみません」

 

「それで、部屋はわかりましたけど、荷物は一回家に帰らないと準備できないですし、今日はもう帰っていいですか?」

 

「あ、いえ、荷物なら──」

 

「私が手配をしておいてやった。ありがたく思え」

 

 織斑先生だ。

 ま、俺のは流石に無理だろう。今日の所は──

 

「十六夜の荷物は束が送ってきた。既に両方とも部屋に置いてある。十六夜の方は何やら重そうな物がひとつあったが、面倒は起こすなよ?」

 

「「ど、どうもありがとうございます……」」

 

「じゃあ、時間を見て部屋に行ってくださいね。夕食は六時から七時、寮の一年生用食堂で取ってください。ちなみに各部屋にはシャワーがありますけど、大浴場もあります。学年ごとに使える時間が違いますけど……えっと、その、二人は今のところは使えません」

 

「え、なんでですか?」

 

「アホかお前は。まさか同年代の女子と一緒に風呂に入りたいのか?」

 

「あー……」

 

 確かに、たった二人のために時間を割くのも無駄か。

 ならば一番最後に後付けしてほしい。

 

「おっ、織斑くんっ、女子とお風呂に入りたいんですか!? だっ、ダメですよ!」

 

「い、いや、入りたくないです」

 

「ええっ? 女の子に興味がないんですか!? そ、それはそれで問題のような……」

 

 人の話を聞かない山田先生のせいで伝言ゲームのように伝播して、廊下で『婦女子談義』が花咲く。

 

「織斑くん、男にしか興味がないのかしら……?」

「それはそれで……いいわね」

「受けは十六夜くんかしら」

 

 山田先生のせいで、俺にまで飛び火か来た。

 俺にはホモ属性など欠片もないぞ。

 

「ん、待てよ。俺のこの容姿ならば、女装すれば忍び込むことは可能──」

 

 バシンッ! 出席簿の背表紙で叩かれた。

 

「この私の前で犯罪計画を立てるなど、いい度胸だな」

 

「冗談ですよ。本当にやりませんって」

 

 しかし廊下では、冗談ではなくなっていた。

 

「え、十六夜くんが大浴場に!?」

「うそっ! 体を綺麗にしておかなきゃ!」

「下着どんなのがいいかなぁ」

 

 女子たちよ。そこは引くところだ。

 いや、それも嫌だけど。

 

「えっと、それじゃあ私たちは会議があるので、これで。二人とも、ちゃんと寮に帰るんですよ。道草くっちゃダメですよ」

 

「いや、十六夜は後で話がある。17時にはここで待っていろ」

 

「は、はい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、もうそろそろ17時だ。

 A組の教室周辺には生徒たちの影はない。

 

「すまないな、月夜」

 

「いや、いいですよ。今、月夜って?」

 

「これは教師としての話ではないからな。織斑先生でなくともよい」

 

 いきなり名前で呼ばれるとビックリするんだが。

 

「話とは、お前の零式のことだ」

 

 右手のブレスレットを出して見せる。

 別に変わった所はないが。

 

「お前の零式のコアは、世界にある467機のうちのどれでもないな?」

 

 なんだ。そのことか。

 

「その通りです。零式のコアにナンバーはありません。千冬さんなら知ってると思いますが……。ISのコア第一号が完成した頃に考案されたひとつの可能性を」

 

「つまり、零式のコアはそれだと?」

 

「いや、あれはまだ試作品です。本来のスペックの四分の一も発揮できていませんから」

 

 俺の零式参型のお披露目の時。つまり、オルコットさんや一夏と戦う時からデータ採集が始まるのだ。

 

「そうか、では次だ。クラス代表は諦めろ」

 

「それは『負けろ』ということですか?」

 

「そうではない。お前のISを公にするわけにはいかないからだ」

 

 確かにこの話は他人がいる前ではできない話だ。

 だから会議の後まで待てと言っていたのか。

 

「そういうことなら、考えておきます」

 

「そうか。すまないな」

 

「でも、その代わりオルコットさんと戦えるようにしていただけますか?」

 

「そんなことなら、別にいいが……?」

 

「よかったです。ではさようなら、織斑先生」

 

 軽くお辞儀をして教室を後にする。

 さて、早く帰って零式の調整をしなくては。

 

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